Movie Review 2008
◇Movie Index
K-20 怪人二十面相・伝('08日本)-Dec 27.2008
[STORY]
1949年。第二次世界大戦が回避され、華族と平民との身分格差が激しい帝都。そんな街で特権階級から金品を鮮やかに盗み出すという“怪人二十面相”が現れ、世間を騒がせていた。
ある日、サーカスの曲芸師・遠藤平吉(金城武)の元に、カストリ雑誌の記者を名乗る男(鹿賀丈史)が現れ、名探偵の明智小五郎(仲村トオル)と伯爵令嬢・羽柴葉子(松たか子)との結納に忍び込み、写真を撮ってきてほしいと依頼される。平吉はビルの外から写真を撮ろうとするが、爆発が起こり、平吉は怪人二十面相ではないかと疑われてしまう――。
監督&脚本・佐藤嗣麻子(『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』)
−◇−◇−◇−
原作は北村想の小説『怪人二十面相・伝』
怪人二十面相のコスチュームデザインを漫画家の田島昭宇が担当している(角川文庫の『江戸川乱歩ベストセレクション』のイラストを担当しているつながり?)

すっごく見たかったわけじゃないんだけど、何となく気になる・・・で、結局見てしまった。まどろっこしい場面が多くて、しつこいシーンを削ったり、もう少しテンポを早くしたりすれば120分以内にできただろうに、とは思ったけど全体的にはなかなか面白かった。CGは場面によってばらつきはあるものの、帝都を俯瞰で見せるところや、テスラ装置がぐわーっとなるところは好きだなぁ。

金城くんは日本語になるとやっぱりセリフが・・・だけど、あの滑舌の悪さはトボけたシーンではいい味になっていたかも。葉子とのやりとりでの平吉は好きだな。というか、この映画で一番素晴らしかったのは松たか子だった。“お転婆なお嬢様”というのはまさにこの映画の葉子様です!(笑)お転婆は演じられても、お嬢様を演じられる人ってなかなかいない。お嬢様学校が舞台の映画やドラマにしても、どんなに綺麗な服を着てても品のなさを隠すことができず、セリフだけが上滑りしてるエセお嬢ばっかり。実際の松さんもアレなところはあるけど、それを覆い隠すだけの演技力はあるし、日舞の名取だけあって姿勢と所作の良さで十分にお嬢様を表現できている。この松さんは見る価値アリ!
あとはシンスケ役の今井悠貴の演技が空々しくて受け付けなかった。私は彼を見るのは初めてで、天才と言われているらしいけど、私はこういう子役は苦手だなぁ。

帝都の映像は、すでにおなじみになった上海ロケ。今後も昔の東京の場面では、上海のこの街並が定番として使われていくのだろうか。それもどうなのかねえ。
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地球が静止する日('08アメリカ)-Dec 21.2008
[STORY]
アメリカの首都ワシントンDCに突如球体が落ちてきた。中から人間のようなものが現れ、人々に近づいてくるが、兵士が発砲し倒れてしまう。基地に運ばれた彼はクラトゥ(キアヌ・リーヴス)と名乗り、人間がこれ以上自然を破壊するのを阻止するためにやってきたという。そして世界中の指導者の前でそれを訴えたいと言うが、国防長官のレジーナ(キャシー・ベイツ)はこれを拒否。彼を拘束する。だが、物理学者のヘレン(ジェニファー・コネリー)はクラトゥを逃がすのだった。
監督スコット・デリクソン(『エミリー・ローズ』)
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1951年の映画『地球の静止する日』のリメイク。大まかな設定は同じようだけど、オリジナルは冷戦時代ということもあり、人間が核兵器を使って他の星を攻撃したりしないよう忠告するためにクラトゥがやってきたという設定だった。リメイク版は、人間がこれ以上環境破壊をしないように、というもので、こちらも時代に即した設定に書き換えられている。

こういう無機質な役柄はキアヌにぴったりだし、またしても坊主でもヌラヌラでも似合うからオッケイ(笑)巨大ロボットは笑っちゃうけど、街を破壊しているものがアレだというのが面白かった。日本が出てくるシーンは、でっかい富士山と新幹線(山形新幹線?)、あと新宿の靖国通りらしき場所の2回。ほんのちょっとでも日本が映ると嬉しいなーと思ったり。見どころはそれくらい。

映画そのものはひどいもんです。一番最初の雪山のシーンからしてダメな予感はしてたけど(雪山なのに全く寒さが伝わらない見た目と演出)最後まで予想通り。地球上すべての人間が殺されてしまうかもしれない、いうスケールの大きさに対して登場人物が少なすぎ。オリジナルを知らない観客だって、クラトゥが人間を絶滅させるのを思い留まり撤退するというストーリーは分かってるわけでしょ。だから、それに至るまでの肉付けが重要なんだけど、そこがスッカスカだった。人間は確かに破壊もしまくっているけど自然や動物たちとこんな風に共存していますよ、こんな美しいものを作り出していますよ、こんなに人やモノを愛していますよ、というのをたくさんクラトゥに見せなきゃ。 それらを見て観客は「地球に生まれてよかったぁ〜!」とか(笑)「環境を守っていこう!」などと思うわけで。それなのに見せたのがバッハの音楽と親子の絆、しかも1組だけ。それで納得しちゃうクラトゥってお人よしだ。

この映画1本で決め付けたくはないけど、アメリカ人はまだ環境問題って言葉を覚えたばかりで具体的な考えまでに至ってないんだろう。それでもリメイクするにあたり、これをテーマに持ってきただけでも進歩だと思う(ちょっと偉そう?)
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ラースと、その彼女('07アメリカ)-Dec 20.2008
[STORY]
アメリカの田舎町。ラース(ライアン・ゴスリング)はシャイで女性と話すのが苦手。そんな彼に兄のガス(ポール・シュナイダー)と妻のカリン(エミリー・モーティマー)は何かと世話を焼きたがるがラースは断ってばかり。だがある日、ある日ラースは、ガスたちにインターネットで知り合った女性がいるので紹介すると言ってきた。大喜びする2人だったが、その女性とは何とアダルトサイトで販売されているリアル・ドールだった!
監督クレイグ・ギレスピー (『Mr.ウッドコック 史上最悪の体育教師』)
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トロント国際映画祭上映作品。第80回アカデミー賞の脚本賞(ナンシー・オリバー)にノミネートされた。

恋人がリアルドールというストーリーなのでコメディかと思っていたんだけど、静かで心温まる作品だった。舞台を田舎町という狭い範囲にし、町の人たちがみんなラースを知っていて、彼を気にかけているという設定にしたことから優しい作品に仕上がったが、これが都会で周囲が冷たかったら相当痛々しい映画になっていただろう。綺麗にまとめ過ぎたような気がしないでもないが、あんまりイタイのも見ててつらいし、難しいところだ。

脚本家が女性なこともあってか、ラースを取り巻く女性たちがみな優しくて(リアルドールのビアンカも)ラースはとても幸せな男だと思った。1人くらい「キモッ!」って毛嫌いする女性を出したほうが自然だったんじゃ・・・とちょっと思った。ラースの兄ガスの反応が一番リアルだったな。でも隣でガスみたいに取り乱してる人がいたら、とりあえず受け入れてから考えよう、とカリンのように行動したかもしれない。

ラースはどうやら幼いころ心に大きな傷を負ったようで、それで人と上手くコミュニケーションを取れなくなっている。ただ、人形を買うまでの経緯は描写がないので、彼が何を思ってそういう行動に出たのか全く分からない。わざとやっているのか、本当に病んでしまったのか、その判断は観客に委ねている。そこの解釈で映画全体の印象が変わってしまう、ちょっと危うい作品だなと感じた。私も見てる最中ずっと判断できず(まぁつけなくてもいいんだろうけど、見てるとつい考えちゃう)ラースに同情したかと思えば、結局ビアンカを都合のいいように使ってるだけじゃん!と怒ってみたりとぐちゃぐちゃ(笑)最後はもう面倒になって、ラースがいいならそれでいっかー、と思うようにした。

ラースに対して怒ったということは、自分もいつの間にかビアンカを1人の人間として見ていたのかもしれない。確かに彼女は届いた時にはメイクが濃くてセクシーな服を着ていたけど、地味な服を着てメイクが薄くなり(剥げた?)髪型も変わって、アルバイトをしたりボランティアをするようになったりと、どんどん素敵になっていった。人形はずっと変わらないと思っていたので、そこが意外で面白かった。
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WALL・E/ウォーリー('08アメリカ)-Dec 11.2008スバラシイ★
[STORY]
29世紀。人類は汚染された地球を捨て、巨大宇宙船で生活していた。地球ではゴミ処理ロボットのWALL・E《ウォーリー》が700年間、たった1台でゴミを処理していた。
そんなある日、巨大な宇宙船が地球に降り立ち、中から白いロボットが現れて周囲を探索し始めた。友達が欲しいウォーリーは、そのロボットの後を追いかけるようになる。 警戒して攻撃してきた白いロボットもウォーリーに心を開くようになり、EVE《イヴ》と名乗った。だが、このイヴには重大な秘密が隠されていた・・・。
監督&脚本アンドリュー・スタントン(『ファインディング・ニモ』
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ディズニー/ピクサーによりフルCGアニメ。本編上映前にはいつものように短編アニメ『マジシャン・プレスト』も上映。
『エイリアン』シリーズのシガーニー・ウィーバーが船のコンピューターの声を担当している。

こんな静かな始まりのピクサーアニメは初めてじゃないだろうか。イヴが地球にやってくるまでの間、ウォーリーの日常を延々と描くだけ。それでも全く飽きない。とにかく描写が細かくて、この数10分の間にウォーリーが大好きになってしまう。そしてその描写は後のシーンの伏線にもなっているのだから驚きだ。

イヴが現れてからのウォーリーはドジっ子キャラ全開(笑)そしてイヴはツンデレ(笑)見た目はそれほど可愛くないのに、ツンからデレになったイヴを見て「いい子だなぁ」なんて思ったりして(笑)思わず涙がこぼれたシーンも・・・。こういう無機質なキャラクターにも命を吹き込むのが上手いなぁ。それと比べると人間のキャラ付けがイージーに見えるけど、あまり複雑にすると話が進まなくなってしまうからしょうがないのかもしれない。

『2001年宇宙の旅』へのオマージュはもちろんだけど、これって『風の谷のナウシカ』へのオマージュでは?というシーンもあった。イヴが地表スレスレにバーッと飛ぶシーンを見て、メーベに乗ったナウシカみたいって思ったし、イヴの体に虫が這いイヴがくるくるっと回るところは、まるでテトと仲良くなったナウシカみたいだった。 腐敗した世界に降り立った救世主という同じような設定で意識したのかもしれない。ナウシカみたいと思ったのは私だけ?と、後でネット検索してみたら、そう思ったのは私だけではなかったようだ。やっぱりなぁ。

この映画のほかにも『ハプニング』『地球が静止する日』など、最近は環境問題がテーマの映画が目立つような気がする。『不都合な真実』以降、アメリカでも環境破壊に対する意識が高まったと見ていいのだろうか。今のところ問題提起するだけで終わりの映画ばっかりだけど、それだけでも一歩前進と考えていいのかな。私が見た中ではこの映画が一番解決したいという気持ちが見えた。ちょっと甘さが気になるけど、子供にも分かってもらうにはこれくらいがちょうどいいのだろう。エンドクレジットは新しい文明の始まりを描いていて、希望いっぱいの映像で素晴らしかった。最後まで凝った演出に満足!
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