Movie Review 2002
◇Movie Index

月のひつじ('00オーストラリア)-Jul 6.2002
[STORY]
1969年。アポロ11号の月面着陸中継に、オーストラリアのアンテナが使われることになった!アンテナがあるパークスの町では大騒ぎとなり、アメリカ大使やオーストラリア大統領までやってくることになる。そんな中、中継を担当することになったクリフ(サム・ニール)、ロス、グレンの3人に、NASAから派遣されたアルが加わるが、どうもウマが合わない。おまけにロスの失敗でアポロ11号との交信が途絶えてしまう・・・。
監督ロブ・シッチ(『The Castle』(日本未公開))
−◇−◇−◇−
本作はワーキング・ドッグという5名からなるチームで監督、製作、脚本を担当したそうだ(ロブ・シッチはその中の代表みたいなもんか?)また、本作は実話を元に作られたという。

予告がとても面白かったのでかなり期待してたんだけど・・・ちょっと違ったなぁ。作品全体を覆う空気はほのぼのしてて和むし、登場する人々だって悪い人は出てこない。とても好きなタイプの映画なのになぜか?

まずハプニングの処理の仕方がダメ。アポロ11号の中継をすることになったのに、大事なところでミスしたり風の影響でアンテナが危なくなったりするでしょ。その時、危機を乗り切るために彼らは何をしたか?ただ部屋の中で作業していただけ(実際そうだったとしても、映画なんだからもうちょっと動きが欲しい)また彼らのどういう頑張りで危機を回避したかがきちんと描かれない。1回目の時は「何だそりゃ」だし、2回目の時は「で?」だった。これではちっとものめり込めない。

また、登場人物たちもそれぞれいいキャラクターなのに、ストーリーとうまく噛みあっていない。ポスターやチラシを見る限り、男の子(町長の息子)の目から見た今回の騒動を描いているのかと思いきや、TV中継見てるだけか!(ならサム・ニールをポスターに使ってやれ(笑))ちっちゃいのに宇宙に対しての知識が大人顔負けにあるんだから、いっそのことアンテナの危機を乗り切るヒントでも出す役にしてやっても良かったんじゃないかな。もったいないよ。おしゃべりな町長の奥さんにしても、内気なグレンが勇気を出すシーンにしても、どれもみな生ぬるかった。アルが3人と打ち解けはじめるあたりは良かったんだけどね。

周りにはひつじしかいないような野っ原にポツンとある巨大アンテナ。この風景はいつまでも見ていたいと思った。まさに原題(『THE DISH』)の通り「お皿っ!」だった。
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es[エス]('01ドイツ)-Jun 29.2002
[STORY]
元・記者でタクシーの運転手をしているタレク(モーリッツ・プライプトライ)は、模擬刑務所での心理実験の被験者を求める広告を見つける。報酬の4000マルクと、実験のレポートを雑誌社に売る目的で、タレクは応募することにする。その実験は看守役と囚人役に分けられ、面接やテストの結果、タレクは囚人役に選ばれる。
監督オリバー・ヒルツェヴィゲル(テレビ映画を経てデビュー)
−◇−◇−◇−
“映画として”はすごく面白かった。飽きさせない展開で最後までぐいぐい引っ張られた。ものすごく疲れたけど見ごたえがあって、イヤ〜な映画なのに満足度が高い(笑)

“映画として”と書いたのは、娯楽作品として、ということ(で、意味分かるかな)この作品が過去に実際やったことがある実験を元に作られていたと聞いていたので、もっと人間の心理に深く入っていくような展開になるかと思ってたのね。それが意外にもアクティブな展開でビックリした。しかも主人公がハリウッドのアクションスター並に強すぎます(笑)かなり悲惨な目に遭うのに、身体的にだけでなく精神力も強いしなぁ。幼い頃のトラウマを語るシーンまであるのに最後はそれを感じさせないし、今後、彼に与える影響もないようにすら見える。映画のテンポを考えると、そんなところをバッサリ切っちゃったほうが賢明だったかもしれないが、もうちょっと丁寧さが欲しかったところ。

さらに、ツッコミドコロも多い。ぶっちゃけタレクが看守たちをあそこまで挑発しなければ、これほど酷いことにはならなかったのでは?ある意味自作自演(笑)そしてこんな大それた実験する割に警備体制は杜撰だし、研究者たちも頼りない上にその場にいなかったりする。これじゃあ実験がうまくいくはずもない。
あと、関係ないけど、看守と囚人のギャラが同じって、そりゃあないよな。普通に考えて囚人のほうが辛いじゃない。せめて6000マルクくらいやれ!(笑)

けれどもこんな荒唐無稽な設定なのに、実験シーンが妙にリアルなのだ。最初はなごやかだった看守と囚人の関係が次第に変わっていく様子や、監房でうなだれていく囚人たちを見ていると、緊張で息ができなくなっていく。だから途中で挿入される、タレクと恋に落ちたドラが出てくるシーンで息継ぎをした。このシーンもヘンといえばヘンなので、これが無駄だと思う人もいるかもしれないが、私にとってはあって良かった。じゃなきゃ窒息したと思う(マジで!)

最後に38号さん萌え〜。以上(笑)
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バティニョールおじさん('02フランス)-Jun 23.2002
[STORY]
1942年、ナチス占領下のパリ。肉屋を営むエドモン(ジェラール・ジュニョ)は、偶然にも上に住むユダヤ人一家を連行するドイツ軍の手助けをしてしまう。そして数日後、連行されたはずの家族のうちの1人、シモン少年だけが家に戻ってきた。エドモンは慌てて彼を匿うが・・・。
監督&脚本もジェラール・ジュニョ(『女がいちばん憧れる職業』
−◇−◇−◇−
フランス映画祭上映作品。公開は今年の12月予定。

ひょんなことからユダヤ人の少年を匿うことになってしまったフランス人の男が、ドイツ軍やフランス警察の目をかいくぐり、彼をスイスへ逃がそうと奔走するストーリー。これを見ながらフト思い出したのは『ライフ・イズ・ビューティフル』なんだけども、本作のほうがイヤミがなくて好き。同じ出ずっぱりでもベニーニのウザさからしたらジュニョのほうが全くもって自然だし。でも出てくる男の子は『ライフ』のほうが断然可愛い(笑)

バティニョールという、ちょっとガンコで生真面目だがごく普通の男に、よくもこんな勇気があったもんだと驚かされる。何で自分がこんな目に遭うんだろうと嘆きながらも、シモン少年の機転もあったりして強力なパワーを発揮。最初はエドモンもシモンもそれぞれに気難しくてあまり好きにはなれなかったのだが、彼らがお互いをよく知るようになるように、見てるほうも彼らにだんだん心を傾けてしまう。そしてエドモンが感情を爆発させるシーンでは自然と涙が流れてしまった。前作『女が〜』でもそうだったけど、ほぼ全編笑わせながら、フト気を抜いた瞬間に泣かせるのがすごく上手い!フランス映画がとっつきにくいという人でも、この人の作品はすんなり入っていけると思う。

でも、個人的には前作のほうが好きなんだけど(それはやっぱり共感できる・しやすい題材かどうかということの差かな)見て損はない。ジュニョ作品はこれと前作しか見てないが、演技はうまいけれどどちらも同じキャラクターといえば同じなんだよね。でも彼の場合は主演ではあるけどボランチ(舵取り)でもあるわけで、他の出演者は何となく彼のペースに嵌まって演技しているように見える。それでも芝居やストーリー展開が一本調子にならないところはさすが。
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セッション9('01アメリカ)-Jun 23.2002
[STORY]
マサチューセッツ州にあるダンバース州立精神病院は1985年に閉鎖されたが、公共施設にするための改修工事が行われようとしていた。アスベストの除去作業にやってきたゴードン(ピーター・ミュラン)と4人の仲間達は、廃墟となった病院の傷跡を気にしながら作業を続けていた。ある時、仲間の1人マイクは、隠されていたある患者の診療テープを見つける。彼はこっそりそのテープを聞き始めるが・・・。
監督&脚本ブラッド・アンダーソン(『ワンダーランド駅で』
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設定や映像は好み。外はものすごく天気がいいのに空の青さが重たくてかえって暗い感じだし、病院内の空気を俯瞰で捉えることで表現してるのもいい。でもドラマ部分はもっとひねらなきゃダメでしょ。

タイトルの“セッション9”とは病院内に残っていた、患者と医師とのセッションテープの9巻目のこと。作業中にマイクが発見し、みんなに内緒で取り憑かれたようにテープを聞いていく(てゆーか仕事しろよ・・・)患者は444号と呼ばれており、彼女は多重人格障害だった。テープは彼女の持つ人格と、クリスマスに起きた出来事を少しずつ露わにしていく。でもね・・・。

(ここからはネタバレ)このテープと、作業員たちに起きる事件との繋がりが全くなかったのにガッカリ。制作側としては、これで意外性を狙ったつもりなんだろうけど、ここはやっぱり定石通りのほうが面白かったのでは。さらに肝心のセッションテープにも肩透かし。9本目を聞くシーンでドキドキしたのになぁ、ありがちな展開じゃないですか。最後まで聞かなくても薄々感づいてたことだよ。せめてこのテープの展開と、同時に起こりつつある事件とが少しずつリンクしていけば面白く感じただろうに。ゴードンと444号がほんの少しだけ重なるところはあったけどね。ほんの少しだけ。(ここまで)

でも、事件が急展開するあたりはけっこう楽しめた。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたい〜!な、シーンがあったりしてね(笑)それに意外性もあったし(また少しネタバレ)ゴードンが犯人というのは、疑いつつも違うと思ってた。だってどう見ても職人気質キャラでしょ(笑)サイコだなんて思わないよ〜。どっちかっていうとデヴィッド・カルーソが演じたフィルのアヤシイ。ヘンに顔が白いのも気になっちゃって気になっちゃって(笑)(ここまで)ただ、どうしてそんな展開になってしまったのか?いつからああなってしまったのか?そのあたりもうフォローがあってもよかったのに。全体的にもったいなかった。
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タンギー('01フランス)〔公開未定〕-Jun 22.2002オススメ★
[STORY]
「お前が望むなら、いつまでもこの家にいていいよ」と生まれたばかりの息子に話し掛けたポール(アンドレ・デュソリエ)とエディット(サビーヌ・アゼマ)。そのせいか28年たった今でもタンギー(エリック・ベルジェ)は家を出ていかない。2人は何とか彼を独立させようとするが・・・。
監督&脚本エティエンヌ・シャティリエーズ(『しあわせはどこに』)
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フランス映画祭上映作品。公開は今のところ未定のよう。

映画の中にこんなセリフがありました。

  「予定日より遅く生まれてきた子は家を出るのも遅い」

なーるほどねー。だからまだ家を出ることができないんだ私(笑)自慢じゃないがタンギーよりも長いぞ。予定日より15日以上だもん。それでも産気付かなくて無理やり引っ張り出したというから筋金入りかもしれない。どうするよ?(って誰に聞いてるんだ)

タンギーと同じようなパラサイトシングルな身としては少々耳が痛いネタもあったけれど、かなり笑わせてもらった。両親が彼を追い出そうとあれこれ画策するシーンは、まるで子供がいたずらするような満面の笑み。子供も大人になりきれてないけど、大人も子供帰りしてしまってる。そして、追い出しvs居座りの戦いは実の親子なのにここまでするか!ってなくらい過激になっていく。普通あそこまでやれば出て行きそうだけど、なかなかしぶとい。というか、あんな両親だったらいつまでも離れたくないな。2人ともとても魅力的でチャーミング。家も広いし居心地よさそう。そんな風に共感できてしまう雰囲気を作り出しているので説得力ある。

でも、もう少しタンギーが家を出たくない強い理由が欲しかったな(発作起こしたりで笑いを取るだけじゃなくてね)あの最後の展開にちょっと違和感があったので。タンギーというキャラクターも飄々としすぎているので、いまいち何を考えているのか分かりにくかったし(途中まではそれで全然OKだったのだが)それと、タンギーの喋る日本語には日本語字幕をつけて欲しかったな。何を言ってるか分からなかった〜。とにかくこれは日本公開して欲しい作品だ。
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