2003年度 上代文学特講
シラバスと講義録

テーマ: 古事記の歌謡物語―歌と物語の対立と融合―
教 材:  『古事記〈修訂版〉』(おうふう)

試  験  問  題  に  つ  い  て :
問 題: 授業で扱った歌を、独立歌謡として解釈した上で、古事記の文脈に即して再解釈しなさい。
解 法: @任意の一首(以上)を選ぶ。
Aその歌を解釈する。
 (注意)解釈とは口語訳のことではない。口語訳に至る過程を示すことである。

Bその歌謡の置かれている古事記の物語の内容を示し、歌の内容とのズレもしくは関連性を説明する。
採点基準: 基準=解釈が恣意に流れていないか。解釈に説得力があるか。
     新しい視点が説得力ももって示されている場合、加点。
     作文能力が著しく劣る場合、減点。
     著しく漢字をあやまっている場合、減点。
     字が乱雑で判読できない場合、採点拒否。
   (注意、「乱雑」とは「下手」という意味ではない。記述の姿勢である。)

新・万葉読める仮名?
―古事記歌謡編―

7月3日出題 B意富岐美能許々呂袁由良美淤美能古能夜弊能斯婆加岐伊理多々受阿理
C斯本勢能那袁理袁美礼婆阿蘇Z久流志Z賀波多伝尓都麻多弖理美由
古事記歌謡106
古事記歌謡107
お答えは……惟光の萬葉万華鏡(古事記歌謡編)
(古事記なのに、なぜ万葉などというツッコミは鄭重におことわりしますです)
講義録1「古事記成立とその時代」(5/6〜9講義)
惟光の萬葉万華鏡(G.W.版)

SYLLABUS

(授業計画)

授業概説

 『上代文学特講』は、5セメスター生(3年次前期)を主な対象として、専門的な学習をします。上代文学とはどのような文学であるのか。何が問題なのか。どうやって読むのか。読むために知識をあわせて、古典講読より深く読み進めます。
 上代文学は文学史上もっとも古い時期にあたり、われわれの祖国「日本」が建設されていた時期の作品になります。まだ、ひらがなも生まれておらず、言語構造の異なる中国語を書き表すための文字=漢字を用いて日本語を表現しようとしていました。そこには、私たちの祖先が、自分たちの心を自分たちの言葉で、初めて表現しようとした試みが残されています。上代文学を通して、わたしたちの根源を探り、他の時代の文学と照らし合わせることで、わたしたちが1500年近い時間の中で、何を生み出し、何を考え、発展させて、自分たちの世の中を作り上げて来たのかを掴み取って下さい。そしてこれからわたしたちはどのような世の中を生み出してゆくべきか、他者に頼らずに、各人自ら、自分のビジョンを得てほしいと思います。

 
読む作品には、『古事記』の物語の中から、韻文(歌)と散文(物語)とがクロスオーヴァーしているエピソードをいくつかとりあげます。韻文には韻文の表現方法があり、散文には散文の表現方法があります。両者が結びつく場をフィールドとして、『万葉集』や『風土記』などにも目をむけながら上代文学の世界に踏み込みたいと思います。

授業スケジュール

1)上代文学の基礎知識―4月のお話
@:万葉読めるかな?
上代文学の特質は、すべて漢字で書かれていること。まずは漢字での多様な表現方法に慣れましょう。クイズ風に楽しむところから始めます。
A:天上の虹を渡る日出る処の天子
飛鳥時代から奈良時代にかけて、激動の日本列島を俯瞰します。はやいはなしが、日本史の授業。
B:作品紹介 → 講義録 
『古事記』『万葉集』『風土記』『日本書紀』『懐風藻』『日本霊異記』『琴歌譜』『続日本紀』『古語拾遺』など、上代文学の扱う作品についての概説。とくに『古事記』の概説は、Aの日本史の知識を享けて作品の価値を定めます。作品の読解の基礎となる知識です。
 
参考文献/志水義夫「続日本紀の沈黙」平成10年『湘南文学』第32号……研究室にあります。
            
「『古事記』中・下巻系譜の考察」平成9年『古典と民俗学論集』(おうふう)
            
「『古事記』系譜の一考察」平成11年『古事記年報』41研究室にあります
               「国生み神話の生成と構造」平成14年『東海大学紀要(文学部)第77輯
               「帝紀考」平成13年『湘南文学』第35号
               「帝紀・旧辞の考察」『國學院雑誌』平成13年3月号
               「古事記の享受者」平成13年『湘南文学』第34号
         義江明子『古代氏族の氏の構造』昭和61年(吉川弘文館)
         菅野雅雄「帝紀と旧辞と」平成11年『古事記構想の研究』(おうふう)   
    
2)古事記の歌謡物語ー5・6月のお話
講読1:八雲立つ(5/13〜16) →講義録2
『古事記』上巻よりスサノヲ命のヤマタノヲロチ退治の冒険譚。
高天原を追放されたスサノヲは、出雲の国にやってくる。怪獣ヤマタノヲロチに生贄とされるクシナダ姫を助け、結婚する。スサノヲは宮殿を造り喜びの歌を歌い上げる。
(教科書/47ページ〜51ページ)
講義:歌謡物語研究の問題と現在(5/16) → 講義録2で触れています 
参考文献/
身 崎  壽 「モノガタリにとってウタとはなんだったのか」『日本文学』Vol34−2(1985、日本文学協会)
脱線講義:三輪山の神・賀茂の神(5/20)
 神謡の講読に入る前に、歌の形式についてお話します。まずは、長歌とその定型の形成について。17日出題の万葉読める仮名『万葉集』2番歌からはじまって、1・13・17・25・29番歌を通観して行きますが、17番歌のところで、三輪山伝説と丹塗り矢説話に脱線します。丹塗り矢説話は上賀茂神社・下鴨神社の縁起譚でもあるので、今年の研修旅行のテーマ「かも川」と関連づけて講義をしたいと思います……けど…時間あるかな。
(教科書/111〜2ぺージ&97〜8ページ+プリント「山城国風土記逸文」)
講読2:ナムヂ(5/20〜)
『古事記』上巻よりオオナムチの根の国訪問譚とヤチホコ神の神謡。
オホナムチは、兄神たちの迫害を避け、スサノヲ大神のいる根の国にやってきた。大神のむすめスセリヒメと恋におちたオホナムチは大神からむすめと宝物を奪って地上に帰り、兄神を平らげ大国主神として地上に君臨する。
ヤチホコ神とも呼ばれるようになった大国主神オホナムチは、やがて別の女神に恋をして旅立とうとする。どうするスセリビメ?!
(教科書/51ページ〜61ページ、中心は57ページ以降)
講義2:和歌の形式と表現技法(5/20) → 講義録3 (準備中)
講読3:赤珠・白珠(海幸・山幸の物語続編)
『古事記』上巻より豊玉毘売神話。
海神のむすめと結ばれた山幸。妻を残して地上に帰ってきたが、ある日、子供を生むの、と海神宮から妻がやってきた。「生むところみないでね」と言われたが、つい覗いて彼女の正体を知ってしまった山幸。あとには別れが待っていた。裏切られてなお愛し合う夫婦の別れの愛の賛歌。
(教科書/85ページ〜86ページ)
講読(番外編):愛のうたは西風にのって
『風土記』(丹後国逸文)より浦島伝説、『万葉集』巻9より高橋虫麻呂歌集歌「詠水江浦嶋子一首」。
(テキスト/志水義夫・城崎陽子『上代文学への招待』→プリント配布)
講読4:聖帝と四人の美女
『古事記』下巻より仁徳記。
国民の疲弊を眼前に免税政策をとって「聖帝」と呼ばれた大雀(おほさざき)命。しかし、彼は恋多き大王であった。嫉妬深き大后イハノヒメははたして…
第1の美女/吉備の黒比売(教科書/166ページ〜169ページ)
大后によって追放された黒比売を追って吉備にやってきた大王は、彼女とひとときのデートを楽しむ。王宮に帰る大王のもとに、彼女の愛のうたが西風にのって漂ってくる。
第2第3の美女/八田のワキイラツメと大后イハノヒメ(教科書/169ページ〜173ページ)
大王は異父妹ワキイラツメを愛していた。大后の外出中にとうとう想いを遂げた大王だったが、それを知ったイハノヒメは王宮を出奔する。あわてて大后のもとにかけつけた大王愛の歌をうたいあげるのだった。そしてワキイラツメは遠くからひっそりと大王を愛し続ける…

第4の美女/メトリ王
(教科書173ページ〜176ページ)
次に大王はワキイラツメの同母妹、メトリ王を恋い求めた。だがメトリ王は拒絶し、大王の愛のメッセンジャー、ハヤブサワケ王を籠絡し、反乱をそそのかす。大王の軍に追われたハヤブサワケとメトリ王は手に手をとって逃げるのだった。
講読5:大坂の女
『古事記』下巻より履中記。
即位の日、酔って寝てしまったイザホワケ大王。墨江のナカツ王が反乱の火の手をあげる。
(教科書/178ページ〜181ページ)
※研修旅行初日訪問地、天理市についても横道観光案内講義。
講読6:ウタガキ
『古事記』下巻より清寧記。
王子ヲケ命は平群のオフヲという女の子を好きになった。平群の若者シビも彼女を好きになった。恋する男ふたりは彼女をめぐって歌垣の庭で歌をかけあい闘うのであった。
(教科書/205ページ〜207ページ)
※研修旅行二日目〈明日香オプショナル自転車ツアー〉事前講義付き♪
講義2:『古事記』の生成と歌謡物語 → 講義録4  (研究中)

成績評価については大学のシラバスシステム掲載のシラバスを見てね。
http://www3.tsc.u-tokai.ac.jp/syllabus/syplsso016


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