いつの間にか秋の深まりを感じる今日この頃・・・
季節感がなくなった昨今、それでも、朝夕に頬を撫でる風の爽やかさはやはり秋の風である。
少し暑いと言ってはエアコンオン!そして、少し薄ら寒いと言っては、エアコンオン!
年中エアコン様にはお世話になりっ放しである。
小さい頃は夏は団扇と扇風機、冬は練炭が入った掘りごたつで凌いできたというのに、なんと身体が
贅沢になってしまったことだろうか。

しかし、秋というものはもの悲しく、寂しさを感じる季節である。
読書の秋というが、まさにこういう季節にはうってつけなのかもしれない。
モノの侘びや寂を感じる心を大事にしたいと思う。

さて、またまた本の話で恐縮だが、つい先週読み終えた本に「13階段」という題名からしてなんだか
怖そうな作品がある。
死刑を目前にした冤罪をかかえた人間を、中年の元刑務官と、その同じ刑務所で刑期を終えたまだ若い
青年とが、弁護士事務所に雇われて、事件の真相を追究してゆくという、筋だけ聞くとよくあり得る話
ではないかと思うのだが・・・ところが、ところがである。
次のページを捲るのももどかしく、お昼ごはんのお弁当を食べるのもいい加減な程、のめり込んで
しまったのである。

現役の刑務官がそのような仕事を請け負えるはずもなく、辞表を出しての挑戦。
一方、若者は仮釈放の傷害致死の前科者で保護観察中の身。
刑期が満期となる3ヵ月後まで、罰金刑以上の罪を犯せば、刑務所に逆戻りだ。
交通違反すらも許されない。
また、その死刑囚というのが、犯行時刻の記憶を全く失い、それが為に、恩赦どころか、
情状酌量もなされず、4回もの再審請求も却下の身。
何故、心身障害を負った者が、死刑判決まで言い渡されるのかが、最後まで分らずじまいではあったが・・・

自分は処刑されてしまうのか。
まったく身に覚えのない罪のために・・・
いつお迎えが来てもおかしくない日々・・・
そんなある日、請願作業である買い物袋を作っている時のこと。











どんな人間が、この買い物袋を使うのだろう?
死の不安を少しだけ和らげてくれる、心理的トリック。
袋を提げてお買い物をする姿・・・重い荷物を両手に、デパートの階段を上る客。
客の背中。重い袋。一歩一歩上って行く足。
違う!階段だ!そうだ!あの時、自分は階段を上っていた。死の恐怖に駆られながら・・・
地獄の入り口から、引き返せることが出来るかもしれない。
記憶を全て失くしたと思われた死刑囚の脳裏に蘇ったのが13の階段だった。
「願箋」を書き終え、必死の思いで弁護士にペンを走らせた。

「刑務官なんかやってると、殺伐とした雰囲気が身についちまうんだ。だから、プライベートじゃ、
せいぜいめかしこんでるのさ」
刑務所の外で会う刑務官は、無骨と洒落が同居した存在感があり、金線の入った制服を脱ぐだけで、
違って見えた。
「人殺しを更正するには、丁度いい仕事かもしれませんね。」
「お前さんは更正するよ。俺が保証する。」

成功の暁には、被害者に賠償金を払い続けている親を楽にさせたいと頭に思い浮かべながらの
傷害致死の前科者と、「女房の奴は刑務官の妻には向いていなかったんだ。」離婚寸前の別居中の
妻を呼び戻し、実家でやっていたというパン屋さんを開きたいという、それも
「ケーキやプリン等も置いて、子供に好かれるパン屋さんにするんだ。今の俺のささやかな夢さ。」
と語る元刑務官との闘いはこうして始まった。
果たして、死刑囚の冤罪を晴らすなどということが、本当に可能なのだろうか?

色んなミステリーを読んでいるが、何故これほどまでに、惹き付けるものがあったのか。
多分「冤罪」「死刑目前」「真犯人探し」「刑務官」「前科者」「13階段」
このワードを上手く取り合わせ、大きなテーマに取り組んだことが要因のような気がする。
刑務官も仕事とは言え、人をこの手で殺してしまったという悔いがあり、勿論傷害致死を
負わせた若者も大きな傷跡がある。
それだからこそ、一生懸命罪なき人を救いたいという必死な気持ちがヒシヒシと伝わって来て、
感動を呼び起こしたのであろう。


秋の夜長に「13階段」

平成17年10月31日

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結末を言うと面白くない。
どんでん返しの結末をね。

作者は2001年に第47回江戸川乱歩賞を受賞の高野和明氏である。
以前は映画やドラマの制作、脚本を手がけている方で、この作品は映画化もされたらしい。
しかし、映画の仕上がりは不満足だったようだ。
この差し迫る秒読みの物語はやはり、文字を追う方が面白そうだ。

秋の夜長をもてあましているあなた。
ぞぞぞーっとする読み出したら止まらないこのお話をどうぞ!

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