「おんなぁ――――――――っ!!?」 虎狩りからどうにか帰ってきた孫策(血まみれ)は、いきなりのカミングアウトに素っ頓狂な声をあげた。 傷の手当てをしていた大喬も驚いている様子だ。 ここは君主・孫策の私室である。 あれからすぐに引き返した一行は、そのままこの場所へとなだれ込んだのだ。 の身元を明らかにした上で、正式に仕官を許してもらうためである。 マジでマジで!?ウソだろー!などと言いながら孫策は立ち上がり、巻いてる途中の包帯がほどけた。 じっとして下さいっ、とそれを愛妻がたしなめる。 「嘘ではありません!は女です」 「俺達も今日知ったんスよ」 の両隣にいる呂蒙と甘寧が答えた。 「・・・、マジなのか?」 孫策は眉根を寄せて問いかける。 「殿!!こいつは別に悪気があったわけじゃねぇんだ!」 甘寧が庇うようにの前に立つ。 「そうですぞ!はなりに悩んで・・・・・・・ッ・・ウッ」 なんかまた思い出しちゃったらしく、呂蒙は再び泣き始めた。 散々船で熱いやり取りを交わした彼らのおかしなテンションは、まだまだ継続中らしい。 「殿っ・・・・申し訳ありませんでした!!」 武将達がギャアギャアわめきちらしている最中、渦中の少女の言葉が響いた。 がこのような大きな声を発するのは、初めてである。 驚いて、その場に居た全員がピタリと口を閉ざした。 「今まで、黙っていた深くお詫び申し上げます。・・・・殿をたばかったのは揺ぎ無い事実。どんな処分も受ける覚悟はできておりますっ」 言い馴れない長い台詞を、は息切れしながらも述べた。 ・・マジか、と孫策は呟き、頭を垂れるを今一度見つめた。 周囲はその緊迫したムードを固唾をのんで見守っている。 後ろに体を投げ出すように、孫策が椅子へ腰掛けた。 「・・・・そっか女か〜!!やっけにきれえな顔してるとは思ってたんだ!!どおりでなぁ〜」 あっはっはっと豪快に孫策は笑い飛ばした。 隣で大喬も、そうだったんですか〜とのんきにニコニコしている。 ・・・・えっ? あまりのノリの軽さに、緊張していた面々は腑抜けたような表情を浮かべてしまう。 笑顔の孫策に太史慈がおずおずと尋ねる。 「と、殿、あの、殿はこのまま武将として仕えても」 「?当たり前だろうが。別に何の問題もねぇ」 「女の身で武将なんかつとまらねぇぜ!とかおっしゃらないので?」 予想外のあっさりした反応に肩透かしをくらって不審がる太史慈。 反対して欲しいのかお前は。 「何言ってんだよ。正式に武将じゃねぇが、大喬だって時々戦に出てるだろー?小喬と尚香だってそうじゃねえか。」 あ!そっか! 3人が戦場に出ることを知らなかったは別として、何故他のメンツは気が付かなかったのか。 興奮状態で全く頭が回らなかった、勢いだけの特攻野郎Aチーム。 「ま、改めてこれからよろしくな!」 そういって屈託なく笑う若き君主の懐の深さに、ありがたい気持ちでいっぱいのであった。 「良かったな!!」 孫策の部屋を後にした一行は、皆安堵した面持ちで帰路へとつく。 表情豊かではないに、珍しく柔らかな笑顔が浮かんだ。 「・・皆の、おかげです。ありがとうございました」 「「「「!!!」」」」 あ、愛くるしい・・・・! 端正な顔立ちはもちろんとして、純粋で素直なのことは元々可愛い奴と思っていた。 が、自分達と同性の男としてではなく、少女として見たはなんて愛らしいのだろう。 ぎこちない表情や言葉も、人馴れしていない拾ってきたばかりの仔猫のようだ。 無骨な軍人共、もうドッキドキ。 「いや、そんな、礼など!!」 「そ、そうだぜ!!水くせぇこというなよ!」 自然に振舞おうとしているが、完全に声はひっくり返っている。 明らかに挙動不審な男4人に疑問も持たず、は呟いた。 「・・もう一人・・・」 何の話だ?と甘寧が聞くと、あと1人打ち明けたい人物がいるとは言う。 孫策に告げたのだから、その内正式に発表されるだろう。 呂蒙はそう考えてを諭す。 「わざわざ言わなくても良いのではないか?いずれ、伝わることになろう」 呂蒙の言葉に首を小さく振り、 「自分の口から、言いたいのです」 強い光を瞳に宿したは静かに、しかし、きっぱりと言った。 |