「相手に一撃でも与えた奴の勝ちな!」

 机などが片付けられ、朝議をしていた大広間のど真ん中(みんなで片した)(学校かよ)

 ドォン!!

 太史慈の太鼓で試合は始まった。


 さて、この興覇さま相手にどこまでやれる?


 「手加減しねぇぞオラァッッ!!

 甘寧はドスの利きまくった声で吼えた。
 背負った刺青は伊達ではない。これでも一応海賊上がりの特攻隊長である。
 これだけで、たいていの敵はすくみあがり、戦意喪失するというもの。
 この迫力を前に、武器を放り出して逃げ出す奴もいるほどだ。

 しかし目の前の少年には、少しもひるんだ様子はない。
 顔色ひとつ変えず、構えた姿勢のままでこちらを見ている。
 

 ----肝は太いみてぇだな


 先に動いたのは甘寧だった。
 腰の鈴を鳴らしながら、棒を思いっきり振りおろす。
 一歩下がってそれを冷静にかわしたは、すかさず甘寧の右肩をねらった。
 しかし大人しくやられてくれるような甘寧興覇ではなく、得物でその素早く攻撃を受け止めた。
 一瞬、お互い武器での押し合いの形になったが、すぐさまは後ろに飛び、距離をとる。
 力勝負を嫌がり、つばぜり合いになる前に逃げたを見て、甘寧はニヤリと不適に微笑んだ。


 この小僧、見た目どおり細腕だぜ!


 いける、と踏んだ甘寧は、一気にカタをつけようと間合いを詰めた。

 「力だけなら当然甘寧殿が上でしょうね」

 あくまで力だけの話ですが。

 ボソっと陸遜が呟いた言葉など、すでに
血がたぎっちゃってる様子の甘寧様の耳には届くはずもない。

 地を蹴り、めがけて飛びかかる。

 「どおりゃぁぁぁ!!」

 猛り叫んだ甘寧の視界から、完全に捉えていたはずの標的が一瞬、消えた。

 は?

 と、甘寧が思った次の瞬間、綺麗な黒目が間近にあった。


 ちょこん。


 懐に入ったが、甘寧の頭を棒の先で突いた。


 「・・よっしゃの勝ちぃ!!」

 孫策が判定を下し、太史慈が太鼓を打ち鳴らす。

 ・・・うおぉぉぉぉぉっ!!!!

 見守っていたギャラリーの歓声が、地鳴りのように響き渡った。

 「侮りましたね」

 呆然と床に座り込んでいる甘寧の背後に、陸遜はそっと立つ。

 「非力かも知れませんが、閃光の如き速さでしょう?殿は」

 手合わせの礼のつもりか、はペコリと甘寧に頭を下げた。
 その姿は凛としていて、やっぱり見とれるほど綺麗だった。

 「・・いつまでも口開けてると、虫入りますよ」

 「グァッ!」

 親切なのか嫌がらせなのか、陸遜が甘寧の顎を力任せに閉じた。

 「・・・ックックックッ。やるじゃねぇか小僧!!」

 ようやく気を取り戻し、立ち上がった甘寧が、の背中をバンバン叩き始める。

 「俺様も油断してたけどよ!まぁ、お前のことは認めてやるぜ!!」

 少年漫画の王道、殴り合いの末「お前やるな!」「お前こそ!」「「アハハハ」」風の情景がそこにはあった。
 (しかしこの場合盛り上がっているのは甘寧のみ)
 しかしあっさりと敗北を喫した割に無駄に偉そうなのは色んな意味でさすがである。

 「すげぇなお前!俺たちモタモタしてられねぇぜ!」

 一体何をモタモタしないつもりなのか解らないが、孫策はとにかく嬉しそうに大はしゃぎである。
 周瑜も目の前で見せられたの実力に感服したようだ。

 「見事な
ドォン!ドォン!ドォン!ぞ。」

 ノリに乗ってきた太史慈の太鼓の音で、周瑜のねぎらいの言葉なんぞは聞こえやしない。

 「おい、うるさドォン!鼓をとめろ!」

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!!

 「・・太史慈やめん
ドォン!ーぁぁぁぁ!!!」

 キレた周瑜、太史慈めがけてそのまま目茶斬りダッシュ攻撃開始。

 「皆も納得したようですし、の仕官を許していただけますね?」

 そんな血みどろの騒動に気に留める風もなく(少しは留めた方がいいと思うが)陸遜は孫策に、改めての仕官の許しを請う。

 「おう!、これから頼むぜ!」

 快活に笑って肩を叩く君主に、はしっかりと拱手を組み、

 「精一杯、仕えさせ」 

 言葉少なながらも、今後の意気込みを語りだそうとした矢先。

 
「すっごい美少年が来たんだってーーー!!?どこどこどこーー!!?」

 「もうっだめよ!!朝議の最中に!!」

 ドッカーンとばかりに扉を破って、二人の少女が転がり出てきた。
  どちらも華のように愛らしい。

 「ああーーっ!!いたいたーーっ!!」

 一つに髪を結っている少女は、ポカンと突っ立っているを目ざとく見つけ、ずいぶんな勢いで走り寄ってきた。

 「うわぁーホント綺麗な子ーっっ!!髪サラサラ☆」

 あっけにとられる周囲をよそにその娘は、はしゃぎながらの髪などいじっている。

 (し、小喬(様)・・・)

 突然のミニモニ姫の登場に困惑しつつも表立って文句を言うわけにもいかず、一同は旦那である周瑜に責任を押し付け始めた。

 「周瑜様!なんとかしてくだせぇよ!」←甘寧
 「お前の奥さんだろ!どうにかしろ!」←孫策
 「う・・胃が・・血を吐きそうだ・・・」←周瑜

 小喬はの頭を抱え、
グリッと大喬のほうに向けた。

 「お姉ちゃんもホラ見て!お人形さんみたい!」

 「まあ、可愛らしい方ね・・・って小喬!」

 「いーじゃない大喬姉さん!!アラ、ホントに美形」

 「尚香様まで!!いつの間に!」

 「可愛いわね〜っ!顔立ちに陸遜みたく腹黒さがないのがイイ!」

 「ちょっとご婦人方!!やめて下さい、殿が怯える!!」

 尚香が放った聞き捨てならない言葉にムカつきながらも、陸遜は女性陣にもみくちゃにされている子羊を助けるために輪に入った。
 固まってしまったを庇いながらも女子パワーに体力を削られ「援軍は期待できませんか・・・」などと、弱音を吐きだす軍師。
 ついに惨状を見かねた武将たちが、外側からかしまし娘トリオ(実際かしましいのは2人)を引き剥がし始めた。

 「殿しっかり!」
 「ちょっとー!何すんのよ!」
 「黄蓋!手榴弾投下はよせ!」
 「いったぁーぃぃ!!周瑜様ぁ痛いよぉ」
 「小喬に乱暴するなぁぁ!」(チャージ1・ビーム放出)
 「うわぁっーー!!だったらアンタがなんとかせぇよ!!」
 「いい天気だな!大喬、遠乗りでも行くか!」
 「きゃあ!孫策様刺さってますよ!」

 なんだかよくわからないグスグズの事態の中ではあるが、とりあえずが武将として受け入れられた、呉の朝議であった。