「なんだ?あのガキは」
ただいま、呉の朝議真っ最中である。
眠そうにしていた甘寧は、朝議の席に見知らぬ子供が混じっていることに気がついた。
先日の盗賊団処理の報告を読み上げている陸遜の隣に、えらく綺麗な少年が一人。
呉きっての美少年、と謳われている陸遜とはまた種類が違う。
人形のような可憐さと、竜のような凛々しさ。
その相反するものが、妙なバランスで同居しているのが面白い、と甘寧は思った。
「おい、周泰。お前アレ知ってる?」
クイッと親指を少年に向け、甘寧は腕組している隣の男に話しかけたが。
「・・・・・・・・」
「おいって」
「・・・・グゥーー」
「寝てんのかよ!」
もともと寡黙な周泰将軍だが、今は返事すら望めない。
仕方ねぇな、と辺りを見渡せば、中央に鎮座する孫策もコクリコクリと舟をこいでいた。
眠りに入る直前、傍に控えている周瑜が顔に青筋を立てながら(仮にも君主の)頭部を棒で殴りつけている。
「・・・・・」
あくびを噛み殺していた自分が、なんか馬鹿みたいである。
「・・以上で、報告とさせていただきます」
鼻ちょうちんまであと一歩だった孫策が、さも聞いてましたよ、みたいな顔で「おうご苦労さん」と陸遜に声をかけた。
「ひき続き、私の発言を許して頂きたいのですが」
「ん〜?構わないぜ」
孫策はまだちょっとムニャムニャと半分寝ぼけている。
「実は紹介したい者を連れてまいりました。殿の許可さえ頂ければ、すぐに武将として我が軍に迎えたいと思っております」
さすがに陸遜のこの発言には、春眠を貪っていた連中も目を覚ました。
「武将として迎えたい?!」
そう応えたのは、呉のストレスを一身に受けている美周郎・周瑜だった。
「それはわが軍で功績をあげた兵士か?それとも他国で名高い歴戦の勇者か?」
内政担当の孫権も反応した。。
「いえ、さっき報告申し上げました賊討伐の際に、スカウトしました」
「・・・流れ者か」
渋る周瑜に、孫策が口を挟む。
「で、どいつだよ。そのルーキー候補は」
こちらです、と陸遜は隣に手を示す。
「・・と申します」
席から立ち上がり、そう名乗ったのは年端もいかぬ小さな少年。
・・・・・・・・・・・・・
「子供ではないか!」
「子供じゃねぇか!!」
「子供だろうが!!」
「子供ですぞ!!」
「子供だ・・・」
「子供だろう!」
「子供ですよ!」
(誰がどの台詞かご想像にお任せします)
呉軍みんなで一斉子供コール。チームワークはバッチリらしい。
唯一、君主の孫策だけが非難の声を上げなかった。
「子供じゃないですよ、15歳ですから」
「「「子供だっつーの!!」」」
まさかこのガキが盗賊退治を?
さっき見ていた少年が武将候補と知って、甘寧は動揺を隠せない。
---どう見たって戦場で暴れるタイプじゃねぇ。
どちらかというと、天子の前で剣舞を踊る方が似合っている。
そんな周囲の反応に、当の本人のと名乗った少年は表情を変えぬまま、他人事のような冷静で事態が動くのを見守っていた。
「おい陸遜ッッ」
面白そうにを眺めて、孫策が言う。
「なぁ、お前が見込んだんだから、よっぽど腕がたつんだろ?」
「保証します」
「俺はそれでいいけど、こいつらはそれじゃ納得しないんだよなぁ」
特に周瑜、と孫策は組んだ両手を後頭部に当てる。
「・・見せてもらうってのはどうだ?」
突然話に加わった甘寧へ、皆一斉に視線を投げた。
「見せるとはどういうことだ」
「おっ!それ面白ぇな!!」
発言のタイミングが見事にかぶり、孫策の声のデカさで周瑜の言葉が掻き消された。
「おい私の話も、」
「それでいこうぜぇ!」
「人の話しもたまには聞けェェーー!!!」
ちっとも耳を貸さない殿に周瑜、おかんむりである。
まあ、もめながらも結局は甘寧の意見が通ったわけで。
----どんな坊ちゃんなのか、確かめてやる
「俺が相手するぜ!」
甘寧は愛刀・覇海をまっすぐへ向け、ビシィっとかざした。
「あ、ダメダメ」
格好良くキメた甘寧から、陸遜は刀を取り上げた。
「こんな朝議の席で怪我でもしたら大変ですからね。これ使ってください」
渡されたのは、適当に木を削って作られたこん棒のようなものである。
よく見るとあちこちに血の固まりがこびり付いていた。
・・・これはさっき孫策の頭をぶん殴っていたモノでは・・・
「まだたくさん予備があるから大丈夫だ。気にせず使え」
ちょっと嫌な汗をかきながら持ち主を見つめる甘寧に対して、周瑜のコメントは実に見当違いである。
自分と同様にの方も同じものを持たされているらしい。
こんなそのへんに落ちてそうな木の棒切れで、腕自慢2人が殴りあうわけである。
思い描いていた決闘シーンからハズれた雰囲気に、ちょっとやる気そがれた甘寧だった。
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