「はじめまして、陸遜と申します。わずかな期間でしたが(すでに過去形)殿がお世話になったようで」

 「・・・・いえいえ、とんでもありません。これから長いお付き合いになるでしょうから」←趙雲
 「もうすっかり打ち解けて、腕を磨きあうまでの仲なんでな。こちらが礼を言いたいぐらいだ」←馬超
 「そうですよ、保護者の方に頭をさげてもらうほどでは」←姜維

 三人の中で眠っていた闘争本能が目を覚ましてしまったらしく、公式イメージ(どこのだ)”蜀のさわやか3人衆”が風と共に去ってゆく。
 呉の邪悪キングと張り合うには、そんな安定などかなぐり捨てなければならないのだろうか。
 つくづく恐ろしい男・陸遜。
 相対する者をすべて黒く侵食してしまうとは。

 「おっと・・やる気のようですね・・・・焼かれたいんですか?」

 なんて邪悪な空間だろう。
 今にも地獄の蓋が開きそうである。


 
「!!」


 目には見えない殺人光線が飛び交う中、陸遜は消毒したばかりのの傷をめざとく発見。
  
 「・・・

  
 訳を聞くこともなく、呪う言葉だけ吐いて3人にいきなり斬を食らわせそうとする陸遜をは必死で押しとどめる。

 「・・しかし・・っあなたの体に傷をつけるなど・・!」
  
 興奮状態の陸遜の声で聞こえないが、はなんとか説得しているようだ。
 どうすることも出来ずに、3人はただそれを見守っていた。

 二人が何か話し合った後、少しの間沈黙が流れる。

  
 突然、陸遜が鼻を押さえた。


 ・・・・・どうやら、さっきの彼らと同じような会話が交わされたらしい。
 陸遜軍師もそういう想像をしてしまったと思われる。
  
 3人はデジャヴの感覚に襲われつつ、鮮血溢れる青少年を遠い目で眺めていた。
 まだまだ若い17歳。
 陸遜もまた血気盛んである。

 ビバ青春。
 若いって素晴らしい。 ←もういいっつーの

  
 「と、とにかく殿。一緒に呉へ戻りましょう」
 
 陸遜はキリリッと顔を引き締めたが、ティッシュを鼻に詰めた状態では何を言っても無駄な気がする。
 大体1人に帰国を促しても、彼女は護衛としてついてきたのだから、諸葛瑾の伺いをたてないことには判断出来ない。

 「少々強引ではありませんか?陸遜殿」

 「これは我々の問題です。部外者は口を挟まないで頂きたい」

 いきなりやって来て無茶を言い出す呉の若造を趙雲はたしなめたが、たっぷりと毒を含んだ返答でバッサリ斬られた。
 当然、カチンとくる若者3名。

 「そんな言い方はないでしょう!鼻につっぺなんかしてるくせに!」

 それはそうかも知れないが、今そんな話はどうでもいい。
 さすがあの諸葛亮の弟子・姜維。
 地味に嫌な攻撃する男である。
 少なくともさっき同じように鼻血出してた奴が言える台詞ではないと思うが。

 「好きで詰めてるわけじゃありませんよ!」

 陸遜もそのことには触れて欲しくなかったようだ。
 かなり、キているらしくこめかみ辺りに青筋が浮いている。
 蜀軍、会心の一撃。
  
 一触即発の空気の中、どっちの肩も持たないは賢い子である。
 口喧嘩は苦手なので、とりあえず黙っているのかも知れない。
 ま、何も考えてない気もするが。
  
 
 
 
 「・・・・そろそろ帰ることにするよ」

 蜀自慢の槍3人組と熾烈な争いを繰り広げる、恐怖の大王・陸遜を遠くから(見つからないように細心の注意をはらいつつ)眺める諸葛瑾の背中は小さく感じる。
 本当はまだ滞在する予定だったのだが、彼だって出来ることなら長く生きていたい。
 「事故にみせかけて殺られたくはない」などと穏やかではない独り言をいいながら、諸葛瑾は帰り支度を始めた。
 呉から陸遜という使者がやってきたと聞いてから、一気に老けこんでしまった兄を哀れに思いつつ、孔明は中間管理職の辛さを痛感する。


 「アラやだ〜なんだか一騎打ち始まりそうな予感です〜」

 のんきに月英が諸葛謹の隣でバトルロワイヤルな情景を覗き込んでいる。

 「孔明様!アレ出してもよろしいでしょうか?!新作の!」

 思いついたように振り向いた彼女の顔は期待に満ちてキラッキラ。

 「自爆機能付き虎戦車、ですか?月英」
  
 「はい〜試してみたいです!火薬の量の調整したいし、ちょっと威力強すぎてもあの方達なら若いから大丈夫ですよね」

 困った人ですねぇフッフッフッ、と孔明は呟いてはいるが全く困っているようには見えない。
 ついに月英の魔の手は夫以外の武将にも伸びようとしている。
 しかも(一応)賓客に値する他国の軍師まで。

 「・・・・・・」

 なんて女を伴侶にむかえたんだ孔明。

 自国の軍師ばかりを恐れていた諸葛謹だったが、楽しそうに「若武者一斉爆破」計画を語る弟の嫁にも戦慄を覚える。
 腹黒軍師ならともかく、巻き込まれただけのまでまとめて吹っ飛ばされてはたまらない。
  
  
 もうとにかく、呉へ戻ろう。
 この月英とウチの陸遜を会わせてはいけない。


 さっきまで「帰らなければならない」という状況下での帰り支度だったが、今となっては「今すぐ帰りたい」にまで彼の心境は激変している。

 自分の中で危険を知らせる、
警報機サイレンが割れんばかりに鳴り響くのを感じる諸葛謹だった。