全速力で駆け寄ってきたを、陸遜は極上の笑顔で迎えた。

 「久しぶりですね、殿」

 実は久しぶりというほどの期間ではないのだが、彼にとっては長かったらしい。
 甘寧といい、呂蒙といい、呉の連中は全員こうなのだろうか。

 「私もこちらの方に用事がありましたから、ついでに殿を迎えに行こうと思いまして」

 嘘。
 大嘘。
 用事なんぞあるわけがない。
 孫策脅して無理やり来ましたこの人。

 「・・・戦は?」

 本当なら今頃、戦場で戦っているはずの陸遜が何故ここにいるのか、は不思議でならない。
  
 「今回、思った以上に早く決着がついたんですよ。全ての計略がうまくいきました」

 決着がついたというか、力技でつけたというか。
 のことが気がかりで気がかりで、完全に私情はさみまくりの陸遜の鬼畜ぶりは凄まじく、数々の伝説を残した。
  

 
 
・伝説その1・

 「陸遜様、今戦いはどのような・・・」(戦略を尋ねる護衛兵)
 
 「とりあえず、本陣に突っ込みます」(そう言って馬で走り出す陸遜)

 「えっ!り、陸遜様――――っ!!」(必死で追いかける護衛兵)

 開始早々、自ら敵本陣に奇襲かける。軍師なのに。


 ・伝説その2

 「陸遜様・・・いきなり敵本陣は・・・」(いったん退くも、疲労の色濃い護衛兵)

 「次、敵拠点を潰します」(ピンピンしている陸遜)

 「・・・ホッ」(まともそうな作戦に一安心の護衛兵)
  
 「いざ!」(何故か拠点の裏から突っ込む)

 「えっ!り、陸遜様――――っ!!」(再び必死で追いかける護衛兵)

 入れないはずの敵拠点内部から拠点兵長を撃破。


 
・伝説その3・

 「り、陸遜様・・・出すぎだったのではありませんか?」(ゲージ真っ赤でボロボロ護衛兵)

 「よし、では火計といきましょうか」(ノーダメージな陸遜)
 
 「・・・」(また火かよ!と思う護衛兵)

 「予定通りにこの兵糧庫。・・・・あとここ、そこ、・・ついでにこの場所もやっちゃいましょう」(地図にバッテンを大量に記す)

 「は!?目標は兵糧庫のみでは?!」(火計部隊動揺)

 「変更。どんどん焼きます。じゃそういうことで!」(陸遜、火矢抱えて戦場にダッシュ)

 「えっ!り、陸遜様――――っ!!」(またしても必死で追いかける護衛兵)

 予定してない場所まで火計しまくり。戦場というより
火事場と化す。

 
 ・・という具合に、敵はおろか味方の戦意まで喪失させながら、戦の地を阿鼻叫喚の渦に巻き込んだ陸遜軍師。
 今すぐ降伏するからもう勘弁して下さいと、敵総大将が泣きついた為この戦は早々に終結した。
  
 そんな彼の鬼神のごとき戦いぶりは敵兵・民衆の心胆を寒からしめ、それ以来その地域では聞き分けのない子供に「陸遜が来るぞ!」と脅かしたと、後世まで語り継がれるわけで(本当かよ)

 ちなみに、彼の護衛兵達は今も療養中、重体である。
 ひどい話もあったもんだ。

  

 驚いたまま黙って話を聞いているを見て、陸遜はわずかに瞳を曇らせた。

 「・・・いきなり来ちゃって、迷惑でしたか?」

 そのしおらしい様子だけ見ると、敵軍を(自軍も)骨まで恐怖で凍りつかせた鬼軍師とはとても思えない。
 悲しげな陸遜の言葉に、慌てては首をブンブンと振った。
  
 「・・・・嬉しい、です」

 目の前で不安そうに立っている陸遜に、は笑顔を向ける。
 いつもの笑ったかどうか判断しにくい微妙な表情ではなく、華がほころぶような笑顔。  
  
 普段はまず見られないそんな彼女に、陸遜、腰砕け。
 
  
 くぅ!・・・・今なら、死んでも・・・・・

 
 昇天しそうな陸遜との背後には、ダッシュした彼女に置いてきぼりをくった3人組。

 あの彼女が脇目も振らず走り寄った挙句、見たこともないような満面の笑みを浮かべた。
 その姿、飼い主に懐く忠犬のごとし。
 なんかシッポまで振ってるように見える。
  
 なんだかよくわからないが、とにかく面白くない。

 彼らが発する禍々しい気配に気付いたのかは振り返って、いつも面倒を見てもらっていると陸遜を3人に紹介し、こちらでお世話になっている武将の方々だと彼らを紹介した。
  

 「へぇ・・・」(ドス黒


 「「「・・・どうも」」」(負けずに真っ黒


 呉・蜀の2国で、ヤンキーよろしくガンつけ合戦。
 皆さん、育ちがいいわりになかなかのガラ悪さをお持ちのようで。
 国家間の関係、悪化必至である。
 諸葛瑾の外交も兼ねた今回の訪問、一気に台無し!