地面に槍を突き立てて、趙雲は一息ついた。
  
 「今日はここまでにしよう」  

 が来てから恒例となっている4人の鍛錬は、本日も無事終了。
  
 兜や鎧をはずし、将たちは汗ばんだ体に吹く心地よい風を感じていた。
 甲冑などは身に着けていないが、羽織っていた上着が長袖だったのではそれを脱ぐ。 

 ちょうどその時横に座っていた馬超が、彼女の細い腕に赤い線が走っているのを見つけた。


 
殿!怪我をされたのか?!」


 慌てて彼はの白い腕を掴む。
 馬超の声に他の二人も駆け寄ってきた。
  
 新しい傷だ。
 さっきの手合わせで負ったのだろう。
 は無駄な動きをせず、紙一重で攻撃を避けるのでその時に刃がかすめたのかも知れない。

 焦る3人とは裏腹に、当の本人は至って冷静だ。
 百戦錬磨のにとってこの程度は怪我のうちに入らない。
 未熟な証拠です、と呟きは汗をぬぐっていた布でタラリ流れる血をゴシゴシと拭く。
 
 なんつうか、男らしい。

 「ですが、嫁入り前のお嬢さんに傷をつけるなど・・・」

 可愛い顔でオッサンのようなことをモゴモゴ言う姜維。

 「いえ、すでに体中傷だらけですので」

 彼女は平然とそう言うが、パッと見にはそんな怪我の跡など見当たらない。
  
 「あ、今は見えませんが・・・」

 首を傾げる彼らに、はそう言った。

 
 「「「・・・ああ、そうか、見えない服の下に傷が・・・」」」





 
 ・・・・・・・・・・・服の下・・・・・・・・・・・?







 
ブッ


 


 
  
 なにやら想像してしまったらしく、3人は鼻を必死に押さえた。
 20代の彼らはまだまだ
血気盛ん。
  
 ビバ青春。
 若いって素晴らしい。

 止血が必要なのは怪我したではなく、むしろ鉄分大量垂れ流し中のこいつらの方だ。

 とりあえず消毒を、と傷口を水で流す。
 心配そうにを見つめる3人の姿は、まるで母親のよう。
 
 まあ、気持ち悪いながらも平和な時間が過ぎていたその時。


 ひとつの不吉な影が・・・・・。








 「お?」

 食堂で本日4度目の食事をとっていた張飛が、窓から空を覗いた。
  
 「どうした?」

 つられる様に関羽も見上げる。

 「なんか曇ってきやがったぜ」

 「・・うむ?あんなに晴れていたのにどうしたことだ」

 さっきまでぬける様な晴天に恵まれていた空には、分厚い雲がいつの間にやら広がっている。
 急に光が失われたせいか、全体が暗く陰っているように見えた。

 「・・イタタ・・間接が痛いわい」

 茶を飲みにやって来た黄忠が顔を歪める。
  
 年寄りは湿気に鋭い。(オイ)
 膝をさする老体を見て関羽は雨が降るのを感じた。
 張飛は舌打ちしながら、酒を一口飲む。

 「なんか嫌な感じだぜ」
  

  
  

  




 「・・・ん?」

 趙雲は城の入り口に人影を発見した。
 と初めて会った先日と同じようなシチュエーションである。

 彼に誘われるように他3名も視線を向けた。

 立っているのは、少年のように見える。
 しかし、その姿には見覚えがない。
 槍族3人衆が不審がる中、驚いたように手にしていた布を落とす者がひとり。




 「・・・・陸遜様?」




 そう言うや否やはその人影へ向かって駆け出した。



  
 死神現る


 魔人降臨


 地獄の道化師


 悪魔がきたりて笛を吹く


 犬神家の一族

 
 八ツ墓村

 

・・・何だかよくわからなくなってきたが、とにかく陸遜伯言様、満を持してのご登場である。



 嵐の、予感。