「もうお帰りに?もっとゆっくりしていっても・・・」 殿である劉備は残念そうに、呉からの一行を引き止めた。 何も知らないということは平和である。 「ありがたいお言葉ですが、戻って片付けねばならない仕事もありますので・・・」 急ぐ仕事など有りはしないが、正直に「亡き者にされる恐れがあるので」とは言えない。 おたくの女武将にも油断ができない、とは更に言える訳が無い。 ちなみに月英の虎戦車人体実験は、諸葛瑾がやめるよう懇願したため、渋々中止となった。 渋々、な部分が怖い。 「じゃあいつも通り、孔明様で試すことにします」 なんて事をサラッと発言していた彼女を、もう諸葛瑾は直視できなかった。 再会した時、孔明が妙に傷だらけだったのを不思議に思っていたがその原因が妻だったとは。 しかし身の危険を感じ、その話題には一切触れなかった諸葛瑾である。 気の毒だが、勤務先の呉にも弟の住む蜀にも彼が安らげる場所は無いようだ。 「では、お世話になりました」 滞在中の心遣いに礼を述べる諸葛瑾と共に、も深々と頭を下げた。 蜀滞在期間を何事もなく、至極平和に過ごせたのは彼女ぐらいのもんである。 メインだったはずの諸葛謹は寿命を縮め、後から自分勝手にやって来た陸遜は思わぬライバルの出現に心中穏やかではない。 一応同行していたお付の女官や護衛兵数名も、陸遜や殺気だった3名の邪気にあてられ顔色が優れない。 今回の訪問、収穫なし。 地味に腹黒をうつされた(それとも元々素質があったのか)趙雲・馬超・姜維は、を前に非常に名残惜しそうである。 叶うことならこのまま蜀にとどまって欲しい。 しかしそんな事が言えるはずもなく。 彼らが出来ることといったら、もうすぐ去ってしまう少女の姿をただただ、見つめ続けるだけであった。 深いお辞儀を終え、顔を上げたと3名の視線がぶつかる。 彼女の黒い瞳が、あまりに綺麗で純粋で。 3人は自然と顔が緩んだ。 優しげに笑いかける青年達に、感謝の意を込めてはもう一度小さく会釈をした。 「本当に・・・色々とお世話になりましたよね」 心温まるコミュニケーションなどさせるか、と脇に控えていた陸遜がすかさず威嚇。 瞬時に3名、毒玉(LV4)装備して迎え撃つ。 妖怪大戦争。 「あ、すごい。3人相手に1人で鍔迫り合い」 「ホントだ。スゲーな、あの呉の人」 「私も明日から双剣にしようかな」 「アハハハ〜殿、武器だけ真似しても駄目ですよ」 蜀軍兵士がのんびりと語り、ごく自然にその輪へ加わっている劉備が同じくのんびりとあいづちをうっている。 一国の主として、国際問題になりそうな紛争は早めに止めた方がいいと思うのだが。 関心の無いことにはとことん放任主義な殿様である。 「兄上、道中お気をつけて」 ドンドコ発生する瘴気を避けながら、弟は兄に挨拶を済ます。 もうどうでもいいから、早いとこその悪の化身(陸遜のことか?)を連れ帰って欲しいと思う諸葛亮である。 自分の嫁だって人間離れぶりはいい勝負だろうに。 「殿!再びお会いしましょう!!」 「お体、大事にされよ!」 「また手合わせお願いします!」 馬にまたがり去って行く後ろ姿へ、3名は力の限りに呼びかける。 ずいぶん離れていたのでよく見えなかったが、振り返ったは少し微笑んでくれたような気がした。 頑張れ槍族!勝負はこれからだ! 「よく帰ったな!ご苦労さん!」 いつものように豪快に笑う孫策の額に包帯がグルグル巻かれていたのは、言うまでもなく陸遜が脅して(つうか本当に刺しちゃって)蜀行きの許可をもぎとった証である。 無論、は知る由もないが。 が戻るのをハラハラしながら首を長くして待っていた呉の面々は、彼女の帰還を心より喜び、その日の夜はどんちゃん騒ぎであった。 (ちなみに陸遜の戦の勝利の宴などは全く開かれていない) 三国統一でも果たしたか?と思われるほどその日の宴は大盛り上がりで、は上機嫌な甘寧や涙ぐんでる呂蒙 無言で頭撫でまくりの周泰などに構われながら、久々に見る皆の顔になんだかホッとしている自分に気付く。 「もーもー!!おッ帰りーーっっ!!」 ドカッ 帰還に感激した小喬の激突(抱きつき)はかなり痛かったが、「これが帰るってことか・・・」とじんわりと幸せを感じるであった。 そんな和やかなムードの中、呪術の文献を読み漁る1人の男の姿が。 「・・同時に3人に呪いって・・・可能なんでしょうかね・・・?」 やめてください。 |