「兄上、お久しぶりです。ようこそいらっしゃいました」 
 
 「懐かしいな孔明、息災であったか?」

 
 無事に蜀へとたどり着き、諸葛兄弟は再会を果たすことが出来た。
  
 蜀の臥龍と評される諸葛亮という人物は、思慮深く、物腰の柔らかい男だった。
 切れ長の涼しげな瞳が印象深い。
 しかし一見穏やかだが同時にすべてを見透かされそうな、得体の知れない不安も感じる。
 さすがは元ノラ育ちの
 未だ鈍ることのない野生の嗅覚は、諸葛亮孔明のわけのわからなさを早くも嗅ぎ分けている。


 「どうだ、最近ビームの方は?」

 「兄上こそ、3でついにビーム習得されたようじゃないですか」

 「まぁ、チャージ1だがな」

 「フフ・・・調子が宜しいようですね」
  

 なんだよビームの調子って。
 たまに兄弟で会ったんだからもっと無いのか、ふさわしい会話。

 ビーム談義に花を咲かせている二人の背後で、はじっと座っていた。
 彼女の護衛は主人(この場合諸葛瑾)が「よし」というまで続けられる。

 そんな忠犬ハチ公に気付いた諸葛亮は、羽扇を向けて「そちらの方は?」と尋ねる。
 諸葛瑾はを振り返り、目を細めて彼女を紹介した。

 「最近仕えたばかりの武将でな。幼いが、大層腕が立つぞ」

 と申します、と彼女は拱手をし、頭を下げた。

 「もう、ここでは護衛はしなくてよいぞ。ご苦労だったな」

 諸葛瑾は、放っておけばそのままの姿勢でいつまでも座り続けていそうなに苦笑いしながら彼女の頭を撫でる。
 弟に顔を向けて、実に真面目でいい子なんだ、と自慢しながら。
  
 ほんのわずかだが照れたような表情を浮かべたを見て、諸葛瑾は
心底、本当に、マジであの陸遜に影響を受けてなくて良かったなぁと感じていた。

  

 一時護衛の任も解かれ、時間を持て余してしまう
 さっき案内された客室に戻ってもいいのだが、まだ陽も高く部屋にこもってしまうのも勿体無いような気がして、とりあえず散歩でもすることにした。

 決して華やかではないが、上品なつくりの城内を歩いていると、緩やかな風が吹いてくるのを感じた。
 その方向に目を向けると、開け放たれた扉の奥に鮮やかな新緑が広がっている。
 ここは外への出口らしい。
 緑の香りが混じる風に誘われるように、は表へと出る。

 矢倉や数々の武具が規則正しく並べられている。
 どうやらここは演習場のようだ。
 いつもここで兵卒達の訓練などを行っているのだろう。
 しかし今はそのような兵の集団の姿は無く、武将らしき青年達が3人鍛錬しているだけであった。



 「・・ん?」

 馬超と姜維が手合わせしている間、汗を拭いながら休憩をとっていた趙雲は、城の入り口付近に立っているの存在に気が付いた。
  
 「あれは誰だ?」

 間者などでは無さそうだが、趙雲は一応確かめておこうと近付く。
  
 遠くからではわからなかったが、驚くほど綺麗な顔立ちの少年。
 趙雲は声をかけた。
  
 「失礼ですが、どなたでしょうか?」

 「諸葛瑾様のお供で参りました・・・と申します」

 は小さくお辞儀をする。

  
 ---ああ、諸葛亮殿の兄弟が呉からいらっしゃると、確か関羽殿がおっしゃっていたな


 合点がいった趙雲はそうでしたか、と頷いて自分も名乗った。

 「申し遅れました、私は趙雲と申します」

 趙雲様、と確認するようには呟いた。
 
 「鍛錬の邪魔をしてしまったようで・・・・申し訳ありません。失礼します」

 そう言っては城へと戻ろうとしたが、趙雲は「あ、殿」と呼び止めた。

 「もし、お時間がありましたらご一緒に手合わせでもいかがですか?」

 3人なもので誰かが必ず余ってしまうのですよ、と趙雲は続けた。
 空いた時間をどう過ごしたものかと悩んでいたが、その申し出を断るはずもない。
 お願いします、と鍛錬中の輪に加えてもらうことにした。




 「その若さだというのに、素晴らしい腕だな殿は!」

 「ええ、全くですね!驚きました!」

 「我々もまだまだ修行が足りません」

 以前の甘寧同様見た目に惑わされた槍族3名は、予想以上のの動きに翻弄され、感服した。
  
 平たく言うと、コテンパンにされた。  

 油断しすぎだろうお前ら!
 いいんかそんなんで。

 「そのように小さな体だというのに、なぜこの長剣を?」

 の愛刀をしげしげと見つめる馬超。
 確かに小柄なが持つには、不釣合いなほど長い。
 しかしかなりの名刀だ、と馬超は思った。
 刃こぼれなどは一切なく、実に手入れが行き届いている。
 宝飾品のように華美な装飾ではないが、鞘や束の部分には細かな細工が施されていて一流の職人が手がけたことが一目でわかる見事な代物であった。
  
 「長さがある方が破壊力が増しますから」

 非力さを補ってくれます、と腰に納めた父の遺品に視線を落としつつ、はそう言った。
 3人はなるほど、と感心したように頷く。
  
 「・・・・お三方とも槍を使われるのですね・・・・」

 呉で槍術を使うのは呂蒙のみだったので、はここにいる3名全員が槍の使い手なのを珍しく感じた。
 流行ってるのだろうか、とも思った。

 ある意味流行っているがな!
 槍ではなく槍3人衆の方がな!

 「そういえばそうですね〜お相手になって頂いた殿には単調だったかも知れませんね」

 微笑む姜維にとんでもないと首を振り、かえって勉強になったとは礼をした。
  
 「もし良ければ、滞在されている間我々の訓練に付き合ってはもらえないか?」

 馬超がそう言うと、他2名も同意した。

 前よりマシになったとはいえ、まだまだは無愛想。
 人見知りも加わって更に表情は硬い。
 だがそんなの様子も彼らはさして気にならないようで。


 表情どころか
素顔すら謎の正体不明なのが2人もいるこの国では、無愛想なんてたいした問題じゃないのかも知れない。


 青年3名の誘いに、はコクリと頷いた。