「こんのクソ兄貴!!!何考えてんのよ―――――――っ!!!!」

 怒号と共に、孫権の部屋の扉が蹴破られた。
  
 「な、なんだ一体?!押し込み強盗か?!」

 ドゴッ

 突然の戦闘開始についてゆけず、右目に妹からストレートを食らう孫権。

 「が可哀相じゃないのよ!気に食わない事があるんならとっとと口で言え!」
 「な、何言って?」

 なにやら責め立てられているようだが、孫権は全く見に覚えがない。
 ていうか、殴られて痛い。
 いきり立った妹の後ろには、更に闘気をシュウシュウみなぎらせている3名の武将。
 このままでは殺されるかも。
 孫権はそう感じ、痛む右目を手で押さえつつ弁解した。

 「お前らの言ってること、半分もわからんぞ。意味が通じるように話してくれ」

 あと武器をむけるのもやめてくれ、と付け加えた。
 当事者でありながら一番冷静なが、今までの経緯を順序立てて孫権に説明した。
 彼は頷きながら聞いていたが、段々と顔色が悪くなっていく。
 が話し終えると、孫権はポツリと口を開いた。

 「それを書いたのは…確かに私だ」

 
カッ

 「待て待て待て!書いたことは書いたが、代筆だったんだ!」

 4人同時・無双乱舞カルテット(謎)が発動されそうになり、孫権は焦ってそう叫んだ。

 「…代筆?」

 振り上げていた圏を、そっと下ろして尚香は訝しげに兄を見る。
 今にも木っ端微塵にされそうな孫権はうんうん、と首を縦に振った。
 だが、頼んだのは誰かという当然の質問に「それは答えられない」と孫権は答えた。
 目を光らせた甘寧が剣を抜いた。
 陸遜は何故か弓を構える。
 出るか?得意の
ファイアーアロー!!

 「だから武器はむけるなって!」

 孫権は青ざめつつ、カーテンの中に身を隠した。

 「誰にも言わんとそいつと約束したんだ!男が約束を破れるか!」

 孫権よ、男がカーテンに隠れていいのか。

 「しかし、それが宛てとは全く思わなかった」

 すまないことをしたな、と孫権はこの状況に最も戸惑っている(疲れきっている?)であろうに詫びた。
  
 「いえ、孫権様は悪くありませんから」

 怯える孫権にそう言って、は苦笑いを浮かべた。
 とにかくここから出よう。これ以上いたら死人が出る。
 そう思うだった。

    




 「っと…残りはこれだけか」
 
 孫権の部屋を後にして、中庭の隅っこに集まりリストの武将を確認するたち。
 当初、と尚香の2人だけだった「果たし状・犯人は誰だ隊」だが
 陸遜・甘寧・呂蒙が加わりいつの間にやら総勢5名となっていた。
 残る容疑者は、黄蓋・太史慈・周泰の3名だ。
  
 「…この中だと、太史慈っぽいよな」
 「果たし状とか、勝負とか、そういうの好きそうですよね」
 「確かに、それっぽいわね」

 好きそう、とかそれっぽいとか、あやふやな根拠で疑われる不憫な男・太史慈。

 「でも、太史慈様ってすごく綺麗な字書くじゃないですか?代筆なんか頼みますかね」
 
 前に一度、太史慈の報告書を見せてもらった時、読めないながらも達筆な字が並んでいたのを覚えている。
  
 「そんなこと言うなら黄蓋だってあんな顔だけど、かなり達筆よ。年の功で」
 
 さげなく色々と無礼な言葉を織り交ぜながら、尚香はに反論した。
 じゃあ周泰は…?
 消去法でいくならば、自然と彼が残る。
 そういえば、あまり字を書くのは得意ではないらしい。
 読み書きが出来ないを、俺も苦手だと慰めてくれたのは彼である。

 「そ、そんな周泰様は、」
 「シッ!噂をすればなんとやらだ」

 甘寧が人差し指を口に当て、全員に横目で合図を送る。
 見れば、向こうからやってくる周泰。
 その姿を確認した途端、尚香が立ち上がる。
 皆がギヨッとするなか、

 「カマ、かけてくる」

 そう言って彼女は走っていってしまった。



  
 ズンズン大きな体を揺らして歩く周泰に、尚香はしらじらしく声をかけた。

 「あら、周泰じゃない」
 「…(頷く)」
 「いい天気ね」
 「…曇っています」

 これだから、嫌なんだよこの男は!
 尚香姫、心の中で舌打ちしまくり。

 「あのさぁ、周泰に聞きたいことあるんだけど」
 「…なんですか」
 「兄さんに何か頼みごとしなかった?」
 「な、何故…知っ…」

 
ドキィ!てな感じである。
 寡黙で冷静なはずの周泰将軍、明らかに動揺。
 チョロい、チョロすぎるぞ周泰!

 「そっかー周泰がねぇー」
  
 こりゃまだボロが出そうだと踏んだ尚香は、更に追加攻撃。
 
 「こ、こういう事は……はっきりさせた方がいいと…」

 オタオタな感じの周泰氏、かわすこともせず、答える答える。
  
 「……アイツ、だな」

 それを遠巻きに見ていた他のメンバーは、犯人が誰かを確信した。
 差出人は、周幼平。
  
 一方、犯人が分かってスッキリするどころか、は崖から突き落とされたような気分だった。
 まさか、周泰様が。  
 は無意識に、犯人候補から周泰を外していた。
 他のどの人が差出人でも、彼は違うと。
 周泰ではない、と勝手に思っていた。
 否、思いたかったのか。
 周泰が自分を嫌っているなんて、考えたくもなかったのだ。
 何故か?
 それは、考えるまでもないこと。

 「右の頬にも、傷負わせてやりましょうか」
 
 低いトーンで陸遜が呟いた。

 「おう…やっちまうか?」

 そう言って立ち上がろうとした甘寧の腕を、はグッと掴んで止めた。

 「いいです」

 うつむいて彼女は首を小さく振る。
 なんだかその姿が弱々しくて、3人は胸がチクリと痛んだ。
 でもよ!と言い募る甘寧を、は瞳に力を込めて見上げた。

 「明日、私が全力で相手します」

 泣くもんかとは唇をかんだ。