登用試験には7つの課目がある。 そのうちの2つが試験課題として出されるが毎回変わる為、どの課目になるかはその時になるまで分からない。 剛弓・剣豪・心眼・奥義・突破・舞闘・馬術 小十郎はそのひとつひとつをに説明した。 徹底的に剣の道を教え込まれたにとって剣豪・心眼・舞闘は問題ない。 幸い弓の覚えもある為、剛弓もまず大丈夫だろう。 突破に関しても、まあ何とかなりそうだ。 しかし、残る二つがの不安要素である。 ”登用試験の受ける前に〜明日の伊達家を担うのは君だ!〜”と書かれた説明書を手に取り、は言う。 「奥義なんて大それたもの、持ってませんよ私」 ああそれは気にしなくても結構です、と小十郎は軽ーく答えた。 「ゲージが溜まったら、勝手に出ますから」 実にあっさりとした説明である。 真心が感じられない。 ゲージって一体何のゲージだよ、とは思ったが目の前にいる小十郎があんまり素の顔をしているものだから、聞くに聞けなかった。 「そ、そういうもんなんですか?」 「そういうもんです」 無双界暗黙のルールである。 そういう細かいことを気にしては負けだ。 郷に入っては郷に従えということで、納得するほかない。 少々やっつけ仕事のような気もするが、とりあえず奥義の件は解決した(したのか?) 残る一つ、馬術である。 これは完全にアウトだ。 いくら祖父がラストサムライでも、家の敷地が無駄に広くとも、馬を飼ったことは無い。 当然、乗馬の経験などあるはずなく。 乗りこなして柵を越えたり攻撃したりなど、到底不可能である。 「馬は…マズいなぁ」 「馬術は未経験でしたか…それは少々不利ですね」 クリアタイムを争うレベルではない。 未知の領域である。 科目一覧を眺めながら、は力なく苦笑いを浮かべた。 「馬術が出ないことを祈るばかりですね」 「そうですね。出来るならお力になりたいんですが、試験科目を決めるのは私ではないので…」 馬術に頭を悩ませるを前に、小十郎は申し訳なさそうに頭をかく。 「しかし裏から手を回せば、出来ないこともないです」 「ご、ご遠慮しときます」 小十郎はサラリと言ったが、結構ダークな匂い漂う台詞である。 そんな形でお力になって頂いては、思いっきり不正ではないか。 この時代まで来て、裏口入学なんという真似はしたくない。 もし祖父が聞いていたら、「恥を知れ!」と全力で横っ面をブっ叩かれるであろう。 清廉潔白に見えて、小十郎、なかなか侮りがたし。 そんな小十郎のディープさを学んだ後、はいよいよ本題に入ることにした。 受験内容をすべて把握した今、気になるのは試験の日時である。 「ところで試験はいつですか?」 「明日です」 「そうですか明日………あした!??」 うっかり聞き流しそうになってしまったが、とても流してはいられない。 明日。 トゥモロー。 それは今日の次の日。 「それを逃すと次回の試験は1年後です」 「いっ…いちねん」 遠い。 そんなに待ちたくはない。 もうちょっと定期的に行ってくれてもよさそうなもんだが、現実とは厳しいもの。 「明日」か「来年」か。 ずいぶん極端な選択肢である。 だが、この状況下で贅沢は言っていられない。 思案すること、3秒。 「明日の試験、受けます」 一年後よりはマシだ、とは(秒速で)判断を下した。 即、返って来た返答に「早!」と心中で突っ込みを入れてしまった小十郎だが努めて冷静に、に真意を尋ねる。 「いいのですか?合計評点が100を割れば、有無を言わさず失格ですよ。何かお考えでも?」 彼も心配なのだ。 彼女のあまりの無謀さと思い切りの良さが。 それに対して、はきっぱり言い切った。 「落ちたら落ちた時考えます」 「出たとこ勝負ですね」 には何の策もなかった。 当たって砕けるつもりである。 呆れるほどの度胸の良さに、小十郎は自然と笑みがこぼれる。 なんというか、笑うしかない。 ほら、政宗様。貴方と同じものをこの方は持ってらっしゃる。 小十郎は、どこでも後先考えずに突っ込んでゆく己の主人の姿を思い浮かべた。 「どうかご武運を」 |