五歩目のおまけ
「後付けと完全先付け」
(ちょっと長いです)



麻雀は「1飜縛り」が基本。
これは、あがるためには最低1飜の役(あがり役)が必要というルール。
あがり役はリーチ・ピンフ・タンヤオ等々で、一般的にはドラと一発は含まれない。

で、この最低1飜の「あがり役」をどの時点で認めるかというのが、
「後付け」と「完全先付け(完先、カンサキ)」の違いに関わってきます。

「後付け有り」:「あがったときにできている(全ての)役」を認めるルール
「後付け無し」:「テンパイしたときにできている役」しか認めないルール
例えば、「11中中」のシャンポンで待ってて、中であがるとする。
このとき「中」って役は、テンパイの「後から付いた」ものなので、
「後付け有り」のルールなら「あがり役」としていいんだけど、
「後付け無し」だと認められない。
(こういう「後付け」のあがり方を、「バック」ということもある)
ただし、残りの3面子で例えばチャンタ等の役ができていれば、
 (例「一二三999西西西11中中」)
この場合どっちであがっても確定しているわけだから、
チャンタが「あがり役」として認められる。

「後付け無し」のルールの場合、通常は他にも「あがり役」に関する制限が、
いろいろごちゃごちゃこまごまと付く(詳細は後述)。

そのごちゃごちゃのうち、
「最初にフーロするときは、それがあがり役に関わるものでなければならない」
 (例えば役牌のみの手だったら、最初に鳴くのは役牌じゃなきゃダメ)
というルールを含む場合を特に「完全先付け」と呼ぶ。

他にも、あまり一般的じゃないけど、
「途中で役を付けて、テンパイしたときに何かあがり役ができていればいい」
という、「中付け」というルールも(一部には)ある。

一般的には「後付け無し」の場合、大概「最初のフーロでの役確定」も含むから、
「後付け有り」の反対が「完全先付け」と思っていていい。
(正確には「後付け無し」=「完全先付け」ではないんだけど)


まとめると、
  「完全先付け」=「後付け無し」+「最初のフーロでの役確定」
          +「あがり役」に関するその他ごちゃごちゃしたルール全部
ということになる。

この最後の、「その他ごちゃごちゃしたルール」ってのがくせ者で、
ほとんどがその地域、グループのローカルルールの集まり。
「10のグループがあると10の完先ルールがある」といわれるくらい
統一性がなく、何かとトラブルの元になる。


とはいえ、「完先」にもメリットはある。

・計画的に手作りをしなければならない

 「こういう形に仕上げる」と決めたら、それに向かって真っ直ぐ突き進むしかない。
 ビギナーにありがちな、「行き当たりばったりでポンチーしてたら、
 いつのまにかあがれた」という事態はなくなるけれど、
 逆にいえば、状況の変化に合わせて途中で方針を転換するというような
 柔軟な手作りはできなくなる。

・フーロがしにくく、ゆっくり自分の手作りができる

 フーロがしにくいと、早あがりがしにくくなるから、
 「何もできないうちに終わっちゃった」ってことが少なくなる。
 さらに、他家の動きもあまり警戒しなくていいことになるから、
 自分の手作りでいっぱいいっぱいのビギナーには、この方が安心。

・ブラフ、引っかけ、騙し討ちがしにくい

 「後付け有り」のときは通常「クイタン有り」にすることが多く、
 二つ併せて「アリアリ」とかいわれるんだけど、この「アリ」っていうのは、
 ブラフ、引っかけ、騙し討ち、「なんでも『アリ』」って意味もある。
 「アリアリ」で打っているビギナーは、大概これで痛い目にあう。
 「完先」ルールというのは、こうした「かけひき」をローカルルールで制限して、
 ビギナーでも安心して打てるようにするって意味もある。
 ところが、このルールが複雑すぎて、「真の」ビギナーにはかえって難しい。
 つまり、「完先」ルールっていうのは、最低限のローカルルールを理解している、
 「仲間うちの」ビギナーにだけ優しいルールといえる。

まとめると、
「完全先付け」は、清廉潔白・公明正大で、形式を重視する(仲間うちの)ルール、
「後付け有り」は、戦略性が豊か(権謀術数何でもあり)で、結果を重視するルール、
ということになる。

「後付け有り」だと、ごちゃごちゃしたローカルルールは
ほとんど(全部じゃないけど)意味がなくなるので、とてもスッキリする。
それで、各種公式大会(東風荘を含む)では「後付け有り」のルールとなっている。

そもそもローカルルールなんて通用しない東京地方では
「後付け有り」のルールが一般的で、
その他地域ではだいたい「完先」ルールになってます。


●「完全先付け」ルールのいろいろ

先に挙げた「後付け無し、最初のフーロでの役確定」というのは最低限共通のもの。
これに加わる「その他ごちゃごちゃしたローカルルールの集まり」も、
ある程度傾向はあるので、問題になるポイントを整理しておきます。

・あがり役の「確定」

 先ずは、何をもってあがり役の「確定」とするのかという問題。
 「飜数」で決めるのか、「役そのもの」で決めるのか。

 複数のあがり牌がある場合、飜数で決めるルールならば、
 「どの牌でもロンできる(つまり、最低1飜が確定している)状態であればいい」
 ということになる。
 ただし、これに「メンゼンの場合のみ」という制限が付くことも多い。

 役そのもので決める厳しいルールだと、
 「どの牌であがっても、同じあがり役が確定していなければならない」となる。
 飜数で決めるのが一般的だが、確認が必要。
 いずれにしろ、カンチャン、ペンチャン、タンキ待ちなら問題なし。

例)「123六七八西西西発発中中」
  「発発中中」のシャンポン待ち(王手飛車ということもある)
  あがり役は「発」か「中」か確定していないけど、
  「あがれる状態である」ということは確定している。

・フーロについて

 一般的には、役牌のアンコウがあれば他は何をフーロしても良いことになっている。
 (もちろん、そうでないルールもある)

 その場合、問題になるのは「アンカン」の扱い方。
 「完先」基本ルールの「最初のフーロでの役確定」とは、
 「役牌をフーロし、あがり役がその役牌のみの場合は、
 その役牌が最初のフーロでなければならない」ということ。
 この「役牌のフーロ」に、「アンカン」を含めるかどうかが問題になる。
 「アンカン」は、扱いとしてはアンコウだけれど、実際にはフーロしている。
 あくまでアンコウ扱いとするなら、他のフーロの後にでも「アンカン」できるが、
 フーロ扱いとするなら、他のフーロの後には「アンカン」できないことになる。

・偶然で生じる役

 偶然によって、あがる瞬間にできる役があるが、
 (メンゼンツモ、リンシャンカイホー、チャンカン、ハイテイツモ、ホウテイロン)
 これらを「あがり役」として認めるかどうかも問題になる。
 厳しいルールだとこれらはどれも認められないが、
 一般的にはメンゼンツモだけは認められる場合が多い。

 メンゼンツモを認めていない場合、当然「メンゼンツモのみ」ではあがれないが、
 「完先」ルールだと「ツモピンなし」が普通だから、
 ピンフのみでロンはできても、ツモるとあがれないという妙なことが起きたりする。

・あがり役以外の数え方

 テンパイの後にできた役を飜数として数えていいのかどうかも問題になる。
 一般的には、先にあがり役が確定していれば、後は全部数えていい。
 でなければ、例えば「発発発白白白234西西中中」から、
 「中」でロンしても、「ホンイツ、小三元」のみになってしまう。

・リーチについて

 一般的な「完先」ルールだと、フリテン後のリーチ、リーチ後の見逃しは
 流局時にチョンボになる(つまり、ノーテンリーチ扱い)。
 ロンは当然できないけど、ツモだけは許される場合もある。
 (この場合、リーチは『絶対あがるよ』宣言なので、あがりの前に裏ドラを見たり、
  他人の手牌覗いたり、といった遊びが許されることになる。
  見逃しリーチができる一般ルールだと、これらは当然禁止。)

 またこれに関連して、
 あがり牌が全部見えている(河に切れてる分、フーロ牌、ドラ表示牌)状態で
 リーチをすると、ノーテン扱い(流局すればチョンボ)とする場合が多い。

 そもそも「完先」は「あがり役を確定しなければあがれない」のであって、
 「あがり役を確定したらあがらなければならない」わけじゃないはず。
 だから、このルールは「完先」だからあるわけではなくて、
 清廉潔白・公明正大を目指すという基本姿勢から出てきたものだろう。
 根拠はないけど、とにかくそういうことになってるんだから仕方ない。

・「同順ツモ」について

 他に「完先」で採用されているものに、「同順ツモ」の禁止というのがある。
 「その1巡内(前回自分が牌を捨てた後から、次にツモる時まで)で
  アガリ牌を見逃した直後は、ツモではアガれない」というルール。
 これも意味はよくわかんないんだけど、ローカルルールなんだから仕方がない。
 普段、このルールでやっている人は、
 見逃した直後でもツモであがれる普通のルールを「ツモ優先ルール」と呼ぶ。


●「先付け」の由来

元々、中国オリジナルルールでは、あがりに必要な条件は「4面子1雀頭」だけで、
「役」無しでもあがれたから、後も先も関係なかった。
日本でも、戦前普及していた「アルシーアル(アルシャール)」麻雀はそんな感じ。

その後、占領軍の米国ルールと混じり合いながら、ギャンブル性が高められ、
最低1飜必要(1飜縛り)とか、リーチ&裏ドラとか、いろんなルールができてきた。
もちろん、これらもはじめはローカルルールだったんだけど、
シンプルでスリルもあるってことで定着し、やがて標準ルールになっていった。
これが今でいうところの「アリアリ」ルール。

んで、いよいよ「完全先付け」が登場して来るんだけど、これがかなりややこしい。
実は「完全先付け」というのは、そもそも誤解・勘違いから発生したルールなんです。

商取引で使用される小切手の中に、「先付け小切手」と呼ばれるものがあります。
これは「実際の取引よりも、振り出し(現金化)の日付けがず〜っと先」の
小切手のこと。ここで「先」という言葉の意味は、「順番が前」ってことではなくて、
「日付けが将来のもの」ってことです。

例えば4月1日に小切手を振り出さなければいけないのに、
その時は銀行に残高が無いと、そのままでは不渡りとなってしまいます。
しかし5月1日なら残高も大丈夫という時は、
日付けを1カ月「先」の5月1日付けにして振り出すのです。 
するとこの小切手は、取り引き時点では紙切れなのに、
1カ月「先」に突然現金になるわけです。
つまり、もともとは「先付け」=「先の日付け」ってことなんです。

この「先付け小切手」にちなんで、昔は麻雀でも最初に関係ない牌をチーポンして、
後になって役牌かなんかで役を付けてあがる(つまり現金化する)ことを、
「先付け」と呼んでいた。
で、ゲーム中によくわからないフーロが入ったりすると、
「先付けだぞ(気を付けろよって意味で)」なんてことを言っていたのでしょう。

ところがある時、これを聞いた人が「先(日)付け」を、
「先(役)付け(=先に役を付ける)」と勘違いし、
「『先付け』といいながら後で役を付けているのは、口三味線にちがいない。
そういうことがないように、ちゃんと『役を先に付ける』というルールを作ろう。」
なんてことを考えた。

そこで生まれたのが「完全先付け(完先)」ルールです。
だから、この「完全先付け」は「先(役)付け」の意味であって、
本来の「先(日)付け」の意味ではない。
「先(日)付け」だと、「ず〜っと先の日付に役ができる」わけだから、
役は後で付く、すなわち「後付け」になります。
つまり、「先付け(=後付け)」と「完全先付け」は正反対の意味になるわけです。 

おそらく「完全先付け」も、できた当初は単に「先付け」と呼ばれていたのが、
本来の「先(日)付け」=「後付け」と混乱が生じるため、
頭に「完全」を付けて区別するようになったのでしょう。

しかし近年は、逆に「完全先付け」からの連想で、
単に「先付け」といえば「先(役)付け」と同様の意味で使われるようになり、
本来の「先(日)付け」のあがり方は「後付け」と表現されています。
さらに両者の間をとった「中付け」なんてのもあったりして、もう何がなにやら・・。
この辺の事情を知っている人は、混乱を避けるため
単なる「先付け」という言葉は使わず、「後付け」か「完先」かといいます。

このように名称からしてややこしい「完全先付け」ルールは、
歴史も浅く十分洗練されるに至っていないため、
ルールの内容も矛盾の多い決めが多く、よくトラブルの原因になります。
あがってみてから「これはルール違反じゃないのか?」なんて議論が持ち上がり、
その場でまた新しいローカルルールが追加されたりなんてことも日常茶飯事。

ある程度打てる人とビギナーが囲むと、
ビギナーの荒唐無稽な打ち方に調子が狂うことがある。
それに苛ついた先輩たちが、好き勝手に動けないように
「あれもダメ、これもダメ」って制限を増やしていくってこともある。

相手の読みを攪乱させるような動きができなくなるから、
喰い仕掛けがあったとき、何をねらっているのか分かってしまう。
上級者は、河の並び方、相手の目の配り方、手牌からの切り出しの位置、
タイミングなんかまで読んで打つから、そんな必要はないんだけど、
「ある程度しか打てない」人にはこれはとっても便利なルール。

さらにこれは、そのルールに慣れていない「よそ者」に対しても有効。
ロンって倒した後、「ああ、これはダメだ」なんていわれて、
後から次々と決まり事が登場したりすることも。
だからって打ってる途中で「こういう場合はどうすんの?」なんて尋ねようものなら、
手の内がばれちゃう。

また、「完先」だとポン・チーが極端にしにくくなるけど、
まだ手積みだった時代には、ポン・チーを嫌う人達にはとっても好都合だった。
その人達っていうのは、ツモ順がずれると困る、積み込みをしてる人達。
リーチも元々はそういう目論見があったんだろうけど、
「一発・裏ドラ」なんかのギャンブル性と、
ルールのシンプルさがうけて全国的に定着したんでしょう。

一方の「完先」は、ギャンブル性は低くなるし、
ルール自体複雑で矛盾も多く、全く統一できていないのが現状。
最近は、「完先」が普及している地方の雀荘でも(特にフリーだと)、
「アリアリ」ルールを採用する店も出てきているようです。

参考)Mahjong Walker Web Site


●「完全先付け」ルールの対策

私の場合、「完先」ルールの時はほとんど役を追わない。
「役牌・リーチ・ピンフ・チートイツ」以外は眼中に無し。

精一杯手広くして、一刻も早く裏ドラ期待のリーチ。
役牌を鳴くなら、(当然1フーロめで)1鳴き。後は喰い散らかしてとっとと流す。
ただし、メンゼンでテンパイが近ければ雀頭にしてリーチ。
とにかくリーチが最優先だから、ホンイツ、チンイツですら、
(2飜縛りでもなければ、)それしかできないときしか目指さない。
これら以外の役であがるときは、チョンボになることを覚悟して手を開けよう。
また、狙い打ちがしづらいので、ツモでまくれる手作りを心がける。

とはいえ、ローカルルールってのは「仲間うちの決め事」のことなんだから、
知ってるもの同士で打ってる限りはあまり問題はない。
また、場合によっては「郷にいれば郷に従え」ってことも必要かも。
ただし、「完先」ルールでそこそこのレートで打つときは、
先に挙げたポイントを確認しておかないと、必ずトラブルになるから注意。
よく知らない人達と打つときは、事前に入念な打ち合わせが必要です。
当然、各種大会等の公式ルールではそんなこといちいち確認してられないので、
「後付け」ルールになってます。


「完先」ルールは、いってみれば学校の校則みたいなもの。
そこでは、まだ一般社会に出るには早い「(人生の)ビギナー」相手に、
そこでしか通用しないこまごまとしたルールで行動を制限し、
一般社会に出てゆく前段階としての学習・練習をする。
だから、いろいろなものに守られながら、ずーっとそこで遊んでれば、
世間の厳しさにさらされることもないけど、真剣勝負の面白さは味わえない。
「完先」は子供(ビギナー)のルール、
「後付け有り」は大人(一般向け)のルール、だと私は思う。

とはいえ、「完先」が全部ダメだなんてわけじゃなくて、
ポーカーにもいろんなルールがあるように、麻雀にもいろんなルールがあっていい。
ただ、もうちょっとルールの体系が整理されて、
「完全先付け」標準ルールでもできればいいのになぁ、とは思ったりする。



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