■親の心子知らず、子の心親知らず(2)■
2.ジャンボの話
数日後。
竹田は小岩井家の前に車を止めた。少し迷ってから、車を降りる。小春日和で日差しは暖かい。その暖かさを流し去るかのように秋の風がひんやりと吹き抜け、庭木がざわざわと音を立てる。
竹田は小岩井家を見上げた。どの部屋もカーテンは開いている。きっとよつばが、朝から張り切って開けたのだろう。
今日は休店日ではなく、今は配達の帰りだ。普段なら特別に用が無い限り、仕事中に立ち寄ることは無い。休日は毎週大抵、小岩井とよつばと過ごすし、それ以外の日に会いたければ仕事が終わってから夜に行けばいい。
だが今日は、竹田の記憶が正しければ、小岩井の仕事が朝には一段落する日だ。そしておそらく、ここ三日間、小岩井はろくに眠っていないはずだ。
仕事からようやく解放され、疲れ切って眠っているのであればそれでいい。起こさないようにそっと確認だけできれば、それでいい。
そう思いながら、竹田はドアノブに手をかけた。案の定、鍵はかかっていない。
「うィース」
小さく声をかけながら、勝手知ったる家に上がり込む。よつばがドタドタと走ってこないということは、遊びに出ているのだろう。
居間を覗くが、おもちゃが散乱しているだけで、誰もいない。寝室には親子二人分の布団がぐちゃぐちゃに敷きっぱなしで、台所のシンクには小岩井家のありとあらゆる食器が無造作に積み上げられていた。
ここ数日の、仕事と生活をギリギリ両立させたのであろう凄惨な跡を眺め、竹田は二階に向かった。階段を昇ると、仕事部屋に人影は無く、隣の部屋の扉が開いている。そっと覗くと、小岩井が仮眠用の布団の上にいた。いるにはいるが熟睡とは程遠く、掛布団を丸めて抱き枕のように抱え込み、ごろんごろんと左右に転がっている。子供の布団芋虫遊びの、逆バージョンだ。
「何やってんだ」
腰を屈めて入ってくる男に、小岩井がぼんやりとした目を向けた。
「あー、ジャンボ?」
「仕事明けだろ? 寝てなかったのか」
「眠れない」
「は?」
「なんか疲れすぎちゃって、頭ン中がまだ動きまくってて、全然眠くならないんだ」
もう三日もほとんど寝てないのになー、と言いながら小岩井がへらっと笑った。顔色がいつもよりずっと白い。
竹田は小岩井の傍に腰を下ろした。大きな手で、小岩井の髪をそっと撫でる。
「あー、あったかい」
小岩井が、ぼーっとした顔のまま呟く。竹田を見上げるその目は充血し、隈が濃い。その目元に、竹田はそっと口づけた。小岩井が力なく腕をあげて、竹田の方に手を伸ばす。邪魔な掛布団を除けながら、竹田は労わるように小岩井の髪を優しく撫でた。その手が頬から首元を辿り、唇が額に触れる。くすぐったそうに、小岩井が首を竦めた。
「ジャンボの手、気持ちいいなー」
身体から少し力が抜けたのか、小岩井の瞳がとろんと竹田を見上げる。竹田は小岩井を優しく抱きしめた。
「眠れるまで添い寝するか? それとも、早く眠りたいか?」
「うーん……」
少し恥ずかしそうに目を逸らしながら、小岩井は竹田の大きな背中に腕を回した。
「どっちかって言うと、早く眠りたい……かな」
その言葉に、竹田はそっと、小岩井の唇に自分のそれを重ねた。少しかさつく唇を肉厚な舌で割る。
「ん……」
喉から甘い声を漏らす小岩井を抱き起し、向かい合わせに自分の膝の上に乗せる。部屋着のシャツを捲り上げ、腹から胸へと手を這わせると、小岩井の身体がぴくりと震えた。胸の尖った部分を親指で刺激すると、逃れるように身をよじる。
「くすぐったいよ」
小岩井が竹田の首に腕を回し、そのまま身体を預ける。その体重に全く揺らぐことなく、竹田は小岩井の腰を引き寄せた。コットンの部屋着の布越しに、小岩井の緩やかな熱が伝わる。ウエストの後ろ側から手を差し入れ、薄い尻を揉むように掴むと、逃げる腰がより竹田に密着する。さっきより明らかに熱をもつそこを擦り付けるように、小岩井の腰が無意識に揺れる。自分で擦り付けておきながら、その刺激に小岩井の身体がびくんと震える。
「あ、……なんだこれ……」
自分でも制御できない痴態を晒され、竹田は喉を鳴らした。明らかに、疲れが普段とは違う興奮を引き起こしている。竹田は小岩井の首筋から耳へ、ねっとりと舌を這わせた。
小岩井のズボンを下着ごと引き下ろすと、立ち上ったそこが空気に晒され、ふるりと揺れた。液体に濡れたそれをそっと手で包むと、それだけで悲鳴のような声が漏れる。恥ずかしくてたまらなくて、でも同時に、この熱をどうにかして欲しくて、小岩井は竹田にしがみついた。
その耳に、竹田の熱っぽい声が低く響く。
「コイ、すげえぞ、これ」
「や……っ、言うなよ……っ」
疲れと興奮がぐちゃぐちゃに混じり、自分の身体がどうなっているのか分からない。恥ずかしくてたまらないのに、それを抑える理性が働かない。
濡れそぼるそこを優しく揉みしだきながら、竹田はもう片方の手で小岩井の尻の肉を割った。濡れた指でその部分を探り、ゆっくりと指を埋める。
「あ、や、や……っ」
小岩井のそこが一瞬ぎゅっと締まり、徐々に誘い込むように蠢く。
「やだ……っ……そこ……っ」
「キツイか? 無理なら抜くぞ」
竹田が熱い息で、それでも優しく労わるように尋ねる。いやいやをするように、小岩井は頭を振った。
白い顔を僅かに上気させ、恥かしさを堪えながら、小岩井は小さな声を絞り出した。
「やだ……っ……そこ、はや……く……っ」
いれてくれ、という言葉は声にならず、代わりに涙が溢れた。
「……っ」
竹田が荒々しく、それでも精一杯の気遣いで優しく、小岩井の身体を布団に横たえた。あやすように、流れ落ちる涙を舐め取る。小岩井の脚が力なく、竹田の腰に絡みつく。竹田がゆっくりと腰を進めた。欲しかったものが与えられる感覚に震えながら、小岩井はシーツを掴み、最後の理性で悲鳴を噛み殺した。
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