■それはまるで恋のような(2)■


 夕食を食べて、一緒に後片付けをして、別々に風呂に入る。この流れにもすっかり馴染んだ。
 島田が二階に上がると、桐山が布団を敷き終えたところだった。いくら流れに馴染んでも、自分の家で、二組の布団がぴったりと寄り添うように並んでいる光景は、毎回やっぱり気恥ずかしい。顔が少し熱いのは、風呂上がりのせいだ、と島田は毎回、自分に言い聞かせていた。
「島田さん」
 桐山に手をひかれるまま、島田は布団の上に膝をついた。しっかりと包み込むように抱きしめられ、寝間着の薄い生地越しに身体が触れ合う。思わず漏れそうになった吐息を、島田はそっと逃がした。
 桐山の手が頬に触れる。目を覗き込みながら、真剣な顔で桐山は尋ねた。
「島田さん──いいですか?」
 いいも悪いも、この状態になってから聞くことじゃないだろう、といつも島田は思う。しかし桐山は毎回毎回、律儀に許しを求めてくる。何故毎回それを島田に問うのか、その意味に桐山自身はおそらく気付いていない。
「……狡いよな……」
「え?」
 思わず漏れた小さな呟きは、桐山には聞き取れなかったようだ。
「……なんでもないよ」
 島田は優しく笑い、桐山の肩に腕を回した。
 子供じみた甘えに未だ気づかない桐山と、それに気づかないことを許す自分の、その愚かさは同じだ。
 桐山の指が唇に触れる。島田は薄く、唇を開いた。
「ん……」
 重なった唇から、吐息が漏れる。侵入して来る熱い舌を、島田は同じだけの熱さで受け止めた。
 
 
 
 熱い吐息が首筋を撫でる。ざらついた、仔猫のような舌が耳を這う。その感触に、島田は喉から漏れそうになった甘い声を噛み殺した。指が無意識に、白いシーツを握り締める。
 ぞくりとした感触が、舐められた部分から背筋を駆け、脚が僅かに震える。繋がったその部分を通して、桐山の身体にその振動が伝わる。
「島田さん……」
 欲情を隠し切れない桐山の瞳が、島田を見下ろす。
 顔も身体もすっかり大人びたと言うのに、この眼だけは変わらない。ただただ必死に相手を求める若さと熱量が、島田を呑み込んでゆく。言葉も理屈も必要ないのだと、ただ魂の底から想う心があればそれだけでいいのだと、この時だけは島田にそう錯覚させる。
 責任なんて重苦しいものを持たないのが恋ならば、桐山のそれは間違いなく恋だ。では、自分のこの感情は、いったい何なのだろう。ただ流される情なのか、眩しい若さに対する懐古なのか。あるいは、いつか訪れる別れが煽る、被虐の快楽なのか──
「……あ……っ」
 桐山がゆっくりと腰を突き上げた。内側の敏感な部分を擦られ、島田の腰が跳ねる。
「あ、きりやま……っ……」
 食い入るように島田を見つめながら、桐山が腰を動かす。島田の身体が無意識に、より感じる部分へと桐山を導く。
「あ……あ……っ」
 桐山と直に触れあっているその部分から生まれる快楽が、全身を駆け抜ける。
「島田さん……っ」
 熱い吐息の合間に、桐山の口から言葉が漏れた。
「好きです……島田さん……」
「……っ!」
 そのまま激しく突き上げられ、身体が仰け反る。桐山の言葉が、心に突き刺さる。
「……桐山……っ……俺……っ」
 唇が反射的に同じ言葉を返そうと動き、だがほんの僅かに残った理性が、その言葉を喉元に押し留める。
 それ以上の言葉を発しない島田の口を、桐山の唇が乱暴に塞いだ。
「ん……っ……」
 桐山の舌が、島田を蹂躙する。
 島田はただただ、桐山の熱を感じながら抱きしめることしかできなかった。



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