■大人の遊び(3)■


 ゆっくりと意識が浮上する。慌てず動かず五感だけを研ぎ澄まし、コナンは状況把握に努めた。
 原因はおそらく、二杯目のアイスコーヒーに仕込まれた睡眠薬だ。
 自分が寝ているのはベッドの上。隣には同じく服部が横たわっている。目だけを動かせば、窓も扉も無い白い壁だけが見える。気温は寒くも無く暑くも無い。聞こえるのは服部の呼吸音だけ。
 コナンはゆっくりと身体を起こした。服はそのままだが、靴を含め武器になるような道具は全て取り上げられている。
 服部が眠らされているだけなことを確認すると、コナンはそっとベッドから降りた。窓もドアも無い部屋。目視できる監視カメラの類も無し。ここがどこなのかも分からない。
 分かっていることは唯一つ。自分たちを攫ったのは次元大介であり、その背後にはおそらくあの大泥棒がいるということ、それだけだ。
「う……ん……」
 僅かな呻き声とともに、服部が緩慢に起き上がった。
「ん……なんや、ここ……」
「どうやら誘拐されたみたいだぜ、俺たち」
「……誘拐……って……誘拐!?」
 瞬時に目を覚ました服部に、コナンは手短に状況を説明した。さすがに服部の状況把握は早かった。二人は全ての床、壁、肩車をして天井まで調べたが、抜け穴はもちろん無く、素手で壊せるような壁ではない。
「くそっ、あいつら何が目的なんだ?」
「口封じ……やったら、とっくに殺されてるはずやしなあ」
「っていうか──聞こえてるんだろ、いや、見えてもいるはずだぜ、大泥棒さんよ!」
 服部にではなく、コナンは部屋の中央で大声を出した。
「何が目的だ!? 用件があるならさっさと言え!」
 その言葉に呼応するように、不意に天井から一枚の紙がひらひらと落ちてきた。
「なんや?」
 コナンが紙を拾い上げ、服部がそれを覗き込み、そして二人は絶句した。
 
『二人でムフフ(はあと)なコトをしないとこの部屋から出られません』
 
 紙の下で、ひょうたんのような形をした似顔絵が笑っている。ご丁寧にピンクのハートマーク付きだ。
「なんや、これ?」
「……けっ、そういうことか。世界一の大泥棒が、ずいぶんと悪趣味じゃねえか」
 コナンが吐き捨てるように昏く笑った。
「おい、工藤、説明せえ」
「大泥棒サマは、俺たちのストリップが見たいんだとさ」
「はあ!?」
 紙をぐしゃりと握り潰し、服部は大声を上げた。
「こらァ、アホなこと言うとらんで、さっさと開けんかい! お前らショタ趣味まであるんか!」
「……ショタ趣味って、お前が言うなよ……」
 ぼそっと呟きながら、コナンはベッドにあがり、ぺたんとトンビ座りをした。
──見えているのは、多分、あっちの壁──
 先程壁を叩いた時、一枚だけ音が違う面があった。おそらくそこが、ハーフミラーのような構造になっているのだろう。
 コナンはわざとそちらの壁の方を向き、シャツのボタンをプチプチと外した。ボタンだけを外し、シャツは脱がない。白い靴下もあえて履いたままだ。
──さて、新一とコナン、どっちでいくか。大泥棒の趣味なら新一だけど、多分効果があるのは──
「ねえ、平次にいちゃん」
「なんや工藤、って、うわっ!?」
 ベッドの上で、シャツをはだけた工藤が──いやコナンが、服部を上目使いに見上げている。
「なにやっとんのや、工藤!」
「だって、えっちなことをしないとここから出られないんでしょ? だったら早くやろうよ」
 小さな手が服部の手を握る。
「何アホなコト言うとるんや! 人に見せるもんちゃうやろ!? それにその言葉……」
 服部の言葉は小さな手に塞がれた。泣きそうな顔が切なく訴えかける。
「ボク、早くここから出たいもん、ねえ、お願い、平次にいちゃん」
 顔を近づけながら、新一は小さく囁いた。
「俺にあわせろ、服部。多分そんなに悪い結果にはならねえはずだ。おそらくあいつらの目的は俺たちのストリップそのものじゃない」
「せやかて! それにお前、その言葉……」
 服部と『お泊り』する時、たとえ身体はコナンでも、口調は必ず新一のものになる。服部は、コナンが『新一』でいられる数少ない人間だった。
 戸惑う服部に、新一はにやりと笑い、囁いた。
「こういうのもたまにはいいだろ、ね、平次にいちゃん」
「……クソッ!」
 平次はベッドにあがり、コナンの身体を後ろから膝の上に乗せた。その向きは、大泥棒たちが見ているであろう、あの壁だ。
「分かってるじゃねえか」
 小さな声で笑う新一に、服部は囁いた。
「ひとつ言うとくぞ、俺は本当は、お前のこんな恰好、他人に見せたないんやからな」
「……ああ、分かってる。悪いな、服部」
「……謝んなや」
 そのまま服部は、コナンのうなじに優しく吸い付いた。
「や……っ」
 コナンの口から甘い声があがる。服部の指が小さな乳首を摘み、そのまま下へと降りていく。半ズボンをするりと脱がし、小さな白い下着をひざ下までずり下げる。そのまま未熟な性器に指を駆け、優しく上下に擦る。
「あ、あ、へいじ、にいちゃ……ん……」
 幼い顔に流れる涙を舐め取り、服部はコナンの小さな唇を塞いだ。



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