■はじめの一歩でFSS妄想 千堂とヴォルグの出会い(2)■
「うむ、事情は分かった」
KKD騎士団の会長室で、団吉の説明を聞き終えた鴨川は、厳しい眼差しでヴォルグを見た。
団吉が言葉を続ける。
「本当のマスターを探してくれとは言わん。戦の時だけでいい、こいつをMHに乗せてやってくれ。絶対に役に立つ」
「おぬし自身はどうなんじゃ? ヴォルグ・ザンギエフ。MHに乗るためだけに契約と解除を繰り返す、それでいいのか?」
ヴォルグはゆっくりと、しかしはっきりと答えた。
「MHに乗るコトができるなら、どんな条件でもかまいません。契約も解除も、慣れています」
「よかろう!」
会長の杖が重い音を立てて床を打つ。
「まさか白い狼が生きているとは思わなかった。こちらも戦力は欲しい。歓迎しよう。ただし」
鴨川がギロリと団吉を睨む。
「その牙が錆びていなければ、じゃがな」
ヴォルグの身体に、僅かに緊張が走る。だがこれは想定内だ。何があろうと、KKD騎士団専属ファティマの座を勝ち取る。それ以外にMHに乗る道は無い。ヴォルグは静かに言った。
「納得するまで、試してください」
鴨川は杖の音を響かせて立ち上がり、ドアに向かって大声で騎士を呼んだ。
一方、会長室の外では、鷹村、板垣、青木、千堂がドアにへばりついて聞き耳を立てていた。あからさまに品の無い行動だが、彼らはこれでいて、誉れ高きKKD騎士団の騎士である。
「ジジイ、いったい何の話をしてるんだ?」
「良く聞こえないですね」
「あのファティマ、『白い狼』だろ!? 俺、初めて見たぜ」
「ああ、すげえベッピンさんやったなあ」
「「「え?」」」
三人同時に驚きの声を上げられ、千堂の方が驚く。
「なんや、アンタらもそう思ったやろ? あないにキレイなファティマ、見たことないわ」
三人は思わず顔を見合わせた。
「そりゃまあ、ファティマだからキレイと言えばキレイだけどよ……」
「伝説の白い狼ですよ!? ちょっとは怖くないんですか!?」
「っていうか、アレ、男だぜ!?」
全員のツッコミをよそに、千堂はヴォルグに興味津々だった。
「ええやんけ、キレイなファティマにマスターって呼ばれるのは、騎士のロマンやろ?」
そこだけ聞けば三人にも異存は全くない。が、相手は男性型だ。しかも戦場の白い狼だ。キレイで片付く問題ではない。
そのベッピンさんをもう一目拝もうと鍵穴に目を押し付ける千堂をよそに、三人は何とも言えない表情で顔を見合わせた。
と、突然、ドアの中から怒鳴り声が飛んできた。
「貴様ら、盗み聞きしとらんで入ってこい!」
案の定、会長にはバレていたらしい。
四人が部屋に入ると、ヴォルグが礼儀正しく頭を下げた。
「ヴォルグ・ザンギエフです。ヨロシクオネガイします」
言葉はいささか拙いが、その礼儀正しさ、柔らかな雰囲気、そして千堂言うところのキレイな容姿は、およそ戦場で聞く『白い狼』のイメージからはかけ離れている。
鴨川が口を開いた。
「模擬戦じゃ。誰か、ヴォルグと組め」
「はいはい! ワイが組む!」
鴨川の言葉が終わらないうちに、千堂が手を上げる。
「ワイは千堂や。よろしくな」
屈託なく笑い、ヴォルグの手を取るとぶんぶんと振り回すように握手をする。
呆気にとられるヴォルグをよそに、千堂は鴨川に尋ねた。
「でも、ワイ、まだマスターやないで? どうやって戦うんや?」
三人の騎士はさりげなく、『まだ』という部分を聞き流した。どうやら千堂はマスターになる気満々のようだ。
「千堂サンに、一時的にボクのマスターになってもらいます。模擬戦が終わったら解除してください」
「いや、その必要はない」
ヴォルグの言葉を鴨川が遮った。
「千堂が命令を出して、ヴォルグはそれに従え。攻撃はMHの機体のみとし、操縦者に危害は加えない。これなら契約しなくても、マインドコントロールの影響は受けずに戦えるじゃろう」
「でも、ソレでは……!」
契約を交わさなければ、MHの性能を十分に引き出すことはできない。何より、契約と解除を繰り返せるという、ヴォルグ自身の最大のメリットをアピールできない。
鴨川はじろりとヴォルグを見た。
「それでは戦えんと言うのか?」
「イエ……」
僅かに目を閉じ、そしてヴォルグは目を開いた。
「やります」
一瞬にして、ヴォルグが纏う空気が変わった。柔らかな雰囲気は消え去り、敵を喰い殺す殺気がヴォルグを包む。
千堂が一瞬驚いたように目を剥き、次の瞬間、にやっと笑った。
板垣が呟く。
「千堂さんって、怖いもの知らずですね」
「いや、あれはもう、馬の鼻面に人参って言うか…」
「それを言うなら、猫にマタタビだろ」
三人の騎士がひそひそと話しているところへ、鴨川の声が飛んだ。
「板垣、おぬしが相手をしろ」
「ボクですかぁ!?」
あからさまに嫌そうなその顔を無視し、鴨川が言った。
「ヴォルグは千堂と契約を交わしていない。ファティマ無しくらいがハンデとして丁度いいじゃろう。エトラムルも載せるな」
「えー」
不満そうな板垣の肩を、青木がポンと叩いた。
「いいじゃねえか。お前はファティマ無しで戦うスペシャリストなんだからよ」
「……それ、褒めてませんよね……」
未だにファティマを得られないというコンプレックスを刺激され、板垣がゆらりと顔をあげる。キッとヴォルグを睨み、宣戦を布告する。
「ファティマなんかに負けませんからね!」
そう言うと、板垣は部屋を飛び出して行った。
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