■錆びた天使(4)■


「うわ、屋上にまでいやがる」
 青木が面倒くさそうに言いながら、ライフルを構えた。
 ヘリの真下に、研究所の屋上が見える。ずるずると動き回っているのはゾンビたち──おそらく研究員の成れの果てだ。
 鷹村も同様にライフルを構えた。木村と宮田は、ハンドガンの照準を定める。
 鷹村の号令とともに、ライフルの弾雨が屋上に降り注ぐ。ゾンビたちの身体に、蜂の巣のように穴が開く。急所を外したゾンビたちが、痛みを感じない身体でずるずると近づいてきた。木村と宮田が、その頭を撃ちぬく。
 全てが動かなくなったことを確認し、ヘリはゆっくりと降下した。プロペラが巻き起こす爆風の中、四人はヘリから飛び降りた。
 操縦席から、板垣が大声を張り上げた。
「終わったら連絡くださいね! リミットは『消毒』の十分前ですよ!」
「分かってるって、さっさと終わらせて連絡するからよ、小物は昼寝でもして待ってなさい」
 鷹村の軽口に、板垣は笑い、ヘリの高度を上げた。
 屋上の建物にドアがついている。この向こうは階段で、その先に目指す研究室がある。
「開けますよ」
 宮田がロックを解除する。開いたドアから唸り声が響き、ゾンビの群れが溢れ出した。
 間髪入れず、鷹村と青木が自動小銃を連射する。撃っても撃っても、ゾンビたちは階下から溢れてくる。
「おい、これじゃあ入れねえぞ」
「鷹村さん、下がって!」
 木村は片手に銃を持ったまま、パイナップルのピンを口で引き抜いた。眼下のゾンビに投げつけ、ドアを閉める。四人が伏せた直後、爆発音が響いた。
「今だ!」
 ぐちゃぐちゃになったゾンビの屍を踏みつけ、階段を駆け下りる。まだ動いてるヤツの頭を銃弾で撃ち抜き、階下へ蹴落とす。
 三十階のフロアに到達するころには、周囲に動くゾンビはいなくなった。
 四人は慎重に廊下を進み、エレベーターホールを目指した。と、先頭にいた青木が足を止めた。見ると前方に、濁った緑色のドロドロとした塊が這いずっている。表面に小さな口のようなものが無数についていて、かろうじて脚が四本あるようにも見える。
「うわ、あれ、キメラか?」
 何と何の合成物かもわからない生き物は、地の底を這うような音を発しながらこちらに近づいてくる。不意にその口から、ビュッと液体が飛ばされた。液体のついた壁が、どろりと溶ける。
「想定以上にヤベエかもな、この研究所は」
 鷹村がぼそりと呟く。その口の端は吊り上っている。
「おい、あいつの向こう側がエレベーターだ」
 鷹村は顎で前方を指した。木村と宮田が、銃を構えたまま頷く。
「ドジんじゃねえぞ、行け!」
 言葉と同時に鷹村と青木は自動小銃のトリガーを引いた。弾幕を張りながら、回り込む。
 その後ろを、木村と宮田は駆け抜けた。
 エレベーターのボタンを押し、開いたドアに滑り込む。
 ドアが閉まったのを確認し、鷹村は自動小銃を下ろした。
「さあてと」
 キメラがずるずると近づいてくる。
 鷹村は不敵に笑い、背中に背負っていた火炎放射器を構えた。
「青木、こいつを片付けたらワンフロアずつ制圧降下だ」
「了ー解! あいつら弱えーから、帰り道確保しておいてやらねえと」
 鷹村がちらりと隣を見ると、青木が同じように笑っていた。顔の凶悪さだけなら、鷹村に引けをとらない。
 その表情に満足し、鷹村はキメラに噴射口を向けた。



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