■錆びた天使(3)■
ヘリの離陸まで十五分。突入するメンバーたちは慌ただしく準備をした。
「くそっ」
部屋でブーツの紐を結びながら、宮田は苛立ちを吐き捨てた。何度やっても、紐がうまく結べない。
K・B・Gに入る前は、もっと危険な任務を何度もこなしてきた。自分の命を囮にするような任務の時でさえ、どこか他人事のように心の中は冷め切っていた。自分の心はきっと、人並みに何かを感じるという機能を持っていないのだろうと、そう思っていた。
それなのに。
この感情に気付いたのは、初めてK・B・Gで木村と任務をこなした時だ。そしてその感情は、任務を重ねるごとに、宮田の中で大きくなっていく。
もちろん安全な任務などないが、少なくとも以前に比べれば勝算の高い──少なくとも隊員を使い捨てにするのではなく、きちんと計算された作戦ばかりだ。それなのに、この認めたくない感情は、どんどん宮田の中で膨れ上がっていく。
──くそっ……オレはどうして──
「大丈夫か、宮田」
木村の声に、宮田ははっと顔をあげた。
「結んでやるよ」
「いいです、自分でやる──」
「いいから」
木村は足元に屈み、ブーツの紐をぎゅっと絞めた。宮田からは、木村の頭しか見えない。
宮田は唇を噛みしめた。
──しっかりしろ、選んだのはオレじゃねえか──
溢れそうになる感情を呑み込み、宮田はいつもの冷静な表情を作った。
「ありがとうございます、あとは自分でできますから」
「あ、そう?」
片足を結び終わった木村は、きょとんとした顔で宮田を見上げた。
──大丈夫、大丈夫だ。今までだって大丈夫だったんだから──
自分に言い聞かせながら、宮田はしっかりと、ブーツの紐を結んだ。
立ち上がると、木村がへらっと笑いながら、宮田の背中をぽんっと叩いた。
「さて、じゃあ行こうぜ」
「ええ」
ゆっくり深呼吸をして、震えを止める。余計なことを頭から追い出す。
しっかりと前を見据えて、宮田は歩き出した。
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