■underwear(2)■
シャワーを済ませたルイは、バスタオルで身体を拭きながら、脱衣かごへと手を伸ばした。ふと、違和感に手を止める。
自分が用意したのとは違う下着が、そこにあった。普段ルイが履くのと同じボクサータイプだが、明らかに色も生地も違う。
──いつの間に?──
シャワーを浴びている間、全く気付かなかった。
ルイはおそるおそる、それを手に取った。見覚えがある。昼間、オフィスでビバリがしつこいほどにモデルにあわせていたのと同じものだ。光沢のある深い色味で、艶やかだが下品ではない。手触りも良く、少し小さいようにも思えるが、柔らかな伸縮性のある素材だ。
ごみ箱に袋が捨てられている。ということは、これは新品だ。
職場から持ち出したわけではないことに少し安堵しつつ、ルイは行動に迷った。自分の下着は見当たらない。履かないままパジャマを着ようかとも思ったが、それはそれで、恋人が変に喜びそうだ。
目的が分からないまま、見慣れない下着を手にルイは途方に暮れた。
結局ルイは、パジャマの下にその下着を履いた。
着心地は悪くはなかった。身体にしっかりとフィットするのに、締め付ける感じは全くない。ただ光沢と伸縮性のある生地のせいで、普段より身体の形が顕な気がする。少し気恥ずかしいが、市販の下着なのだから、そういうものなのだろうとルイは思った。
リビングに戻ると、ビバリはソファで雑誌をめくっていた。
「ビバリさん、何ですか、これ」
ルイはパジャマの上衣をたくし上げ、ズボンのウエストを数センチまくって見せた。
艶やかな切替しの生地が僅かに覗くのを見て、ビバリが目を細める。
「ああ、思った通りだ」
ソファから立ち上がり、ビバリがルイに近づく。
「今日一日、ずっと考えていたんだ、ルイに一番似合うのはどれか、とね。やはり私の見立ては間違っていなかった」
目尻を下げながら満足そうに笑うビバリに、ルイは唖然とした。
──そんなことを考えていたのか!? そんな理由で、モデルを怒らせるほど長々と下着を選んでいたのか!?──
あまりの理由に呆然と立ち尽くすルイの頬を、ビバリの手が優しく撫でた。
「つい夢中になりすぎて、誤解をさせてしまったね。すまなかった」
ちゅっ、と音を立てて、ビバリが頬にキスをした。
「……まったく……貴方って人は……」
ルイはそう言うのが精いっぱいだった。
苛立っていた感情は行き場のないまま溶け去り、代わりに、呆れと気恥ずかしさが入り混じる。
ビバリがルイを見つめたまま、パジャマのズボンをゆっくりと引き下ろした。露わになった太腿をいやらしく撫でる。
「あ……」
ルイの口から吐息が漏れた。
ビバリの指が少しずつ上っていく。生地と肌の境目を辿り、手触りの違いを楽しむようにくすぐる。時折、僅かに忍び込んでくる感触に、ルイの足が震える。
ビバリが囁いた。
「昼間は何度も想像したよ、ルイがあのシャツとネクタイの下にこれを履いている姿をね」
ルイの身体がひくりと震える。オフィスで、ビバリさんの想像の中で、僕はいったいどうなっていたのか──なんだか恐ろしくて、とても聞けない。
「……今から、着替えましょうか?」
ようやく答えを返すと、ビバリは微笑んだ。
「いや、それは次の楽しみにとっておこう。それに、パジャマ姿のルイも、オフィスとはまた違って、魅力的だ」
耳元で甘く囁き、そのままゆっくりと、ビバリが床に膝をついた。
「え?……やっ……」
ルイだけが立ったまま、下着の上からビバリの唇が触れる。既に熱くなっていることを知られてしまい、ルイの頬が赤く染まる。
そっと触れるか触れないか、その僅かな刺激と吐息の熱さに、ルイの熱が高まっていく。硬さを持ち始めていることが、下着の上からでもあからさまに分かる。
「ビバリ……さん……」
何かを訴えかけたくて、でも何を言っていいのか分からない。ただただ、潤んだ瞳を向けることしかできないルイを、ビバリが優しく見上げた。跪いたまま、パジャマのボタンを下からはずしていく。素肌にパジャマの生地が触れる感触だけで、ルイの身体は震えた。
「……も……う……」
立っていられない。耐えきれず、ルイはビバリの肩に縋りついた。
ビバリが優しく、ルイを支えた。
「ベッドへ行こうか」
甘い囁きに、ルイはただ頷くことしかできなかった。
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