■君のいる世界(3)■
一人きりのマンションで、ビバリはグラスをあおった。
生のままのアルコールが喉に焼け付く。それ以上に、頭の中が熱い。昼間の光景が頭から離れない。
勝ち誇ったようなあの男の言葉に、ルイは言い訳すらしなかった。
───『我修院君が、私に抱かれてもいいと言ったのですから』───
ビバリはテーブルにグラスを叩きつけた。端が欠け、破片が飛び散る。
まさかルイが自分から誘うはずがない。そんなことは分かっている。
自分との関係を盾に、脅迫されたのだろうか。
だとしても、何故、相談してくれなかったのか。
どうしてひとりで決めてしまったのか。
相談できないほど、私は頼りないのか。
脅迫からルイを守れないほど、私は無力なのか───
───実際、無力だ───
ビバリは奥歯を噛みしめた。
いつも二人の関係を隠そうとしてきた。それが自分にもルイにも最善だと思っていた。危険なことは分かっていたのに、だ。
その結果が、これだ。
ビバリはボトルを手に取り、いびつに欠けたグラスに注ぎ込んだ。
一気に飲み干す。頭の芯が麻痺していく。
遠のく意識のなかで、ビバリはルイの姿を思い浮かべた。
オフィスでの冷たい表情、二人きりの時にだけ見せる少し恥ずかしそうな笑顔、それらが霞の中へ消えていく。
私にはもう、ルイを愛する資格などない。
ルイはまた、つらい決断をひとりで下した。
本当はずっと前から知っていた。ルイは強いのだ。
見合い話に身を引くと決めた時も、病気を隠していた時もそうだった。
すべてを飲み込んで、それでもルイは優しく笑うのだ。
ルイには、私は必要ない。
ルイは強く、私は無力だ。
|