■Weekend Lover(4)■


 彼女に振られ、もう当分は女はいいやと思った冬貴だったが、やはり一人で過ごす週末は寂しい。
 そんな時、ふと凪の穏やかな笑顔を思い出すことが多くなった。
 口実は何でも良かった。野球観戦やドライブがてらの紅葉狩りなど、何に誘っても、凪はいつも嬉しそうな声で「いいよ」と答えた。
 そんなことを繰り返すうちに、冬貴にとって凪と週末を過ごすことは習慣のようになっていった。
 凪はいつも穏やかな顔でにこにこしているので、一緒にいて居心地がいい。冬貴にとって凪は、とても気の合う友人になっていた。

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 ある夜、凪が風呂から上がると、携帯電話のメール着信を知らせるランプが点滅していた。メールは冬貴からで、週末に行われるサッカーの試合観戦に行かないか、という内容だった。
 いつもどおり「行くよ」と返信し、凪はベッドに倒れ込んだ。
 ここのところ、ほぼ毎週のように週末は冬貴と一緒に遊んでいる。数少ない休みを潰してでも、冬貴と一緒に過ごせるのはとても嬉しい。
 だが時折、心が締め付けられるような感覚に陥る。
 冬貴の明るい笑顔や男らしい容貌。一緒に遊んでいる時の、意外に細やかな優しさ。
 それらに触れるたび、殺したはずの恋心が目を覚ます。
 低く優しいい声で『凪さん』と呼ばれると、本当に自分と冬貴は恋人同士なのではないか、と錯覚しそうになる。
 冬貴は自分の気持ちに全く気づいていないだろう。いい友達になれて良かった、とさえ言ってくれた。
 なのに自分は、こんなに邪な感情を抱いている。その罪悪感が、凪の心を締め付ける。
 ──ごめんね、倉田くん──
 凪はベッドにうつ伏せると、パジャマのズボンの中に手を入れた。下着の上からゆっくりと、その部分に触れる。
 冬貴の、あの大きな手がもしここに触れたら、と思うだけで、凪の下肢は熱を帯び始めた。下着ごとパジャマを膝まで下ろして腰を上げ、凪は自分の雄をゆるゆると扱き始めた。目をつぶり、これは冬貴の手だと自分に言い聞かせる。
 片手で幹の部分から括れまでを扱き上げ、先端の狭い縦目に指を滑らせる。ぬるぬるとした液体が、凪の指を汚す。
──『凪さん』──
 優しい冬貴の声を思い出した瞬間、凪は身体の奥底に疼きを感じた。
──『ここ、気持ちいいの?』──
 想像の中の冬貴は、凪の雄を優しく握り、じらすように先端を攻め立てる。首筋に唇を這わせながら、もう片方の手で凪の乳首を愛撫する。
「あ……っ……」
 凪の手と、想像の中の冬貴の手がシンクロする。凪は片手で自分の乳首をつまみながら、もう片方の手で自らの雄を慰めた。
「……ぁあ……っ」
 声を枕で殺しながら、凪はあっけなく果てた。どろりとした液体が滴る。
 だが、身体の疼きは治まらない。奥底の部分が、冬貴を欲しがって蠢いている。
「あ……」
 凪の指は、自然とより深い場所へと向かった。四つん這いの姿勢のまま、肩で身体を支え、ぬめった指先を後孔に押し当てる。
──『凪さん、ここにも欲しいの? いやらしいね』──
 想像の中の冬貴が、凪の耳元で囁く。
 つぷっ、と凪の指が潜り込む。微かな痛みが走り、その部分は凪の指を飲み込んだ。最も感じる場所には、到底届かない。それでも凪は自分の指を銜え込み、同時にもう片方の手で雄を扱き上げた。
「あっ……くら…た…くん……っ」
 想像の中の冬貴は、激しく凪を攻め立てる。
「あ……っ……く……っ……」
 程なくして、凪は二度目の絶頂を迎えた。
 のろのろと起き上がり、ティッシュで後始末をする。
 自己嫌悪が、凪の心を締め付ける。
──ごめんね、倉田くん、ごめんね──
 凪は身なりを整えると、膝を抱えて床に座り込んだ。
 ぽたぽたと滴る液体が床を濡らす。無意識にタオルで床をぬぐうが、液体は次から次へと落ちてくる。
「あれ……?」
 ようやく凪は、それが自分の涙だと気づいた。
 冬貴に気持ちを打ち明けることなんてできない。絶対に嫌われて、会ってくれなくなる。なのに、この気持ちを殺すこともできない。
 情けなくて、みっともなくって、どうしようもなく哀しい。
──ごめんね、倉田くん。この気持ちは、ちゃんとしまっておくから──
 凪は自分の膝を抱え込んだ。
──だから、週末だけ。僕といてくれる週末だけ。君が僕の恋人だと思うこと、許してくれるかな──
 一人、部屋の中で、凪は膝を抱えたままいつまでも座り込んでいた。



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