■秘密結社への誘い(7)■


 重ね合わせるだけのキスはあっという間に深くなり、貪りあう舌の間から透明な液が零れ落ちる。
「……う……ん……っ」
 舌を絡め取ったまま、岩瀬は石川を抱えあげるようにしてベッドの上に移動した。自然に、岩瀬の腰を石川が跨ぐ体勢になる。
 岩瀬の手がパジャマのボタンを外す。右手で背中を愛撫しながら、左手で胸を優しく刺激すると、石川の口から甘い吐息が漏れた。
「や……だ……っ……今日は俺がするんだから……っ」
 このままだといつもどおりの展開になってしまいそうで、石川が抗議の声をあげる。
「でも、ゴムをつけるんですから、少し硬くしておかないと」
 どこを、とは言わず、岩瀬はパジャマのズボンの上から石川の下肢に触れた。
「……っ」
「あ……」
 岩瀬の予想以上に、石川のその部分は熱を帯び、既に立ち上がりかけていた。
「悠さん……もしかして、興奮してます?」
「……当たり前だろっ……俺だって、男なんだから……」
 羞恥を振り払い、開き直ったように石川は岩瀬を見据えた。真っ直ぐな瞳に射抜かれ、岩瀬の心臓が跳ね上がる。
──うわっ! もう、このまま押し倒したいっ!──
 だが、今日ばかりは我慢しなければならない。岩瀬は衝動を押し殺しつつ、手を伸ばして引き出しからコンドームを取り出した。石川にパッケージを見られないよう、素早く袋を破る。そして石川のパジャマのズボンと下着を一気に引き下ろした。
「岩瀬! 自分でやるから!」
「滅多にない機会なんですから、俺にやらせてください」
 抗議を受け流し、岩瀬は石川のペニスにコンドームを被せた。慣れた手つきで、くるくると根元まで引き伸ばす。
「っ……! 馬鹿野郎っ……!」
 突然、石川が岩瀬の肩を押し倒した。岩瀬のシャツを強引に引き上げ、頭から引き抜く。
「悠さん!?」
 岩瀬の声を無視して、石川は首筋に軽く歯を立てた。そのまま肩口へと唇を滑らせる。
 最初は驚いた岩瀬だったが、よく見ると、石川の顔は真っ赤になっている。
──あ……恥ずかしかったんだ──
 ああもう、かわいいっ! と心の中で思わず叫んでしまう。
 照れ隠しなのか、石川は目線を合わせないまま岩瀬の身体に触れていく。
──ごめんなさい、もう何もしませんから──
 岩瀬は押し倒されたまま、石川の愛撫に身を任せた。
 と言っても、正直くすぐったいだけで「感じる」ということはないのだが、石川が熱心に自分を求めてくれるのはとても嬉しい。
 石川の唇は肩口から胸へ移動し、同時に手が胸やわき腹を辿る。
 その触り方や順序に、岩瀬は思わず微笑んだ。それは、岩瀬が石川を抱く時と全く同じやり方だった。
 ぎこちないながらも、石川は丁寧に岩瀬の身体をたどっていく。緊張と恥ずかしさに震えるその表情に煽られ、岩瀬の身体も熱くなっていく。石川の唇は徐々に下へ滑り、岩瀬の下腹へ辿り着いた。一瞬の戸惑いの後、意を決したように勢いよくズボンと下着を引き下ろし、飛び出したものに指をかける。
「……っ」
 手で軽くしごきあげながら、石川は唇で岩瀬の幹を辿り、そのまま先端を含んだ。
「っ……悠さん……」
 熱い口腔と柔らかい舌に蹂躙される快感に身を任せたまま、岩瀬は石川の髪を優しく撫でる。だが、石川の舌が更に奥の部分に触れた瞬間、そんな余裕はふきとんだ。
「わーっ、悠さんストップ!」
 強引に頭を持ち上げられ、石川はきょとんとした顔で岩瀬を見た。
「岩瀬?」
「そこまでしなくていいんですよ!」
 岩瀬の言葉に、石川は眉根をよせた。
「お前だっていつもやってるじゃないか」
「そうですけど、悠さんはそんなことしなくていいんです」
「なんだそれは!」
──まずい。悠さん、負けず嫌いモードになってる──
 石川はムキになって、岩瀬の股間に顔を埋めようとする。
「駄目ですってば!」
「何でだ!」
 あなたのきれいな口を汚したくないからですよ! と正直に言ったなところで、石川には岩瀬の微妙な男心など分からないだろう。どうしたら石川の行為を阻止できるのか。岩瀬は頭をフル回転させた。
「は、恥ずかしいんです!」
「……ホントか?」
「本当ですよ! ほら、悠さんだってものすごく恥ずかしがるじゃないですか。そこがまた可愛くって……」
「岩瀬!」
 しまった! と思った時には遅かった。バレバレの嘘をついた岩瀬を石川が睨みつけている。が、先ほどまで行為のせいで潤んだ瞳が、逆に岩瀬から余裕を奪った。
「ああもう!」
 いきなり石川の腕を掴んで引き上げ、岩瀬は強引に自分の腕の中に抱き込んだ。
「俺が嫌なんです!」
「え?」
「いや、されるのが嫌なんじゃなくって、えっと……」
 岩瀬は石川を強く抱きしめた。互いの体温が伝わり、密着した胸の鼓動が重なる。
「俺は悠さんのためなら何でもできるし、悠さんになら何されたって嬉しいんですけど……でも、悠さんがそういうことをするのは嫌なんです」
 石川は岩瀬の腕の中で、じっと動かずにいる。
「だからこれは俺のわがままなんです……」
──あなたには、できるだけきれいなままでいて欲しいんです──
 口に出して言えば「馬鹿にするな!」と怒らせてしまう。だから言えない言葉を岩瀬は心の中で囁いた。
「……わかった」
 岩瀬の本心に気づいているのかいないのか、石川は柔らかく笑うと岩瀬の頬に手を添えた。そのまま軽く唇を重ねる。
「悠さん……?」
「お前が嫌なら、もうしない」
 石川は微笑みながら、啄むようなキスを繰り返す。
「悠さん……よかった」
「そんなに嫌だったのか?」
「いえ、それもあるんですけど……悠さんがやっと笑ってくれたから」
「え?」
「悠さん、ずーっと緊張しっぱなしで一度も笑ってなかったんですよ」
「そうだったか?」
 自覚がなかったのだろう、意外そうな様子の石川に、岩瀬は軽いキスを返した。
 
 岩瀬はベッドサイドの引き出しからローションを取り出した。中身を手に垂らそうとしたところで、石川の視線に気づく。
「えっと、悠さん、ちょっとの間だけ後ろを向いていて欲しいんですけど……」
 さすがに、自分で自分を解すところは見られたくない。
 が、石川はすばやくローションの容器を奪い取った。
「悠さん!?」
「お前、まさか、それも俺にさせないつもりじゃないだろうな?」
 ちょっと拗ねたような口調で、上目遣いに石川は岩瀬を見つめる。
「いや、でも……」
「『滅多にない機会なんだから、俺にやらせろ』」
 先ほどの自分の言葉をそのまま返され、岩瀬は反論に詰まる。
「……よろしくお願いします……」
 岩瀬の情けない返事に、石川は嬉しそうに笑った。




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