■秘密結社への誘い(6)■


 キングサイズのベッドの上に座り、岩瀬は独り、眉間に皺を寄せていた。
 石川は岩瀬と入れ替わりに風呂へ行ったため、この場にはいない。
 岩瀬を悩ませている事──それは、これから行われる未知の行為に対する不安や、男としてのプライドの問題──ではない。
 元より、石川のためなら何でもできるという気持ちに偽りも迷いもない。むしろ『悠さんのフロントバージンまでもらえるなんて、俺って幸せ者♪』くらいにしか考えていないのだ。
 岩瀬を悩ませているのは、目の前にある小さな箱だ。コンビニで普通に売られている、ありふれた国産のコンドーム。先ほど仕事を終え寮に戻ろうとしたところを西脇につかまり、こっそり渡されたものだ。
──なんで西脇さんが、悠さんのサイズまで知ってるんですか!──
 などと嫉妬している場合ではない。
 もちろん、ベッドサイドの引き出しにはローションと共にコンドームも常備してある。が、いつもコンドームをつけるのは岩瀬だけであり──つまりそれは岩瀬の大きさに相応しい、アメリカ製の『大きめサイズ』なのだ。
 石川も小さいわけではないのだが、あくまで標準的日本人。もし岩瀬のコンドームをつけてブカブカだったりしたら──
──いくら悠さんでも、男としてショックだよなあ──
 とにかく、普段岩瀬が使っている物とは違うと気づかれてはマズい。どうやって誤魔化そうか……と考えていると、ガチャリと風呂のドアが開く音がした。岩瀬は慌ててそれを引き出しに押し込む。
 幸い、石川は岩瀬の行動には気づかなかったようだ。しっかりとパジャマを着こんで風呂から出てきた石川は、ゆっくりとベッドの端に腰かけた。岩瀬と目をあわせず、困ったような何か言いたそうな顔をしている。
「悠さん、髪ふかないと風邪ひきますよ」
 岩瀬は優しく笑いながらタオルを手に取り、石川の頭に載せた。タオル越しに柔らかな髪の毛の感触を楽しみながら、石川の言葉を待つ。
「……あの、岩瀬……」
「何ですか?」
「その……さっきは勢いであんなこと言っちゃったけど……本当にいいのか?」
 石川が何を気遣っているのか、岩瀬には分かっていた。男の本能として、同じ男に貫かれるという事は、少なからず屈辱をもたらす。石川自身でさえ、初めの頃はそうだったのだ。
 ベッドに座ったまま、岩瀬は石川を後ろから優しく抱きしめた。
「俺はね、悠さんのためなら何でもできる男なんですよ」
 知っているでしょう? と囁く。
「悠さんこそ、初めてが俺でいいんですか?」
「俺は……っ!」
 石川は勢い良く振り向き、岩瀬の目を見つめた。
「……俺は……どっちが抱くとか抱かれるとか、そういうことじゃなくって……お前でないと嫌だ……っ」
「俺もですよ」
 岩瀬は石川の額にそっと口付けた。
「どんな理由があっても、悠さんが俺以外の相手と寝るなんて嫌です」
「岩瀬……」
「だから、今日は俺に何をしてもいいですよ。乱暴にされたって、俺は頑丈ですから」
 岩瀬が笑いながら言うと、石川は真っ赤になった。
「誰がそんなことするか! お前じゃあるまいし!」
「えー、ひどいなあ、俺だって乱暴になんかしてないですよ。悠さんが色っぽいからセーブが効かないだけで……」
「俺のせいにするな!」
 石川の拳を岩瀬は軽く受け止め、そのまま自分の方へ引き寄せた。大きな身体に包み込まれるように抱きしめられ、石川の身体から徐々に力が抜けていく。
「岩瀬……」
「愛してます、悠さん」
 俺も、という言葉は岩瀬の唇に塞がれた。




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