■プレゼント(4)■


 屋上で、安積は海を眺めていた。
 大きな事件はなく、強行犯係は全員、ためこんでいた書類と格闘している。安積も例外ではない。
 あまりの量にうんざりし、少し外の空気を吸いに来た。それは本当だ。
 だが、この天気、この時間、シフトの都合、諸々を考えると、速水がここに来る可能性は高い。それを期待してここにいる自分に少し、嫌気が差す。が、二人で話ができる機会は少ない。仕方がないのだ、と安積は自分に言い訳をした。
「よお、ハンチョウ」
 後ろから、明るい声が聞こえた。自信に溢れた男が、こちらに歩いてくる。自分の読みどおりだったことに、安積はため息をつきたい気持ちになった。その情けない気持ちの中に、わずかに、だが確かに、嬉しさが混じっているのが、自分で分かる。それが余計に、安積を落ち込ませる。
「決まったか?」
 速水が、安積と同じ海を見ながらたずねた。何が、とは言わない。どこで誰が何を聞いているか分からない。速水にもそれくらいの分別はある、と安積は思っている。
「キーケース」
 安積はつぶやくように言った。目線を海の方に向けたまま、指で空中に四角を描く。
「こういう形で、鍵が何本か吊るせて、蓋が折りたためるやつだ」
「……つまり、普通のキーケースだな」
 安積のジェスチャーがおかしかったのか、速水が笑った。
「了解だ、楽しみにしてろ」
 ひらひらと手を振りながら、速水はさっさと階段に向かった。
 あいつは、何をしに来たんだ?
 休憩にもならないような短時間で去ってく速水の後姿を見ながら、安積は首をかしげた。そして、その理由を考えるのをやめた。
 海を見ながら、大きく伸びをする。
 休憩は終わりだ。机の上では、書類の山が待っている。
 安積は頭を切り替え、階段へと向かった。



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