■獣と人間(3)■


 数日が経ち、事件はようやく終息を迎えた。刑事たちは、明日からまた始まる通常勤務に備え、帰宅していった。
 夜、速水の部屋のチャイムが鳴った。ドアを開けると、安積が立っていた。
 帳場が解散した夜、多少無理をしてでも、安積は速水の部屋を訪れる。長い間、会えなかった埋め合わせをするように。
 それが単なる罪悪感だけではなく、本当に、安積が自分に会いたいと思って来ていることは良くわかる。
 速水がドアを開けた時に見せる、少し恥ずかしそうな笑顔。
 この顔が速水は大好きだった。

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 シャワーを浴びた安積が、浴室から出てきた。
 速水は安積を抱きしめ、そのままベッドへと導いた。唇を重ね、舌を絡ませる。安積もまた、速水に腕をまわし、懸命に舌を追ってくる。
 こうして安積の体温を感じていると、飢えが徐々に満たされていく。もちろん、これだけで完全に満たされるわけではない。だが、貪り尽くしたい衝動を抑えることはできる。
 安積の腕の力が強くなった。絡む舌が激しくなる。身体に触れる下肢が熱を帯びている。安積が自分を欲していることが、あからさまに伝わってくる。
 疲れている安積のことを考えると、今日は長引かせない方がいいだろう。
 速水は暴走しそうになる情動をこらえ、やさしく安積のパジャマのボタンを外した。
 安積の手が、速水の裸の胸を滑った。そのまま、速水のズボンに手がかかる。
──今日は積極的だな──
 そう思った刹那、安積が全体重をかけて、速水にのしかかった。
 不意をつかれ、速水が倒れこむ。
 馬乗りになったまま、安積が速水の肩を押さえつけた。首筋に、速水がいつもするように、歯をあてる。
「安積?」
 安積が、速水のズボンを引きおろし、雄を取り出した。一瞬の躊躇の後、口に含む。
「おい、安積!」
 初めての行為に、速水は驚いた。想像の中でさせたことは何度もあるし、いずれ頼んでみたいとは思っていた。が、現実に、しかも安積が自らするとは思っていなかった。
 安積がたどたどしく、だが確実に、速水の感じる部分を辿っていく。
 舌が先走りを掬い、安積がむせた。
「無理をするな」
 速水の言葉に、安積がきつい声で答えた。
「無理でも、させろ! そういう気分なんだ」
 熱い舌が、速水の雄を追い詰める。限界が近づく。
「もうやめろ、安積!」
 安積は速水を離さなかった。口の中に全てを受け止める。慣れない行為に、苦しそうにむせかえりながら、それでも安積は全てを嚥下した。
「安積……どうした?」
 安積は、怯えた顔をしていた。
「……おかしいか?」
 安積は、泣きそうな顔で、続けた。
「おまえが欲しくて欲しくてたまらない、こんな俺は──嫌か? おまえが望む俺では、ないんだろうな」
「安積……」
「でも……止まらないんだ」
 速水の腕を掴む、安積の手が震えている。情欲と怯えが混じる目が、助けを求めるように速水を見た。
 速水は安積を引き寄せ、強く抱きしめた。搾り出す声が震える。
「どんなおまえでも、おまえはおまえだ」
 俺の好きな安積だ。俺が愛している安積だ。
 それは安積に対する本心であり──同時に、自分自身の本心だった。
 刑事である安積も、刑事でない安積も。どちらも安積だ。
 俺は、こんな単純なことに気づかなかったのか。本当にどうかしている──
 安積がすがりついてくる。速水は、目元に優しく口付けた。
「欲しいなら、好きなだけ欲しがれ」
 それでバテるほど、柔じゃないぞ。おまえが一番、良く知っているだろう?──
 速水はにやりと笑ってみせた。安積がつられるように、少しだけ表情を緩めた。
 抱きしめたままベッドに押し倒そうとする速水を安積の腕がとどめた。
「このまま──」
 消えそうな声で俯きながら、安積は自ら、パジャマのズボンと下着を脱いだ。そのまま、速水の身体を跨ぐ。
 速水の雄を掴み、後ろにあてがう。速水はその手をおさえ、もう片方の手で安積の顎をやさしく掴んだ。潤んだ安積の目を正面から覗き込む。
「欲しいんだろう? なら、欲しがる顔を俺に見せろ」
 安積を抱きかかえたまま、速水は潤滑剤の瓶を手に取った。手に垂らし、安積の後ろに指をあてがう。
「ん……っ」
 指を飲み込む、その瞬間の安積の顔から、速水は目を離さなかった。
 安積の身体が撥ねる。その身体を押さえつけて速水は指を出し入れした。
「あ……ん……っ」
 腰を揺らし、自ら、速水の指を感じる部分へと導く。
 安積のそこは、三本目の指を難なく飲み込んだ。十分に蕩け、しかし奥はきつく甘く、締め付ける。
「あ……速水……もう……」
 安積が首にすがりついた。耳元に口を寄せ、小さな声で言う。
「……いれて……くれ……」
 速水は指を引き抜いた。猛った雄をあてがう。
「ひ……ん……っ」
 熱く潤んだ入り口をくぐると、安積が自ら腰を落とした。深く、奥まで銜え込む。
 突き上げると、安積が喉を仰け反らせた。
「あ……いい……速水……もっと……」
 安積の締め付けがきつくなる。
 速水は歯を食いしばりながら、安積の雄に手を伸ばした。
「や……」
 扱きあげると、安積は身体を仰け反らせて達した。
 同時に速水も、安積の中に熱い迸りを解き放った。



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