■獣と人間(4)■


 安積がぐったりと倒れこむ。速水はそれを受け止めた。
「……すまない」
 荒い息をつきながら、安積が言った。
「どうかしているな、俺は……」
 速水は優しく、安積の頭を撫でた。
「男なら普通のことだと思うぞ」
「この状態が、か?」
「おまえ、相当、疲れていたんだな」
「……」
 速水の言いたいことが、ようやく、安積にも理解できた。
「……本当に、あるんだな」
「初めてか?」
 安積が思い返すように、目を泳がせた。
「……ないことはない……が、こんなにひどいのは初めてだ……と思う」
 速水はくすりと笑った。
「おまえの初めてが、俺で良かった」
 安積が軽く、速水を睨んだ。
「足りたか? まだまだ、いくらでも搾り取っていいんだぞ」
 安積は黙って、速水の首にすがりついた。
 小さな声で「すまない」とつぶやく。
 安積の中から、嵐は去ったようだ。
 だが自分から欲しがった手前、速水を満足させないと対等ではない──そんなことを考えているようだ。
「安積」
 速水は優しく口付けた。
「風呂に入ろう。少しは疲れが取れるぞ」
「だが、おまえはまだ……」
「まあ、やってやれないことはないが。今はどちらかと言うと、おまえの寝顔を見ていたいな」
 その方が、安心だ。
「……すまない」
「おまえのせいじゃない」
 速水は安積を抱きしめた。
「欲しくなったら、いつでも来い。おまえが満足するまで、やれる自信はあるぞ」
「……おまえは、ないのか?」
「あっても、自分で処理して終わりだ」
 おまえを想像しながら、な。
 速水の意地の悪い笑いに、安積が一瞬、戸惑う。
「おまえ、どんな想像をしているんだ?」
「聞きたいか?」
 安積の耳元で、速水は囁いた。
 安積の顔が見る見る、赤くなる。
「おまえ……!」
「想像するくらい、いいだろう? なんなら、できるところからやってみるか?」
 安積が真っ赤になったまま、速水の胸に顔を埋めた。
「……努力する」
「楽しみにしているさ」
 速水は笑い、安積を抱き起こした。立ち上がった安積の膝が崩れた。速水がそれを支える。
「風呂場まで、抱いていってやろうか?」
 からかう速水を安積は睨んだ。
「……自分で歩く」
 速水は笑った。
 こういうところは強がる。ふらふらしながら、意地でも自分で歩く。それもまた、安積だ。
 浴室に入り、自分で浴槽に湯を張ろうとする安積より先に、速水は蛇口を捻った。
 湯がたまる音を聞きながら、速水は安積の腰を抱き、柔らかいキスをした。
 
 
END



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