■もう一度(2)■
相馬が職場に復帰して、数日が経った。
CEC研では、代り映えのしない日々が続いている。変わったことといえば、机がひとつ埋まり、そこに斎木が座っていることだけだ。
終業間際、相馬はそっと斎木の方を伺った。斎木は相変わらずの無表情で、黙々とパソコンに向かっている。そんなに仕事があるとも思えないのだが、なにやら重大な仕事に取り組んでいるように見えるから、不思議だ。
やがてチャイムが鳴り、所長はさっさと帰り支度を始めた。
相馬は迷った末、斎木の机に近づいた。
「おい、帰りに一杯、どうだ?」
斎木がゆっくりと顔をあげた。真正面からまっすぐに見つめられ、相馬は思わずそっぽを向いた。
「その……なんだ、入院中はいろいろと世話になったからな。礼代わりというか……」
つい、言わなくてもいいことまでごにょごにょと言ってしまう。
斎木は何も言わない。ただじっと、相馬を見ている。
相馬は心の中で舌打ちをした。仮にも刑事である自分が、相手が一言もしゃべらないうちから、余計なことを言ってしまった。勝ち負けで言えば、完全に負けだ。
斎木がゆっくりと笑った。普段の無表情さとは打って変った、この人懐っこい笑顔に、相馬はなかなか慣れることができない。
「誘ってもらえるなんて、嬉しいですよ」
「別に、無理にとは言わねえぞ」
「何があっても、行きますよ」
斎木はそう言って、帰り支度を始めた。その様子は、どことなく──ものすごく分かりづらいが、浮かれているように見えなくもない。
相馬も簡単に身支度を整えながら、たった今の斎木の言葉を反芻した。
こいつの言うことは、何やらいちいち、大げさだ。
それが嘘でもお世辞でも何でもなく、本当に思ったことをただ言っているだけなのだと、頭ではようやく理解できるようになった。が、理屈と感覚は別物だ。
たかだか飲みに行くのに、何があっても、はないだろう──相馬は、きびきびとドアへと向かう斎木を見ながら、それ以上考えるのをやめた。
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