火床

火床とは、鍛冶のための炉のことだ。通常は、鍛冶場に据付で作られる。
しかし、私は鍛冶のための専用の場所というのを持っていない。したがって、私の火床はいつもにわか作りの移動式だ。

最初は、火床に七輪を使い、鞴にヘアドライヤーを使った。1999年の7月のことだ。少し前の雑誌で「七輪陶芸」というのを見て、土が焼けるのなら鉄も赤めれるのではないか、と作ってみたのだ。火の色が見えるように、車庫の中に設置した。その年は、夏の間車庫からジープを出していたので、車庫の中はがらんとしていたのだ。
その火床で古い組鑢(くみやすり)の一本を素材にして、初めて鉄を打ってみた。結果は、初めてにしてはまあまあではないべか、という、大いなる自己満足が得られるものだった。

その日私が初めて打ったのは、小さなナイフだった。
共柄には捻りを入れて、末端を目玉に丸めた。焼入れ後、焼き肌のままワイヤブラシで磨いて、砥ぎをかけて仕上げた。素材が鑢だけに、結構よく切れる。
刃先のほうまで打ち出してみたら、少し「ス」が入ってしまったし、仕上がり硬度の検査などもきちんとしていないので、商品価値はゼロだが、私にとってはなんといっても記念すべき初鍛造作品だ。
趣味だから、これでいいのだ。

その後、再び車庫にジープが入ってしまったので、車庫が使えなくなってしまった。
火床を外にセットアップしてみたが、火の色が見えにくくていまいちだし、地面が湿っているとヘアドライヤーの電源を引っ張ってくるのも不安で、しかも私は火箸を作りたかったので、もう少し大きいものが加工できる火床と手動の鞴を考える必要があった。

そこで私はまず、レンガで組み立てる火床を考えた。レンガを買って、レンガの寸法に合わせて鉄工所から分けてもらった切れっ端を会社の溶接機をちょっと借りて加工し、通風路である羽口の部分を作った。そして箱鞴を作り、庭に設置してみたのだ。

結果は、相変わらず火の色は見にくくて、刃物を打つような微妙な温度管理をしなければならない作業にはやはり外への設置は不向きだった。
しかし、細い鉄筋を素材にとにかく赤めて打つだけなら、なんとかなる、というか、七輪とドライヤーよりははるかにましな仕事ができた。私は藪の中に捨てられていた鉄筋の切れっ端を拾ってきて、赤めて叩き、金床の角で叩っ切って、穴をあけ、ピンでかしめて火箸を作った。こんどの火床は、七輪とは違って、レンガの置き方次第で、長い材料の真ん中だけを赤めるような作業にも対応できる。

しかし問題もあって、たとえば火床は開放式なので、鞴を使うとおびただしく火の粉が舞い上がる。舞い上がった火の粉は、灰になって飛び散る。風がある日は危なくてできたものではない。また、レンガを積んだだけの火床は気密性が悪く、ずいぶん熱を損失しているようにも思える。それになぜか、コークスが上手く熾らない。炭だといいのだが、コークスはダメなのだ。鞴の能力不足かもしれない。まだまだ研究、改良の余地アリ、だ。

このへんでも、山の中にはいたるところに不法投棄のゴミが落ちている。しかしそのゴミの中に、たまーに使えそうなモノが見つかるので、私は昼休みなどによくそこいらの山を散歩がてら見てまわっている。去年は、藪の中でクルマのブレーキドラムとスプリングを見つけたので、拾ってきた。スプリングはナイフの素材に、ドラムは新しい熱効率のもっといい火床の筐体にリサイクルする予定だ。

あー、思い切りかじやさんできる細工場、欲しいなー。


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