自作プラスチックシース

2001年12月05日、 ちょっと気分転換に、先日買ったナイフの鞘を作ってみた。
熱可塑性のプラスチック板(1.5mm厚の黒色塩ビ板)を使って、ナイフを型に使ってモールドしたのだ。

ナイフは、Cold Steel社の「True Flight Thrower」という、基本的にはスローイングナイフ(投げナイフ) としてデザインされたものだ。
投げナイフにありがちな諸刃でなく、片刃だが、共柄はOD色パラシュートコードの紐巻きで、ちょっと 手裏剣みたいなたたずまいを見せている。
このナイフはアメリカ製だが、アメリカでは投げナイフもひとつのスポーツになっているのだ。
で、基本的に携帯を前提としてないという事らしく、鞘が別売になっていて、それがまたけっこう高いみたいなのだ。
ならば、自作してみよう、と思ったのだ。実際、鞘がないと文字どおり剣呑で、保管もできない。

そのナイフは投げナイフにしてはいい鋼材(Cold Steel独自のCarbon-V steel)を使っていて、厚みも3/16インチ(4.8mm)もあるので、刃をつけてみたらけっこう普通に使えるのではないかと思って、東京出張の際に購入した。
東京出張で刃物を買うと、飛行機で移動する時はいろいろと面倒なのだが、幸いその時は夜行寝台特急「北斗星」での移動だったので、気兼ねなくこの大型ナイフを持ちかえれた。
帰宅してから開梱して見てみると、グラインダでざっとつけただけの刃で、バリもあったが、砥ぎなおしてみたら砥石当たりもよく、案の定なかなかの切れ味になった。
刃先の角度が鈍いので小細工には向かないが、逆に鉈みたいなハードな使用には、柄と刃が一体となった共柄でもあり、十分耐える強度がありそうだ。

それならば腰に下げて歩けるようにしよう、と思い立ったのだ。

家庭にある道具だけを使ってのモールディング(型を使った成形)というのは初めてだったので、専用の工具に比べるとやはり作業が思うようには進まなかった。
私は仕事で破損した機械部品のカバーの修理などでモールディングそのものは経験もあり、一応出来るつもりではいたのだが、できばえははっきり言っていまいちだった。
しかし見栄えはともかく、機能的には十分実用に耐えそうなものになった。

まず、原寸大で鞘のデザインスケッチを描いて、大まかに必要な材料の大きさを決める。
材料の塩ビ板はやや大きめに切り出して、ストーブの上にクッキングシートを敷いて、その上で加熱する。
一方、ナイフは鞘から抜く時に引っかかりそうなところをバルサ材のスペーサーで滑らかに成形して、スペーサーはマスキングテープで仮どめする。切っ先には、鞘の水抜き穴になるように、刃の厚みと同じくらいの丸棒をテープで仮どめした。

ここから、簡単に言うと、ナイフの両面から熱でフニヤフニャになった塩ビ板を当てて、ぐっと圧力をかけてナイフの形なりに成形しつつ、冷やすわけだ。

塩ビは、熱可塑性プラスチックと呼ばれる材料のひとつだ。熱可塑性プラスチックの特徴は、熱で柔らかくなり、その状態で成形して冷やすと、そのまま固まる、という点と、成形された製品も再び加熱すると、加熱成形前の形状を記憶しているかのように元に戻ってしまう、という点だ。
また、当然ながら、一般に熱には弱いし、熱で軟化した状態ではまったく強度がない。極端な低温下では硬化しすぎてしまい、脆くなることがある。
最近ナイフの鞘材として大流行の「Kydex®」も、熱可塑性プラスチックのひとつだ。
したがって、個人的には、軍用や警察、消防用に使用される実用ナイフの鞘材としてのKydex®の選択は、熱に対する弱さなどを考えると、どうなのかという気はする。

それはともかく、ただ手で押付けても容易には成形できないし、だいいち火傷してしまう。
そこで、圧力をかけるための道具が必要になる。
道具は、ホームセンターで買った万力と、5円で売っていた松の端材と、ネオプレンゴムを使う。松の端材にネオプレンを貼りつけた加圧板を2個作り、ネオプレンを貼ってある側で成形する部品を挟んで、外側の松材を万力で締め上げるのだ。そしてそのまま冷えるまで待つ。
冷えた頃合に加圧板を外してみると、塩ビ板にはナイフのシルエットがくっきり浮き出している、という寸法だ。
しかし、話では簡単だが、実際やってみると、なかなか簡単にはいかない。
たとえば、塩ビ板を均一に加熱するのもなかなか大変だし、熱い塩ビ板を型になるナイフにセットしてから、加圧板にはさんで、不安定にぐらぐらするのを万力に挟んで締め上げるまでは塩ビが冷めないうちに手早く決めなければいけないが、これももたもたしてしまう。そのうえ、あまり万力で締め上げたので、松板が割れてしまった。
塩ビ板は再加熱すれば何度でもやり直しが利くが、松板が割れたのには参った。なんとか乗りきったが、次回は加圧板はランバーコアなどの丈夫なものを使わなければならないだろう。
また、ナイフに直接テープを巻くと、熱でテープの粘着剤が溶けて、テープがなかなかはがれなくなる上に、剥がしたあとも粘着材が残って、ナイフ全体がねっぱってしまう。
粘着剤はテレピン油などで溶けるので、それで拭いてやってきれいに取れたのだが、パウダーコート仕上げの鋼材にナイロンコード巻きの柄だからよかったようなもので、高価で敏感な柄材を使っていたり、柄に象嵌細工が施してあったりしたら、涙ものだった。次回はまずナイフ全体をクッキング用のラップなどで巻いてからテープを貼らなければならないだろう。

さて、成形なった塩ビ板に固定用の鋲を打つ穴をあけて、ビスで仮どめしてナイフを出し入れしてみる。この段階で、ナイフを鞘に収めた時に逆さにしても落ちてこない程度にどこかの凸部が引っかかっているが、抜くときにはスムースに抜けるように調整する。引っかかりのきついところは小型トーチなどで部分的に加熱して戻し、引っかかりのゆるいところはやはり部分加熱してから、再度部分的に締め上げるわけだ。
このナイフは、柄と刃の境目のあたりに鍔状の小さな突起があるので、それをロックに利用した。
納得のいく状態になったら、外形を切り出してバリを取り、革細工用の鋲で固定する。固定されたら、再度ナイフの脱着を確認して、よければ外形を仕上げる。
今回は、1.5mmと比較的薄手の塩ビ板しか入手できなかったので、切っ先の部分だけは二重にして、転倒した時などに切っ先が鞘を突き抜けるのを防止した。

鞘にはベルト通しはつけず、鞘の縁に4対の穴をあけ、そのうち2対にコードを通して輪状にして、そのコードを使って吊るようにした。収めたナイフを固定するストラップも、そのコードの一端を伸ばしておいて、ナイフの柄にある穴に通して軽く結わえるようにした。
コードはベルトに通せるように余裕を持たせて輪にしているが、刃側を上にも峰側を上にも吊れるし、刃側と峰側の両方の輪をベルトに通せば洋式ナイフのように縦にも吊れる。コードを長くすれば、肩から袈裟懸けにする事も、首から吊るすこともできる。超ユニバーサルハンガーシステムといえる。

それにしても、作っている間は写真どころでなかったので、メイキングの画像は残念ながら、ない。
完成品が下の写真だ。

クリックすると大きい画像が出ます左の腰に下げたところ。
モデルはおかあさん@大家族。ちょっとおなかを引っ込めているらしい(笑)
洋式ナイフでよくある、鞘を利き腕側のベルトの高さに吊る方法では、私は個人的に使いづらいので、刀のように利き腕と反対側の腰に斜めに吊るようにした。
コードにベルトを通す事もできるし、そのほうがより確実に安全に携帯できるが、写真ではコードとジーンズのベルトループを小さなカラビナでつなぐ、お手軽な装備方法になっている。
この吊り方では、刀やマキリを吊る時のように、刃側が上、峰側が下になっている。
(←左の画像をクリックすると大きい画像が別画面で開きます)


したがって、抜く時はぐっと手首を返して握らなければならない。しかし、収める時は峰がガイドになるため、収めやすい。
腿の前に垂れている紐が、抜けどめにしていた紐を解いたもの。


鞘ごと裏返して、洋式に刃側を下に、峰側を上に吊ってみたところ。それほど手首を返さずに自然に抜けるのが利点。
しかし、収めるときに鞘にまっすぐに入れないと鞘の中で斜めに噛みこんでしまったり、あるいは出し入れのたびに刃が鞘をこするので、切れ味が落ちやすいかもしれない。


クリックすると大きい画像が出ます 峰側を下に吊るセッティング。柄端には安全紐を通して「引き解け結び」で軽く結わえてある。
切っ先部が補強材で二重になっていて、先端には水抜き用の通路があるのが分るだろうか。
(右の画像→ をクリックすると大きい画像が別画面で開きます)


コードの輪を反対に引っ張って、峰側を上に吊るセッティング。柄端には安全紐を通しただけの状態。
ちなみに鞘の先端には、伸ばせば2メーター以上ある長いコードを丸めて結び付けてぶら下げてある。
コードが切れたときの予備にもなるし、肩から袈裟懸けに吊る時にも使えるし、他の用途にもなる。紐はナイフと同様、便利な道具だ。


完成品を左の腰に下げてみて一人悦に入っているが、さてどこに連れて歩こうか、というあてがあるわけでもない。
とりあえず人気(ひとけ)のないとこで投げナイフの練習でもしてみるか、などと考えている。
日本では投げナイフでの狩猟は認められてないので、ナイフ投げはサーカスの芸か、不良の隠し芸みたいな世界なのが寂しいところだ。どこかで公式競技が行なわれていたりするのだろうか。

しかし、成形の要領はわかったので、ゆくゆくはぜひ自作のナイフに自作の鞘をつけてみたいものだ。
いつになることやらわからないが…。


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