映画の誘惑

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『アメリ』
Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulin

──無菌状態のボーイ・ミーツ・ガール

2001年/フランス/35mm/カラー/121分

監督:ジャン=ピエール・ジュネ 
出演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ

アメリ

 『エイリアン4』のあとでジュネが撮った大ヒット作は、なんのリアリティーもない作り物の映像世界のなかで描かれるボーイ・ミーツ・ガール物語だ。

レビュー

この映画べつに面白くない訳じゃない。とりあえず最後まで見れるし、よくできているとさえ言えるかもしれない。ただ、「こういうものを見るために俺は今まで映画を見てきたわけじゃネェーよな」、というのが正直な感想だ。

 ファースト・カットからファイナル・カットに至るまでこの映画にはリアルなものはなに一つ描かれていない。全編にわたってフィルターのかかったような特殊な色彩処理がなされており、なにか古い絵はがきを見ているような、コマーシャルを2時間見させられているような、そういう居心地の悪さがずっと最後まで続く。登場人物たちも人間と言うより3Dのアニメのようだ。ハイテクを駆使したレトロといったところだろうか(この映画、なにげにたくさん金を使っていそうだ)。噂によれば、パリの町の壁にかかれた落書きなどもCG処理によって消してしまったという。汚いものは見たくないということかもしれない。そういう落書きのようなものが偶然画面に映り込んでいるのを見るのを映画における無上の楽しみのひとつと思っているわたしのようなものには、こういう作品は映画の持つ魅力の大部分を失っているように思える。

 映画は誰ともわからない男性の声のナレーションで進んでゆくのだが、冒頭と最後の部分で、「*月*日、*時*分、一匹のハエがモンパルナス通りに舞い降りて止まった」とか「それと同じ瞬間、誰某は自分の脳細胞の数が宇宙の星の数よりも多いことを知って驚愕した」とかいったナレーションとともに本筋とは関係のない人々のエピソードが矢継ぎ早に挿入され、いわば物語を宇宙論的な次元にまで高め、アメリもその他大勢のなかの一人にすぎないことを暗示してみせる。もっとも、こんなリアリティのない画面づくりでそんなことをやられてもあざとく見えるだけだ。

 ただこの映画の場合、そうした現実感の希薄さが作品の主題と合っていないわけではない(それがよけいに困るのだが)。この映画の主人公アメリは、他人と関係を築くことがうまくできず、ともすると夢想の中に逃げ込んで自閉的な世界に閉じこもってしまう少女だ。この映画は、彼女がどうやってそこから抜け出してゆくかを一種の冒険譚として描いてゆく。他人と直接向かい合うことができない彼女は、自分なりに考え出したゲームを通じてしか相手とコミュニケートできない。彼女が次々と発明してゆくゲームはなかなか面白く、この映画の最大の魅力のひとつといってもいいだろう。ただ、彼女が一目惚れする青年との暗号を通じての「パリのかくれんぼ」も、たとえばリヴェットの『北の橋』の双六遊びなどと比べるならずいぶんと魅力に乏しいといわざるを得ない。理由は先ほどと同じだ。

 この映画のなかでは誰もがなにかのコレクションをしている。アメリが家の壁のなかから見つける思い出の詰まった小箱をはじめとして、捨てられたインスタント写真を集めている男、庭にオブジェを集めている父親、亡き夫からの手紙を集めている女。誰も彼もがモノマニアックだ。それどころか、この映画自体がモノマニアックだといってもいいだろう。CGを駆使して現実を排除し、お気に入りのものばかりを集めた人工の映像。その意味で、映画の冒頭、ナレーションがそれぞれの人物の一番好きな瞬間を列挙していく場面は象徴的だ。要は、好きなものばかり集めてみました、おしゃれでしょ、という映画なのだ。

 この映画の観客は圧倒的に女性が多いそうだ。女の子は誰でもこういう体験をしたり、願望を持ったりしたことがあるんだろう。そんな体験や願望の追体験をさせるだけの映画を見せられても困るし、そういう映画がヒットするのも正直言って困る。それまで見たこともなかったし、考えたこともなかったなにか、そんななにかを発見するためにわたしは映画館に行くわけで、なにかを確認するために行くわけじゃない。残念ながら、この映画にはそんな発見はひとつもなかった。強いていうなら、サン・マルタン運河で水切り遊びをするのは結構楽しいかもと思ったのと、東駅の左側の階段を上ったことがなかったのに気づいたこと、せいぜいそれぐらいだ。わざわざ高い金を払って発見するようなことでもない(もっともわたしはチケットをもらっていたからただで見れたのだが・・・)。

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