世界を魅了した朱赤

赤色は陶磁器をとても魅力的にします。特に染付との相性は絶品で、たびたびモチーフを変えデザインされてきました。それだけに、明確に「下手物」と「上手物」に峻別されてしまいます。

赤色の決め手は、何と言ってもその明るさにあります。つまり俗に言うところの「朱赤」、紅赤より渋い発色の赤色ということになります。この色を出す為に絵具職人は、絵の具を伝統的な天秤はかりで調合し、さらに高いクオリティーを保持する為に近年になって窯自体を変えた程です。明治期からの作品「古代牡丹外赤」では、吹きかけ手法の染付のグラデーションによる上品な青色に、赤の絵の具で重ね塗りをしていきます。この手法は、外濃(そとだみ)と呼ばれ、明治期の赤の代表作として一世を風靡したものです。

朱赤は、日本では邪気を祓うと言われ、西洋では元気になる色といわれてきました。深川がこれほどまでに「朱赤」にこだわるのは、陶磁器としても美しいからです。

明治貿易品写し

「藍」と「青」によって花の色を表すまさに染付の醍醐味といえる作品です。やや濃いめの石垣濃が朝顔の花や葉に生命感を与えています。また、細く白抜かれている唐草のつたを踏まない様に丹念に筆を進めていることが、この作品に一定の工芸的品格を保たせる要因となっています。

構図を通して見ると、堂々とした藍から澄み切った青への染付の調子の変化が、しっかりと見てとれます。特に主題の朝顔の花は、まるで白色を描きこんだかの様な錯覚を覚えるほどです。この白さは、高温度焼成によってのみ得られる深川特有の白磁の肌そのものです。青磁につつまれたこの作品は、明治期貿易品のコレクションの写しです。

陶磁製合わせ蓋物

明治の貿易品として欧州を中心に人気があった蓋物は、ボンボニエールジュエリーボックスとして使われていたようです。日本の蓋物が何故人気を博していたのでしょう。

それは、19世紀後半に欧州を席巻したアールヌーボーが、新しい工芸の波を広げていく中で、西洋が東洋に新しい美の基準を見つけたいわゆる「西と東の文化融合」が生まれたからです。深川の意匠は、西洋の美の基準に一石を投じたと自負しています。ひょうたんの形やリースのように花を丸めた紋様などは、現在モードの中でも取り入れられているデザイン手法です。深川製磁の魅力は、西洋に通じる日本の美を膨大な明治意匠帳の中から毎年リファインし、欧州でその作品展を開催し啓蒙し続けていることです。

皇帝のジョッキ

中国において「黄色」は、皇帝にのみ許されてきた色であることは広く知られています。中でもこのジョッキに施されている黄地竜鳳凰は、中国「明時代」の代表的な作品のひとつとして有名です。その後、盛んにその模写が世に出ましたが、この黄色の魅了を表現することへの難しさを改めて思い知らされるだけでありました。深川製磁の「絵具職人」によって完成した「黄彩」は、深みのあるイエローゴールドを呈した透明感のある上品な色調に仕上がりました。

淡い青色で染付された龍の取っ手は、イエローゴールドの魅力を更に引き立てています。600年前なら皇帝しか許されなかった「黄色」の陶磁器に、冷えたビールを注ぐ瞬間は、まさに至福の時と言わねばならないでしょう。