粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

リアルルート 第参話 『悲壮を抱える星々』 中編


第参話 『悲壮を抱える星々』 中編


 見る目は達観している。未熟であろうがなかろうが、目の前にいる2人の分析に余計な思念の一切をこめない。ネージュにはそれができていた。笑っていても、泣いていても関係がない。筋肉の動き、反応速度、視野の広さと足運び。体力、技術などの総合的に判断する。その結果が目の前に広がっていた。結果は予想通り、一騎が剣司の慣性を巧みに誘導して綺麗な投げ技を決めた。そして目の前に拳を突きつけて勝負が決まる。一騎の勝ちだった。
剣司「あーーもう! また負けた!!」
一騎「・・・・・・・・・はぁ、はぁ、危なかった」
ネージュ(危なくはないね。・・・・・・・・・基本は空手。恐らく合気道か柔道かもかじってる。筋肉はこの年齢の少年にしては双方共にある方。技術も定着している。けども、・・・・・・・・・センスかな? 一騎君のほうが反射と視野の広さで勝っている。気分1つで埋まるくらいの差だけども、常勝しているってことはあまり揺れない性格をしてるんだろうな。それは剣司君も同じか。・・・・・・・・・負けてもあきらめない古臭い根性論。嫌いじゃないんだよなぁ)
真矢「面白かったですか、フローレンスさん?」
ネージュ「とっても面白かったよ」
弓子「なら、負けちゃった方に専門家としてアドバイスくらいあげても良いんじゃないかな?」
 面白半分での弓子の提案だった。ネージュに軍歴があるならばそれなりの技術があるということはわかっているんだろう。尤も、彼女の予想の遥か上をいってはいるのだが。そう言われ、ネージュはしばし考える。
ネージュ「ふむ・・・・・・・・・。アドバイスって言うか批評かな? 一騎君はちょっと迂闊な所があるよね。自分の反応に頼っているっているところ。悪いことじゃないんだけど、自分よりも反応の速い人間が前にいたら、簡単に捻じ伏せられちゃうからもっと地に足の着いた戦い方も学んだほうが良いかな。簡単に言えば飛び過ぎ。剣司君はその逆かな? 地に足がつきすぎている感じがする。型の反復を生真面目にずっと続けているのはわかるよ。凄いことだと思うし、続けるべきだとも思う。けどさ、実戦と試合は別物だから次のステップは自分なりの幅の広さを見つけてみよう。幅が広がれば対処も難しくなるから、今すぐって訳じゃないけども少し考えてみればいいよ」
 意外にもしっかりとしたアドバイスになっていた。このアドバイスに周囲は目を丸くしてネージュを見る。
咲良「フローレンスさんって本当に心得あったんですね」
ネージュ「あっ! 咲良ちゃん、疑ってたなぁ! ・・・・・・・・・お姉さんは悲しいよ」
一騎「あの・・・・・・・・・フローレンスさん、俺の戦い方って迂闊ですか? あんまりイメージがわかないんですけど」
ネージュ「そうだろうね。そうだと思うよ。私が言っているのは実戦での話しだし、いくら果し合いだって言ってもどうしてもルールのようなものが見て取れるもの。それを全部取っ払えば肌で感じると思うけどね。・・・・・・・・・わからないかな?」
一騎「・・・・・・・・・はい」
ネージュ「そうだねぇ。・・・・・・・・・ちょっと乱暴だけども・・・・・・・・・」
一騎「え?」
 言い切る前にネージュが消えた。少なくともこの場にいる全員がそう認識したのは間違いなかった。反応が速いとネージュに太鼓判を押された一騎でさえも一言もらすだけしかできなかった。次の瞬間、ネージュは一騎の後ろにいた。全員がネージュを視野に入れていたのにも拘らず、ネージュは移動できていた。そして、消えた時とはまったく違うゆっくりとした動きで一騎の発達しきっていない喉仏に右の人差し指を後ろからゆっくりと当てる。
ネージュ「・・・・・・・・・ほら。迂闊でしょ? 反応が速いってことに無意識に頼っているの。構えていれば意識の使える範囲がもう少し広くなるから察知できたはずだよ? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん」
一騎「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 一騎の額に汗が流れた。理由は簡単だ。ネージュの動きが反射のレベルではないということだ。幾ら反射に頼っていたって8人もの人間の目を欺ける動きなどできるはずがない。
ネージュ「まぁ、これは私の言っていることを理解して貰うための極論だけどね。意味はわかったでしょ?」
 ネージュは再び一騎の目の前を歩きながら微笑む。出会ってからまだ十数分しか経過していないが、彼女の見る目が随分と変わってしまっている。
甲洋「あの・・・・・・・・・フローレンスさんってもしかして武道の達人か何かなんですか?」
ネージュ「やだなぁ。達人なんかじゃないよ。・・・・・・・・・近頃の東京は物騒だからね、このくらいは嗜みだよぉ」
 『嘘だ』とこの場にいる全員が思っただろう。ネージュが嘘が苦手だといっていたことを弓子は思い出してその通りだと心の中で相槌を打っていたのだが。
 思いがけない男同士の決闘が見られていたくネージュは上機嫌になっていた。子供達と別れたネージュは島の頂に登ったり、町並みを眺めたりとしっかりと島を満喫していたようだった。涼しい顔で汗1つかいていないネージュに比べて、片や弓子の方は汗だくで息も絶え絶えな状態だ。
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫ですか、弓子さん?」
弓子「ハァハァ・・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・・だ、大丈夫なわけ・・・・・・・・・ないでしょう? どういう体力してるの?」
ネージュ「島一回りして山登っただけなんだけどなぁ」
弓子「私には・・・・・・・・・これで充分なダイエットよ」
ネージュ「それは良かったじゃないですか」
弓子「・・・・・・・・・まさか、あなたがこんなに野生児だとは思わなかったわ」
ネージュ「・・・・・・・・・野生児・・・・・・・・・。あながち否定はできないところが痛いなぁ。でも、島をしっかり見れて良かったよ。・・・・・・・・・やっぱり大事なものはしっかり見ておかなくっちゃね。Alvisの人たちが大事にしているもの。それが良くわかったよ。・・・・・・・・・このためなら・・・・・・・・・うん! 私も戦える!」
弓子「! フローレンスさん?」
ネージュ「帰ろうか、弓子さん」
弓子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええ」
 ネージュは終始笑顔で基地内へと帰る。


 その日の晩、休憩を取っていたハデス、機体整備とファフナーと呼ばれるAlvis機動兵器の見学に時間をつぎ込んでいたシャンディがネージュと合流した。目的は簡単だった。単純に講習会だ。フェストゥムという敵についてのわかっていることを説明して貰うことになっていた。講師は2人、一騎の父親である真壁史彦、それともう一人見たことのないが優しそうな女性が立っていた。講習といっても場所はブリーフィングルームに近い。薄暗い場所で簡潔に史彦が3人に説明をはじめる。
史彦「・・・・・・・・・フェストゥムとは珪素で構成されたシリコン型生命体であるということが現時点で判明している。フェストゥムには1個体という概念はなく、その全てが1個体の生物なのではないかというのが定説になっている。また、尤も特徴的かつ、厄介な点として読心能力があるという点だ。これがファフナーを30m以上もの規格になってしまった最大の理由なのだが、特殊なブロックとしてあげられるのがジークフリード・システムだ」
シャンディ「コックピットブロックとダイレクトに接続していあるボックスですね?」
史彦「その通り。これは言わばフェストゥムの読心を防ぐために搭乗者とファフナー搭乗者の脳の皮膜神経を直接接続することで統括者とパイロットの間で意思疎通を行う。・・・・・・・・・・・・・・・・・・正直に言えば、私個人の意見として君らがフェストゥムと戦闘を行うということは賛成ではない。君達の持ってきた機体が優れているということは疑わない。しかし、どれだけ優秀な機体であってもフェストゥムとの戦闘は別次元だ。思考を読まれ、攻撃のタイミングも測れない。これでは戦えないと考えている。今までどれだけ優秀なパイロットでも撃墜されてきた。この判断を君らの上層部が納得しないというならば私が掛け合ってもいい。考え直さないか?」
ハデス「というありがたい申し出だぜ? 仕事しないで帰れる。だが、晩酌は不味いだろうなぁ」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだよねぇ。・・・・・・・・・真壁司令補佐、基地にあるフェストゥムとの戦闘記録を見せて貰えますか? できる限り全て」
史彦「・・・・・・・・・構わないが」
シャンディ「考えが読める相手だって。・・・・・・・・・・・・・・・・・・けど、どう考えたってあの連中が大群で出てくるってことはないよね。とすればやりようは・・・・・・・・・」
ネージュ「あるね。先を読めてしたたかさと直感を駆使して最強なんだ。ただ、先読みができるだけじゃ私達は倒せない!」
史彦「もしよければと思って遠見先生にも来て貰っていたんだがな」
ハデス「もし? もしってどんな状況だよ?」
ネージュ「? 遠見? 弓子さんと真矢ちゃんのお姉さん?」
千鶴「・・・・・・・・・昼は娘達が色々とお世話になったそうですね。リューデルメさん。私は弓子と真矢の母です。・・・・・・・・・話を戻しますが私がここに来たのはあなた方のシナジェティック・コードの計測のためです」
ハデス「シナジェティック・コード?」
ネージュ「うそぉ!! 2人のお母さん!?」
 1人ネージュが驚く。しかし、千鶴はネージュに笑顔を返してから言葉を続ける。
千鶴「シナジェティック・コードとは精神連結をするため形成されなければならない脳の状態の事を指します。このシナジェティック・コードが脳で形成されないことにはジークフリード・システムの加護を受けられません。ですが、これは成人になるにつれて形成が難しくなるので必然的に若い人間しか対応できないというデメリットはあります。年齢的にハデスさんは無理でももしかしたらリューデルメさんならあるいは。・・・・・・・・・皆さんが真壁司令補佐の言葉を受け入れなかったときのために私がシナジェティック・コードの計測のためにここに来ました」
史彦「つまり、ハデスさん、あなたとリューデルメさんにパイロットとしてファフナーに搭乗していただくことを考えています」
シャンディ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・待ってください。ファフナーという機動兵器の長所がフェストゥムに思考を読まれないことが上げられるならば、別にジークフリード・システムが使えなくても問題ないはずです。・・・・・・・・・これは私の直感なのですが、もしかしてファフナーには何か副作用があるんじゃないですか?」
千鶴「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あります」
史彦「・・・・・・・・・ファフナーに搭乗、並びにジークフリード・システムを使用することでパイロットは徐々に染色体が変化していき、フェストゥムに同化していきます。我々はこれを結晶化と呼んでいます」
ハデス「!?」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
史彦「結晶化が進行するということは人間が徐々に死に近づいていくということを意味します。・・・・・・・・・最後は体の全てがクリスタル状の結晶に変わり死体すら残しません」
ネージュ「今おっしゃいましたね。ジークフリード・システムは若い人間にしか適用できないと。ということは幾人もの若い人間が・・・・・・・・・この島の若い人間がファフナーに搭乗してきたという事ですよね?」
史彦「・・・・・・・・・・・・・・・・・・その通りです」
 暗く重い言葉だった。史彦も千鶴も下を向いて顔をあげようとしない。だが、3人は違っていた。立ち上がり行動に移す。
シャンディ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ネージュ、私整備に戻るよ。変更点は速めに言って」
ハデス「・・・・・・・・・俺も手伝うわ。ネージュ、お前フェストゥムの戦闘データをできる限りまとめておいてくれ。特にファフナーとの戦闘以外の映像を重点的にな」
ネージュ「ん。わかった」
 ハデスとシャンディが部屋から出て行く。これ以上の説明はいらないということなのかもしれない。これだけの真実を告げられてもネージュたちがこれだけの胆力を見せるとは史彦も思っていなかったのかもしれない。
史彦「・・・・・・・・・戦うというのか? ファフナーもなくジークフリード・システムもない兵器で!?」
ネージュ「・・・・・・・・・戦い方がないなら確立するしかないでしょう? 2人の顔を見ればわかるよ。この島の大人がどんな想いで戦ってきたか。子供達をファフナーに乗せてきたのか。・・・・・・・・・けども、やっぱり嫌だよ。このままいけば、総士君も一騎君も、真矢ちゃんも咲良ちゃんも、甲洋君も衛君も剣司君も!! みんなみんな死んじゃうじゃないですか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・負けれないじゃないですか・・・・・・・・・」
千鶴「・・・・・・・・・なぜ? 今日島に来たばかりのあなた達がそんなことを思うんですか? 思えるんですか?」
ネージュ「私がいた部隊は、いつでもあるものを守ってきたんです」
史彦「あるもの?」
ネージュ「国じゃなく、企業じゃなく、利益じゃなく、人ですらない。・・・・・・・・・私達はいつだって心を、絶望に瀕する心を救ってきたんです。・・・・・・・・・それが彼の志だったんですよ。今救うべき心が目の前にあるんです。奮わせます。滾らせます。見ていてください」
 これが高校生にみえる女性の気概だろうか。そう史彦は思ってしまう。心を守る部隊。語るのは簡単だが、現実にするにはどれだけ難しいだろうか。だが、彼女の気概がそれを信じさせようとしている。圧倒的不利な状況下でも恐らくあの3人は怯まないだろう。咄嗟に部屋を出て行こうとしたネージュに史彦は声をかける。
史彦「リューデルメさん!」
ネージュ「! はい?」
史彦「君達のいたという部隊、その部隊の名前と指揮官の名前教えて貰えるか?」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・部隊名はティル・ナ・ノーグ。指揮官はセツヤ・クヌギ。国連によって黙殺されているから知らなくても無理はないですが・・・・・・・・・私達にとっても世界にとっても英雄です」
史彦「・・・・・・・・・セツヤ・クヌギ?」
ネージュ「はい」
 ネージュは全てを語り終えると部屋を出て行く。その目には明らかに闘志が漲っていた。


 徹夜を終えてさすがのネージュも目をシパシパさせながらハデスとシャンディがいるはずAlvisから間借りしている格納庫へ訪れる。数十時間に及ぶ戦闘データの検分、ネージュなりの打開策を練っていた。そのメモリスティックを手にしている。
ネージュ「・・・・・・・・・おはよー。データ編集と検分終わったよーー」
 シャンディも小休止中なのかベンチに座って飲みのもを口に含んでいた。やはり寝ていないのかいつもどおりの明るさは身を潜めてはいる。
シャンディ「・・・・・・・・・あ、おはようネージュ」
ネージュ「結局徹夜になっちゃった。・・・・・・・・・ハデスは?」
シャンディ「今、グラウの基本設定の確認と反応性のプログラムを走査させてる。私がやるって言ったんだけども、休んでろって言われちゃった。・・・・・・・・・どうだった? フェストゥムは?」
ネージュ「・・・・・・・・・強いって言うのが第一印象だった。真壁のおじさんが言っていたとおり、厄介さはBETAやシャヘルを超えてるよ。救いなのはBETAほど人海戦術をしてこないってこと。数は少なくないけどもそれでも多くもない。この島に侵攻してきたデータからL計画っていう作戦を例外的に除外すればそれほど多くの数で攻めてくることはないと思う」
シャンディ「・・・・・・・・・ネージュに強いなんて言わせちゃうのか」
ネージュ「言ってもいいと思うよ。・・・・・・・・・それだけ特異性が強いから」
シャンディ「じゃあ、止める?」
ネージュ「まさか! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・強いって言っても、私達なら倒せるよ」
シャンディ「うん! そうこないとね! 設定変更の要望ある?」
ネージュ「とりあえずロレンツォはオミット。ウェポンキャリアーのサイファードはそのままで、手にBPランス。左腕にビームシールド」
シャンディ「・・・・・・・・・!? それって近距離戦仕様?」
ネージュ「これがベストだと思う。ハデスに目一杯の弾薬と援護武装を装備して貰って敵の動きを抑え込んで、私が致命傷を与える。なるべく迅速に。データでは長距離兵器だとダメージを与えにくいみたいだったから」
 セツヤ譲りであるネージュの勘はもう勘というレベルを遥かに超えている。ある種の確信的なものがあるのではないかと思えるほどだ。それに頼らせる戦い方はさせたくはないが、ネージュの言葉に異を唱える理由は少なくともシャンディにはなかった。
シャンディ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった。そのプランで進めておく」
ネージュ「ありがとシャンディ」
 ネージュとシャンディが武装についての話をしているといつの間にかハデスが降りてきていた。
ハデス「終わったみたいだな、敵さんの分析」
ネージュ「うん!」
 そういってネージュはハデスにメモリースティックを投げ渡す。
ハデス「それで? 勝算はどのくらいだ?」
ネージュ「敵の数次第。4匹までなら9割以上。2桁出現で3割ってかんじだね」
ハデス「なんでぇ、結構やれるんじゃないかよ」
ネージュ「けど、グリューには未だに未分析の項目があるから楽観視はしてないよ。武器の耐久度とか、装甲の信頼性とか敵さんの対応力とかね」
ハデス「・・・・・・・・・そうなんだがな」
 ハデスは分析データよりもグラウの装備関連におけるネージュの分析項目を第一に読む。
ハデス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・グラウは長距離、近距離援護装備か」
ネージュ「予想通りでしょ?」
ハデス「ある程度な。・・・・・・・・・敵さんの耐久力をお前がどう見るか次第だと思っていたが、俺が支援装備ってことは随分硬いか?」
ネージュ「硬いって言うか、銃だと致命傷は難しいっていうイメージだった。確実に戦うには突き刺さないと」
ハデス「・・・・・・・・・そうか。・・・・・・・・・!? それに随分と連携位置が遠いな。この位置だとほぼ狙撃要員だぞ?」
ネージュ「フェストゥムにね、確固たる間合がないんだよ」
ハデス「? 間合がない?」
ネージュ「突然攻撃が現れるんだよ。敵が任意の場所に」
ハデス「・・・・・・・・・成程。確かにそれだと俺には荷が重い。というか、そこまでレベルが上がるとお前やフイユじゃないと対応できないんじゃないのか? 教導隊クラスの人間にだって不可能だぞ? ましてや一般兵クラスに教導するなんて」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。ハデスにも厳しいことを普通の兵士さんに教えるなんてことは多分無理だと思う。どれだけ頭を絞っても思いつかなかった」
 ネージュは悲しそうに告げた。フェストゥムとの戦闘で勝算を見つけること事態は実はそう難しくはなかった。ネージュほどの目を持っていれば容易とも言えた。だが、ネージュはその先のことを必死に考えていたのだ。ファフナーを頼ることなくフェストゥムとの戦闘をどうやって勝利するか。さすがのネージュも塞ぎ込んでしまう。だが、その様子を目の当たりにしたハデスが頭をガシガシと掻いてからネージュの首根っこをムンズとつかむ。
ネージュ「!? にゃに!?」
ハデス「寝ろ! バカ猫!」
シャンディ「寝たほうが良いね」
ネージュ「え゛! だって私まだグリューの整備が!」
シャンディ「そんなの私がやっておくよ。整備の仕事は出撃するまでなんだから。ネージュは出撃してからが仕事でしょ? 出撃前からそんなヘロヘロでどうするの! 寝なさい!!」
ハデス「うじうじと一晩考え続けやがって。お前が寝てりゃ俺が代わりに今寝てたわ! 俺の睡眠時間返せ!」
ネージュ「え゛ぇぇぇーーー!! それちょっと横暴!」
ハデス「さっさと寝て来い! それからまた考えろ!」
 ハデスに言われてネージュは本当に覇気をなくした子猫のような表情になる。そして、格納庫からすたすたと外に出て行く。その様子もかわいく見えるから不思議だ。
 ネージュがいなくなってからハデスは小さくため息を1つ付いた。
ハデス「・・・・・・・・・これ以上は考えるだけ無駄だからな」
シャンディ「うん。ネージュが一晩考えたこの案がだぶん最善なんだろうね」
ハデス「後はネージュに戦わせて見るしかないだろうよ。あいつが戦えば何か見えるかもしれねーからな」
シャンディ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ、ハデス」
ハデス「あ?」
シャンディ「セツヤさんなら・・・・・・・・・どうにかしてくれたと思う?」
ハデス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しらねーよ! あの人のことは俺の人生賭けても理解できない自信がある!」
シャンディ「・・・・・・・・・そっか。・・・・・・・・・うん、私もその自信はあるかな」
 2人は笑いながら整備に取り掛かる。この戦い、間違いなくキーとなる人物に機体の整備に。


 警報がAlvis施設内に鳴り響いたのはネージュが寝入ってから3時間ほど経過してからだった。瞬く間に基地内が騒然となる。状況を知るためにHMCのメンバーがブリッジに駆け込むのは当然のことだった。ハデスにシャンディ、やや遅れてネージュの順番でブリッジに駆け込んでくる。
ネージュ「フェストゥムですか!?」
 ネージュの第一声だったが、全員が反応をしない。それは当然といえば当然だったかもしれない。そのモニターに映った映像が全てを物語っていた。ネージュは昨晩から一心不乱にフェストゥムを分析していた。ならば、フェストゥムかどうかを見間違うはずはなかった。モニターに映っていたのは人型兵器。それは間違いない。数は4つ。1対3という不利な状況。随分と小さい。目測だが恐らく3メートル以下の大きさだった。そんな大きさの人型兵器が空を飛びながら戦闘を繰り返していた。
ネージュ「?? 何これ? こんな機動兵器とうかこれはもうパワードスーツに近いのかな?」
公蔵「我々のデータは外界のそれに比べて些か古いが、そのデータにはこのような機影のデータは残っていない」
ハデス「・・・・・・・・・胸糞悪い戦いだ」
 ハデスが呟いた。だが、それはネージュも共感できた。女性型のイメージを醸し出している機体を3期の同系統の機体が甚振るように戦っている。その中の1機が多勢に無勢な状況下で戦っている女性型の機体の肩部分を己の武器槍状の武器で突き刺した。
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 血のような液体が滴り落ちる。やられた側の機体は明らかに苦しんでいる。その光景の中、ネージュは確かに見た。・・・・・・・・・笑った。兵器の中からでもわかってしまった。それはネージュだけではない。ハデスもシャンディもこの場にいる公蔵も史彦にも理解できたのだろう。
ハデス「・・・・・・・・・ネージュ」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
シャンディ「・・・・・・・・・準備できてるよ」
 正義などネージュは知らない。セツヤも自身の行為が正義だと語ったことは一度もなかった。戦うというのは奪うことだ。だが、それを笑顔で行う輩だけはどうしても許せない。人の絶望を望むような輩はネージュたちには看過できない事柄だった。
公蔵「待て! 今出撃したら竜宮島の位置がばれてしまう!!」
ネージュ「・・・・・・・・・今、あの機動兵器はこの島の天頂部で戦っています。もしも直下に落下した場合、どの道ばれてしまいます。何よりも、落下してから対応したのでは間に合いません」
公蔵「ならば、ファフナーを出撃させる!」
ネージュ「ダメです!! 私達が負けそうになるまでは出撃しないでください」
公蔵「・・・・・・・・・しかし」
ネージュ「良いんです。ずっとこの島にはいれませんが、いる限りは戦います。・・・・・・・・・この島の子供達のために」
 歴戦の猛者なのだ。人並みを遥かに超えた死線を潜り抜けてきたネージュの醸し出す雰囲気は公蔵も言葉を強く出せずにいた。形式的にではあるがそんな公蔵を一見してからネージュはブリッジから格納庫へと走り出す。


 ツヴァイト・グリューヴルムのコンソールに詳細が並び出る。シャンディの整備が済んでいるのだ。機体に関して一抹の不安もない。隣にハデスのグラウが待機している。発進前の設定も全て終了。発進準備が完了した。こちらのチェックのスピードを把握していたかのようなタイミングでシャンディからの通信が入る。
シャンディ『ネージュ、ハデス、発進準備できたわね? 不具合は?』
ネージュ「ないよ」
ハデス『ねーよ』
シャンディ『グリューは第7ハッチからグラウは第9ハッチから出撃して。まだ、小型機動兵器の戦闘は続いている。場所は未だに竜宮島天頂部』
ネージュ「了解」
ハデス『了解』
シャンディ『発進タイミングは譲渡。敵は完全にアンノウンよ。助けたほうも敵になる可能性があるから気を抜かないで』
ネージュ「ツヴァイト・グリューヴルム、発進シークエンススタート。拘束具固定完了。・・・・・・・・・発進!!」
ハデス『グラウ・フォーゲル、発進シークエンススタート。拘束具固定完了。問題なし。・・・・・・・・・・・・・・・・・・発進する!!』
 白い機体が竜宮島の海面から出撃する。まるで白い鳥が空に羽ばたき、飛沫が祝福するかのようだった。いの一番に手を出したのはハデスだった。両腕に持った異なった銃の片方、上方に充電式のバッテリ、下方に弾丸を納めたマガジンが固定されている矢や大型のライフルである双式プログレッシブライフル(選択式充電型電磁速射並びに特殊弾丸専用ライフル)の電気中のほうを連射する。
 突然の機動兵器の出現に追い詰めていた3機の小型機動兵器は咄嗟に移動を開始する。当然、女型の機動兵器は肩からランスが抜き取られて海に落下する。その下には未だ見つからぬ竜宮島があるのだが、その機動兵器が建つ宮島に落下することはなかった。巨大な左腕がその直下に現れたからだ。グリュー。ツヴァイト・グリューヴルムが増したに出現して彼女を救った。
 グリューが外部スピーカーを用いてその傷ついた機体に声をかける。
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫?」
女性型機動兵器「・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・お兄ちゃん。・・・・・・・・・・・・・・・・・・タカヤお兄ちゃん」
ハデス『その子は生きてるか、ネージュ?』
 ハデスが様子を尋ねてくる。
ネージュ「息はある。声も聞こえる。ちなみに女の子。・・・・・・・・・中学生か高校生か。そのくらい」
ハデス『・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうかい』
 突然現れた機動兵器に驚きはしたのだろうが、この女の子を狙ってきた機動兵器たちは何食わぬ顔で告げて来た。
???「・・・・・・・・・・・・・・・・・・正義の味方気取りか? 悪いことは言わん。死にたくなければレイピアを渡せ。そうすれば命だけは助けてやっても」
ネージュ・ハデス『「黙れ!!!」』
???「!?」
ハデス『気にいらねぇ。 ・・・・・・・・・何を偉そうな事を! 脅し文句ばっか告げて、やっていることは寄って集って女一人を袋たたきたぁ・・・・・・・・・随分だなぁあっ、オイっ!!!』
ネージュ「戦うことはいい。数的不利だって仕方のないこともある。・・・・・・・・・でも、あなたたち!! この子に笑いながら槍を突き刺したな!!! ・・・・・・・・・絶対に渡さないからね! 泣きながら家族の名前を囁く女の子を・・・・・・・・・笑って殺そうとするようなお前等には渡さないっ!!!!」
???「・・・・・・・・・ふははははは! 大した気骨だ! 国連の人間もそのくらい気概があればどれほど戦い甲斐があろうか! なぁランスよ」
ランス「その通りだアックス。退屈しのぎにはちょうどいい」
ソード「我々テッカマンに勝てると思っているというのが片腹痛いわ」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・テッカマン? ハデス」
ハデス『待て、検索中だ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ない』
 グリューとグラウが隣接して構える。形成的にはグラウがグリューの前に出てけん制している形だ。
 数的不利はあるがそれ以上にレイピアという名前のテッカマンがグリューの手の中にいる。まさか海に落とすわけにも行かない。どうしようかハデスと共に思案しているとレイピアが目を覚ます。
???「・・・・・・・・・!? ぅあっ!」
 グリューの手の中で驚いたのだろう。だが、それ以上に肩の痛みが驚きをかき消したようだった。ネージュがレイピアに話しかける。
ネージュ「・・・・・・・・・もう大丈夫だよ」
???「??」
ネージュ「レイピアちゃんだよね? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・君をあんな奴らには渡さない」
???「・・・・・・・・・あなたは?」
ネージュ「私はフローレンス。フローレンス・K・リューデルメ。HMCの人間で・・・・・・・・・君の味方かな?」
???「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・助けてくれるんですか?」
ネージュ「・・・・・・・・・嫌だからだよ。レイピアちゃんが苦しむのが」
ハデス『そんで、あいつらがムカつく!! 風伯の人間が戦う理由なんざそれで充分だ!』
ランス「そんなもので良いのか? 貴様らの死ぬ理由だ。考える時間くらい作ってやらんでもない」
ネージュ「レイピアちゃん、飛べる?」
 さすがのハデスでも単機で3機を相手にするのは無理だ。恐らく敵は徹底的な高速機動専用。1つでも見落としたら負けてしまう。
???「・・・・・・・・・と、飛べます」
ネージュ「・・・・・・・・・ごめんねレイピアちゃん。飛ぶのも辛い筈なのに」
ミユキ「・・・・・・・・・ミユキです」
ネージュ「?」
ミユキ「お2人には知っておいて貰いたいです。私の名前は相羽ミユキ」
ハデス『レオニト・ハデスだ』
ミユキ「・・・・・・・・・私もまだ・・・・・・・・・戦えます」
 レイピアが浮遊する。それを確認するとグリューはBPランスを握りなおす。
ネージュ「飛んでいてくれるだけで充分だよ」
ソード「どこの組織かは知らないけれど、無名の組織に倒せるほど私達は甘くはないわ!」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ハデス『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
アックス「・・・・・・・・・どうかな?」
ソード「?? ・・・・・・・・・アックス?」
 アックスには2機がまとっている雰囲気がただならないものだと感じ取っていた。充実に満たし、隙のないイメージ。これはどこぞのテストパイロットでは決して醸し出せない気概だった。
 構えなおしたネージュが動くのが狼煙になる。示し合わせることなく、ほぼ同時にハデスが両腕に装備されていた双式プログレッシブライフルと無反動ビームバレッドライフルをろくに照準で捕らえることなく連射した。その弾薬が3機のテッカマンに着弾する。だが、3機はその唐突な攻撃を一瞬にして上方へと移動してやり過ごすが・・・・・・・・・。
ネージュ「・・・・・・・・・そう来ると思った・・・・・・・・・」
 ネージュが3機の動きを更に先読みしていた。片手だけのはずだった近接戦闘用の武器だが、背中から特殊兵装CBS(クリスタルビームソード)、通称サイファードを引き抜いて二刀流での攻撃を展開する。その剣でテッカマンアックスの肩部分とテッカマンソードの大腿部を何の躊躇いもなく突き刺した。
アックス「ぐぅあっ!」
ソード「な!!」
 ネージュの攻撃を出会いがしらに食らってしまった2機とは別にランスはしっかりと攻撃をするべく予備動作を開始していた。
ランス「貴様ぁぁぁ!!」
ネージュ「・・・・・・・・・こいつは死角にならないでしょ?」
ハデス『ああ』
 この2人のやり取りは恐らく通信機越しではない。だが、しっかりと2人の会話と行動は成立していた。無反動ビームバレッドライフルの精密射撃モードでグラウから発射された弾丸がランスの胸部に命中する。
ランス「! ・・・・・・・・・ば、馬鹿なっ!!」
ネージュ「まだまだ。・・・・・・・・・ミユキちゃんを甚振ったんだ。まだ足りないよ!!」
 ネージュはサイファードを大きく振りかぶって上段から打ち込んだ。ネージュにしては珍しく大振りな攻撃。ランスもさすがにこの攻撃は見切れたようでランスでその打ち込みを止めるが、次のグリューの行動には度肝を抜かれた。重心の支点をサイファードとランスの交差点において大道芸張りの逆立ちをしたのだ。
ランス「な、何の真似・・・・・・・・・ぬぅああああっ!!」
 胴体部ががら空きになり、再びハデスの精密射撃が胴体部に着弾する。怯んだランスの後ろに回ったグリューは真後ろからランスの肩をサイファードで突き刺した。
ランス「ぐあっっ!!」
 この戦いぶり、もう阿吽の呼吸などというレベルではない。以心伝心が既に刷り込まれている。教本でもこれほどのレベルは求めないだろう。
ミユキ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・すごい」
 後ろで見ていたミユキはそう漏らすしかなかった。
 一見有利に見える戦闘でも数的不利から来る劣勢はあるえる。ハデスのグラウが敵の攻撃をビームバレットライフルの重心で受け止めた。
ソード「地球人風情が。・・・・・・・・・ラダムの言いなりになっていればいいものを!!」
ハデス『・・・・・・・・・まぁこうなるわな。意外に遅かったな。ランスだっけか? あいつがあそこまでダメージを食らっちまった以上こっちの勝ちだぜ?』
ソード「何を・・・・・・・・・」
ハデス『数的不利を解消できるかどうかがこちらの懸念するべき問題だったんだよ。お前達自身の絶対的有利を信じ込んで侮ったのが運の尽きだ』
 ライフルで攻撃を受けた以上、もうこのライフルを戦闘では使えない。だが、グラウはもう1つ銃身の短いライフルを装備していた。その銃口は下を向いていたのだが
ハデス『構うものか』
 構うことなくハデスはそれを連射する。
ソード「な、ばかなっっ!!」
 ソードとグラウの脚部ごと電磁弾が持って言ってしまう。グラウの脚部が爆発する。だが、そんな爆発でもハデスは怯まなかった。まだ上半身が残っている。ありがたいことに武器もある。弾丸もあった。
 体中、満身傷だらけの両機だったがソードは自身の怪我に未だ痛みを感じずにはいられない。ソードの目の前目指して爆発した煙の中から出てきたのはグラウのライフル、双式プログレッシブライフルの銃口だった。
ハデス「くれてやるよ。マオ社の特注DP弾!! 穿孔ポイント弾だ!! 喰らってけっ!!!」
 何のためらいもなくハデスはトリガーを引く。バレットモードの双式プログレッシブライフルがソードの顔面、全身に撃こまれた。
ソード「ぎゃああああああっっ!!!!」
 断末魔の悲鳴と共にテッカマンソードの体が文字通り蜂の巣になってしまう。そして、ソードが海に落ち爆散した。




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