粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

リアルルート 第参話 『悲壮を抱える星々』 後編


第参話 『悲壮を抱える星々』 後編


 ランスとネージュの戦闘はアックスがランスに助太刀するという格好になっている。両の腕にソードを持っている。これさえあればネージュの実力があればやってやれない相手ではない。このランスとアックスという両機の連携が取れていないというメリットもネージュを助けていた。だが、そんな戦いもソードの敗北を持ってランスとアックスの顔色が変わる。
ランス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・! 馬鹿な! 地球人如きにソードが負けたというのか!!」
アックス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・認めなくてはいかんなランス。地球人にもブレード以上に厄介な相手がいるということだ。声から察するに若い女の声だな。貴様、名前は?」
 他愛もない話、状況的に時間稼ぎはありえない。そう思ってからネージュは答える。
ネージュ「・・・・・・・・・フローレンス・K・リューデルメ」
アックス「フローレンスか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・引くぞランス」
ランス「馬鹿を言うな!! ソードが死に、未だにレイピアの始末もできずにおめおめと帰れというのか!!?」
アックス「ソードがやられた時点で我々の認識の甘さが露呈したのだ。ラダムが世界を征服するためにはこれ以上の同胞の死は看過できん」
ネージュ(面倒だな。あの斧持ちはほかの2機と違って随分と冷静。恐らく小技にははまらない)
ランス「テッカマンは地球人には負けん。そして、俺はエビルにも負けるわけにはいかんのだ!!」
ネージュ「・・・・・・・・・どうするの? あんまりお喋りに付き合ってあげるつもりはないんだけど?」
ランス「!! 貴様は・・・・・・・・・何様のつもりだ!! まだ俺を倒してもいないのに・・・・・・・・・勝ったつもりでいるのか!!!」
ネージュ「そっちの斧のテッカマンはいざ知らず、あなたはいつ来てもどうにでもなるから帰っていいよ」
アックス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ランス「ば、馬鹿にするなぁぁぁぁぁああ!!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボォルテッカァァァァアアアア!!!!!」
 ランスに備え着いている装飾品とは違うのだろう。まるで瞳のような宝玉のようなものが光りだす。だが、ネージュは冷静だった。アックスの咄嗟の回避、ランスが見た視線、それで大負けな攻撃の範囲はつかめる。
ネージュ(恐らく切り札的な光線。威力はアックスが逃げたということからテッカマンでも致命傷を負う程度。範囲は・・・・・・・・・割合広い。・・・・・・・・・威力はたぶん、戦艦の主砲クラス。タイミングは・・・・・・・・・遅い!!)
 ほぼ完全に見切っていた。ネージュはボルテッカ発射のタイミングを完全に見切る。テッカマンランスがボルテッカを発射し終えたころにはネージュはランスの後方でサイファードを振り抜き終わっていた。
 ボルテッカが海面に着弾、まるで非常に高い水しぶきが立ち上がる。
 ほぼ無傷でネージュは戦闘を終了させた。そして、向き直ってサイファードの切っ先をアックスに向ける。
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アックス「なんという娘だ。その歳でランスの精神構造を読み、自身に襲い掛かってくるように仕向けたというのか。・・・・・・・・・末恐ろしい」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたとの共闘されるのが一番嫌だったんでね。それに、簡単に退散されるのも考え物だったから。仕向けさせて貰ったよ」
アックス「構わん。同胞だが簡単な挑発に乗るようなランスに問題があったのだ。・・・・・・・・・何よりも言及すべきは貴様の実力だ。ボルテッカをすり抜けるなどテッカマンでも不可能な神業だ。・・・・・・・・・さすがの俺も勝てる気がしない」
ネージュ「良いよ返してあげても。・・・・・・・・・メッセンジャーとして」
アックス「武人としては無能の証明だな」
ネージュ「死ぬよりは良いでしょ? テッカマンさんたちの上司に伝えて。ミユキちゃんは私が守る。もしも、ミユキちゃんを殺したいと思ったら先に私を倒せってね」
アックス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・守るというのか? テッカマンであり、お前とは何の関係もないレイピアを? 貴様のようなものが何故だ?」
ネージュ「テッカマンは関係ない。守るといったら守る。泣きながら家族に会いたがっている女の子がいるんだ。ほかに理由は要らない」
アックス「侍精神、武士道というやつか? ・・・・・・・・・レイピアを殺そうとしている者がレイピアの別の兄だとしてもか?」
ネージュ「そんなこと決めるのはミユキちゃんでしょ? 殺そうとする輩がいるから逃げてきた。心を落ち着かせることができる別の家族を求めているんだ。私が口を挟むことじゃない」
アックス「揺るがんか。・・・・・・・・・どれほどの修羅場を潜っているというのだ」
ネージュ「さぁ? おしゃべりはもう良いでしょ?」
アックス「・・・・・・・・・フローレンス、貴様との戦い楽しみにしているぞ」
 アックスと名乗ったテッカマンが彼方へと消えていく。周囲に敵の気配が消えたのを確認してからネージュはハデスのグラウによっていく。
ネージュ「・・・・・・・・・随分とやられたねぇ。右足ないし、左足ももげる一歩手前。シャンディが泣くよ」
ハデス『うるせーな。あんな馬鹿速い機体、捕らえるにはそれなりのベットが必要だったんだよ』
ネージュ「とりあえず戻ろうか。・・・・・・・・・ミユキちゃんも」
ミユキ「え、あの、私も一緒に行って良いんですか?」
ネージュ「うん。だって、あの斧持ちのテッカマンに啖呵きっちゃったもん。私がミユキちゃんを守らないと」
 と、やり取りをしていると通信が入る。それはシャンディからだった。
シャンディ『ネージュ、フェストゥムがこの島に向かっているわ。数は3、予想到達時間は4分後!』
ハデス『このタイミングでかよ!! ・・・・・・・・・! もしかして奴らは俺らの思考を』
ネージュ「読んでいたのかもね。・・・・・・・・・それは後で専門家にでも聞いてみよう。・・・・・・・・・ミユキちゃん、テッカマンって海水の中でも活動できるの?」
ミユキ「え、はい。宇宙で活動もできますから深海でもない限りは」
ネージュ「怪我しているところ悪いけどもハデスを海の中の基地に連れて行ってもらえるかな?」
ハデス『・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前、一人で戦う気か?』
ネージュ「この島の子供は戦わせられない。グラウはもう限界だよ。破片がスラスター周りに突き刺さってる。吹かせば爆発するかもしれない。シャンディに見せてせめて応急だけでもしてもらって」
ハデス『くそっ!』
ミユキ「私が、私が戦います!」
ネージュ「ダメ。今から来る敵はちょっと厄介な敵なんだ。私らでも危ないんだよ。予備知識なしでは戦わせられない」
 ハデスも何かできることはないかと思案をめぐらす。だが、ネージュの回答が自身でもっとも安全で成功率の高い策に思える。思えてしまう。
ハデス『俺が行くまで死ぬなよ』
ネージュ「うん。死なせたくなかったら速く来てよ。・・・・・・・・・じゃあ、ミユキちゃんハデスのことお願いね。・・・・・・・・・ハデスもミユキちゃんの説明ちゃんとしてよね」
ハデス『・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ』
 テッカマンレイピアの先導でグラウはゆっくりと海の中に入っていく。その様子を見守ってからネージュはたった一人で背中に竜宮島を背負う。
 敵が来るまでの数分間だが、ネージュはその時間も決して無駄にしない。先ほどの戦闘で酷使してしまった間接などは逐一頭に入っている。テストパイロットの宿命だがその箇所を念入りにチェックする。
ネージュ「・・・・・・・・・問題はサイファードを駆使した左肩だと思っていたけども・・・・・・・・・問題なし。それにサイファードのダメージは予想以上に低いか。・・・・・・・・・敵が小さいってこともあるんだろうけども、さすがマオ社の最新鋭。切れ味にも問題を感じなかったな。・・・・・・・・・助かるな」
 シャンディからの情報が逐一コンソールに示される。もうすでにフェストゥムが肉眼で示される距離にまで来る。その表情を一見してからネージュは空を見る。・・・・・・・・・いた。金色に輝く異色の生物。厳密には生物とも思えないような物体。神々しさすらある。
フェストゥム『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ネージュ「・・・・・・・・・神様? 天使? ・・・・・・・・・悪いけども私は信仰深くはないよ」
フェストゥム『・・・・・・・・・あなたは・・・・・・・・・そこにいますか?』
 喋った。これは前情報として持っている。この質問に『はい』と答えた者にフェストゥムは同化を試み、『いいえ』と答えた者には攻撃を仕掛けてくるのだそうだ。つまり、この質問に『いいえ』と答えるか質問時間が終わるとフェストゥムは攻撃を仕掛けてくるということだ。そして、ネージュは攻撃のタイミングをしっかりとつかみたかった。
ネージュ「・・・・・・・・・いないよ」
 そして、これが皮切りになる。スラスターをフル稼動。空中戦が始まる。
 数秒前にグリューがいた場所に黒球が出現した。だが、そんなことに思考を割いている暇は今のネージュにはなかった。残りのフェストゥムの位置を一見する。この敵を早々時間をかけて倒してはいられない。それほど厄介な敵だ。目の前の一匹目を瞬殺することがこの戦いに勝つためには最も重要なファクターだった。
 タイミングは少し難しいが読める。これさえ読めれば戦うことは可能だった。高速で真横に動きながらフェストゥムの胴体をグリューのBPランスで突き刺しに行く。完全にランスはフェストゥムを貫通した。貫通した後に余韻、残心などは一切残さない。難易度の高い単機での近接戦闘におけるヒット&アウェイだった。直ぐにネージュはフェストゥムから離脱する。勿論火器を持った間までだ。予測どおり、フェストゥムはグリューの居た場所を抉り取っていた。自身の危険などはまったく関係がない。だが、これでどうにか一匹目を屠ることができた。しかし、まったく安堵はできない。残り3匹、通常の敵に比べて遥かに厄介な敵が既にグリューの眼前に出現していた。


 ハデスが既に立つこともできないグラウから飛び降りる。何の遠慮もなくシャンディに詰め寄った。
ハデス「急いでくれ! 誘爆するかどうかのチェックだけでいい。後は弾薬の補給のみで戦える」
シャンディ「・・・・・・・・・直ぐには無理。ネージュに感謝しないとダメだよハデス。エンジンケーブルの何本かに破片が突き刺さってる。あのまま戦っていたら本当に死んでたよ。・・・・・・・・・エンジン周りの補修だけでも最低で1時間は掛かる」
ハデス「・・・・・・・・・クソッ!」
 シャンディの腕をハデスが知らないわけがない。だからこそ、地団太は踏んでも無理は言わない。自身の愛機ではあるがこの危機的状況で戦うことができない状況にハデスは昔の自分をどうしても照らし合わせてしまう。
ハデス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・これじゃ、昔のまんまじゃねーかよ」
シャンディ「違うよ。・・・・・・・・・あの時とはぜんぜん違う。・・・・・・・・・戦う気はあるんでしょ? ネージュが負けると思ってるの?」
ハデス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あいつが・・・・・・・・・あいつが負ける訳があるか」
シャンディ「私は1時間で出撃できるって言ったんだよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・手伝ってくれるんでしょ?」
ハデス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・当ったり前だ」
 時間がないということでハデスがグラウに走って向かおうとしてから突然、思い出したように足を止める。
ハデス「・・・・・・・・・! っと、シャンディ! この子、ミユキな」
 そう言うとハデスはグラウの横の物資の上にちょこんと座っているテッカマンレイピアの変身が解けた相羽ミユキを指差す。
シャンディ「わかってるよ。・・・・・・・・・ていうか、こんなに可愛い子だったんだね。・・・・・・・・・こんにちわ! ミユキちゃん」
 シャンディが大きく手を振ってミユキに声を投げかける。
ミユキ「あ、はい。こんにちわ」
シャンディ「私はシャンディ・クリスファール。シャンディって呼んで。ごめんね、今はちょっと・・・・・・・・・って、怪我してるんだもんね。怪我の処置は人間と同じでいいのかな?」
ミユキ「え・・・・・・・・・あの・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
シャンディ「わかった。じゃ、手当ての手配だけしておくからご飯とかは後で私と一緒に行こう」
ミユキ「・・・・・・・・・いいんですか?」
シャンディ「ん? 何が?」
ミユキ「いえ、よろしくお願いします」
 ミユキがぺこりと頭を下げる。そのミユキにシャンディは親指を立ててからにっこりと笑う。
シャンディ「うん」
 ミユキに笑みを送ってからシャンディもグラウの補修作業に向かう。


 ネージュの苦戦は変わらない。考えが読まれるというのは本当なのだろう。だが、そういう連中との戦いはネージュも経験済みだ。考えが読まれる敵の対応策としては回避できないところにまで追い込んでやるか読ませないしかない。ネージュが今実施しているのは難易度の高い前者の方だった。
 敵の攻撃が読める。その攻撃のタイミングを逸らせば自身の動きも必然的に変化する。要するにこれを繰り返して隙をうかがうしかない。敵の連携に冠しては練度不足があるというのが救いだったりもする。
 縦横無尽に動きを繰り返し、攻撃を回避し続ける。斥候という考え方がフェストゥムにあるかどうかは知らないが、1匹目の攻撃を捌く時に比べればグリューの酷使は比べ物にならない。パイロットのネージュは問題ないが、こんな機動を続けていたらグリューのほうが持たない。残す敵も時間を掛けることは難しい。
 そんなことを考えた最中だった。一匹が3匹と分かれて竜宮島へと侵攻し始めた。
ネージュ「!!」
 ハデスが出て来ない。出て来れないということはそれほどまでにグラウのダメージが大きかったと取れるだろう。テッカマンではフェストゥムと相性が悪すぎる。戦うことは考えにくい。・・・・・・・・・とすれば、もう竜宮島の、Alvisの人間の選択しうる手段としてはファフナーを出すしかないのだ。そして、ネージュが逃したフェストゥムに対して島からの攻撃が始まった。
 島からの間接的な攻撃をまったくフェストゥムは受け付けなかった。戦闘機における攻撃、ミサイル攻撃、これらはネージュに比べれば気休めにもならない。
ネージュ「・・・・・・・・・島の子供達が・・・・・・・・・・・・・・・・・・戦っちゃう! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ファフナーに乗っちゃうよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また・・・・・・・・・届かないよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・セツヤ!!」
 2匹の難敵を目の前にネージュは唇を噛み締めながら心の叫びをただ反芻させるだけだった。


 ネージュ自身で不甲斐なさを感じ取っていたが、彼女の実力不足を口にするものはAlvisには唯の一人もいなかった。むしろその逆でネージュの実力の高さに言葉がないというのがホントの所だったりする。Alvisの司令本部で皆城総士が目を見開き、単純にネージュへと賛辞を送る。
総士「・・・・・・・・・凄い。まさか本当にファフナーなしでフェストゥムを倒せるなんて。それも、連戦、単機で」
公蔵「予想以上の実力だ。まさかこれ程とは思わなかった。だが、こうなった以上は出撃しないわけには行かない。ファフナーを出撃させる!! 総士、ジークフリードシステムを頼む」
総士「はい!」
 皆城総士がブリッジを出て行く。そして、総士が外に出て行くや否や、通信が入る。
公蔵「どうした!?」
保『こちら第3ブロックです。武器搬出用のパスワードにロックが掛かっています。生態解除キーがないと武器が出せません』
史彦「それじゃファフナーは丸腰じゃないか!!」
公蔵「今行く! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・真壁、後を頼む」
 公蔵もまたブリッジをあとにする。それを皮切りに、周囲の人間があわただしくなっていく。


 ファフナーが出撃するまで数分。島に降り立ったフェストゥムが島の木々を施設を破壊していく。黒球が出現しては消え、その繰り返しで島が蹂躙されていく。非難は終了しているのだろう。島の人影はない。人的被害もないはずだ。だが、穏やかでいられるわけがない。紺色の機体がフェストゥムの水中から現れる。
一騎『う・・・・・・・・・動かねぇ。・・・・・・・・・うぁぁぁああ!』
総士『一騎、ファフナーそのものを感じろ。一体化するんだ』
 ジークフリード・システム越しに総士からのアドバイスを受けて一騎はフェストゥムに殴りかかった。
一騎『ぅう・・・・・・・・・!!? 読まれてる』
 あっさりとフェストゥムがその攻撃をかわす。交わした後に、ファフナーの胴体部を掴みそのまま地面に叩きつけた。
一騎『ぅあああああっ!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・奴は!?』
総士『直ぐ後ろだ!!』
 咄嗟に振り返りはしたがファフナーとフェストゥムの距離は非常に近い。そして、フェストゥムが非常に優しくファフナーを見つめていた。
一騎『!? 何だ?』
総士『いかん! 奴は同化するつもりだ!! 引き離せ!!』
一騎『くそそそぉぉぉ!!!!』
 左腕を使って引き離そうとする一騎だったがフェストゥムが自身を犠牲に黒球を発生させる。そのせいでファフナーの腕が完全に分解させられてしまう。痛覚をファフナーと共有する一騎にも同等の痛みに襲われる。
一騎『ぐぅ!? ぅあああああっっ!!!』
総士『ペインブロック作動! 左腕切断!!!』
 そんな総士の涙具ましい行動の間にも徐々にファフナーが侵食されていく。ファフナーの胴体部分に緑に輝く美しい結晶が出現し始める。
一騎『動かない! どうなっちまってるんだ!! 総士!!!』
総士『わからない! そっちのモニターが突然遮断された!! 脱出しろ、一騎!!』
公蔵『一騎君! レールガンを使え!!』
 突然公蔵の声が通信機越しにする。一騎も総士も状況の把握よりもその声を信用する。
公蔵『まだ、ファフナーからの電力供給ができない! 一発で仕留めるんだ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし、頼んだぞ』
総士『父さん!』
 レールガンが緊急運搬用のミサイルごと発射された。そのミサイルがフェストゥムに突き刺さり、中の物資がファフナーの手にしやすい位置に差し出されるような格好で渡される。だが、それをファフナーが受け取るよりも早くにフェストゥムが反応した。皆城公蔵がいる武器発射専用のカタパルトのコントロールルームに黒球が現れ、一帯が抉り取られる。息子である総士もその光景を目の当たりにする。
総士『一騎!! レールガンを!』
 ファフナーが総士の言われるがままにレールガンを手に取り、それをファフナーの口部分に突き刺そうとした。後はトリガーを引くだけ。そのはずだった。しかし、発射はできなかった。別に一機がもたついていたわけではない。こっちの攻撃よりもフェストゥムの攻撃のほうが早かっただけの話だった。黒球により、レールガンが抉り取られてしまう。
総士『このままじゃ一騎が・・・・・・・・・・・・・・・・・・。!!』
 ファフナーの侵食は重症だろう。それは誰の目にも明らかだった。総士はファフナーをコントロール。一騎をコアブロックこと後方に射出させた。ファフナーMk.XIでの戦闘は不可能だと判断したためだろう。戦う方法がなくなってしまうという状況さえなければ誰も文句を言わないだろう。だが、総士はまだ戦う意思が残っていた。
総士『出撃だ。・・・・・・・・・羽佐間』
翔子『ありがとう。・・・・・・・・・皆城君』
 ファフナーMk.VI(マークゼクス)。羽佐間翔子の搭乗する高機動専用のファフナーが空中から一騎のファフナーを倒したフェストゥムに体当たりを行った。だが、まともな武装が施されていないのはファフナーMk.XIと同様ではある。マインブレードを手に取ったゼクスが乱雑にフェストゥムに突き刺す。正確には突き刺そうとした。
翔子『ぇぇぇええいい!! ぇえい!! ・・・・・・・・・一騎君の島から出て行けぇぇぇぇええ!!!』
総士『羽佐間、マインブレードでは無理だ』
 その乱雑な攻撃は恐らく無手の一騎を相手にするよりも簡単だったろう。フェストゥムの腕が錐状になりそれをゼクスの胴体を貫いた。そして、ゼクスを持ち上げたフェストゥムはまるで膂力を残すかのように機体を投げ捨てた。
 そのダメージを受けてだろう。情報を共有しているAlvis内でゼクスの異常を感知したようだった。
保『真壁! パワーバランスがおかしい。リフトユニットに深刻なダメージを受けた疑いがある!! 直ぐにゼクスを一端帰還させてくれ。・・・・・・・・・おい真壁!!』
 メカニックの主任である小楯保の声に答えたのは総士だった。
総士『その必要はありません。・・・・・・・・・黙っていてください』
保『! 大人に命令するな!!』


 この総士と保のやり取りをヘッドホンで聞いていた人間がいた。そして、独り言だとはわかっていても答えてしまう。
ハデス『同感だ。・・・・・・・・・勘違いしたクソガキめ。・・・・・・・・・ネージュに言われただろうに。お前は頭が固いんだよ』
 ハデスが居る場所はグラウのコックピットだった。考え抜いた挙句に思いついた策を実行することにしたのだ。というよりもこれしかない。誰も死ななくて住む方法。最善ではない。これが最高なのだ。そう信じていた。操作を終えたハデスは何かの端末を持ってコックピットを開ける。そのまん前に待機していたのはテッカマンレイピアに変身していたミユキだった。
ハデス「悪いな。面倒かけて」
ミユキ「大丈夫です。このくらい」
ハデス「終わったら何でも奢ってやる。・・・・・・・・・じゃあ、頼む」
 レイピアに抱えられたハデスは竜宮島本当から随分とはなれた島にスナイピング態勢のままで待機した下半身のないグラウを見つめる。
ハデス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あばよ。世話になったな相棒」
 ハデスが憂う表情をしながらも躊躇いなく端末のスイッチを押した。それはグラウの装備した最後の武装、マオ社のレールガンだった。その電磁投射砲がフェストゥムの顔面部に直撃した。長距離射撃。それを端末などで行うなど決してまともな手段ではない。攻撃を受けた瞬間にフェストゥムの反撃があった。その攻撃はハデスの予想通りにグラウを飲み込んでしまう。そして爆発。ハデスの愛機が死んだ瞬間だった。そして、フェストゥムも強力無比なレールガンの直撃を受けて自身の周囲一体を飲み込んでしまった。
 連絡もなし、咄嗟にとったハデスの作戦が功を奏した格好になる。レイピアに下ろされたハデスは小さく安堵のため息を1つ付いてからその場に座り込んだ。
ハデス「・・・・・・・・・上手くいったか。ガキ共に死傷者はなし。・・・・・・・・・上々だ」
 疲れ果てた表情をしているハデスに変身を解いたミユキが話しかける。
ミユキ「・・・・・・・・・変な人たちですね。あなた達は」
ハデス「知ってるよ」
ミユキ「あなた達はこの島の人ではないんでしょ?」
ハデス「ああ。縁も縁もない。昨日来たばかりだ」
ミユキ「私なんて会った事もなかったのに。そんな私を助けてくれて、自分の大事な機体を失ってまで島を守った。・・・・・・・・・これで何か得することがあるんですか?」
ハデス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、そうだろうな。やっぱり不思議か?」
ミユキ「とても」
 ちょうどハデスは目の前をグリューが通り過ぎるのを見る。フェストゥム2匹との戦闘を終えて大至急戻ってきたという格好だろう。
ハデス「・・・・・・・・・その質問に答えがあるってんなら・・・・・・・・・自己満足という名の正義だろうな」
ミユキ「? 自己満足?」
ハデス「俺達はやらないといけないんだよ。ジャリ共が涙流しながら死ぬ光景を見るなんて真っ平だ。それを見て泣き叫ぶ大人を見るのも真っ平なんだよ。人間は最後は笑って死ぬべきだ。笑えないにしても世界を呪わせる様な死に方なんかさせない。それが俺達の理念だからな。・・・・・・・・・言っとくけどな、お前だってその中に入ってるんだぞ?」
ミユキ「わ、私は泣いてないですよ!」
ハデス「嘘つけっ! あの3人に袋にされて泣いてただろうが」
ミユキ「そんなことありません!」
ハデス「・・・・・・・・・いいか。今は気分が良いからそういうことにして置いてやるよ。泣き虫ちゃん♪」
ミユキ「うぅーーーー!」
 膨れっ面になるミユキと笑みをこぼすハデスだった。まもなくして2人を回収するためのヘリコプターがやってくる。ネージュも数分後無事に帰還したことを確認した。驚くべきことにパイロットに関しては死傷者ゼロ。これはまさしくネージュたち3人の実力が徹底的に認められたということを意味していた。


 ネージュ達はシャンディの部屋に集まっていた。目的は簡単だ。今回の任務の報告書を書かなくてはいけない。その相談って言うのがメインだった。今回の戦闘はテッカマンというイレギュラーはあったが当初の目的であるツヴァイト・グリューヴルム、グラウ・フォーケル両機がフェストゥムに通用するかということであるため、その評価を3人が個別に出す必要がある。そして、3人の声が見事に揃う。
ネージュ・ハデス・シャンディ「「「厳しい」」」
 まったく同じ意見を出してから3人は一度頷いた。そして、個別の評価を口にする。
ネージュ「相手にはできる。でも、今回乗って尖兵でしょ? 私、3匹で一杯一杯だったんだよ? 頭の中は確実に読まれてる。行動に連携がないからまだ相手できるけども、あれで人海戦術でもやられた日には流石に対処できないと思う」
シャンディ「それにグリューのフレームが使用危険度イエローにまで曲がってた。しっかりとオーバーホールしてから持ってきたって言うのに無理なマニューバのせいで装甲も間接もガタガタ。ここじゃもうこれ以上の戦闘は無理。この島の人たちの言うことも理解できるわね。フェストゥムと戦闘するならファフナーでないといけないのかもしれない」
ハデス「スピードはそう速いって訳じゃないが、対応が恐ろしく速い。間合いが広すぎる。グラウを捨ててなきゃ、俺はグラウと一緒にご臨終だったな。冗談抜きであれに対応したいならパイロットの適正度外視してロケットエンジンでもつけないと攻撃を避けられないな」
シャンディ「けど、課題が見えたね。グリューとグラウの改良点。フェストゥムのデータとファフナーのジークフリードシステムを参考にしてのフェストゥムの読心をどうにかするしかないね。・・・・・・・・・ネージュもハデスも心読まれなければ戦えるんだよね?」
ハデス「ああ。それができりゃ、願ったり適ったりだ」
ネージュ「うん」
シャンディ「わかった。そういう趣旨での報告書と改善点の提示をしておくよ」
ハデス「まぁ、それが最善だな。どこまでAlvisの技術を導入できるかが鍵だな。・・・・・・・・・ところでネージュ、お前どうするつもりだ?」
ネージュ「? 外の?」
ハデス「ああ」
シャンディ「????」
 意味不明な会話をする2人だった。少なくともシャンディには理解できていなかったようだ。ハデスは何のためらいもなくシャンディの部屋のハッチを開く。すると、聞き耳を立てていたミユキが立っていた。
ミユキ「・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・」
ネージュ「ダメだよ。女の子が聞き耳なんて立ててたら。入って来れば良かったのに。別に内緒話しているわけじゃないんだからさぁ」
ミユキ「でも・・・・・・・・・なんか悪いかなって。私は部外者だし。・・・・・・・・・でも、気になっちゃって」
 おずおずとしたミユキの反応にシャンディがクスリと笑う。
ハデス「そんな気使うなよ」
シャンディ「そうだよね。私達3人でこうやって話しちゃったら気使っちゃうよね。ごめんねミユキちゃん。もう少し私達が気を使えばよかったね。こっちにおいで今お茶煎れるから」
 シャンディが立ち上がりミユキの分の椅子を用意する。シャンディの甘めのミルクティーを口にする。随分とマグカップが似合うミユキだ。カップを2、3度傾けてから思い立ったようにミユキは口を開く。
ミユキ「・・・・・・・・・あの、私はどうなるんですか?」
 当然の質問だろう。助けられた手前、恩もあるが自身のすべき使命もある。そんな中で揺れているというのが彼女の格好なのだろう。
ネージュ「どうなるって・・・・・・・・・どういうこと? どうもしないよ?」
ミユキ「あの、私タカヤお兄ちゃんを探さないといけないんです。ずっとここにいるわけには・・・・・・・・・」
ネージュ「そういうことか。・・・・・・・・・えっと、お兄さんってどこにいるの? ミユキちゃんと同じテッカマンなんだよね?」
ミユキ「はい。お兄ちゃんもテッカマンです。・・・・・・・・・居場所は・・・・・・・・・わかりません」
ネージュ「なら、私達が探してあげるよ。少し時間が掛かるかもしれないけどもテッカマンの格好で世界中飛び回っていたら変な組織に捕まっちゃうよ? 私達世界中にお友達が多いから効率は良いと思うよ」
ハデス「っていうか、お前もう手配し終わってるだろ?」
ミユキ「・・・・・・・・・え?」
ネージュ「まぁね。ごめんねミユキちゃん。私先走って色々手打っちゃってるんだよね。・・・・・・・・・それで、良い難いんだけども勝手にミユキちゃんのテッカマンのときの写真使っちゃった。・・・・・・・・・もしかして不味かった?」
 ミユキは首を横に大きくぶんぶんと振ってネージュの懸念を否定する。
ネージュ「良かった。・・・・・・・・・戦ったテッカマンの映像とミユキちゃんの写真を風伯のみんなや私の知ってる偉い人達にに送ってテッカマンに似た機影に見覚えがないかって聞いてる途中。だから、数日中にはわかると思うよ。もうデータを返してくれた人もいるし」
シャンディ「はは、早い。誰から?」
ネージュ「シーオボルト」
ハデス「あの人、几帳面だからな」
 そう言ってからネージュは自身の端末から写真を映し出してからミユキに見せる。写真には宇宙で活動する緑色のテッカマンが映っている。それを凝視してからミユキが告げる。
ミユキ「これは・・・・・・・・・テッカマン・ダガー」
ネージュ「お兄さん?」
ミユキ「いいえ。違います・・・・・・・・・けど、ありがとうございます。・・・・・・・・・本当にありがとうございます。フローレンスさん、ハデスさん、シャンディさん」
シャンディ「私は何もしてないよ」
ハデス「右に同じ」
ネージュ「私だってメール出しただけだもん。大したことはしてないよ。私達は多分もう直ぐこの島を出て行くと思うんだ。だからさ、ミユキちゃんも一緒に行こうよ。少しだけ一緒にいてそれでもお兄さんの情報が掴めなかったらまたいけばいいよ。ご飯の心配はしなくて良いよ。ハデスとシャンディがHMCに掛け合ってくれるって言ってるし、私の部屋に泊まればいい」
ミユキ「・・・・・・・・・私が一緒だと・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆さんに迷惑をかけてしまいます」
ネージュ「ドンと来い! ミユキちゃんを泣かせるような輩はネージュお姉ちゃんが追っ払ってあげるよ」
ミユキ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・迷惑かけちゃうんですよ私は!」
ハデス「知ってるって。行く宛てがないならグダグダ言ってないで一緒に来い。俺らが良いって言ってるんだ。後で恨み言なんか言わねーよ」
ミユキ「・・・・・・・・・でも・・・・・・・・・」
 どれだけ言ってもミユキは踏ん切りがつかないように見える。当然かもしれない。既にミユキは人間ではない。受け入れられることすらも思っていなかっただろう。そんな中、これほど簡単に信用して、協力して、何より守ってくれる人間達が現れるとは思わなかった。それがシャンディにはなんとなくわかったのかもしれない。シャンディは隣に座ってミユキの手の上に自身の手を置いてから微笑んで口を開く。
シャンディ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミユキちゃん、私達はね、昔からこうやって戦ってきたの。守るだけ。・・・・・・・・・ネージュもハデスも知ってるんだよ。ミユキちゃんが出て行って1人でお兄さんを探そうとしてもとっても苦労するってこと。無理かもしれないってこと。世界は優しくないってこと。・・・・・・・・・ミユキちゃんも見たでしょ? この2人強いんだよ。私はあんまり強くないけど守るよ。一緒にお兄さんを探そう。・・・・・・・・・もしも仮に・・・・・・・・・お兄さんを見つけられないとしても、大丈夫だよ。私達は絶対にミユキちゃんを裏切ったりしないから」
 ハデスがまん前に立ってうなずく。ネージュは満面の笑みだ。そこにまったくといって良いほどの他念がないほどの。ミユキはテッカマンになってから初めて自身の幸運に感謝をした。彼らに会わなければ死んでいたかもしれない。捕まっていたかもしれない。圧倒的だと思っていたテッカマンと戦え、守ってくれるという人たちがいる。少しだけだがミユキは思ってしまう。
ミユキ(タカヤお兄ちゃん・・・・・・・・・。私、ちょっとだけ甘えても良いよね)
 ミユキはネージュたちと共にHMCへと赴くことになる。


 ネージュたちがやってきた偽装輸送船の前に立つ。戦闘が行われたのは昨日。その次の日の晩には出向することになるというのだからせわしないスケジュールといえる。来たときとは違い。ミユキが総士の代わりにいることが最大の違いか。後あるとすればグラウを収納していないということだろう。4人が船に赴こうとする中、見送りに大勢の人間がドック内に集まっていた。先頭にいたのは真壁史彦だ。前の戦闘で皆城公蔵司令が殉職したということで彼が代理に選ばれたということは知っていた。
ハデス「大層な見送りですね。俺はもっと恨まれているものと思っていましたよ」
史彦「何故です? あなた方はこの島の恩人だ。こんなことくらいしかできないことが心苦しいと思っているくらいなのに」
ハデス「あれだけ大きいことを言っておいてたったの一回の戦闘でグラウは大破。ネージュのグリューにしてもオーバーホールが必須という燦々たる結果ですからね。正直、顔向けができない」
史彦「いや、あなた方は確立したんです。ファフナーでなくともフェストゥムと戦えるということを。そのデータがこの先どれだけ役に立つことか」
一騎「そうです。そんな事言わないでください!! あなたがいなければ羽佐間が死んでいました! 大事な機体を犠牲にして助けてくれたんです! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・遅くなったけどもありがとうございました!」
 一騎を筆頭に見送りに来た総士、翔子、真矢の4人が一斉に頭を下げた。正直ハデスも困ったかをしたが直ぐいつもの仏頂面に戻してから
ハデス「・・・・・・・・・気にするな。大したことしちゃいねーよ」
 と言うだけだった。
翔子「・・・・・・・・・皆さん、もう嫌かもしれないけども、気が向いたらまた島に来てください」
ネージュ「絶対に来るよ。みんながいるんだ。フェストゥムと戦える算段をつけて絶対に来る」
史彦「今回のことでAlvisとヘムルート社、マオ社の連携は更に強くなったと言えます。体裁的にも心情的にでもです。我々にできることがあるならば何でもいってください。できる限り協力する所存です」
ハデス「助かります。真壁司令代理」
 ハデスと真壁が握手をしている中、ネージュはもう一度翔子の前にやってくる。
ネージュ「無理しないでよかったでしょ? 皆、翔子ちゃんが大事なんだよ」
翔子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
ネージュ「死なないで、絶対に。私がまた来るまで。一騎君も総士君も翔子ちゃんも真矢ちゃんも。みんな!」
 そして、ネージュたちは夏の龍宮島を後にする。




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