粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

スーパールート 第参話 『敵を知らず、己も知らず』 前編


第参話 『敵を知らず、己も知らず』 前編


 マグノ、プザムを伴ってマクロス・フロンティア政府の使節団と会談があった。場所はマクロス・クォーター。仲介人にコクウとリーリが立ち会ったのはまぁ当然だ。そして、面倒なことにフロンティア政府側の使節団というのが驚くことにキャシーだった利する。これにはコクウすらもポカーンとその顔を見つめるしかなかったのだが。マグノがジェフリーと形式的な挨拶をする。
ジェフリー「お初にお目にかかる。私がマクロス・クォーターの艦長の任を賜っているジェフリー・ワイルダーです」
マグノ「海賊なんかに随分と丁寧に。マグノ・ビバン。マグノ一家と言うメジェール、タラーク限定の海賊ってところだね」
ジェフリー「私個人としては危機的状況下においての情報の提供から後方の防御。更には全艦船への防御行動と言った恩から出来る限りそちらの状況を飲みたいと考えているのだが・・・・・・・・・」
 そういうとジェフリーとコクウは共通の行動に出る。二人の視線がキャシーその人に向かった。
キャシー「そうは言いましてもワイルダー艦長、多星系での話しとは言え海賊船を匿うような行為が許されるはずがありません」
コクウ「相変わらず堅い。これじゃオズマも苦労するよ」
 小言をしっかりと聞き取ったキャシーは返す刀でコクウを睨みつけた。
コクウ「ほーら、きた」
 隣に座っているコクウの耳だけに入るようにマグノがコクウにささやく。
マグノ「あのお姉ちゃんって堅物なのかい?」
コクウ「先天的に頭が鉄で出来てます。その上、大統領令嬢ですからねそれに磨きをかけられる環境で育ってるんですよ」
マグノ「成程ね」
 遊んでいるなとプザムは理解できていた。恐らくマグノもそれを知って協力しているのだろう。プザムの真向かいでコクウを睨むキャシーの表情が次第に赤くなっていく。だが、この空気にもジェフリーからすれば我関せずといった様子だった。
ジェフリー「コクウ・ブラック。キャシー中尉で遊ぶのは止めてて貰おうか。仕事でなければ楽しみたい事柄ではあるがね。・・・・・・・・・この場での話はニルヴァーナの扱いについてだ。キャシー中尉も草案はあるのだろう? ならばそれを速く提示して妥協点を探すべきだ」
 コクウを嗜めはしたが睨み付けることなく淡々と事実を口にする。キャシーとは別の意味で堅いのかもしれない。だが、キャシーのそれを比べても愛嬌のある堅さだとコクウは感じた。
コクウ「ええ。失礼しました。・・・・・・・・・それでキャシー中尉、その草案提示して貰えますか?」
キャシー「・・・・・・・・・え、ええ。こちらの提示案ですが、我々フロンティア政府はニルヴァーナに航行に最低限必要な物資、食料、あとは生活サイクルに必要といった物資の補給をする用意があります。更には施行後96時間の停泊を許可。クルーのフロンティア内の散策の許可を考えています」
プザム「至れり尽くせりといった感じですね。ですが、それだけとは思えません。・・・・・・・・・それに対する対価は?」
キャシー「基本的に情報提供が主です。刈り取り部隊の情報と出来るならば戦闘記録の提供。・・・・・・・・・しかし、どうしても譲れない条件がひとつだけあります。」
マグノ「それは?」
キャシー「コクウ・ブラックの30時間拘束することが絶対条件です」
コクウ「!? 俺!?」
マグノ「その理由は?」
キャシー「はい。拘束といっても尋問するためとかそういった理由ではありません。これはバジュラという生物に問題があります。先日わかったことなのですが、バジュラには接触した人間にウィルスに感染させると言った作用があります。彼が・・・・・・・・・コクウ・ブラックがこれに感染していないかを調べるのが主旨です」
コクウ「うげ」
マグノ「あれはそんな厄介な連中なのかい。・・・・・・・・・コクウ、構わないね?」
コクウ「勿論。ただで診て貰えるなら喜んで拘束されましょう」
キャシー「その皮肉、まったく成長していないようね」
コクウ「その台詞、そっくり返すぜ。キャシー」
キャシー「! ・・・・・・・・・ならば、この案でマグノ一家との了承を得たと考えて宜しいですね」
マグノ「ああ」
キャシー「細かな詰めの部分、貨幣のレートや問題が起こったときの対処など細かな部分は後で文章化してお送りします」
マグノ「構わないよ。・・・・・・・・・なら、もういいかね? 年寄りが慣れない場所にいるのは随分と疲れるものでね」
キャシー「あ、失礼しました。こちらとしてはもう十分です」
マグノ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かに堅いかもね。さて、プザム、リーリ、コクウ、帰るとするかね」
プザム「はい」
リーリ「失礼します」
 プザムとリーリがマクロス・クォーターのオペレータであるモニカに案内されるままに歩いていく。だが、コクウは一端立ち上がってからジェフリーを見る。そして、頭を下げた。
ジェフリー「なんのつもりかな?」
コクウ「自己満足です。戦闘に許可を出して貰ったことに。あの場では明らかに不安要素でしかなかった俺を戦闘に参加させてくれたことにです」
ジェフリー「戦闘を優位に進めるためには当然のことをしただけだと思っているんだがな」
コクウ「俺は・・・・・・・・・なぜか偉い人間が決まった道以外の道を選ぶことの難しさがわかるんです。・・・・・・・・・生意気な物言いですがジェフリー・ワイルダー艦長、あなたはいい艦長です。では、失礼します」
 出て行くコクウをジェフリーとキャシーは驚いたように見つめていた。
キャシー「驚いた。あのコクウ・ブラックが礼を言うなんて」
ジェフリー「そうかな? 俺にはあの男は君が言うような粗野な男には見えんがな。オズマの為に命を張り、義には礼を持って答える。なかなか出来ることではない」
 それがジェフリーの単純な感想だった。
 コクウが急ぎ足でマグノたちに追いつく。その間に何をしていたかマグノもプザムも聞かなかった。気を使わせてしまったのだろう。そんなことを考えながら自分たちの乗ってきたドレッドが格納されているクォーターのドッグへとやってくる。数多くの機体が配置されている。随分と圧巻だ。だが、圧巻をこえた圧巻にマグノとプザムは出会うことになる。クァドラン・レアという赤い機体から降りてくる人物がいた。表現に間違いはない。間違いなくヴァルキリー程度の大きさの機体だった。コクウとリーリは平気な顔をしているが2人はその様子をありえないくらい目を見開いて凝視するしかなかった。
 描写するならば巨人だった。えらくプロポーションのいい巨人が4人の前に立っていた。青い髪の美人で巨人だった。それが4人を見下ろす。
クラン「お前たちか。あの青い船の人間たちは。援軍感謝する」
コクウ「ご丁寧にどうも。ただ、出会いがしらで悪いがちょっと気を使って貰えるかな? 俺とこの子はゼントラーディについて知識があるから問題ないんだが、こっちの2人はゼントラーディを知らないんだ」
クラン「そうか。それはすまなかったな。・・・・・・・・・まぁ、その程度の反応で済むならば平気だろう。ところでお前たちの中にコクウ・ブラックという奴がいるんだったな」
コクウ「コクウは俺だ」
クラン「そうか。お前がコクウか。お前だけにはじかに礼を言っておきたくてな。同僚を助けて貰って感謝する」
コクウ「気にするな。オズマに借りを返しただけだ」
クラン「隊長の知己って話だったな。まぁ、こんなところで立ち話もなんだ。しばしの間停泊すると聞いたが?」
コクウ「ああ。ちょっと書類仕事を片付けてからになるだろうけどな」
クラン「なら、そのときに食事にでも招待しよう。そこの2人には悪いことをしたな。今度前に出るときはマイクローン化してからにしよう。・・・・・・・・・あ、言い忘れたな。私はピクシー隊のクラン・クラン大尉だ」
コクウ「了解だクラン。会えると思ったがオズマに会えなかったんでな。よろしく言っておいてくれ」
クラン「わかった」
 それだけ残すと、クランは格納庫を歩いていく。コクウが話す様子に驚愕しているマグノとプザムにリーリがしっかりと説明をしていた。
リーリ「・・・・・・・・・と言うわけで、彼女たちはゼントラーディっていう地球人類に味方してくれた種族の末裔なんです。おっきいですけど、今はマイクローン化っていう小さくなって生活する技術がありますし、ぜんぜん平気なんですよ」
コクウ「概ねそんなところです。普通に接する分に問題はないですよ?」
プザム「そういうものなのか?」
マグノ「はぁ・・・・・・・・・。まさかこの年で寿命が縮むような出来事に遭うとは思っても見なかったよ」
コクウ「マクロスの中にはあのサイズで普通に生活してる連中もいるんですけどね。まぁいいや。速く帰ることにしましょう」
マグノ「そうして貰いたいよ」
 そして、コクウたちはこれから面倒な事務作業に従事する。


 艦内で説明が行われていた。マグノ一家とフロンティア政府との間でこちらの必要最低限の物資の補給と数日間の休息が認められ了承した。コクウとリーリがそれぞれ弁明書を提出し、恐らくだが、S.M.S.のジェフリー・ワイルダー艦長が働きかけてくれたというのが話の本筋だろう。その取り決めの内容をコクウがニルヴァーナクルーを集めての説明会での趣旨だった。
コクウ「というのが経緯だ。まとめると、こちらの停泊時間は本日より96時間。この間に搬送などを含めた時間に当てる。それほど急ぐ必要はないからゆっくりやる。その間の非番のクルーは基本的に自由時間だ。外出の際には武器の持ち出しの一切は不可。喧嘩しない。面倒事も勘弁だ。所定の時間までに戻れよ」
ジュラ「そんな事言われたって、別にしたいことなんかないわよ」
コクウ「別にかまわんが、マクロスは娯楽にはこだわってるからな。食事や服、化粧品なんかは随分と揃ってるぞ? 金については多少融通は利かせてもらってる。こちら側に随分有利なレートで交換して貰えることになったから買い物に行く奴はガスコーニュかパルフェに言えばいい」
ジュラ「え!? 本当!?」
コクウ「ああ。見るものもあるし、珍しいものもある。観光スポットもあるからな。見ておいて損はないと思うぞ? 時間が合えば、俺とリーリが多少案内してもいい。それに、S.M.S.からガイドも来てくれるって話だ」
メイア「ガイド?」
コクウ「ああ、ガイド。珍しすぎるものがあるんでな。引率に一応頼んでおいた」
バーネット「何よその珍し過ぎる物って」
コクウ「不公平だから言うのは止めておこう。お頭と副長が驚きで声を失ったような代物が見れるぞ」
ヒビキ「親方と副長が? そりゃおもしれーな! 男の威厳って物、見せてやんぜ」
コクウ「俺は今からそれを見たときのヒビキの行動が目に見えるよ」
 ヒビキがゼントラーディを目の前にして気絶してしまうと言うのはコクウの予想の遥か上を行ってしまうのだが。まぁ、そんな話をしているうちにニルヴァーナの格納庫内に輸送機に乗ったS.M.S.のメンバーが引率役にやってくる。こちらの状況は正確に伝えたのでまぁ、その辺は気を使ってくれるだろう。・・・・・・・・・と、コクウは思っていた。
 降りてきたのは眼鏡をかけた男性だった。耳を見る限りゼントラーディの血が混じっているのかもしれない。
ミシェル「皆さんこんにちわ。皆さんの引率役を仰せつかったミハエル・ブランです。ミシェルと呼んでください」
 後ろからも何人か降りてくる。だが、コクウはこのミシェルと言う人物を目の前にして言葉を失った。
コクウ(全く通じてなかった・・・・・・・・・。ヤバイ! こいつ絶対種馬だ)
 コクウは下を向いて脂汗を流している。どうしようかと策を練ろうとした最中、ミシェルの背中を蹴っ飛ばす人間がいた。
???「止めぬか、馬鹿者が!」
 子供だった。どう見ても子供。10歳程度の女の子だ。どこかで見たような気がするが・・・・・・・・・。その女の子はミシェルをしばいた後にテクテクテクとコクウのまん前にやってくる。
???「すまんな。女ばかりの船と聞いたのでどうしてもミシェルの馬鹿が行くと言って聞かなかったのだ。だが、私が目を光らせているから大丈夫だ」
コクウ「ちょっと失敬」
???「は?」
 コクウはその少女の額の前に手をかざした。その行動に面を食らった少女だったが、直ぐにコクウはその行動で何かを掴み取った様子だった。
???「・・・・・・・・・な! 何をする!!」
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・クラン・クランとまったく同じリズム。・・・・・・・・・君はもしかしてクラン大尉の双子の妹?」
クラン「ば、バカを言うな!! 私がクランだ!」
 今度はコクウが面を食らう番だった。
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は? S.M.S.で会ったゼントラーディのクラン・クラン大尉が君だって? ・・・・・・・・・まぁ確かに兄弟でも双子でも同じリズムはありえないからそうなんだろうけど? マイクローン化すると写真写りが幼くなるって言われない?」
クラン「うるさぁああーーいっ!」
ミシェル「信じて貰えるだけましだろうがクラン。マイクローン化したお前を見て、一言で信じてくれるような人間は貴重だぞ? まぁ、お前はそのお兄さんの観光を担当してやってくれ。俺はこっちのお嬢さんたちを」
コクウ「・・・・・・・・・クラン、アレをほうっておいたらうちのクルーが手篭めにされそうなんだが?」
 マイクローン化如何こうという問題は2人の仲で一瞬で解決された。些細な問題と言うことなのだろう。それ以上に目の前の男があまりに危険でどうしようかと考えていた。
コクウ「更に不幸なことに、俺はこれから精密検査だ。それが終わるまでは行動できない」
クラン「安心しろ。コクウ、あいつの手綱は私が握る。間違ってもあいつを自由にさせたりはしない」
コクウ「頼む。お前しか頼れん。この借りはいつか必ず返す」
 そういうとがっちりと2人は握手をした。2人がこんな茶番をしているともう一人の男が遅れて輸送船から降りてきた。随分と厳ついファンキーな男に見える。また男かとコクウは少々うなだれたが、その心情を察してかクランが補足をする。
クラン「彼はボビー・マルゴ大尉。男だが、彼は大丈夫だぞ。格好は随分と軽い感じがするが女に手を出すことは絶対にない」
コクウ「へぇ。クランがそう言うならそうなんだろうけど、良くそこまで断言できるな」
クラン「出来るさ。彼は・・・・・・・・・」
 と、クランが説明するよりも向こうがコクウの前に寄って来るスピードのほうが速かった。
ボビー「はじめましてぇ。私、ボビー・マルゴ。マクロス・クォーターの操舵士よぉ。あなたがコクウ・ブラックね。一目でわかったわ。戦闘のときはありがと。バジュラ母艦を単機で落とすなんて信じられなかったわよ」
コクウ「・・・・・・・・・あ、ああ」
クラン「大尉は女に興味はない」
コクウ「成程。こりゃ安心だ。・・・・・・・・・ガイドはこの3人か?」
クラン「案内役も込みだけどな。マクロス内部では学生のボランティアも数人頼んであるし、お目付け役にキャシー中尉も来る」
コクウ「そうか。・・・・・・・・・じゃあ、よろしく頼むな。・・・・・・・・・特にアレから目を離さないでくれ」
クラン「約束だ」
コクウ「おう」
 この船のクルーのほとんどが輸送船に乗ってマクロス観光へと向かった。今残っているクルーも直ぐに非番が回ってくるようなタイムテーブルは組んでいる。何か問題があっても直ぐに管理の人間に繋がるように工面もした。問題ないだろう。全員を見送ってから少し遅れてやってくるはずの船をコクウは待っていた。そんな中、やってきたのはマグノとガスコーニュがコクウのそばによってくる。
ガスコーニュ「黄昏が似合うねぇ。写真に撮りたいくらいさ」
コクウ「茶化さないでくれ。それに黄昏じゃないさ。ただナーバスになっているだけ」
マグノ「あんたがナーバスになるような神経を持ち合わせているとは思えないけどね」
コクウ「皮肉をどうも。それよりも、本当なら俺が引率するべきなんでしょうが外部に頼むことになってすいません。お頭達に要らぬ気苦労をかける形になってしまって」
マグノ「あんたが謝ることじゃないよ。あんたが言ってくれなきゃ補給もままならなかったんだ。しかも、入院検査は交換条件だからね。こっちが心苦しいくらいさ。検査が終わったら戻ってこなくて良いよ。知人と古い話でもゆっくりしてきな」
コクウ「・・・・・・・・・はい」
 コクウが返事をしてから直ぐに、輸送船がやってくる。手荷物ひとつなく、コクウはその輸送船に乗り込んだ。この2人は恐らくコクウの見送りにわざわざ来てくれたのだろう。


 随分と閉鎖的な病院の一室。2日に渡っての検査と言うことでコクウには病室が宛がわれていた。検査着を渡されてそれに着替えてからは病院の中をただ歩き回る。一通りの検査項目から随分と特殊な検査もやらされた気がする。それを終えてからやっと小休止が貰えた。まだまだ検査は続くのだそうだ。少々げんなりとした気分で座っているとその隣のベンチに髪の長い青年が座っていた。髪が長いのはコクウも同じで別に珍しいとは思わなかったが。コクウがその青年を見ていることが気づいたのだろう。その青年が口を開いた。
???「あんたもバジュラのせいで検査入院って口か?」
コクウ「? その声は聞き覚えがあるな。・・・・・・・・・母艦に突っ込んでいったオズマの部下か?」
アルト「!! あ、ああ。あんたあのときの侍型のロボットに乗っていたパイロットか?」
コクウ「おう。その調子じゃ大事無いみたいだな。もう一人のパイロットは?」
アルト「ルカは問題ない。打ち身が少しあるくらいだ。・・・・・・・・・っと、あんたの名前教えてくれないか? 俺はアルト。早乙女アルトだ」
コクウ「俺はコクウ・ブラックだ。・・・・・・・・・早乙女? あの早乙女か?」
アルト「・・・・・・・・・親父は関係ない。もう家とは縁を切った」
コクウ「そうかい。俺は部外者だから、その話題には触れないさ。だが、俺にはうらやましく思えるけどな。縁の切れる家があると言うことに」
アルト「?? あんたは」
コクウ「俺は天涯孤独さ。親の顔も覚えていない。更に言えば4年以上前の記憶もない。親兄弟がいるのかいないのか。さっぱりだからな。・・・・・・・・・っと、別に僻んでいる訳じゃないからな」
アルト「ああ、わかっている。遅くなったけど礼を言わせてくれ。あの時は助かった。あんたが来てくれなければ俺もルカもきっと死んでいたと思う」
コクウ「それがわかっているなら十分だ。・・・・・・・・・しかし、その後で不必要なくらいにオズマに叱責されたろう? あいつの説教は長いからな。そっちのほうに同情したくなるね」
アルト「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。長かった」
 どこか悲壮感を帯びながらアルトは答えた。その様子を見ながらもコクウはイヒヒヒと笑うだけだったのだが。
コクウ「だが、あいつを恨んでくれるなよ。オズマはあれでいて部下想いだからな。あの時だって自分の地位と個人の狭間で悩みぬいていたんだから。俺はあくまであいつの代わりだったってだけだ」
アルト「・・・・・・・・・・・・・・・・・・隊長の実力は良くわかっている。たとえ助けが来なかったとしても・・・・・・・・・死にたくは決してないが、納得できると思う」
コクウ「ま、答えとしては及第点だな」
アルト「あんたは隊長とどうやって知り合ったんだ?」
コクウ「唐突だな。そんなこと聞いて楽しいか?」
アルト「暇つぶしかな? 此処は退屈すぎて」
コクウ「それはまぁそうだな。隠してるわけじゃないから良いけども。・・・・・・・・・4年前にマクロス・フロンティアの進行先に突如現れた隕石郡のニュースを覚えているか?」
アルト「あ、ああ。しかし、その現象自体が奇異だって話で終わったはずだけど」
コクウ「その中からえらく傷ついた人間が発見された。ものすごい微弱な救難信号を伴ってな。・・・・・・・・・それがこの俺、コクウ・ブラックだ。隕石郡の中をそのときの当直担当だったオズマが上の命令を無視して俺を助けてくれた。それから俺が全快するまで面倒を見てくれたんだ。・・・・・・・・・あいつへの恩は今回の戦闘でのことくらいで返せるとはとても思っちゃいないのさ。単純話せばそういう関係だ。向こうはどう思っちゃいるか知らんが、俺は親友だと思っている」
アルト「・・・・・・・・・初耳だよ。あそこで生存者がいるなんて」
コクウ「ま、そういう風にフロンティア政府が報道しているんだけどな。別に問題ないと思うんだけども」
 コクウとアルトが話をしていると向こう側からこちらに向けて駆けてくる女性と女の子がいる。表現は正しいはずだ。一人は成人した女性。もう一人はやや未発達の女の子だ。
???「・・・・・・・・・アルト君!」
???「アルトォー!」
 双方共に随分と魅力的だろう。その辺の男ならば声をかけずにいられないほど魅力的だとは思う。こんな殺風景な病院の中で随分と色々しい光景だと思う。
コクウ「2人とはもてるんだな。アルト」
アルト「え!? あの2人はそんなんじゃ」
コクウ「・・・・・・・・・? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!」
 と、2人がアルトの前までやってくるとその2人は今しがた迄話していたコクウを一瞥する。コクウを一見しての反応はなぜか双方分かれていた。
シェリル「何アルト、こんな美人と話すよりも男と話しているほうが面白いって感じね。もしかしてアルトってそっちの人?」
ランカ「え!! あの、コ、コクウさん!?」
コクウ「久しぶりだな。ランカ」
シェリル「何? この人、アルトとランカちゃんの知り合いなの?」
ランカ「久しぶり! コクウさん」
 ランカがコクウの手を両手で握って感極まった様子で表情がほころぶ。彼女の髪がパタパタと揺れるのは感情が高ぶったときだけに見られるものだとコクウは知っている。
コクウ「ああ。久しぶりだけど、何でこんなところにいるんだ?」
 その質問にアルトが答える。
アルト「ランカもバジュラと接触があったんで。数日前にバジュラがフロンティアに攻め入ってきたときに」
コクウ「災難にあったんだなぁ。しかしま、見たところ五体満足みたいだし不幸中の幸いだな。良かった良かった」
シェリル「何この軽そうな男。アルト、紹介しなさい」
アルト「俺だって顔を合わせるのは今この場所が初めてだ。詳しく知っているわけじゃない」
 アルトの言葉を受けてコクウはその言葉に納得してからちょこんと手を上げてシェリルに挨拶をする。
コクウ「俺はコクウ・ブラック。アルトとは前のギャラクシー船団防衛戦で知り合った。ランカと知り合いなのは・・・・・・・・・ランカの兄のオズマと仲が良いからだ」
シェリル「あなたもS.M.S.のパイロットなの? そうは見えないけど?」
コクウ「その通り。俺はS.M.S.じゃない。所属は外部だね。参戦したのはちょっとした個人的な理由さ。っていうか、あなたの名前聞かせてもらえるかな? 美人さん」
シェリル「あら、私も自己紹介しないとダメ?」
コクウ「それが礼儀ってものじゃない?」
シェリル「そういう意図での言葉じゃないわ。わからない?」
 シェリルのどこか挑発的な言葉を受けてコクウはそのシェリルの顔を見てから数秒考える。
コクウ「そういえばどこかで見たことがあるような。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・! シェリル・ノームか?」
シェリル「あは、正解! 私がシェリルよ。常識は持ち合わせているのね♪」
コクウ「なんとまぁ妖精さんと顔見知りになれるとはな」
シェリル「まだ顔見知りになるとは言ってないわよ?」
コクウ「あんたは聡明そうだから一度話した人間の顔なんて忘れないだろ?」
シェリル「あら、上手い返しね。いいわ。じゃ、顔見知りになってあげる。光栄に思いなさい。サインくらいは優先的にしてあげるわ」
コクウ「残念ながら俺はファイヤーボンバーの方が好きなんでね」
シェリル「軟い風貌の割には随分と言うわね」
コクウ「なら、今後の活躍で俺を魅了して見せればいいだろ? 魅了されたときにはサインを貰うために頭を下げに行ってやるよ」
シェリル「いいわ。今に見てなさい。絶対に忘れないからね。コクウ・ブラック」
 歯に物をきせないコクウの発言に不敵な笑みを浮かべるシェリル。少しハラハラするアルトにコクウ節を久しぶりに聞いてどこか笑顔になるランカだった。
 アルトがランカにコクウについての話を聞く。まぁ、退屈ついての話の種程度の心境なのだろう。
アルト「そうか。あの人はランカや隊長と少しの間一緒にすごしていたのか」
ランカ「うん。半年くらいね。家に来たときは怪我は治ってたみたいなんだけども、リハビリが必要なくらいで普通の生活も出来なかったんだよ」
アルト「へぇー」
ランカ「でもね、コクウさんとっても明るくって料理もとっても上手で色々教えてくれたの。お兄ちゃんがお友達を家に連れてきたことなんて滅多にないんだけども、コクウさんだけは悪友だって言うくらいなんだよ」
アルト「あの隊長がねぇ」
コクウ「こぉーら、ランカ。あんまり人の過去をベラベラ喋らない。あんまり喋ってるとその報復にランカの嬉し恥ずかしい過去をアルトに教えちゃうぞ?」
ランカ「え゛!? や、あの、ごめんなさい」
シェリル「あら、私は聞いてみたいなぁー。ランカちゃんの恥ずかしい話」
ランカ「シェリルさんまで」
コクウ「大丈夫。恥ずかしい話はランカの結婚式で暴露するって決めてるから。そんな楽しみがあるんだから、それまでしっかり取っておく♪」
ランカ「・・・・・・・・・絶対にコクウさんは呼びません」
コクウ「結婚式に乱入する男。・・・・・・・・・一度やってみたかったんだよね」
ランカ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、ばかぁぁあああ!!!」
コクウ「あははははは。相も変わらずからかい甲斐があるなぁ」
 こんな和気藹々と病院内で話をしていたら当然ながらに注意をされてしまう。だが、これで退屈すると言うことはなくなった。寝る前など、空いた時間はアルトたちと共に談笑しながら時間をつぶすことになる。




スーパールート 第参話『敵を知らず、己も知らず』 中編へ

スーパーロボット大戦・涅槃U Index