粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

リアルルート 第弐話 『遺志ふたつの邂逅』 後編


第弐話 『遺志ふたつの邂逅』 後編


 少し時間がさかのぼる。先行したソースケもリミッターを外す事にした。
ソースケ『アル、ハンデの時間は終わりだ』
アル『了解! 状況確認に入ります。・・・・・・・・・待ちくたびれました。軍曹』
ソースケ『そう言うな。・・・・・・・・・状況はあまりよくない。こっちの担当は不知火級戦術機3機。火器は消失した』
アル『やはり、軍曹には私がいないといけませんね』
ソースケ『減らず口は止めないと貴様の場所に新たにパッシブレーダーを備え付けるぞ?』
アル『了解しました。黙ります』
ソースケ『まぁいい。向こうはスペックを最大限に活用できる新型のOSを組み込んでいる』
アル『映像データ確認しました。データとして保有している不知火データと比較中。・・・・・・・・・・・・・・・・・・比較して機動力35%増。反応値は26%増です。これは非常に画期的なOSと言っても過言ではないでしょう』
ソースケ『同感だ。しかも、頭が痛い問題として乗っているのが素人ではない。その画期的OSを使用しても奢るような人間ではないと言うのが最大の問題だ』
アル『成程。心理的なトラップには引っかかりにくいと。・・・・・・・・・ですが、私と軍曹のコンビならば』
ソースケ『そうだ。やってやれないことはない。・・・・・・・・・セツヤさんとのあの戦争に比べれば、彼ならばこのくらいの窮地は』
アル『笑って刳り貫けます』
ソースケ『先に言うな!!』
 ソースケとアルのコンビ。これは誰も文句の言えないほどのコンビだった。ネージュですらもこの2人を相手にして勝てる絶対的な自信などはわいてこない。卓越したパイロットで経験も豊富であるソースケとウィスパードが生み出した最高の人工AIアルとのコンビは2つで1つの生物として機能する。それが目の前で繰り広げられた。
 戦闘は涼宮機。レーヴァティンがから模擬ナイフを取り出したソースケはアクロバティックな動きを追うのではなくアクロバティックな動きに付いて行く。弾幕の中、涼宮の周辺だけが唯一の安全地帯であることは変わらない。ならば、ここから突破するしか方法はない。こっちがナイフを装備したのを見て、涼宮機が74式近接戦闘長刀を引き抜いた。こっちが構えるのと同時に74式近接戦闘長刀を振り下ろそうと言う腹なのだろう。だが、まともに相手などは出来ない。ソースケ特有の戦闘方法であるがそのナイフをコックピットに向かって投げた。投げナイフが完璧に不知火のコックピットに向かうがそれをOSが許さない。飛翔してそれを避ける。だが、ソースケはその動きに付いていっていた。共に飛翔する。しかも、しっかりと援護機の死角になる様にだ。ここで、ソースケはあることに気付いた。
ソースケ『アル、この敵のOSはある種の自動回避装置がついているな』
アル『肯定です』
ソースケ『その脅威はどうやって選定すると思う? 列挙しろ』
アル『了解。・・・・・・・・・脅威の設定をしているものと考えます。まず、無条件で回避状態に入るもの。次に戦闘状態において視野内にある脅威を視認した場合、回避に移るものと考えます』
ソースケ『・・・・・・・・・その確立は?』
アル『68.4%です』
ソースケ『3分の2か。なら、やる価値はあるな』
 ソースケは更に涼宮機と隣接する。そして、涼宮機の顔面に向けて繰り出した。殴ったのは右腕。左腕では長刀を相手の握った拳の上から更に握る込み、押さえ込んでいる。その瞬間にソースケは叫んだ。
ソースケ『今だアル!!』
 ロボットアーム。レーヴァティンに備え尽いているAI戦闘の補助腕。ユニットから取り出したダガーで不知火の喉を貫いた。これでそのまま、ソースケは動かなくなった不知火の腹部を蹴って軌道を変える。
アル『まず1機です』
ソースケ『まだだ。今のは涼宮機。残りは宗像機と柏木機が残っている』
アル『強敵ですか?』
ソースケ『宗像機が厄介だ。ボクサーが残っていれば戦り様はあったがもう近接戦などやらせてくれないだろう。ラムダドライバの使えないこの状況では、まず最悪と言っていい』
 そうこう喋っている間にも遠距離射撃が熾烈さを増す。
アル『・・・・・・・・・このままでいるよりは良い方法があります』
ソースケ『・・・・・・・・・言え』
 ソースケとアルの話の最中も宗像、柏木は心中穏やかではなかった。
宗像(いくらサガラ相手でもXM3を使った機体に乗った茜が遣られるなんて・・・・・・・・・。それに、どういう訳だかレーヴァティンの動きも良くなっているように思える)
宗像『こちらヴァルキリー3。ヴァルキリー6応答しろ』
柏木『こちらヴァルキリー6』
宗像『分かっているな? 向こうは火器を消失している。無闇に近づくな。サガラとの近接戦闘は絶対にダメだ』
柏木『了解』
宗像(だが、サガラは絶対に黙っていない。何か仕掛けてくるな)
 その宗像の予想は綺麗に当たる。2機がじりじりとソースケを追い詰める。だが、2機でそれをこなすと言うことは片方が前。もう片方がその前とある種のパターンで責めてくる。ソースケはそのタイミングを読んで対応していた。次柏木が前に出る。そのタイミングに仕掛けてきた。柏木が前に出た瞬間に突撃を開始する。突撃と言ってもそんな単純なものではない。木々を足場にして跳躍してくる。アームスレイブの行う機動としては驚くべきものだ。だが、宗像も対応する。その動きを読んでの射撃。恐らく、装甲に幾らか被弾はしているだろう。だが、それはコンピュータ判断で深刻なものではない。そして、ソースケは取り付いた。柏木機にだ。武装に反応するOS。ならば武装しなければ反応しない。その隙をソースケとアルは突いた。柏木に慣性力の残ったまま激突。その瞬間に両の腕を押さえ込んだ。ここまでは先程の涼宮機にとった戦法と同じだ。だが、ここからが違う。補助椀が動く。その真後ろにいる宗像機に向けてレーヴァティンの装備していた手榴弾の全てを放り投げた。
宗像『!?』
 宗像の意思と関係なく回避プログラムが作動。宗像機が真後ろに跳躍する。そして、爆発。煙が立ち込めた。この瞬間を待っていた。柏木機が盾となってレーヴァティンは爆発のダメージはない。この瞬間に柏木機をソースケ得意の近接戦闘で武器を奪ってからのナイフで急所を突いて終わらせる。この間に10秒と掛かっていない。
アル『2機目』
ソースケ『まだだ。難関が残っている』
 まだ煙が残っている。宗像が迎撃後衛(ガン・インターセプター)ならば体勢を立て直すはずだ。ならば、今は姿を隠すことが重要と思った矢先だった。煙の中から現れたのは宗像機だった。
宗像『ぅおおおおおおおお!!!!』
 しかも、追加装甲をまん前に押し出して突っ込んできた。こちらの位置を正確には把握していないはずなのだが、ソースケも完全に面を食らった格好になる。
アル『敵突進による衝撃。左腕アクチュレータ破損です』
 左腕が動かなくなった。だが、なぜ自分の正確な位置が分かったか流石のサガラも理解できない。だが、今は理解よりも行動だった。ここまできたら死んでも負けたくない。体を逸らしてその突進を受け流す。受け流そうとしたが慣性が強すぎて自分も体勢が崩れてしまった。セツヤやネージュならばもっと上手くやっただろう。そう思ってソースケは少し笑ってしまう。
アル『軍曹?』
ソースケ『なんでもない。自分もまだまだだと思っただけだ。・・・・・・・・・残りの武装は?』
アル『対人兵器を除けば対戦車ダガー2本のみです』
ソースケ『対して向こうの武装はたんまりか。嫌になるな』
アル『ですが、やるしかありません』
ソースケ『ああ、そうだ!』
 向こうが起き上がる前に行動しなくてはいけない。間違いなく、次距離をとられたら負けなのだ。半歩、レーヴァティンの方が速かった。だが、ソースケとほぼ同じ思考を持っていた宗像は後方に飛び跳ねる。その跳躍にソースケも追従する。もう離れるわけにはいかない。両機の間には距離にして10mない距離。その距離を悔やむかのようにソースケは虎の子のナイフを一本投げた。それが宗像機の頭部に当たるが撃破には至らない。その瞬間に宗像は120mm突撃砲をこちらに向けて構えていた。もうこの距離ならば照準などは必要ない。そして、宗像機のOSももうナイフの回避は出来ないだろう。ソースケの最後のナイフ投擲と宗像のトリガーを引くタイミングはほぼ同時だといっても良いだろう。ナイフはコックピットに120mm砲はレーヴァティンの胸部に当たったという設定でこちらの戦闘は終了した。


 最後に残った場所。ハデスと伊隅だった。この2人の戦闘は終わることはなかった。ハデスが未だに新型OSの特徴を掴みきれていないと言うこともあるが、双方共に内心楽しんでいたからだ。ハデスは不知火の特異な機動とその回避運動のバリエーションに。伊隅は対空戦におけるハデスの器用さに共に感嘆していた。
ハデス『戦場では会いたくないねぇ。伊隅大尉!』
 すでにミサイルを全弾発射してミサイルパックをパージしたグラウの武装はビームアサルトライフルとサーベル、いくつかの固定武装のみだ。だが、それでも使う人間が使えば随分と楽しいことになる。森林の真ん中に大きな穴が開いていた。その中で伊隅も回避運動を試みながらも反撃をしていた。
伊隅『そのアクロバッティングな体勢からの反撃!? フフ、まだ開発して間もないOSだというのにこれほど見事に対応してくる。動きがしっかりと見えているのか』
 本来ならば空からの攻撃を行っているハデスが圧倒的に有利だ。だが、時間をかければ5分かそれ以上にまで持ち込めるとは思うが、現段階で陸で伊隅と戦闘する気にはなれない。見えるし、対応も出来るとも思うが翻弄したら負ける。そのくらいの強敵だった。かれこれ10分程度の戦闘。だが、この戦闘は終わる。真後ろから現れたグリューによってだ。
伊隅『リューデルメ機!?』
ネージュ「終わりだよ! 大尉!!」
 もうネージュの頭にはこの新しいOS、XM3の対応策があった。緊急回避運動をパイロットが任意で解除できるというこのOS。画期的だし素人をあるレベルにまで持っていくには最適だとも思う。だが、人間はそれすらも利用する。発砲。そして、伊隅機が回避する。その回避の瞬間、キャンセルをするまでの間。この間にはパイロットの意思が及ばない。この瞬間は卓越した技術を持つネージュにとっては正に恰好だった。上部からのハデスの援護射撃。無残にこれに当たった伊隅はここでゲームオーバーになる。戦闘訓練はここで終わった。
シャンディ『戦闘訓練終了します。各機、帰等してください』
ネージュ「了解。・・・・・・・・・あれ? シルフ、ウルズ7は?」
シャンディ『ウルズ7は撃破されました』
ハデス『マジか』
ネージュ「うわ。ソースケやられたんだ。そりゃ凄い」
シャンディ『正確には宗像機と相打ちですけどね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、それと早く戻ってもらえますか?』
ネージュ「え? 何で?」
シャンディ『ものすごい形相の香月副指令に睨まれていますから』
ネージュ「あはははは、了解。直ぐ戻るよ」
 やられた筈になっていた伊隅機も立ち上がる。
伊隅『全く、今日の訓練は気が重かったんだがな。どうやらそんな心配は要らなかったようだな。我々もまだまだだ』
ネージュ「お話は戻ってからにしましょう? けど、楽しかったですよ?」
伊隅『楽しいか・・・・・・・・・。そうだな、帰還しよう』
 各機がやられた振りをやめて戻る。まぁネージュにとっての戦いはここからなのだが。


 憮然。まぁ、この表現が一番合うだろう。怒っているのは当然香月副指令だ。一方ネージュはニヤニヤとして香月の目の前にたっている。それが一層彼女の機嫌を損ねるのだが。
夕呼「よくやってくれたわね。おかげで貴重で腹立たしいデータが取れたわ」
ハデス「どうも」
ソースケ「恐縮です」
ネージュ「うんうん。いい事した後は気持ちがいいよねぇ」
夕呼「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それで? いつから知っていたの? 天才の私にいい度胸よ」
 そう言われてハデスとソースケがネージュを見る。一番に気付いたのはネージュなのだから当然と言えば当然だ。
ネージュ「うーん、いつって言われれば気付いたのは初めからかな?」
夕呼「初め?」
ネージュ「はい。一番初め。この話が来たとき」
シャンディ「そういえばネージュ、車の中で言っていたもんね」
夕呼「この模擬戦闘をする前から新兵器が出てくることを感づいていたの?」
ネージュ「はい」
夕呼「・・・・・・・・・・・・・・・・・・成程ね。言われれば確かにそうだわ。あなた達ほどのパイロットなら機体の運用法まで逐一知っている。ある程度試験前から結果を予想できていたってこと?」
ネージュ「まぁ、そうですね」
夕呼「・・・・・・・・・・・・・・・・・・よく分かった。その件に関してはもう良いわ。それで、どう思ったOS。プロフェッショナルな意見を聞かせて頂戴」
ソースケ(前向きだな。指揮官としては頼り甲斐がある)
ハデス「文章にも纏めておきますので、ここでは我々個人の意見を述べようと思います」
夕呼「そうね。そうして」
ハデス「はい。まず、自分ですが非常に実用的で画期的なOSだと考えます。戦闘中の感想と戦闘してからの反芻ですが、あれは有用なモーションをパターン化してそれをパイロットが常時選択するという機能を持ち合わせていると推察します。これを用いれば素人が乗り込んだとしてもそれなりの実力を発揮できます」
夕呼「そんなことは分かってるの。私が聞きたいのはXM3を用いる敵に対してあなた達がどう対処したのかということ。真っ当な相手ならばこちらの損害はほぼゼロというのが普通だったのに、旧式の基本ソフトであなた達はそれを凌駕した。つまり、何かしらの対処法がある。それを聞きたいの!」
ハデス「・・・・・・・・・自分は有利な戦況で伊隅大尉を相手にしましたので、如何せん未だに見出せていません。しかし、ネー・・・・・・・・・リューデルメとサガラなら」
 ハデスの言葉を受けてキッと夕呼が2人を睨む。
ネージュ「弱点ですか・・・・・・・・・。基本良い方向にスペックアップですからね。旧式と比べれば対応のし難さは言うまでもないくらいに難しくはなっています」
夕呼「それをあなた達はどう対応したの? いえ、対応するだけでなく撃破したということはそれなりの弱点があるということでしょ?」
ネージュ「?? ・・・・・・・・・ないですよ?」
夕呼「ならどうやって撃破したの!?」
ネージュ「相手の動きと思考に合わせたんですよ。・・・・・・・・・弱点と呼べるほど顕著なものじゃないですけど、あのOS、XM3でしたっけ? あれはモーションを選択してその選択肢をある程度操作できるって言う代物なんですよね? しかも、モーションの選択肢には優先順位がある。これは読めました。なら、読みやすい状況に追い込めればこちらの思い通りの動きをさせることができますから、その裏を読むのは簡単です」
夕呼「?? どういうこと?」
ソースケ「自分もリューデルメと同じような行動を取りました。相手を反応値や機敏さはあくまで向こうが上だった。これに対応するには圧倒的な火力というのが当たり前な選択しですが、あの場にはそれもありませんでした。残る選択肢は動きを読んでその裏をかくしかないということになります。ならば、その動きをさせるにはどうすれば良いかということを考えるのが当然の選択肢です」
夕呼「・・・・・・・・・・・・・・・・・・成程ね。こっちの予想の上を行く動きであるモーションを引き出したということか。これは対人戦に特化したパイロットでないと出来ないことね」
ソースケ「肯定です」
ネージュ「まぁ、そうですね。・・・・・・・・・あと、あのモーションはもっと洗練した方が良いですよ? 多分だけどあの機動の基盤となった人間がいるはずなんですけども、もっと別な人間からもモーションデータ取らないといずれ読まれますよ?」
夕呼「言ってくれるじゃない」
ネージュ「えへ・・・・・・・・・褒め言葉と受け取っておきます」
夕呼「・・・・・・・・・あーあ、もう負けよ負け!! プライドズタズタだわ! あなた達の泡吹く顔が見れると思ったのに」
ネージュ「私たちも意地悪には慣れてますからねー。もっと用意周到でないと」
ハデス「それはお前だけだろうが」
ソースケ「肯定です。軍の人間ならば必ず引っかかります」
夕呼「・・・・・・・・・ふう、もう行っていいわよ。必要書類の作成と伊隅たちとの反省会だけはお願い」
 3人が夕呼に敬礼をすると部屋を出て行く。


 デジャブだろうか、また一番初めに突っかかってきたのは涼宮茜だったりする。柏木に静止されながらもつばが飛ぶくらいの近距離でまくし立てられる。
柏木「止めなってば!」
茜「何なのよ!! 何なのよあれは!! 補助腕でナイフ突き立てるなんて聞いたこともない! 反則よ!!」
ネージュ「うわ、悲惨」
ハデス「だなぁ。悪意がないだけ対処も難しい」
ソースケ「いえ、あの、・・・・・・・・・申し訳ありません少尉殿」
茜「謝るんじゃないわよ!!」
宗像「こら、まくし立てるな茜。サガラの近接戦闘能力が優れているのは分かっていたはずだ。無闇に攻めたお前にも責任がある」
茜「うっ・・・・・・・・・」
宗像「まぁ、サガラとは体裁的には引き分けだがそんな気分にはなれないな。数的不利に火器消失。近接であそこまで粘られたら実質我々の負けだ」
ソースケ「いえ! 中尉殿の突進は自分の予想の上を行くところでした。あの判断は感服に値すると考えます」
宗像「中尉殿は止めてくれ。だが、サガラに言われると悪い気はしないな」
ソースケ「はっ、ありがとうございます!」
速瀬「問題はそこじゃないでしょ」
宗像「まぁ、そうなのだがな」
速瀬「あんたら、隠してたな?」
ハデス「それはお互い様でしょう? 速瀬中尉」
風間「まぁ、そうなんですけどね。なまじ事実ですから、まともな反論も出来ないですし」
速瀬「いいや、こいつ等の方がタチ悪いわ! 特に・・・・・・・・・フローレンス!」
ネージュ「ほえ!?」
速瀬「あんたは機体性能だけじゃなく、実力も隠してたな!? 近接戦もむっちゃ強いじゃないの!!」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・てへ♪」
速瀬「・・・・・・・・・くぁ・・・・・・・・・。ムカつく。これほど腹立ったのは宗像に寝込みを襲われて以来ね。それで?」
ネージュ「にゃ?」
速瀬「色々聞きたいことあんのよ。機体の移動の思案方法とか。状況判断から色々と」
風間「私にも教えてもらえるかしら?」
柏木「ああ、私も聞きたいです」
 このあと、直ぐに伊隅も合流して予定時間を大幅に過ぎてネージュたちは戦術を教えれるだけ教えた。飲み込みも理解度も速く、彼女たちは技術を吸収してくれるだろう。


 翌日の昼にネージュたちは横浜基地をお暇することになっている。ハデスとシャンディはラダビノッドと酒を飲み交わしているだろう。酒の肴がサイードなのだ。さぞ話に花を咲かせているだろう。ソースケは未だに速瀬、宗像両中尉に捕まっている。確かにソースケの近接戦のスキルは貴重だ。取れるだけデータと批評を聞いておきたいというのが本音なのだろう。正直ネージュはこの横浜基地という場所は結構気に入っていた。セツヤから受け取った技術は正直に言えば非常に伝播しにくいものが多い。その中で、この伊隅ヴァルキリーズの面々は貪欲にネージュの技術を吸収しようとする。してくれる。これはネージュにとって非常に嬉しいことなのだ。セツヤが昔言っていた・・・・・・・・・。
『技術の一片でも伝えられうることは喜びだよ』
 その言葉の意味が今なら分かる。確かに喜びだ。嬉しいと思う。セツヤの息吹が伝わることがだ。
 ネージュは横浜基地の屋上から下を眺めていた。ランニングしている訓練生がいる。恐らく衛士候補生というものなのだろう。この模擬戦闘を受けた最大の理由。第207衛士訓練部隊。それをネージュは眺めていた。そして、その中に見つけた。彼の忘れ形見。いわばネージュにしてみれば弟と言っても良いだろう。会ったことのない弟だ。いてもたってもいられなくなったネージュは思わず下に降りていく。恐らく教官なのだろう。ネージュを見て敬礼してくる。つられてネージュも敬礼する。その女の教官がこちらに寄ってくる。
神宮司「失礼ですが、何か御用でしょうか?」
ネージュ「へ!? いえ、あの・・・・・・・・・ちょっと、知人の知人がいたもので」
 流石に唐突でネージュも面食らったようだった。
神宮司「知人の知人?」
ネージュ「あ、ごめんなさい。退散します」
神宮司「いえ、もう直ぐ終わりますので。少しお待ちください」
 ネージュが外部の人間だと知っているのだろう。この教官は優しい表情でネージュに接していた。その教官が言った通りに訓練が終わる。親切にも教官が1つ礼をするものだから、つられてネージュも頭を下げた。そして、ネージュは目論見の人物に向かっていく。その青少年の前に出る。・・・・・・・・・彼の面影はない。当然だろう。血が繋がっているわけではないのだ。それは自分もそれと同様ということに思い至って少しナーバスになる。だが、その青少年はネージュを知っているわけがない。逆に首を傾げてから口を開く。
ジュリアス「・・・・・・・・・あの、自分に何か御用ですか?」
 突然に言葉を投げかけられて、はにかんでからネージュも口を開く。
ネージュ「・・・・・・・・・うん。用って言うか。会いたかったって所かな? こんにちわ。はじめまして。ジュリアス君」
ジュリアス「自分の名前を? 失礼ですがどちらの方ですか?」
ネージュ「私はネージュ。愛称だけども君にはそう呼んで欲しいな。本名はフローレンス」
ジュリアス「フローレンスさん?」
ネージュ「ネージュで良いってば。違うね。ネージュって呼んでよ」
ジュリアス「・・・・・・・・・はぁ。それで、ネージュさんは自分にどういうご用件ですか?」
ネージュ「だから、会いたかったんだって。・・・・・・・・・私は・・・・・・・・・君のお姉ちゃんです」
ジュリアス「!!? えっと、唐突ですね。どういう意味ですか? 自分には兄弟はたくさんいますけども自分が一番上です。兄や姉はいません」
ネージュ「知ってるよ。でも、私はジュリアス君のお姉ちゃんなんだよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゴメンね。今まで会えなくって」
ジュリアス「ですから・・・・・・・・・」
ネージュ「セツヤ・クヌギ!」
ジュリアス「!!?」
ネージュ「私はセツヤさんに助けてもらって、生き方を教えてもらって、娘にしてもらったんだ。・・・・・・・・・君は嫌がるかもしれないけど・・・・・・・・・。私は君のお姉ちゃんなんだよ」
ジュリアス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、父さんの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ネージュ「うん・・・・・・・・・そう」
ジュリアス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ネージュ「・・・・・・・・・ゴメンね。唐突だよね。いきなり来てお姉ちゃんって言っても信じてもらえないよね。バカみたいだよね」
ジュリアス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、あの、信じます。・・・・・・・・・父さんはそういう人だったから・・・・・・・・・」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 いつの間にか、2人は草むらに腰掛けていた。
ジュリアス「あの、・・・・・・・・・ネージュさんはいつ父さんの娘になったんですか?」
ネージュ「・・・・・・・・・4年半位前。丁度セツヤさんが君達の前から姿を消してから2ヵ月後くらい」
ジュリアス「じゃあ、あの戦争中に!?」
ネージュ「浦木社長話しちゃったんだ?」
ジュリアス「いえ。浦木おじさんは何にも教えてくれませんでした。ただ、父さんは世界を救った英雄って言うだけで。・・・・・・・・・それ以外は何も。色々自分達で調べました」
ネージュ「そっか。・・・・・・・・・私もジュリアス君に聞きたいことがあったんだよ。答えてくれると嬉しいな」
ジュリアス「・・・・・・・・・答えれる限り答えます」
ネージュ「あははは。そんなに硬くならなくっても良いよ。・・・・・・・・・なら遠慮なく聞くけど、何で軍人になろうと思ったの? セツヤさんの息子なら分かるでしょ? 彼が絶対にそんなの望まないって」
ジュリアス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。父さんは強い人でした。同時に優しかったです。だから、軍人という職業に俺が就く事は反対すると思います」
ネージュ「それを知っていたのにどうして?」
ジュリアス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・父さんのことを知りたかったからです」
ネージュ「・・・・・・・・・? どういう意味かな?」
ジュリアス「父さんがいなくなった時、兄弟全員が泣いて、泣いて・・・・・・・・・それと同時に分からなくなったんです。あれほど人殺しを嫌がっていた父さんが戦争に行く理由が分からなかったんです。幾ら考えても。幾ら悩んでも。・・・・・・・・・父さんは俺も、弟や妹を絶望から救ってくれたんです。そして、教えてくれたんです。人の温かみ。幸せの意味。それが身に染みているいつはずの父さんがどうして戦争に行ったのか。行かなくちゃいけなかったのか。・・・・・・・・・俺はそれを知る為に軍人になることを決めました」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだね。分からないよね。私も思うもん。セツヤさんは戦争をしたがる人じゃなかったよ」
ジュリアス「・・・・・・・・・あの、お願いがあるんです。ネージュさん」
ネージュ「ん? 何?」
ジュリアス「今、自分は訓練生です。まだまだ駆け出しです。スタートにも立っていません。・・・・・・・・・父さんがどんな思いだったのか全然わかっていないと思います。・・・・・・・・・俺が戦争をして父さんがどんなことを考えていたのか・・・・・・・・・断片でも分かったらその話聞いて欲しいんです。・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当はずっと会いたかったんです。戦争中の父さんを知っている人に! だから・・・・・・・・・話を聞いて欲しいんです」
ネージュ「それはどうかな?」
ジュリアス「えっ?」
ネージュ「君は私の可愛い可愛い弟だよ? ジュリアス君がどう思っていようとね。私はそう思うって決めたの! だからさ、いつでも会いに来るよ。手紙でもメールでも何でも書く! 今は訓練中で時間がないだろうけども、時間で着たらいつでもお姉ちゃんに言いなよ!? 迎えに来るからさ。話なんてそのときで良いよね? 戦争に行ってから? 冗談じゃないよ。その前に聞いちゃうから」
 ジュリアスはポカーンとしてネージュの顔を見る。腰に手を置いてまるでしかられているような恰好だが、そんなことは本人は一切考えていないだろう。
ジュリアス「あははは。わかりました。ネージュ姉さん」
ネージュ「うん。私も今日は時間がないから帰るけども・・・・・・・・・、これ私の住所とか諸々。手紙、メール、電話、いつでも待ってるよ」
ジュリアス「・・・・・・・・・はい」
 ジュリアスの笑みとほぼ同時に叫び声が聞こえる。
白金「おぉーーい! ジュリアス! 飯食いに行くぞ!!」
ジュリアス「ああ!! 直ぐ行く!!」
ネージュ「じゃあね」
 ネージュは手を振ってその場を後にした。これにて任務はとりあえずすべて終了した。




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