粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

リアルルート 第弐話 『遺志ふたつの邂逅』 中編


第弐話 『遺志ふたつの邂逅』 中編


 シミュレータでの戦闘訓練を前にネージュはハデスとソースケを伴って格納庫内を歩き回っていた。国連軍直轄基地である横浜基地というだけあって収納されている機体の数とバリエーションはパイロットとして非常に面白いと言わざるを得ない。
ソースケ「流石は国連直轄基地だな。これほどの機体保有数をそろえた基地はそうそうない」
ハデス「ああ。種類も随分豊富だ」
ネージュ「・・・・・・・・・?? あれ? これ見たことないな。強いて言えば不知火に似ている気もするけども各所違うね。・・・・・・・・・あれ? 撃震、陽炎と違って実戦装備もしてないな? 練習機?」
???「その通りだ」
 3人が声のした方向を向く。その方向から来たのは随分と大胆なパイロットスーツに身を包んだ1人の女性だった。年齢的には20代前半くらいだろうか。若いが凛々しさはしっかりと伝わってくる。
伊隅「申し遅れたな。私は当横浜基地所属、特殊任務部隊A-01部隊長の伊隅みちる大尉だ」
 名乗られた瞬間にネージュ、ハデス、ソースケの3人が前もって練習していたかのように敬礼をする。
伊隅「止めてくれ。客人に敬礼は必要はない」
ソースケ「了解しました!」
ハデス「なら、遠慮なくそうさせて頂きますよ」
 敬礼はやめてもハデスの口調は随分と丁寧だ。気を抜いていないということなのだろう。ソースケは相変わらずだ。
伊隅「この機体は吹雪という。第三世代にして初の純国産の戦術機だ。不知火の実験機的ポジションで練習機として扱っているが、武装さえ施せば充分に実戦に耐えれるような代物だ」
ネージュ「成程。不知火の。・・・・・・・・・あ゛っ! ごめんなさい。自己紹介がまだでした! HMCのテストパイロットで本日の演習のお相手をさせていただきます。フローレンス・K・リューデルメです」
ハデス「同じくテストパイロット兼同部門責任者のレオニト・ハデスです。こっちは外部に要請して来てもらったソースケ・サガラです」
ソースケ「よろしくお願いいたします、大尉殿!」
 敬礼を止めろといっても止めれないのは軍人の性だ。それを伊隅は痛いほど知っているのだろう。
伊隅「元軍人たちということか。思ったよりは楽しめそうだな」
ソースケ「ご期待に沿えるように尽力いたします」
伊隅「そうか。あとで自己紹介もさせてもらう。そのときにまた」
 伊隅が来た方向に戻っていく。一応顔見世のつもりだったのだろう。彼女が見えなくなってからハデスが口を開いた。
ハデス「あれが伊隅みちるか」
ソースケ「ご存知ですか?」
ハデス「ああ。ソースケは知らないか? 特殊任務部隊A-01、通称伊隅ヴァルキリーズ。横浜部隊直属でコスト度外視の贅沢部隊でありながら絶対的な成功を求められるって噂の特殊部隊だ。非公式って噂もある。基本的に全員が女で構成されているがその実力は極東随一で規模こそ違うが質という観点からすれば侍所の機甲歩兵大隊と同等とまで言われてるな」
ソースケ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ハデスは感じてしまった。この目の前の2人は困難な状況をコレでもかというくらいに切り抜けてきた猛者中の猛者だ。戦闘訓練とは言え、極東最強クラスの部隊を目の前にして燃えないわけがないのだ。・・・・・・・・・そして、自身特殊部隊クラスの操縦技術を持ち合わせているハデスの目から見ても目の前の2人は別格だった。極東最高クラスの一個中隊と世界最高峰クラスの実力を持つパイロットの合戦は既に始まっているのだが。


 シミュレータでの戦闘訓練は正直、拍子抜けな程に穏便なものだった。各機のコックピットを用いての肩慣らしをしてからの模擬線。パーソナルトルーパーの空中からの攻撃に対してどのように反応をするかということと、ソースケの近接戦闘におけるバリエーションの拡充が今回のテーマであるように思える。恐らくはそれも戦闘項目に含まれていることに違いはないなずだった。基本的に3機対3機、もしくは向こう側が4機。無茶なシチュエーションでは決してない。戦績はやはり空中戦もこなせるパーソナルトルーパーがいるHMC側が優勢なのは当然だろう。
 グリューからネージュが降りてくる。そして、今回はハデスも自身の機体を用意してきた。機体名グラウ・フォーゲル。マオ社の次期トライアルに考えられている新型だ。勿論グリューのように個人の力量を追及するような機体ではないが汎用であり空戦もこなす。コスト面、整備面、スペック面を追求した機体といえる。そのコックピットからもハデスが降りてくる。ソースケもだ。3人の前に伊隅を含めた伊隅ヴァルキリーズの面々がやってくる。
伊隅「戦績はそちらの5勝2敗。完敗ってことで良いだろうな」
ハデス「いえ、こっちはソースケ以外は空戦仕様ですから」
伊隅「それでいて、しっかりと連携が取れているのだから文句の言い様がないな。しかもハデスさん、あなたは前衛から後衛まで一通りこなせているというのは驚きですね」
ハデス「器用貧乏なものでして」
伊隅「謙遜ですね。しかも、不器用な自分からすれば羨ましい限りです」
 ソースケも捕まっていた。前衛を主に担当したソースケが捕まっているのは伊隅ヴァルキリーズ前衛部隊隊長の速瀬水月だ。
速瀬「ええ。そちらのフロントの手数の豊富さと視野の広さには驚きました。私もまだまだです」
ソースケ「そう卑下することはありません中尉殿。確かに手数という面で見れば自分に一日の長がありますが、それはOSの問題もあります。同機体、同条件での戦闘ならば恐らく中尉は相応の対応を取られていたでしょう」
 こう、大人の会話をしているうちは良かったのだが、台風が1つこちらにやってくる。
茜「ちょっとまちないさい! アームスレイブで戦闘してたあんたッ!! 建物の遮蔽だけならまだしもこっちの射軸を読み取って速瀬中尉自身を遮蔽物に使うなんて!」
柏木「やめなよ茜」
 八つ当たりにしか聞こえない。ソースケは上官に対しての言葉遣いが染み込んでいるから仮にも少尉殿に口答えの類いはしにくいだろう。
速瀬「やーめーなーさい! みっともないでしょう。サガラの対応は正当。数的不利を補う為にはなんでもしなきゃいけないの。BETAとの戦闘に慣れきった私たちには良い薬よ」
ネージュ「あはははは。モテモテだねソースケ」
宗像「確かに、フロントの彼の動きはすごかったがな。私は素直にあなたに賛辞を送りたい。リューデルメさん」
ネージュ「ほえ? 私?」
風間「はい。ほぼ完璧に私たちの行動を抑えていました。私たちの行動を完全に読んだかのように。サガラさんはOSの違いを強調していますが、あなたは違います。私たちのタイミングを完全に把握していましたね?」
宗像「その通りだ。そのおかげで碌な援護も出来ず前衛を完全に孤立させてしまった。速瀬中尉や茜は如何思っているかは分からないが、私はあなた1人にやられたと思っている」
 宗像美冴と風間祷子。この2人にネージュは囲まれていた。どうにも離してくれなそうだ。
風間「そもそも、何故このようなフォーメーションを取られたんですか? 定石ならば前衛にもう1人いても可笑しくはないと思っていたのですが?」
ネージュ「えっとね。狙撃の警戒って言う理由が一番大きな理由かな? この中隊の皆さんってBETAとの戦闘に慣れているから裏をかくっていう意識に非常に散漫なような気がしてね。もっとも単純な狙撃ポイントの地点とその次点に項目を置けば、この斜線と狙撃範囲がここ。なら、ツーポイントじゃなくってワンポイントで出るのがまぁ正しいかなってね」
風間「成程。人間相手とBETA相手の違いということですか」
ネージュ「うん」
宗像「なら、我々の突撃タイミングはどうやって読んだ? 数回共に完全に潰されてしまっているが?」
ネージュ「・・・・・・・・・あーー、企業秘密にしたいなぁ。ちょっとズルしちゃったし」
宗像「ほう。ズルをしたと言うならば許す代わりに吐いてもらおうか?」
ネージュ「まぁいいか。・・・・・・・・・振動をね、読んだの」
風間「振動?」
宗像「どういう意味だ?」
ネージュ「私、搭乗前にどこの機体の誰が乗っているかを確認してから乗ったでしょ? グリューを通して皆さんの操縦のタイミングをリアルタイムで感じていたっていう意味」
風間「!!?」
宗像「つまり、私の操縦の振動が機体同士を伝播して、それをリューデルメさんが読んだという意味か?」
ネージュ「・・・・・・・・・うん」
風間「・・・・・・・・・俄かには信じられませんわ」
宗像「・・・・・・・・・しかし、出来るというなら納得のできる話ではある。・・・・・・・・・それに」
 長身の宗像はネージュの顔を見る。その無垢な表情は決して嘘をつくようなそれではない。
宗像「嘘をつくようにも見えないしな」
ネージュ「にゃん?」
風間「確かにね」
 息抜きをしながらの雑談中に2人の女性がこちらに向かってくる。1人は副司令の香月夕呼。もう1人は髪の長い女性でこの伊隅ヴァルキリーズのコマンドオフィサーの涼宮遥中尉だ。
夕呼「ご苦労様。特にHMCの皆さん。期待通りの結果よ。それに個人の力量も申し分なし。明日の実地訓練に向けての腕試しのつもりだったけども必要なかったわね。なら、予定通り明日はよろしく。解散よ」
 夕呼はあくまで軽く告げたのだろう。だが、その軽さはソースケだけでなくハデスすらも何かしらの疑念を持たせる結果になってしまうのだが。


 パイロット組みとシャンディを含めた4人が用意された男部屋で雑談を始める。不穏でこそないが健全ではない。
ネージュ「ね? 怪しいでしょ?」
ソースケ「うむ。副司令は何か隠してらっしゃるようだ。自身直属の部隊が負けて喜ぶ指揮官はいない」
ハデス「同感だな。違和感尽くめだ。そっちはどうだったシャンディ?」
シャンディ「忙しそうだったよ。・・・・・・・・・この基地の整備の人たち。整備の人間ってさ、ある種の連帯感って言うものがあるのよ。どこでも。でも、なぜか私だけは完全にシャットアウト。しかも忙しい理由すら教えてくれないの。こりゃ何か仕組んでるとしか思えないわね」
ネージュ「・・・・・・・・・伏線、張っておいて良かったでしょ?」
ソースケ「肯定だ。物事を隠されているのだからな。こちらが隠していても文句を言われる筋合いはない」
ハデス「しっかし、面倒だったな。感応速度の3割減ってのは。完全に別な機体だったぜ? 慣れるまでに2回も負けちまった」
ソースケ「これがハデス少尉でなければ通算成績で負けていたのはこちらです」
ネージュ「そうだよね。予想以上に手ごわかったってのが正直な感想。フォーメーションでの行動の速さは尋常じゃなかったしね」
ハデス「ああ。確かに特殊部隊だな。あのメンバーで手ごわいのは絞って3人。隊長の伊隅。B小隊隊長の速瀬。C小隊隊長の宗像だな」
ソースケ「それと風間少尉も危険です。制圧支援(ブラストガード)ですが、ケアのスピードが並じゃありませんでした。涼宮少尉が行動不能になってからの対応の速さは脅威です」
ハデス「了解だ。ならその4人。伊隅、速瀬、宗像、風間。この4人には要注意だ」
ネージュ「他のメンバーも本当は相当なんだけどね。普通の部隊なら間違いなくエースクラスだよ」
ソースケ「肯定です。・・・・・・・・・しかし、あのときの過酷な戦いを生き抜いた我々の敵ではありません」
ハデス「おっ! 強気だねぇ」
ソースケ「恐縮です」
ハデス「いやいいのさ。お前さんのそういうセリフは小気味良いんだよ。・・・・・・・・・明日、副司令の綺麗な顔を吠え面に変えてやるぞ」
ネージュ「うん!」
ソースケ「了解です!」
シャンディ「だよね!!」


 一方でその日の戦闘データを薄暗い作戦車で分析している人間がいた。涼宮茜の姉、涼宮遥中尉だった。その後にやってきたのは香月と伊隅だ。
夕呼「どう?」
遥「予想以上の相手でしたね。速瀬中尉の力負けや宗像中尉への攻勢は予想外の行動です」
夕呼「良い誤算じゃない? 良い結果を出させてあとで吠え面をかかせる。あー、堪らないわ♪」
 ドSな正確が表面に出てきている。だが、伊隅に関してはあまりの力ではないといった感じだ。
夕呼「何よ? 随分と暗いじゃない?」
伊隅「はぁ。正直に言えば彼等のような人物にそのような顔をして欲しくないというのがあります」
夕呼「あら? そんな伊隅は良い子ちゃんだったかしら?」
伊隅「彼等の実力は訓練と経験に裏打ちされた素晴らしいものでした。隊の活性に尽力してくれた人物からの恩を仇で返すようで」
夕呼「良いのよ。XM3(エクセムスリー)の稼動実験を正規軍では試せないじゃない。どこから漏洩するかわからないし。彼等もあの機体の情報を守る代わりにこちらの情報を漏洩させないって誓約書に書いてるもの。ヘムルートとマオ・インダストリーだっけ? こんな律儀なことをする組織、少なくとも軍隊にはないわ」
伊隅「それは了解しています」
夕呼「まぁ、勝ち誇れなんていわないわ。でも、手加減はしないで」
伊隅「了解です」
 どっちもどっちというところだろうか。


 準備は出来ていた。実地訓練の時間、3機は並んでいた。ダンナーベース時とは違い、しっかりとした突撃小銃型の銃を持ち、背中にもしっかりと武装したツヴァイト・グリューヴルム。眺めのアサルトライフルを装備、左手には追加装甲と背中のマイクロミサイルを装備したグラウ・フォーゲル。そして巨大な砲身を携えた赤い機体、レーヴァティン。相対するは全7機の不知火。伊隅ヴァルキリーズ仕様の機体だった。場所は所有地である森林。設営してある管理室にパイロットの全員が赴いていた。
夕呼「条件は以上よ。ペイント弾のチェックと模擬近接戦闘兵器の確認後、異常がなければ0920時より実戦形式の模擬戦をスタート。ダメージ計算はこちらがすべて均等に行うわ。質問、問題ないわね」
 夕呼の言葉に全員が頷く。
夕呼「では総員搭乗」
 解散。シャンディ以外の全員が自機へと乗り込んでいく。シャンディは今日はHMC側のオペレータとしてその場についていた。完全な実戦形式なのだが。そんなシャンディの後から夕呼が尋ねた。
夕呼「本当に良かったの? さっきの申し出? まだ変えられるわよ?」
シャンディ「・・・・・・・・・ご配慮痛み入りますが、私が決めたわけじゃないですしね。それに、弊社の人間は実戦の方が成績良いですから。シミュレータよりもモチベーションは高いはずですし。ご心配なく」
夕呼「そう。わかったわ」
遥「総員、所定位置に付きました。まもなく0920時です」
夕呼「わかった。各機、問題ないようね。一応、最終チェックを促して」
遥「了解」
 まもなく、腹黒模擬戦が開始される。


 時間になる。ミッション開始が告げられた。
ハデス『じゃあ、おっぱじめるかぁ』
ネージュ「うーん、柄悪いなぁ」
ソースケ『問題ありません、少尉。クルツよりはだいぶマシです』
ハデス『褒められた気がしねぇ。何よりウェーバーと比べられても嬉しくない』
ネージュ「まぁ、雑談はそのくらいにしておこうか。シミュレータとは違って今度は一個中隊を相手だからね。ヴァルキリーズさんの本領発揮だからさ、タイミングは各々でってことで」
ハデス『了解だ。この数相手だと分断される可能性大だからな。基本的にバックスと索敵はやるが、俺は無理しないからな』
ネージュ「はいはい。でも、あんまり勿体ぶったりはしないと思うよ? 勿論、仕込があるならだけど」
ハデス『何故だ?』
ネージュ「数的不利な状況を作ったのは向こうを油断させる為に作ったこっちの動きを気付かせない為のトラップ。昨日と同じ実力で戦って勝てる見込みは1割程度。良くって2割。向こうの目的が隠し兵器の実演だとしたら?」
ハデス『こっちがやられる前に手の内見せないと、これをやる意味がないってことか』
ネージュ「ご名答」
ハデス『レーダー反応。アロー隊形だな。向こうさん手加減無しで仕留めるみたいだ。お誂え向きに森林。ゲリラ戦だな。これはサガラが一番得意だろう?』
ソースケ『肯定です』
ハデス『よし、定石で行くか。俺はネージュのバックアップと敵の情報をガンガン流す。サガラは迷彩モードで出来るだけ仕留めろ』
ネージュ「ハデスだってやる気じゃない。ポーカーフェイスは変わらずだね」
ハデス『抜かせ』
ソースケ『あの時以来です。・・・・・・・・・悲しい戦いでしたが正直・・・・・・・・・今は高鳴ります』
ネージュ「私もだよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・生きているなら」
ハデス『! ・・・・・・・・・瞳に力が込められるなら』
ソースケ『負けはまだまだ先の話だ・・・・・・・・・』
ネージュ「・・・・・・・・・行こう。やるからには勝たないと」
 このチームが負けることはあっても瓦解することはなくなった。


 一方で綿密かつ一切の無駄を省いた行軍を行っている部隊があった。行軍といってもエアスラスターを用いての移動なのだが。だが、緊張はあっても油断は無い。そんな状況だった。だが、突撃前衛(ストーム・バンガード)の速瀬には不思議と焦りが少なかった。
速瀬『こちらヴァルキリー2。センサー、目視ともに異常なし。予定ルートを先導する』
伊隅『了解。各員、相手は空からも来る。気を抜くな』
各員『『『『『『了解』』』』』』
伊隅(一企業のテストパイロットだと侮っていれば痛い目を見る。それは昨日で十分に把握できた。XM3は極力使わずに勝ちたいところだが、目的はXM3の運用試験である以上使わないわけには行かない。しかも、できるだけ早い段階でだ)
 伊隅は周囲に気を使いながらも考えていた。
宗像『左方向よりミサイル郡急速接近!!』
伊隅『各機緊急散開! 直ぐにエレメント以上の体制を取って周囲警戒!!』
 ほぼ散開と命令は同時だった。言わずしても理解するということを体で理解していたのかもしれない。緊急散開、固まってから周囲警戒。直ぐに伊隅が叫ぶ。
伊隅『小隊長は報告。全員いるか?』
速瀬『B小隊問題ない』
宗像『C小隊・・・・・・・・・、ヴァルキリー8をロスト』
伊隅『各機動くな! そのまま周囲警戒! ヴァルキリーマム! ヴァルキリー8は!?』
遥『ヴァルキリー8は機体頭部、胴体部の損傷により死亡です』
伊隅『くっ! ミサイルは囮か!』
風間『こちらヴァルキリー4! 赤外線レーザー並びに振動レーダーの使用とそのデータの各機リンクを提案します』
伊隅『許可する。私とヴァルキリー4でレーダー使用。各機リンク!』
風間『反応あり! 右舷4時方向! 機体照合開始! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・サガラ機です!』
伊隅『ヴァルキリー3、5、6で距離を詰めろ。各機は周囲警戒! 空中からの機影、鳥一匹見逃すな! ・・・・・・・・・それと、ここでOSをXM3に総員切り替えろ』
総員『『『『『『了解!』』』』』』
 XM3(エクセムスリー)。これが新たに開発された戦術機専用の新概論を用いてのOSであり、その威力が今発揮される。宗像、涼宮、柏木の3機の不知火がソースケのレーヴァティンに詰め寄る。先ほどのヴァルキリー8を撃破したのはソースケだった。ミサイルの対応に周囲の状況把握が疎かになった機体を瞬時に無力化。そして、森林の影にその機体を隠した。できればもう1機くらいは撃破しておきたかったがそれほど甘い相手ではない。それに・・・・・・・・・・・・・・・・・・目の前に現れた3機が昨日のシミュレータは元より、見たことのないほどの跳躍でレーヴァティンに襲い掛かってきた。
ソースケ『くっ』
 前衛の涼宮機だ。涼宮機の攻撃。中距離射撃からの近接戦闘に持ってくる。ただ、その速さだけが特記すべき点だった。恐ろしく速い。溜めのようなものが一切排除されている。跳躍から噴射での方向転換、直陸後、返す刀でサイドステップ。しかも、宗像、柏木はそのフォローを同じく驚異的な速度での移動をしながら攻撃してきている。
ソースケ(異様な雰囲気だ。個性が薄くなった?)
 遮蔽物を用いての対応が間に合っていない。ソースケの理論と経験、感に基づいての動作でもある種対応し切れていない。その証拠にAIが警告を鳴らす。
AI『火器消失。・・・・・・・・・認識敵影B、Cの敵射線軸に入りました。至急離脱を』
ソースケ『やはりか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 ソースケの表情が非常に珍しいのだが不敵な笑みに覆われた。


 一方、軍事的アカデミー賞に挑戦しなくてはいけなくなってしまった人間が1人いる。シャンディだ。敵の反応速度が突如上昇したことを認識して驚く振りをしなくてはいけなかった。
シャンディ「・・・・・・・・・!? 不知火の射撃、対応を含めた反応速度が急上昇!? え!? これはっ!!」
 たいした役者だった。だが、風伯クルーは全体的にこういった人をおちょくるような行動は得意だったりする。それを知らない人間からすらばとんでもないことなのだが。
夕呼「あら? 言ってなかったかしら? 今回の演習は新理論で組み上げたOSの使用実験も含んでいるということ」
シャンディ(白々しいなぁ)
シャンディ「聞いていません!! それならこんな数的不利な状況での提案を飲んだりはしませんでした! 即刻中断を要求します!」
夕呼「ダメよ。容認できない。こちらの実験は空戦と陸戦のエキスパートであるあなた方からの戦闘データと衛士の研磨にあります。数的不利があったとしても、そちらも簡単に負けることということはないでしょう。悪いですが続けさせてもらいます」
 これを薄らと笑みを浮かべながらいうのだから趣味が悪い。まぁ、こちらも人の事は言えないのだが。
シャンディ「くっ・・・・・・・・・。了解しました」
 ネージュたちに新しいOSの稼動実験をはじめて伝える演技をする。この状況下でシャンディは思ってしまった。天才でもやはり得意分野はあるものだなと。


 弾幕の濃さはあまり変わらない。だが、その精度が随分と向上したように思える。
ハデス『くそ、ミサイル発射してからの動きが段違いになった』
ネージュ「タイミングも予想通りかな。この状況で使わないと実験データの採取にはならないしね。副司令も本性出したし、条件は満たしたよね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ソースケもそろそろだと思う。・・・・・・・・・やろうか」
ハデス『了解だ。・・・・・・・・・こちらディーナ1。シルフ応答しろ』
シャンディ『こちらシルフ。・・・・・・・・・そろそろ?』
ハデス『ああ。・・・・・・・・・そちらの狸か狐さんの顔、よく見ておけよ』
シャンディ『了解!』
ハデス『行くぞネージュ! レスポンスリミッター解除許可。グラウ・フォーゲル、リミッター解除』
ネージュ「了解。ツヴァルト・グリューヴルム、レスポンスリミッター解除。・・・・・・・・・完了。次いで良好!」
ハデス『こっちも解除終了した。それで? どうする?』
ネージュ「どうせなら派手に行きたいよね? なら・・・・・・・・・久しぶりにやろうかな? 近接」
ハデス『お前のセツヤさん仕込の近接戦闘か。良いんじゃないか? お前の技術を使えばグリューの推定スペックもあいまいになるって言うおまけ付きだ。いいぞ、後衛は任せろ』
ネージュ「ハンニバル了解!」
 グリューが地上に着陸する。こちらの場所は把握されているから恐らく先頭の速瀬中尉がまず来る。幾らハデスの残弾を気にしない援護があっても時間の問題は当然だ。ブッシュが濃い。突撃銃はもう必要ない。それを捨ててからバックユニットに搭載されていたネージュが最も得意とする武装、ビームナイフ内臓の多目的小型マシンガンであるロレンツォUを両腕に装備した。リアルタイムでハデスからの中継映像が送られてくる。もう目の前にいるのはやはり速瀬中尉。その援護に3人。伊隅大尉、風間少尉、築地少尉がいる。恐らく伊隅大尉か風間少尉がハデスを迎え撃つだろう。こちらに割が多いがそれは仕方ない。
 速瀬機がもう目の前。驚くべき速さで展開突進してくる。援護は風間少尉と少し距離をとって築地少尉。こっちに来るメンバーは予想通りだ。目まくるしい動きを見せる不知火。新型OSの威力なのだろう。ネージュはこの戦闘の中でもその動きを逐一目で追ってその動きを観察した。
ネージュ(速い。戦術機には乗ったことないけども、ほぼスペック全開と言っても差し障りないんじゃないかな? 素人臭さは微塵もないから、人工AIによるオートってわけじゃないか・・・・・・・・・。OSって言ってたもんな。・・・・・・・・・まだ見えてこないか。けど、リミッター無しのグリューなら負けないよ)
 その通りだった。グリューはネージュのイメージする動きを完璧にトレースする。新型のOSだか知らないがそれはまともな人間の追えるような代物ではなかった。そう言うなれば、戦術機専用新型OSXM3は構想のみだが、グリューは違う。構想とその構想を実現する人間が登場した完全な機体ということだ。
 ネージュの眼がめまぐるしく動く。不知火の動きと弾丸の予測軌道に肉眼で対応している。
速瀬『こっちの動きについてくる!? 向こうも同様のOSを装備していたって言うの!?』
築地『こっちの援護射撃を完全に見切られています!』
風間『タイミングの見切りで彼女は天才的です。くあっ! リューデルメさん、実力をすべて発揮していませんでしたね。近接戦闘もサガラさん並み』
速瀬『前には私が出る! ヴァルキリー4、7は援護に徹しなさい。』
風間・築地『了解!』
 ネージュの動きに的確に対応する。相手側が予想外の行動に出たとしても通信や自分等の行動についての再考をするのではなく徹底した行動に出る。向こうとしては完全に予想外のはずなのだが、動じてはいない。それだけ意思の統一が徹底しているのだろう。
ネージュ「・・・・・・・・・凄い凄い」
 ネージュは予想外の収穫に笑わずにはいられなかった。だが、ネージュの見切りはそれ以上の精度で打って出る。
ネージュ(この練度は凄い。滅多にお目にかかれないくらいの意志の強さ。けども、・・・・・・・・・惜しいね。その段階ではその強さが目いっぱいなんだよ。・・・・・・・・・教えてあげようかな? 次のステップに進む為に必要なファクターを)
 ネージュの動きに変化が現れた。スピードが増したとかそういう意味ではない。寧ろスピードは下がっている。緩急が出たのだ。だが、その緩急と一言で表現するには随分奇異な動きだった。
速瀬『何この動きは! 弾丸がすり抜ける?』
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 速瀬機の弾丸をゆったりとすり抜けてからグリューが速瀬機の間合いに入る。あまりに奇異な動きに完全に意表を突かれている。だが、それでも速瀬は対応を止めない。背中に装備されている74式近接戦闘長刀を背中から抜いて力任せにグリューに叩きつけようとする。風間も築地も速瀬機がグリューの盾になっていて援護射撃などは出来ない。援護のできる位置に移動するまでの数秒。これがネージュの勝負の時間だった。
 74式近接戦闘長刀を振りかざす不知火の腕を更に内側からグリューが押さえていた。
速瀬『完全に間合いに入られた!?』
ネージュ「良い感じだったけどね。・・・・・・・・・まだまだ」
 ロレンツォUから発生させた仮想ビームエッジで不知火のコックピットと首筋を斬る。最小の動きで瞬時に速瀬機を無力化させる。こっちが速瀬機を無力化したということで風間の支援攻撃の位置を移動する必要がなくなった。思い切りの良い風間がほとんど躊躇もなく射撃してくる。だが、グリューは空に回避。弾丸は宙を横切るだけだった。
 咄嗟の空中移動。速瀬の援護が頭の範囲を大きく占めたのだろう。築地機の不知火がネージュに丸見えになる。
ネージュ(あーあ、ポジショニングが頭から消えたか。・・・・・・・・・ちょっと分かったけども、この新型のOSって状況に応じた動きを共有してるんだね。・・・・・・・・・結構アクロバティックな奴も含んでる。それをパイロットの思考である程度コントロールできるんだ。・・・・・・・・・なら、やりようはあるんだよねぇ)
 左のロレンツォで射撃。築地の不知火がネージュの予想通りではないが想定内の動きだった。バックステップを含めた高機動回避で弾丸を回避する。その動きをネージュは良く見ていた。彼女の呼吸使いは先ほどの期待の動きから大体把握できる。
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここで動作止め!!」
 回避のシークエンスを止める瞬間。その箇所にマガジン一本分の弾丸をお見舞いする。頭部と膝関節部に被弾。行動不能に追いやった。
風間『くっ!』
 風間機の正確な射撃。しかし、空中での回避はネージュのお手の物だ。この状況、速瀬機の間合いに入れたときからネージュの勝利はほぼ決まっていたのだ。そうほう共に的確なポジションをネージュも風間も理解している。タイマンに持ち込まれてしまった以上、勝負は実力のみで相対するしかない。そして。双方の勝負がつくまでそうそう時間は掛からなかった。




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