粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

リアルルート 第弐話 『遺志ふたつの邂逅』 前編


第弐話 『遺志ふたつの邂逅』 前編


 ネージュはダンナーベースへの介入後も普通に学校生活を送れていた。正直なところ、もう学校生活といった安穏なことはしていられないと思っていた。幾ら軍とは直接的な介入を許していない組織であっても、それでもダンナーベースは巨大な組織だ。親友の為とは言え、そこに介入したら何かしらの圧力がかかると思っていた。ダンナーベースに協力を拒否したのならば尚更だ。しかし、それはなかった。杏奈も通常と変わりなく接してくれている。いや、学園で新婚生活の不平不満を言えるのはネージュだけなので、いろんなのろけ話を聞かされているくらいだ。こんな安穏なことをして入れるのは恐らく杏奈の母親である葵霧子のおかげなのだろう。彼女が色々と尽力してくれたと見るべきだ。ネージュはそれに心の中で感謝していた。
 今、この日本では徴兵を促している。海軍、空軍、それにアメリカで言うところの海兵隊に当たる侍所だ。場所によっては軍役を義務化しているところもある。これは世界中頻繁な動きで義務化していないのはやはり日本くらいなものだろう。そんな険悪な情勢の中で学校に通えることはやはりネージュにとってはありがたいことなのだなと思う。
 ネージュはいつもどおり放課後になり、に寮のあるHMCへ戻っていた。寮へ行くにはロビーを通過しないといけない。だが、そのロビーに懐かしい顔があった。ハデス、シャンディと共にお茶を飲んでいるその人を見てネージュの足が止まる。
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!? エーデ? エーデだ!!」
エーデ「ネージュ!! 久しぶり!!!」
 思わずネージュは抱きついていた。エーデ。本名エーディト・グラス。言わずと知れた当初からの風伯クルーの1人だ。小柄なのに出るところはしっかりと出ている。と、昔ユメコが言っていた。そのときはよく意味が分からなかったが、今ならしっかりと意味が理解できる。
エーデ「ああ、ネージュだ。おっきくなったよーー。元気にしてた? 風邪引いてない?」
ネージュ「もう。・・・・・・・・・私はもう子供じゃないよ。楽しく学校に通ってる」
エーデ「メールで毎日のように文通しているのに。・・・・・・・・・どうしよう。ネージュの顔見たら安心しちゃったよ」
 涙もろいところはあまり変わっていないようだ。ネージュの肩に顔を預けてしばし、感動の余韻を楽しんでいたのだろう。
 昔話に花が咲く。当然の流れだろう。ハデスが上手く戦闘データ採取の予定を調節してくれたようだ。
エーデ「その話は有名だよ。ダンナーベースは秘密兵器を隠し持っているって言う奴。でもまさかネージュのことだったなんて。副長探りいれるつもりだったらしいから教えてあげないと」
ハデス「そういや、グラスさんは副長付きの副官って立場でしたよね? 元気にしてますか、副長は?」
エーデ「どうなんだろ? きっつい仕事だからさ、体調管理には私も気を使ってるんだけども、気丈に振舞うところがあるから。1人になるとどうしても寂しそうにはしてるかな」
シャンディ「まぁ、前の戦闘で一番立ち直りが遅かったのは副長ですからね」
ネージュ「ユメコは仕方ないよ。どんなに周りが言ったってセツヤさんが死んだのは自分の責任だって思ってるんだろうね」
エーデ「うん。私は副長が心配で一緒に参謀本部についていったんだけども、あんまり力にはなれてないかな?」
ネージュ「そんなことないよ」
エーデ「ありがとうネージュ」
 ネージュ以外は酒を、ネージュはオレンジジュースを傾けていた。エーデにいたっては日本酒だ。
ネージュ「エーデってお酒飲めるんだね?」
エーデ「え? うん。前の戦争のときはまだ未成年だったからね。あの時、飲ませてもらえないのが悔しかったんだ。だから、成人したとき、真っ先にお酒飲んだの。セツヤさんがいっつも飲んでいたのと同じ銘柄の日本酒」
 自身にも興味があるのか、ネージュは乗り出してエーデに聞く。
ネージュ「美味しかった!?」
エーデ「美味しかったよ♪ 昔、私の父さんの飲んでいたスコッチを舐めたことはあったんだけど全然違った。すっきりしていて、すっごく飲み易いの。それから私は日本酒フリークスよ」
ネージュ「いいなぁ」
エーデ「へへへ。・・・・・・・・・っと、酔いが回ってきちゃったかな。・・・・・・・・・ふう、今のうちに言っておこうかな? ネージュ、もう感づいていると思うけど私、副長の伝言を伝えに来たの」
ネージュ「知ってるよ。ねぇハデス、シャンディ」
シャンディ「勿論」
ハデス「ええ。じゃなきゃアポ無しで少尉が来るもんですかい」
エーデ「ゴメンね。こんどちゃんと有給とって遊びに来るから」
ネージュ「良いんだよ。ユメコがエーデを使っての伝言なんてほかに聞かれちゃまずいことに決まってるんだから。それに、それでも私は良いんだ。エーデに会えたことの方が大事だし」
 エーデはネージュを再び抱き寄せる。
エーデ「ありがとう、ネージュ、ハデスにシャンディも」
ハデス「なになに、問題ありませんよ」
シャンディ「私たち、実は結構疎遠ですからね。たまに会えるのは楽しいですよ」
ネージュ「エーデは私のお姉ちゃんみたいなものだもん。頼られて嬉しいよ」
エーデ「うん。・・・・・・・・・じゃ、説明するね。・・・・・・・・・コレをみて」
 エーデはとある書面を鞄から取り出すとネージュたちに見せた。それはとある人物に関しての経歴と調査書だった。その書面に添付してある写真を見てからネージュは首をかしげる。
ネージュ「・・・・・・・・・誰かな? 見た事ないし、誰かの面影も感じられないけど?」
 ネージュは漣に所属していた頃に人相の把握術を徹底されている。そのネージュが見たことがないということは間違いなくネージュはこの人物とであったことはないだろう。
ハデス「ジュリアス・ラギー訓練生。・・・・・・・・・名前からもピンと来ないな、ラギーねぇ?」
シャンディ「所属は・・・・・・・・・、横浜基地衛士訓練学校、第207衛士訓練部隊。おお、将来の衛士さんか」
 書面を捲る。それ以上は体力や知力のテストの結果が羅列していた。
ネージュ「年齢16歳でかなりの体力の持ち主だね。座学も優秀。適正もあるか。・・・・・・・・・だけども」
ハデス「ええ。この前途有望な少年が何なんですか?」
エーデ「そこの保護者氏名の欄、見てみなよ」
シャンディ「保護者ですか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・浦木行隆。・・・・・・・・・浦木行隆!? え、でも浦木社長のご子息はもう既に成人されているはず。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ということはこのジュリアス・ラギーって子は?」
エーデ「そう。本名ジュリアス・K・ラギー。ネージュ、あなたと同じKを持つ子。セツヤさんが育てた子供の1人よ」
ネージュ「セツヤさんの息子?」
エーデ「勿論、本当の子供じゃないよ。セツヤさん未婚だったし。言ってじゃない。孤児院をしていたって。そのときの子供。戦争に出るときに浦木社長に預けていたんだって。浦木社長の力で軍役も免除されるはずだったのに今や横浜基地衛士訓練学校の衛士候補生。しかも成績優秀と来てるんだもの。セツヤさん、どんな顔するやら」
ハデス「成程ね。しかし、幾らセツヤさんの息子といってもそれだけと言えばそれだけでしょうに? 副長はわざわざこの部隊に横槍でもいれるつもりなんですか?」
 その通りではある。幾ら彼等にとって尊敬する人間の子供とはいっても、今の日本では至極全うな道にいるといっても過言ではない。そんな部隊にどうする必要もないと思うのが当然なのだが。
エーデ「それだけならね。問題なのはこの部隊。第207衛士訓練部隊。この部隊ね、おかしいんだよ」
ネージュ「具体的には?」
エーデ「他の訓練生のほぼ全員が何れかのお偉いさんの関係者なんだよね」
シャンディ「お偉いさんっていうとどの位の?」
エーデ「守秘義務があるから他言無用で頼むね」
シャンディ「当然です」
エーデ「内閣総理大臣、元陸軍中将、国連事務次官、情報局外務二課課長といった面々のご令嬢」
ハデス「ぐお!」
エーデ「まだまだ。最大に驚くべきは政威大将軍。天皇様の妹君までいらっしゃるんだよ」
シャンディ「それはそれは」
ハデス「そりゃ確かに気になりますね」
エーデ「そう。例外もいるみたいだけどこれだけの人物で固められるとねぇ。更にはセツヤさん。・・・・・・・・・世界を救ったといわれている人物のご子息。これはもう何かあると思うでしょう?」
ハデス・シャンディ「「確かに」」
エーデ「横浜基地って国連の所属じゃない? 参謀にも少し調べてもらったんだけども、どうにも分からなくってね」
ネージュ「横浜基地。・・・・・・・・・確かBETAに対応するべく計画が練られているっていう話は聞いたことあるなぁ」
エーデ「参謀は知ってるぽいけどね。オルタネイティブ計画って言うらしいよ」
ハデス「二者択一計画?」
エーデ「ちょっとこれは副長も教えてくれなかったけどね」
ネージュ「珍しいですね。包み隠すことはしない副長が隠すなんて。しかもエーデに」
エーデ「うん。けど、それだけの情報ってことだね」
ネージュ「そうだと思うよ。・・・・・・・・・それでさ、私は具体的にどういう任務をこなせば良いの?」
エーデ「・・・・・・・・・それなんだけどね、副長が言うにはただ見てくるだけで良いって言ってたんだよ」
ハデス「?? 副長にしては随分と漠然とした命令ですね」
エーデ「私もはじめはそう思ったんだけどね、副長が言うには『ネージュはセツヤさんと同じように悪意や企みに反応するようなところがあるから、ネージュが視察して何も感じなければ問題ない』って」
 その通りだとは思う。敵ではあるが漠然としすぎているようにハデスには思えた。
ハデス「副長らしい物言いだが、コイツは悪意探知機か何かか?」
エーデ「仕方ないよ。国連の横浜基地っていったら、侍所と並んで日本でも最もセキュリティが高いんだから。副長と参謀が尽力してもこの基地の内部を覗き見することすら適わないんだよ。ただ、いい情報もあるんだ。・・・・・・・・・この人、名前はパウル・ラダビノッド。階級は准将。この人、サイード司令の後輩だから。仲も良いらしいよ」
ネージュ「へー、お爺ちゃんの。ちょっと話してみたいな」
エーデ「ネージュだからあまり無茶はしないと思うけど、程ほどにね。浦木社長には副長が伝えるって言っていたから明日には3人ともに正式な指示が来ると思う。基本の立場としてはパーソナルトルーパーと戦術機の合同練習って言うのが名目。そのためにHMCからの出向要員ってことで手配済み」
ハデス「あー、話の腰折って悪いんだが、どうして俺達なんです? 副長ならもっと専門的な部隊も動かせるでしょうに」
エーデ「多分だけども、都合が良かったからだと思うよ? この申し出は横浜基地から出されたものでね、前の戦闘で蓄積されたノウハウを知りたいって言うのがあるんだと思う。ほら、基本的にヘムルートやマオ・インダストリーって帝国、国連ともに仲悪いじゃない? だから、副長が端持つことで恩を売ろうってことだと思う。そのついでにっていう感じ?」
シャンディ「成程」
ハデス「まぁ、戦術機の情報は俺等にもメリットあるしな」
エーデ「って、副長は言っていたけどね。本当はセツヤさんの子供とネージュを会わせたかったんじゃないかなぁ」
ネージュ「? 私と?」
エーデ「うん。知ってる? ネージュってセツヤさんから戦闘技術を教え込まれた唯一の子供なんだよ? そんなネージュからセツヤさんの子供のことをみて欲しいっていう事なんじゃないかな?」
ネージュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか。わかった」
エーデ「ゴメンね。面倒なこと頼んじゃって」
ネージュ「良いんだよ。・・・・・・・・・それとさ、ユメコに言っておいて。・・・・・・・・・ありがとうって」
エーデ「・・・・・・・・・わかった。言っておくよ。・・・・・・・・・あーー、もう1つ言うことあった」
ネージュ「ほへ?」
エーデ「詳しくは私も聞いていないんだけども、協力者がもう1人いるんだって」
ハデス「協力者? 誰です?」
エーデ「それが分かっていたら教えてるって。でも、副長が手配している人間だからそれなりの実力はあるってことだと思うけど」
ハデス「そうでしょうがね。秘密主義は勘弁して欲しいですよ」
シャンディ「激しく同意」
エーデ「私なんか毎日そのヘンテコ主義に付き合ってるんだから。たまには味わえばいいじゃないよー。ねー、ネージュ」
ネージュ「そうだよねーー♪」
 仲良しさんは楽しそうに飲み明かしてしまうのだが。


 戦術機。これはレーザー兵器の発達したBETAに対抗すべくに開発された人類の決戦兵器の総称となっている。各国で求められるスペックが違う為にそれぞれに差異があり、概ね18mから30m程度。概ねグリューと大きさは近い。全大戦で開発されたさまざまな機体のもモデルにして形成されたといってもいい。日本で概ね使用されている機体名は撃震。アメリカ製戦術機F-4ファントムの派生機という立ち位置だろう。日本製でメジャーなところでは後は強襲揚陸専用機、海神。次世代主力機、陽炎。第3世代主力機、不知火が挙げられるだろう。それらの車の中でその機体各々のスペックとデータ。OSの設計までほとんど酔わずにネージュは目を通していた。
シャンディ「どう?」
 大体見終わったのを見計らってだろう。隣に座っているシャンディがネージュに聞いてきた。
ネージュ「んーー、面白くはないね。戦術機・・・・・・・・・って言っても私からすればアームスレイブと何も変わらない。大きさこそ随分違うけども中身や思想は同じ。けどまぁ、実用性を追求すればどうしてもこうなるんだろうね」
シャンディ「わお。ハデスと意見がほとんど同じだよ」
ハデス「まぁな」
ネージュ「使う人次第って感じがするかなぁ。弱点なんて人が使うんだから数多あるよ。・・・・・・・・・私は兵器開発の専門家では決してないけども・・・・・・・・・。そうだねぇ、機能的な弱点を挙げろって言われたらOSが堅過ぎる様な感じはするかな」
シャンディ「OSが堅すぎる?」
 ネージュの少し遠回りな言い回しにハデスが変わりに答える。
ハデス「えっとな、アームスレイブはセミオートシステムだろ? だから、ある程度パイロットの自由に機体が動くんだよ。けどな、戦術機は随分と堅い。堅いっていうのはOSによってパイロットの意思を反映する領域が狭いって意味だろうよ」
ネージュ「うん、それ」
シャンディ「あーー、まぁ、敵さんの性質上は仕方ないでしょうね」
ネージュ「性質?」
シャンディ「今回の訓練にはあまり関係ないけども、戦術機はBETAの戦闘に主観が置かれてる。アームスレイブやパーソナルトルーパーは人間の操る機動兵器を相手することが主観にあるからね。これらの自由度が高いってことはこういうなら多分それが原因よね」
ネージュ「??」
シャンディ「ちょっと長くなるけど、説明するね。ここ数年来、航空機による行動は少なくともBETAの存在、発現する場所に関しては著しく制限されている。それは知ってるよね?」
ネージュ「うん。世界各国の空軍が軒並み統合、解散しているくらいだから」
シャンディ「その通り。それはこのBETAが原因。今度データを見ておけば良いよ。BETAの中には光線属種っていう種類がいるの」
ネージュ「光線属種?」
シャンディ「そう。言葉通りにレーザーを照射する化け物だね。レーザーは大気や気象条件で威力の減衰が期待できない程の高出力を発揮するんだよ。小型種で30km。大型では100kmが射程範囲って言われてるの。一昔前までは空からの滑空部隊っていうのも考えられて、実行に移されてたこともあるらしいけども、どれも失敗。それで世界各国は空軍への予算を軒並み削除したって言うのが実情なんだよ」
ネージュ「避けれないの?」
ハデス「数が多すぎるんだよ。元風伯のパイロットクラスならそれなりに避けれると思うけどな。映像だけは俺も昔見た事あるんだが、イメトレで7発目に喰らってお陀仏になった」
ネージュ「ハデスでも7発か。」
シャンディ「そう。だから、パイロットの動きよりも完全自動で回避したほうが死亡率が低いって算段になるんだよ」
ネージュ「変な話だね?」
シャンディ「? 何が?」
ネージュ「それって皆知っていることなんでしょ? OSの差異なんてさ」
シャンディ「勿論」
ネージュ「その差異を知っていて私たちに練習相手に指名したって可笑しいでしょう? 目標相手はBETA。機体は戦術機。なら、人間相手には劣っていても問題ない。それを今更ながらにやる意味が私には見出せないけど?」
ハデス「!!」
シャンディ「言わてみればそうだね」
ネージュ「なら、何か出してくるって思っていたほうが良いんだろうね」
ハデス「だな」
シャンディ「うん」


 横浜基地。この基地は特殊な場所だったりする。約2年前に大東亜連合との共同作戦通常『明星作戦』。これにより世界初。BETAから奪還したハイヴ。BETAの巣を取り返した場所だったりする。その直上にやってきたHMCから派遣された3人がやってきていた。国連横浜基地をまん前にしてハデスが周囲に聞こえないように喋る。
ハデス「如何だ? 何か感じるか?」
ネージュ「うん。・・・・・・・・・・・・・・・・・・すごく嫌な感じがする。悪意じゃない。善意でもない。純粋な意識。ここにあるのは理性とかじゃない。目的への意思がある」
ハデス「?? 生物的なニュアンスがあるが?」
ネージュ「・・・・・・・・・難しいよ。生物? 生物ほど煩雑な意識はないよ。けど、ロボットでもない。丁度その中間くらい」
ハデス「よくわからんが、入るの厳しいか?」
ネージュ「大丈夫。張り詰めているわけではないから。存在は確かにある。何なんだろう? 味わったことのない意識は確実にあるよ」
ハデス「それはこの場所が元々BETAの巣窟だったってことが原因なんじゃないのか?」
ネージュ「・・・・・・・・・そうかも。大丈夫だよ、行こう。敵意はないし、死臭も一切ないんだ。問題ないよ」
シャンディ「本当に大丈夫だね?」
ネージュ「大丈夫。私は頑丈だよ」
 ネージュが先導して歩いていく。手を引かれてハデスとシャンディが共に入っていく。


 広めの部屋の中、一歩前に出たハデスが敬礼する。相手は2人。初老の男性と妙齢の白衣を着た女性だった。
ハデス「帝国軍参謀本部よりの要請で参りました!! ヘムルート、マオ・インダストリー双方の傘下の兵器試験会社HMC所属! レオニト・ハデス、テストパイロット兼同部門責任者です。同じくテストパイロットのフローレンス・K・リューデルメ。こちらは機体の整備点検責任者のシャンドラ・クリスファールです!」
 ネージュとシャンディが並んで敬礼をする。業者の人間にしては軍人じみた動きに少しばかり目の前の初老の司令官は驚いたことだろう。
ラダビノッド「! 失礼した。なまじ軍人よりも板についていたのでな。レオニト・ハデスといったか? 貴公は元軍人なのだな。だが、今は貴公らは客人だ。ワシに誠意を見せる必要はないぞ?」
ハデス「ありがとうございます。なら、少しだけ砕けた物言いをさせていただきます」
ラダビノッド「それで結構」
ハデス「正直に申しますと、自分達はそれほど礼儀を尽くすような人間ではないのですがラダビノッド司令だけは特別と思っていただきたいのです」
ラダビノッド「ほう? それはどういう意味だ?」
ハデス「これは内密にお願いします。・・・・・・・・・我々3人は元イブン・サイード司令の部下でした」
ラダビノッド「! 何と! サイード司令の?」
ハデス「はい。サイード司令と信仰の厚いラダビノッド司令には抑揚を隠し切れません」
白衣の女性「イブン・サイード司令? ・・・・・・・・・! 『高原の大鷲』」
ラダビノッド「そうかそうか。・・・・・・・・・司令はお元気にしておられるか? 不精極まる話だが、5年ほど前から親交がほとんどない。健勝を願っていたのだが」
ハデス「その話は後ほどお伝えいたします。横浜基地の要請を受けるに当たってサイード司令からくれぐれもよろしくと承ってまいりました」
ラダビノッド「何と。・・・・・・・・・いやいや、話の腰を折ってすまなかったな。だが、すばらしい贈り物を頂いた。感謝するぞ」
ハデス「いえ」
ラダビノッド「改めて良くぞ参られた。貴公らには戦術機における戦闘カリキュラムの1つ。対人型兵器の戦術攻略の相手をしてもらいたい。細かな話はこちら、香月副司令にお願いする」
夕呼「私が横浜基地の副司令の香月夕呼です、よろしく」
 3人が無言で敬礼をする。だが、それを見た夕呼の見せた反応は驚くべきものでした。
夕呼「止めて貰えるかしら。私に敬礼は必要ないわ」
ネージュ・ハデス・シャンディ「「「!!!!!!!!!」」」
 驚愕だった。3人とも驚愕を示す。その言葉は風伯クルーならば誰でも驚くだろう。
夕呼「何かしら?」
ハデス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ」
ネージュ「・・・・・・・・・なん・・・・・・・・・でも」
シャンディ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありませ・・・・・・・・・ん」
 漫才のような返答の仕方だった。そう。敬礼をさせない。この言葉はセツヤ・クヌギと同じものだった。敬礼をさせない。軍規では部下を縛らない。それが彼の理念だった。それを完全なる他人が継承している。それがネージュには溜まらなく嬉しかった。
ネージュ「あ、あの! 香月副司令!!」
夕呼「なによ?」
 あくまでぶっきらぼうに返答する夕呼にネージュは言葉をぶつける。
ネージュ「副司令は・・・・・・・・・知ってるんですか? セツヤを。セツヤ・クヌギを」
夕呼「セツヤ・クヌギ? 4年前の孤高戦争のときの人物ね? ・・・・・・・・・会ったことはないわ。・・・・・・・・・? それが何か?」
ネージュ「・・・・・・・・・いえ。ただちょっと嬉しいだけです」
夕呼「? 変な子ね」
ネージュ「はい!」
夕呼「話が折れたわね。・・・・・・・・・HMCの皆さんには当基地の非公式実働部隊、特殊任務部隊A-01、通称伊隅ヴァルキリーズの訓練相手をしてもらいます。シミュレーションから実戦形式までとりあえず一通り。生え抜きを希望したんだから希望には副えて欲しいわね。それと横浜基地で合流するという手はずになっているそちらの外部要請パイロット1名並びに専用機は既に到着している。よって訓練開始時刻は明朝0830時でお願いします。問題並びに質問は?」
 ハデスが一歩前に出る。
ハデス「あります。非公式ながら噂に名高い伊隅ヴァルキリーズは中隊編成だったと聞いています。こちらの機体数は3機。これでは恐らく勝負にはならないでしょうし、副司令はそのことはご理解しておられると思います。恐縮ですが今回のテストの形式と実戦訓練場所を言及していただきたいのですが?」
夕呼「成程。その杞憂は尤もね。戦闘訓練はシングル、エレメント形式、フライトと様々な形式で試すつもりでいる。スコードロンはそちらの腕次第だ。訓練場所は当基地周辺の森林区画で行う予定だ。問題ないか?」
ハデス「はい」
夕呼「早速調整に取り掛かってくれ。待合室に外部要請員がいるはずなのでまず会いに行くといい」
ハデス「了解しました!」
 言われたとおりに敬礼はしなかった。そして、事務員に連れて行かれるままに3人はこの場を後にした。まず、言われたとおりに待合室に行く。そこに3人も知らぬ外部要請パイロットという形で参戦するパイロットがいるはずだった。ハッチが開いて中のソファーに座っている人間と顔を合わせる。それは言わずもがな。ネージュたちも良く知る人間だった。
ネージュ「!! ソースケ!!」
ソースケ「久しいな。ネージュ。ハデス少尉、クリスファール中尉。ご無沙汰しております」
ハデス「誰かと思えば、お前だったのか。副長も人が悪いな」
シャンディ「でも、相変わらずかたっくるしい喋り方だよ。知らない仲じゃないんだし、それに私たちはもう軍人じゃないんだよ? だから、階級はいらないって」
ソースケ「はっ!」
ネージュ「あはははは。変わらないねぇソースケ! でも、ソースケなら安心だ」
ハデス「だな。それにしても、よくテスタロッサ大佐が許したな。何か目的ありか?」
ソースケ「肯定です。詳しくはお教えできませんが」
ハデス「聞かねーよ。けど、その辺はテスタロッサ大佐と副長の間で手打ちは出来てんだろ? なら文句はないさ」
ネージュ「そうだね。ところでさソースケ、どの機体を持ってきたの? レーヴァテイン?」
ソースケ「肯定だ。・・・・・・・・・当たり前のことだがラムダドライバの使用は緊急時を除いて制限を受けている。その点だけは留意してもらいたい」
ネージュ「当然だね。けどまぁ気心が知れた人間でよかったよ。私たちソースケが来るということは聞かされてなかったからさ。連携とかものすごく簡単な打ち合わせで済みそう。私たちなら目配せだけでも相当戦えるからね」
ハデス「ああ」
ソースケ「肯定だ」
シャンディ「と決まればすることは決まったね。ネージュたちパイロット組みは作戦の組み立て。私は機体の整備に取り掛かるわ。ソースケの機体の調整はアルの言うとおりにやるけども良い?」
ソースケ「お願いします中尉殿」
シャンディ「止めてってば」
ソースケ「善処します」
シャンディ「いいけどね。・・・・・・・・・じゃ、切りの良いところまでやっちゃうわ。話し終わったら格納庫にまで着てね」
ネージュ「ちょっと待って、シャンディ」
 シャンディが格納庫へと向かおうとしたその前にだった。ネージュがシャンディを呼び止めえる。振り返ってシャンディが戻ってくる。
シャンディ「ん? 何?」
ネージュ「初めにさ、ちょっとだけ話聞いていってよ。シャンディの意見も聞きたいんだ」
シャンディ「私の意見? 機体の調整のことでの話?」
ネージュ「そうそう。・・・・・・・・・伏線は必要だよね」
 ネージュがにんまりと笑みを見せる。その笑みが何を意味するのかは訓練時にお披露目されるのだが。




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