粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

スーパールート 第弐話 『標的ひとつに敵ふたつ』 前編


第弐話 『標的ひとつに敵ふたつ』 前編


 忙しかった。当然といえば当然なのだ。船の名前はニルヴァーナに決まった。センスのいい名前だと思っている。だがしかし、そんな暢気なことを言って回っていられるほどに暇ではない。マグノ一家の海賊船。タラークのパージされた旧イカズチ。更には風月号。この区画は相談の末、治外法権が認められた。これも喜ばしいことだろう。だが、それ以上に面倒なことが多かった。現在に至っても未だにこの区画を把握できていないということだ。パワーアップした風月号の区画、優秀なプログラマーであるリーリですら頭を悩ませているほどだ。操作程度しか出来ないコクウでもするべきことは山ほどある。2人はマリシ・デーヴァのある格納庫で詳細を導き出す為に各種のプログラムを走査させていた。
コクウ「リーリ! 各所の個別のプログラムは全部走らせた!」
リーリ「りょーかい。今度は武装の方にこっちのプログラム走らせてぇー。火器管制もチェックしないと」
コクウ「つくづく、前の戦闘でよく動いたな」
リーリ「んーー、それは心配ないかな。今は知らせているのは応答プログラムや把握するためのプログラムばっかりだから。実際いじるところはほとんどないよ。ピーキーな機体がさらにピーキーになっただけだしね。それを除けばかなり良い出来に仕上がっていると思うよ?」
コクウ「・・・・・・・・・へぇ」
リーリ「コクウは乗っていたんだから気付きなさいってば」
コクウ「努力はする」
リーリ「本当にどうしてあんたがマリシ扱えるのか訳分からないわよ」
コクウ「・・・・・・・・・俺も知りてぇーなぁ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
 コクウが自分の通信端末に反応があった。それにコクウはスイッチを入れる。
コクウ「コクウだ」
エズラ『お頭がお呼びです。至急ブリッジに上がってください』
コクウ「了解だ。すぐ行く」
 コクウは簡単に返事をしてから通信機を切った。
リーリ「なんだろうねぇ。非番なのに」
コクウ「さぁ。・・・・・・・・・とりあえずいってくる。悪いが頼むな」
リーリ「お任せ! いってらっしゃい」
コクウ「おぅ」
 コクウはジャケットを羽織ってから急ぎ足で風月号の格納庫を後にした。


 コクウがニルヴァーナのブリッジに入ってくる。かなり飄々とした表情でだ。
コクウ「遅くなりました」
 そのコクウに応対したのはメジェールの頭目であるマグノだ。
マグノ「非番なのに呼び出してすまないね、コクウ」
コクウ「いえ、その辺は信用していますから。それよりも何かありましたか?」
プザム「ああ。エズラ、映像を出してくれ」
 すぐにメインモニターに映像が出る。それをコクウは視線をそらすだけで眺める。
プザム「今から20分ほど前に遠望鏡に映った映像だ。この船に見覚えはないか?」
コクウ「デネブ級重巡洋艦に双胴空母ですか。・・・・・・・・・マクロス護衛船団ですね。・・・・・・・・・エズラちゃん、リーリを呼び出してくれ」
エズラ「え!? あの・・・・・・・・・」
 突然コクウに呼ばれたエズラが驚いて反応を示す。伺いを立てるようにプザムを振り向いてその意図を察したプザムはすぐに頷く。
エズラ「りょ、了解」
マグノ「知っているようだね。マクロス護衛船団って言うのはなんだい?」
コクウ「マクロスとは地球からの移民船団の名前です」
マグノ「?? あの大きさの船に民間人が乗っているのかい?」
コクウ「いえ。マクロスというのは全長10キロ以上に及ぶ巨大な天窓式のドームがその本体です。安住の地をその巨大要塞で行うというものです。あれはあくまでその護衛船団です。ちなみに、マクロスには政府もあって軍隊や自治も認められています」
マグノ「・・・・・・・・・とんでもない規模の話しだねぇ。昔とはずいぶん違うよ。しかし、成程理解したよ。じゃ、私たちと相対するという可能性はないね?」
コクウ「・・・・・・・・・その可能性は低いですが、戦闘する可能性が低いかと聞かれれば微妙ですね。だからリーリを呼びました。各種のマクロス船団事情はリーリのほうが詳しいですから」
プザム「どういう意味だコクウ?」
コクウ「マクロスはひとつじゃありません。マクロス型の移民船団の数はすでに25を超えています。どこのマクロスに所属している船か見定めなくちゃいけません。・・・・・・・・・それに、これは少々・・・・・・・・・」
エズラ「???」
プザム「・・・・・・・・・成程。奇異だな」
マグノ「これは・・・・・・・・・敗走かね?」
コクウ「はい。敗走するということは敵がいるということですから。安易に接触するべきではないと考えます」
 しばらくしてリーリがブリッジに上がってくる。忙しいはずなのだが、いやな顔ひとつしていない。
リーリ「お待たせしました、お頭」
マグノ「エイディ商会の2人共に呼びつけて済まないね」
 リーリはマグノに礼儀正しく接してからそばにいるコクウに向き直った。
リーリ「いえ。・・・・・・・・・コクウでしょ? 私を呼んだの。何?」
コクウ「この映像見てくれ? これどこのマクロスだ?」
 リーリはメインモニターに映っている映像を凝視する。それをしばらく見続けてから口を開いた。
リーリ「・・・・・・・・・んーー、デネブ級に双胴空母か。ウラガ級の割合が低いか。・・・・・・・・・たぶんだけどもマクロス・ギャラクシー船団だね」
コクウ「ギャラクシー? 行ったことないな」
リーリ「私も昔に一回行ったことがあるだけ。インプラントを施している連中が無茶苦茶多いの。人間味はあまりないよ。商売相手としては接しやすかったけどもあまり好きじゃないかな。取引にはやっぱり熱い物が欲しいしね」
コクウ「そうですかい。それで、どう思う? ギャラクシーの連中と戦う敵については何か知っているか?」
リーリ「敵!? 知らないよ。そりゃそっけない連中だけども戦うほど悪い連中じゃ・・・・・・・・・」
 コクウはエズラの後ろからコンソールをいじってデネブ級巡洋艦の装甲がぼろぼろになっているのを拡大してみせる。さらには前の映像を見せて護衛艦が轟沈するさまを見せる。それを見たリーリはさらに悩みこむ。
リーリ「し、知らないってば。それこそ前に私たちに戦った連中じゃないの?」
コクウ「・・・・・・・・・同じなら共闘も出来る可能性はあるか? この状況なら俺やリーリが橋渡しすれば突然に撃たれることはないと思いますね」
プザム「同感だ。何より、向こうの情報を知る必要がある」
マグノ「そうだね。よし、マクロス・ギャラクシー護衛船団の船と接触する。エズラは周囲警戒。橋渡しはリーリに頼むけどいいかい?」
リーリ「分かりました」
プザム「ベルヴェデール、接触予想時刻は?」
ベルヴェデール「3時間後です」
プザム「了解だ」
コクウ「それと、これは提言だが護衛船団の後方も注目していたほうがいい。何か観測できるかもしれない」
プザム「そうか。・・・・・・・・・そうだな」
 ここから3時間が経過するまでコクウとリーリはブリッジから離れなかった。


 あと30分程度でギャラクシー護衛船団に到達する。その前に通信を入れることにする。リーリが通信席に座ってその役を担うことになる。
リーリ「こちらエイディ商会の代表リーリウム・エイディです。マクロス・ギャラクシーの護衛船団とお見受けします。緊急を要する事態ならば何かお役に立てるかもしれません。事態の説明をお願いしたいのですが?」
 丁寧な口調だった。こういう切り出し方をされれば無碍に断るほうが明らかに難しい。それをリーリも理解しているのだろう。応答が帰ってくるまで、しばしのインターバルがあってそこから返答があった。
オペレータ『こちらマクロス・ギャラクシー所属、デネブ級重巡洋艦カイトス。我々はバジュラの攻撃を受け瀕死の状態を追っている。こちらのけが人だけでも収容してもらえれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 通信の途中で閃光がニルヴァーナのブリッジまでも照らす。それよりも幾分先に通信が途切れた。これが意味することを理解しても言及したりはしなかった。いの一番に冷静を取り戻したのはやはりコクウだった。
コクウ「バジュラ? リーリ知っているか?」
 呆けているリーリにコクウが声をかける。
リーリ「くそっ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・バジュラ・・・・・・・・・。思い当たることはないよ」
コクウ「そうか。刈り取りの連中の呼称ということは?」
リーリ「考え難いように思うな。一応映像から分析しないと何とも言えないと思う」
エズラ「大変ですぅ! 後方から所属不明の物体が多数接近してきています!」
プザム「映像を出せ!」
 映像が出る。一言で表現するなれば巨大な蟲だった。それがとてつもない速さで接近してくる。
マグノ「なんだいこいつらは!?」
コクウ「これがバジュラか。刈り取りの連中とは別件だな。接近した途端これだ。面倒なことこの上ない」
マグノ「まったくだ。さてどうしたもんかね」
プザム「一端船団を離れるべきでしょう。非情ではありますがバジュラという存在がこちらに対応してくるかどうかでこちらのとるべき手段が異なってきます」
コクウ「・・・・・・・・・賛成だな。ギャラクシーの連中には悪いが無為な戦闘は避けるべきだ。避けられればだが」
リーリ「縁起悪い事言わないの! 本当に来たらどうするのよ!!」
 コクウの足を華奢なリーリが蹴り飛ばす。
コクウ「来たら来た時の話だろうに。俺はとりあえず下に降りています。パイロット連中にいきさつの説明。もう感づいている奴もいるでしょうが、戦闘になる可能性もあるので下にいます。あと、ギャラクシーの連中の戦闘データは貴重です。くれぐれも記録のほうよろしく」
マグノ「わかってるよ。まったく、適当な身なりの癖に変なところが細かいねぇ。いつもこうなのかい? リーリ」
リーリ「細かいですよ。金銭的には経営権が私にあっても変な支出には噛み付いてきますから。荒事はもっとシビアですね」
プザム「もう。裏方の仕事にも向いているのか。今度ガスコーニュに相談してみるか」
リーリ「あ、副長それ楽しそう♪」
コクウ「裏方は御免蒙る。あんな格好で仕事は出来ない」
 それだけ言い捨てるとコクウは逃げるようにブリッジを後にする。


 コクウがパイロット連中に説明をしていた。要点をハッキリとさせて考えうる戦闘状況、パターンまでしっかりと計算されている。見事と言う他ないだろう。後ろでガスコーニュがヒューと口笛を吹いていた。
コクウ「ってな感じ。今戦闘状況を観測検分もするから多少の変化はある。ただ、最大限楽観的な観測でも敵さんの速さは異常と思っていたほうがいい。連携も考えられない話じゃないドレッドは絶対離れ離れになるなよ。基本だが小隊単位での攻防が理想だから・・・・・・・・・。って、おいメイア、なぜ俺をそんなに睨む?」
メイア「なぜ貴様がブリーフィングをしている。それは副長の仕事だろう」
コクウ「副長はブリッジで観測データの採取に忙しい。問題ないだろう? 問題あるなら親方が言う」
 メイアが渋い表情になる。日ごろからあまり表情の柔らかいほうではないがそれでも嫌なことはハッキリと顔に出るらしい。それに、メイアだけじゃない。バーネットやジュラといった面々もいぶかしげな表情をしている事には変わりない。
コクウ「・・・・・・・・・あー、悪かったよ。次からあまり出しゃばらない様にするって。気をつけるから、あまり感情を押し出したような戦い方するなよ? 危ないから」
メイア「貴様らに言われる筋合いではない!!」
ガスコ「いやいや、それは大事だよ」
 と、突然コクウに怒鳴りで返したメイアの言葉に別な方向から答えが返る。メイアの憤りに共感してか驚いてかはわからないがシーンとするブリーフィングルームの後ろで足を組んで座っていたガスコーニュが腰を上げる。
ガスコ「コクウの言うとおりさ。いやいや嬉しいねぇ。この船にはせっかちな輩が多くて多くて。男でもあんたを使おうって言うお頭の考えは痛いほどわかるよ」
メイア「が、ガスコさん!?」
ガスコ「ガスコじゃないよ。ガスコーニュ。全員若いんだからもっと柔らかく物を考えなって」
ヒビキ「問題ねーって!! どんな奴が相手だって俺が全部ぶっ飛ばしてやらぁ!!」
 場の空気を読めない男にコクウは痛々しい表情で相対する。
コクウ「本当にそれが出来るんならヒビキ一人に全部任せたい気分だな」
ガスコ「確かに! それは楽でいいねぇ」
コクウ「言っとくけどね、敵さんは強いよ。呼称名バジュラ。わかる事は名前だけ。ほかは何にもなし。船団1つを敗走にまで追いやった敵さんだ。油断してるとマジで死ぬぞ?」
ヒビキ「船団だかなんだか知らねーが! そんなんでびびるかよ!」
コクウ「わかってないのな。マクロス船団、バジュラに倒された船団ってのはな、俺たちとは比べ物にならない戦力を保有してるんだよ。マクロスってのはな、最高速で運用されるバルキリーって人型に変形する戦闘機を使うんだ。ハッキリ言ってあれが負けるような状況は俺は考えられないんだよ!」
 最後の語彙が少し強くなってしまった。コクウはポンポンと肩を叩いてから自身のヴォルテージを下げる。
コクウ「怒鳴って悪かった。これでブリーフィングは終了だ。これから戦闘計画が決まり次第各端末で伝える。読んでおいてくれ。第2種戦闘態勢のままで待機だ。よろしく頼む」
 そういい残してからコクウはまるで逃げるようにブリーフィングルームを後にする。部屋を出たコクウはため息1つついてから天井を仰いだ。
コクウ「まだまだ俺も青いな」
ガスコ「そんな事ないんじゃないかい?」
 コクウの隣にはいつの間にかガスコーニュがいた。コクウは気づいていたのかいないのかは定かではないが少しだけ口の端を上げる。
コクウ「言わなくても良いこと口にしちまったからな。凹みもするさ。しかし、お頭と副長が俺にブリーフィングを任せた理由がわかったよ。確かにガスコーニュさん、あんたがいれば最低限の統制は取れるってことだな」
ガスコ「あたしにさん付けはいらないさ、コクウ。・・・・・・・・・それに、あれだけ出来りゃ大したもんさ。あんたがメイアに言った台詞、ありゃあたしが言おうと思っていた事なんだよ? あんたは男だからって理由で反目されるってのは勿体ないからね。あたしゃこれでもあんたを買ってんだよ?」
コクウ「どうも。・・・・・・・・・これが終わったら一杯付き合ってくれよ。あんたとなら美味い酒が飲めそうだ」
ガスコ「良いねぇ。・・・・・・・・・当然、あんたの奢りなんだろうね?」
コクウ「奢ろう。いい酒一本くすねてきてやる」


 ブリーフィングを終えたコクウはブリッジに戻る。新たな情報の検分やら報告情報の選定やらやることはある。
マグノ「ご苦労だったねコクウ。いろいろ反感あったんじゃないのかい?」
コクウ「ありましたね。特にメイア、続いてジュラやバーネットが俺のことを良く思っていないらしいです。心境は理解は出来ますが、これでも慎ましやかにやっているつもりなんですがね」
マグノ「突然出てきた男に戦闘の基本案の作成と戦闘指揮をやらせてるんだ。しかし、私は大助かりだね。そうだろ? BC」
プザム「はい。おかげでこちらは敵戦闘データの採取に専念できます。それに戦闘案も一見しましたが上出来な部類です。これからも続けてほしいくらいですね」
マグノ「ということだ。更にがんばっておくれ」
コクウ「そのうちメイアあたりに後ろを刺されるんじゃないかとヤキモキしてますがね」
マグノ「あはははは。そうかいそうかい。なら、その時はその時だね。男共はおとなしくしてるようだったかい? 特にあの血気盛んな兄ちゃんは」
コクウ「いざとなれば単機で突貫してくれるそうです。長生きは逆立ちしても出来ないタイプですね」
マグノ「まだまだだねぇ」
コクウ「同感です。・・・・・・・・・まぁ、冗談はこのくらいで。どうですか戦況は?」
 まじめなコクウの表情にマグノたちの表情も少し強張る。
プザム「マクロス・ギャラクシーとの接触ポイントを変更して敵の動向を探ってみた。色々と説明するよりもこっちの映像を見たほうが早い」
 映し出された映像をコクウは食い入るように見る。それはこちらの行動とマクロス船団の動き。更にはバジュラの動きを同じ時間で表したものだった。それを見終わってからコクウは苦い表情になる。
コクウ「やはり、俺らもバジュラの標的になっちまったようですね。・・・・・・・・・リーリどう思う?」
リーリ「逃げてるってことはギャラクシーは今戦っても勝てないってことでしょ? 私たちも徹底して逃げてみれば? こっちが本命ってことはないだろうからうまくいけば逃げられるかもよ?」
コクウ「・・・・・・・・・それはないだろうよ」
リーリ「何で?」
コクウ「完全に担当を決めていやがる。恐らく目分量で決めてるんだろうが、この区分が俺らを担当。残りがギャラクシーだ。途中で俺たちの追跡をやめるとは思えないけどな」
リーリ「うーん。そう言われれば沿うとも取れるねぇ」
コクウ「ただ、気になる点もあるんだよ」
マグノ「??」
コクウ「ギャラクシーの連中がただ闇雲に逃げているとはちょっと思えないって点」
プザム「成程、統制の取れている部隊だけにありえないか」
コクウ「と、俺は思うんですけどね。しかし、そうだとすると一体どこに逃げてるんだか」
リーリ「私が調べてみようか? 風月号に主だった船団の航行データは入っているから予測くらいは出来るかもよ? ただ、こっちの位置を正確に知らないといけないからニルヴァーナのシステムとリンクしないとダメだけども。それに、パルフェも借りたい」
 コクウはその了承を求めるべくマグノを見る。
コクウ「ということなんですけども?」
マグノ「構わないよ。風月号区画にパルフェを行かせる」
リーリ「ありがとうございます。じゃ、私は先に行っています」
プザム「頼む」
 リーリが出て行ってからマグノはしばし考えてからコクウに声をかける。
マグノ「ところでコクウ、名前なんていったかね? お前たちのあの機体は使えるのかい?」
コクウ「マリシ・デーヴァですか? 戦闘には支障はないと思います。それなりには動きましたからね」
マグノ「マリシ・デーヴァか。あれはニムバスの残した機体か。俄かには信じられないねぇ」
コクウ「俺はリーリの親父さんには会ったことありませんが、お頭は不自然に思うんですか、マリシ・デーヴァの存在が?」
マグノ「ああ。あの男は生粋の商人さね。命をかける場所は戦場じゃない。あいつが自衛のためとはいえあんな機体を持つなんて私には解せないねぇ」
コクウ「・・・・・・・・・俺もそう思っていました。リーリへ残したにしてはあの機体はピーキー過ぎます。ペークシスでチューンする前でもとてもじゃないが万人に扱えるような代物じゃなかったですよ。しかも、エイディ商会が保有する倉庫の地下にある隠しドッグに保管されていたそうです。俺はあれがリーリの親父さんの形見なんて思っていません」
マグノ「その話、リーリは?」
コクウ「いえ、言っていません。言えば癇癪起して乗り込まれる可能性があるんで。前に一度、リーリが乗り込んだときは本当にひどい有様でした。胃の中身が逆流して窒息寸前でしたよ」
マグノ「そうかい。そんなもの使うのは気が引けるんだろうが、すまないね」
コクウ「構いませんよ。俺が使う分にはどうにでもなりますから。今では愛着もあります」
エズラ「バジュラ、ギャラクシー護衛船団と接触しました!!」
 話の流れを呼んだかのようなタイミングだった。そのエズラの報告がコクウとマグノを戦闘前の表情をさせるには十分だった。映し出された映像をコクウは睨みつける。
 ギャラクシー船団から発進する。機体はVF-171ナイトメアプラスだった。すでに船団のすぐ後方にまで来ているバジュラに対応する。コクウはヴァルキリーの特質とアドヴァンテージをしっかりと心得ている。これを逆算してこちらの戦闘データに重ねることは造作もないことだった。そのコクウですら、戦闘映像をポーカーフェイスでそれを見ている。
コクウ(速い。予想していたがやはり速いな。間違いなくドレッド以上。耐久値も予想以上だな。旧式で他の機体に比べて足の遅いナイトメアプラスが相手しているといってもな)
マグノ「・・・・・・・・・苦い顔してるね、コクウ」
コクウ「!? 顔に出てましたか?」
マグノ「いや、鎌かけてみただけさ。・・・・・・・・・厳しいのかい?」
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええ。厳しいです。ヴァルキリーの兵装とドレッドの兵装は違いますから確かなことは言えませんけども、スピードはドレッドを単純に超えています。数にもよりますが下手な編成で相対すれば手玉に取られますね」
 嘘をついても仕方がないと判断したのだろう。コクウは思ったことを淡々と述べた。
プザム「どうにもならないのか?」
コクウ「今こちらを追撃しているバジュラの数は大よそ30。まともに戦えば最大限楽観的な予測をしてもこっちのドレッドの恐らく半数失いますね。・・・・・・・・・ヒビキを単独でおとりにすれば逃げられるでしょうが」
マグノ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・冗談なんだろ?」
コクウ「当然です。あんな何もわかってないガキを一人見捨てて逃げるくらいなら全滅したほうがまだマシですね」
マグノ「そうかい」
プザム「貴様は本当に海賊向きだな。だが、その胆力は賞賛に値する」
コクウ「ハァ・・・・・・・・・俺を褒めるよりも何か策を練らないといけないでしょうに」
マグノ「その通りだね。しかし、無策って訳じゃないんだろ?」
コクウ「あーー、1機でいいんです。バジュラよりも速い機体があれば。一瞬だけでも動きを止められれば。勝率が跳ね上がるんですが」
マグノ「マリシ・デーヴァは?」
コクウ「出力は高いですが動きは機敏じゃないです。強化されて幾分マシですが追いつけません」
プザム「合体したヒビキ・トカイの蛮型とディータのドレッドの出力ならばどうだ?」
コクウ「勝手にヴァンドレッドと呼称しますが、どちらかと言うとあれはマリシ・デーヴァに近い特機です。スピード型じゃないです」
マグノ「八方塞がりだねぇ」
 こと戦闘に関しては天才的な才能すら持ち合わせているコクウが手も足も出ないといった状況に全員が困り果てている様子だった。だが、まだ余裕がある。この余裕が彼らの長たる由縁だろう。そんな中、彼らに朗報が来る。
リーリ『ブリッジ! こちらリーリウム』
エズラ「はい。ブリッジ」
リーリ『わかったわ。ギャラクシーは応援を待っているんだよ! この近辺を航行中のマクロスがあった。マクロス・フロンティア! もうすぐフォールド断層が消える地点がある。そこで一斉に攻撃に入るつもりよ』
 エズラに後ろにコクウは立ってマイクに直接話しかける。
コクウ「サンキュー、リーリ。光明が見えた」
リーリ『どういたしまして。パルフェのおかげよ』
 通信が切れる。コクウは周辺マップに指を刺して今いる場所、これからの航路を検分する。
マグノ「コクウ、援軍があるのかい?」
コクウ「ええ。フロンティアなら絶対に来ます。援軍の強襲予想地点が此処。こっちのバジュラの予想到達地点が此処。・・・・・・・・・間に合うな。この地点で一斉に攻勢に出ましょう」
マグノ「信用してるようだね。そのフロンティアっていうのを」
コクウ「ええ。俺にとってマクロス・フロンティアは特別です。俺の命を見つけて救ってくれたのはマクロス・フロンティアですから」
マグノ「しかし、根本的な解決にはなっていないんじゃないかい?」
コクウ「その通りですね。ですが、攻撃予想時間を合わせられれば敵さんが退散する可能性が増えます。多少でもバジュラが撤退する可能性が増える時間帯を狙いましょう」
プザム「他に方法がない以上、私はコクウの案に賛成です」
マグノ「そうさね。よし! 決まりだ。襲撃ポイントを設定! そこで反転して迎撃戦に入る!」
 総員がうなずいて決意を前面に押し出す。




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