粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

スーパールート 第壱話 『闇を照らすは摩利支天』 後編


第壱話 『闇を照らすは摩利支天』 後編


 艦内のマップを認識したピョロにバートをブリッジ届けさせてから、今度は医務室に到着する。メイアとBCを下ろす。ドゥエロもベッドに監視兵の女を寝かせる。だが、この2人が医務室に来たことで一騒ぎがある。
パイウェイ「お、男だケロォーーー!!」
コクウ「ああ。コクウだ。・・・・・・・・・よろしくな。って・・・・・・・・・。何やってんだコレ? ドゥエロ、医者なら分かるか?」
ドゥエロ「消毒のようだが?」
 消毒。そう確かに消毒だった。ただ、規模と中の被消毒者が異様だった。ほとんど下着姿で雨のような消毒液に浸っている。
コクウ「メジェールってそんなに潔癖なのか? こんなことしている暇ないだろうに。ドゥエロ、メイアのほうは問題ないはずだ。もうそろそろ目を覚ます。問題は副長だ」
 コクウはBCの腹部を指差してから服を捲ってそれを見せる。心臓よりもやや下に大きな痣ができてしまっている。
ドゥエロ「これは?」
コクウ「浸透頸って技を使っちまった。恐らく胃にまで力が達してる。目を覚ますまでにもう少しかかる上に暫くは流動食しか食べれないだろうよ」
ドゥエロ「わかった」
 男二人が勝手に話を始めている。そんな話をしていると爆弾娘が目を覚ましてしまう。周囲の状況把握。最後の記憶からこの状況を分析。その結果が凄まじかった。
メイア「動くな!!」
コクウ「!! 思ったより早いな。大事無いか?」
メイア「いけシャアシャアとよくも! ・・・・・・・・・!! 副長まで!? 貴様!!」
 ドゥエロがコクウを見る。状況を知りたいのだろう。そんなコクウはやれやれと言った様子で肩を落とす。
コクウ「今は休戦状態だ。お頭と手打ちも済んでいる。俺の言葉が信用できないならブリッジに通信を入れて真偽を確かめろ」
 お頭という言葉に流石なメイアも反応したようだった。コクウへの視線をずらすことなく通信機でブリッジに通話を入れる。暫くして納得したようではあるが、立ち上がってから再びコクウを睨みつけた。
メイア「私はお前を絶対に許さないからな」
コクウ「はいはい。分かったから早く行け」
メイア「!!」
 怒りの炎を瞳に宿してからメイアは医務室を後にした。さて、言及はしていないのだが、医務室には随分な数の患者が着ていた。数にして30人程度はいるだろう。
コクウ「いきなり大盛況だな」
ドゥエロ「医者冥利に尽きるな。ところで、お前はこれからどうする?」
コクウ「ブリッジに顔を出すつもりだが、その前に1つすることがある。・・・・・・・・・そこの看護婦さん」
 男が怖いのかよくは分からないがこちらを正視しようとしない。
パイウェイ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・男菌がうつるケロ」
 パイウェイの言葉にドゥエロが口の端を少しだけあげる。
コクウ「男菌!? なら、離れていても良い。この中にいる奴等出してやってくれ。今くそ忙しいんだ。手術患者でもない人間をコレだけ馬鹿丁寧に消毒する意味はない」
ドゥエロ「同感だ」
パイウェイ「ダメだケロ。男菌がなくなるまでは」
コクウ「出してくれないなら、背に腹は変えられないからこじ開けるぞ?」
パイウェイ「どうぞだケロケロ。この消毒機はメチャメチャ頑丈だケロ」
 更にドゥエロの表情がはにかむのをコクウは見逃さなかったのだが、コレはまぁ余談だ。コクウは中に半ば閉じ込められているクルーにジャスチャーで避けるように伝えてから威力重視の拳を消毒機にぶちかました。轟音と共にガラスはぶち破られて大穴が開く。更に、2発3発と繰り返して繰り出す打撃によって巨大な穴が物の数秒で完成してしまった。
 概ね人間か疑いたくなるような行動を目の当たりにしたパイウェイはもう泣きそうだったのだが。それは消毒機の中にいたクルーも同様だった。
バーネット「・・・・・・・・・男って無茶苦茶ね」
ドゥエロ「男がではない。彼だけだ」
 だが、どこかバーネットにはコクウの膂力を見ても自信がみなぎっているように見える。
バーネット「でも、力ばっかりあってもね。私たちの中での最強は副長だから、彼女を倒してから言いなさい」
 コクウは申し訳なさそうに横をチラッと見た。そこにいたのは当然ながらに昏倒して未だに目を覚まさないBCなのだが。その光景を見たバーネットが今度こそ言葉を失う。
バーネット「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅそ・・・・・・・・・」
コクウ「ひと悶着があってな。今はあんまりゆっくりとしてられないんで説明はあとな。怪我人以外はヘルプに回ってくれ」
 周囲に指示を出すコクウにバーネットが突っかかる。
バーネット「ちょ、・・・・・・・・・待ちなさい!! そんな勝手に」
コクウ「お頭の許可は貰ってる。問題があるなら確かめろ。俺はブリッジに行く。ドゥエロ、ここ頼むな」
ドゥエロ「了解した」


 コクウがブリッジにやってきた。恐らくはマグノとコクウの話を聞いている人間がいたのだろう。だれも、コクウがブリッジにやってきたことに関しては驚いていない様子だった。
マグノ「色々大変だったようだね」
コクウ「ええ。一応、緊急事態ってことで少しばかり無茶をしましたがご勘弁ください」
マグノ「分かってるよ。人手が足りないのはどうしようもないからね。それと、あの操舵士の兄ちゃん、本当に動かしてるよ」
コクウ「・・・・・・・・・眉唾の可能性があると思ってたんですがね」
マグノ「私だってそうさ。けど、実際に動かしている。認めるしかないね。あと、遅くなったけどあんたに返しておくよ」
 マグノが自分のシートの横を指差す。そこに寝ていたのは当然リーリだ。これだけコクウが苦労して行動していたと言うのに当の本人は安らかな寝息を立てている。この表情は今のコクウには明らかに苛立たしい物だった。
コクウ「くそ、こっちの苦労も知らないで寝入ってやがる」
マグノ「・・・・・・・・・意識が戻ったときどういう反応を見せるか楽しみだねぇ」
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お頭、人が悪いですね。俺にこいつの扱いをさせてリーリの本性を見破る気ですね?」
マグノ「そんなつもりはないさ」
コクウ「ご冗談を。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ですがまぁ、冗談はこの位で。迎撃できそうですか?」
マグノ「メイアが出撃できたのと、船が動いたことがせめてもの救いだが、厳しいと言わざるおえないねぇ」
 マグノの言葉もそうだが、艦が大きく揺れる。それと同時に被害報告が入る。
オペレータ「左舷エンジン被弾!!」
コクウ「あまりい状態ではないみたいですね。・・・・・・・・・おいバート!! 取り舵を取れ!! 20度!!」
マグノ「!?」
バート『へ!?』
 間抜けそうな声が聞こえてくる。だが、コクウの凛とした声に返答することなく了承したようだ。直ぐに艦の向きが変わる。
コクウ「勝手してすいません。ですが、これで敵の進行方向が一点になるので遼機が援護しやすくなります。・・・・・・・・・気休め程度ですが」
マグノ「驚いたね。船の指揮でも取っていたことがあるのかい?」
コクウ「さぁ。あるかもしれませんしないかもしれません。・・・・・・・・・・・・・・・・・・この際言っておきますが、俺は4年より前の記憶が綺麗さっぱりありません。自分の名前すらです」
マグノ「本当かい?」
コクウ「ええ」
マグノ「頭の中まで風変わりなのかい?」
コクウ「奇妙な物言いですね?」
マグノ「はははは。そうかもね」
 笑い声が木霊する中、ようやく長き眠りから目を覚まそうとしている人物がいた。
リーリ「ん・・・・・・・・・ん」
 コクウはその声を聞き漏らさずに捕らえていた。急ぎ足でリーリの前にしゃがみこむ。
コクウ「おい、目を覚ませ。リーリ」
リーリ「あふ・・・・・・・・・コクウ? おはよ」
コクウ「寝ぼけるな低血圧。お前のバカのせいで今日の俺は人生で最もツキのない日を送る羽目になっちまった」
リーリ「・・・・・・・・・ほふぇ?」
コクウ「さっさと起きろ!」
リーリ「何よ。私は商談の後で疲れて・・・・・・・・・・・・・・・・・・商談!!」
コクウ「ああそうだよ。まだ商談相手が目の前にいる。気合を入れろ」
 ようやく覚醒したようでリーリが周囲を見回す。
リーリ「コクウ! 私ね、眠らされて」
 コクウに甘えてしっかりと彼の言葉を聴こうとしないリーリにマグノが口を挟む。
マグノ「お嬢ちゃん」
リーリ「マグノ・・・・・・・・・ビバン?」
マグノ「私らは変な宙域に一緒に飛ばされちまった。今はコクウも含めて私らに協力してくれている。あんた等には悪いとは思うが、暫く一緒に動いてくれ」
 いきなりの物言い。コレを唐突に理解できる人間は決して多くはないだろう。
リーリ「・・・・・・・・・へ?」
コクウ「細かな話は後でしてやる。だが、今は判断を誤れば死ぬ。ちょっとおとなしくしていろ」
 そういうとコクウは戦闘状況を確認する。コクウもマグノもモニターに映る戦闘映像を見て敵さんが勝てそうな輩かをしっかりと検分しているようだった。それでコクウは思い立ったように立ち上がる。
コクウ「流石に援軍なしじゃ厳しいですね。・・・・・・・・・俺が出ます」
マグノ「ん? どうするつもりだい?」
コクウ「あるんですよ。人型戦闘兵器が。風月号の中に。それを起動させてみます。ペークシスに侵食されているかも知れませんが、黙って待つよりマシな案に思えますのでね」
マグノ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった。頼むよ」
コクウ「リーリ、一緒に来い。アレを使うぞ」
リーリ「・・・・・・・・・あれ? ・・・・・・・・・! あれってあれ!?」
コクウ「そうだ。アレだ」
リーリ「なんで!! どうしてよ!! あれは父さんの形見なのよ!? それを使うって!!? それに、あれは風月号の中でしょ?」
コクウ「風月号はマグノ一家の海賊船とタラークの船との融合に巻き込まれてんだ。そこのお姉ちゃん、風月号への直接的なルートはあるか?」
エズラ「え、はい。少し前に通路が出来上がっています。内装までには至っていませんが」
コクウ「充分だ」
リーリ「・・・・・・・・・ど、どういう事よ!! 風月号とこの船が融合!? どうしてそんなことになってるのよ!!」
コクウ「理由なんざ俺が知るか。お前を探しにこの船に侵入したら突然爆発。現在の位置も分からないような空間に投げ出されて船は児童で融合を始めた。おまけに敵さんの来襲だ。理解なんぞ出来るような事態じゃない」
リーリ「わ、私の風月号を!! 何で守らなかったのよ!! このバカ!! 無能!!!」
 あまりといえばあまりの言動のようにこのブリッジにいる誰もがおもえた。少なくともコクウはこの事態を受け止めようとしている。事態を収めようとしている。そんな人間に対してリーリの言動はあまりに幼い。
マグノ「いい加減におし!!」
リーリ「っ!!」
 マグノの叫び声にリーリはビクッと震わせて反応した。
マグノ「その兄ちゃんはあんたを助け出そうとして単身で海賊の船にやってきたんだ。殺されても文句の言えない場所にね。それだけでも大したもんだっていうのに、状況を認識して生き残ろうとしてるんだ。・・・・・・・・・これだけの男が従ってるんだからどれだけの女かと思って期待していれば、何も分かっていない小娘だったとはね!」
リーリ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 リーリはブリッジから駆け出していってしまう。そのリーリを流石にコクウも追っていくことが出来ない。
コクウ「お頭」
マグノ「わかってるよ。他人が口を挟んで悪かったね」
コクウ「いえ」
 マグノにもそれ以上言葉はなかった。押し黙るコクウの前に通信が入ってくる。そのモニターに現れたのはヒビキだった。
ヒビキ『おい! 聞こえるか。コレをはずしてくれ!! コレじゃ身動き取れねー!』
 ヒビキの言葉を受けてマグノがどういうことかという意味を込めてコクウの顔を見る。コクウは任せろという意味を込めて小さく笑ってからその言葉に答える。
コクウ「どういう意味だい?」
ヒビキ『決まってんだろ! 俺も戦うんだよ!!』
コクウ「いいのか?」
ヒビキ『確かに俺は見っとも無ねーよ。かっこ悪いよ。だがな、もうそんな自分にうんざりしたんだ!!』
コクウ「開き直りか?」
ヒビキ『違う! 少なくとも今はもう違う!! 強くなる為に! 俺が俺である証を立てるためだ!!!』
コクウ「いい気概だ。行かせてやる」
ヒビキ『よし、一丁やったるか!!』
 コクウの言葉に合わせるようにヒビキの手錠が外れる。手錠が外れえるのを確認してからヒビキは走り出した。その映像を最後に通信が切れる。それと差し換わるようにメイアからの通信が入る。
メイア『敵のレスポンスが上がってきています。我々だけでは防御が精一杯です』
マグノ「今援軍が行ったよ。何しでかすか分からない奴がね」
メイア『・・・・・・・・・援軍?』
 メイアからの通信が切れる。その様子を見ながらか、見ている振りをしながらかは分からないがコクウは思い立ったように立ち上がった。
コクウ「やはり、俺も行くことにします。ここお願いします」
マグノ「あのお嬢ちゃんを説得するのかい?」
コクウ「あいつだって分かっている筈です。すべきこととできること。俺はリーリの父親には会ったことないんですが、その代わりをしようなんて驕るつもりはないですが、人として間違ったことをさせようとは思いませんから」
 ブリッジを出て行こうとするコクウに後からマグノが言葉を発する。
マグノ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いい男だったよ。あのお嬢ちゃんの父親、ニムバスはさ。生きて帰っておいで。コクウ、あんたもニムバスの娘も死んで良い訳がないんだからね」
コクウ「はい!」
 そして、コクウは向かう。リーリの行く場所は分かっていた。間違いなく風月号部だ。


 居場所など調べる必要もなかった。リーリのよりどころなどコクウの知る限り1つしかない。風月号だ。数々の整備、改良を施した彼女の家だ。そのブリッジのあった場所。どういう訳か完全に風体が変わっていた。それが更にリーリを悲しくさせたのかシートに足を組んで座っているリーリがいた。
リーリ「・・・・・・・・・わかってるんだよ、パパ。コクウは悪くないって。悪いのは私だった。コクウの言うこと聞いていればこんなことにならなかったって。・・・・・・・・・それに怒られちゃったよ。マグノのおばあちゃんに。パパの信用落とさないように頑張ろうと思ったんだけどなぁ・・・・・・・・・。どうして私ってこんなに素直じゃないんだろ。・・・・・・・・・コクウだってあんな事言われたら、愛想尽かされちゃうよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしたら良いのパパ? 私もう一人ぼっちは嫌なのに。コクウだけがずっと傍にいてくれたのに。・・・・・・・・・コクウが出て行っちゃったら・・・・・・・・・私、何も出来ないのに・・・・・・・・・」
コクウ「んなことしねーよ」
 いつの間にかコクウがこのブリッジに来ていた。意的な笑みを浮かべながらブリッジに入ってきていた。
リーリ「・・・・・・・・・!! コクウ!? 何で・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・何しに来たのよ!? あんた、マグノ一家で海賊として雇ってもらえば良いじゃない!! 美人ばっかでさぞ楽しい職場でしょうよ」
コクウ「そうやって、強がるところは直せっていつも言ってるだろ? お前だって分かってんだろ? 今がどういうときでどうするべきか」
リーリ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
コクウ「いつもならな、お前が立ち直って正しいことするのを待ってるんだけど、今はそういうわけには行かないんだよ。戦わなければこの船がやられる」
リーリ「何で私が協力しなきゃいけないのよ!!」
コクウ「甘ったれるな!」
リーリ「!!!」
 コクウが厳しい表情で喉から押し出すように継げた。怒鳴ってこそいないがコレほどまでに強い口調でコクウに物を言われたことはリーリは経験にない。
コクウ「甘ったれるなよ。こんな状況まで誰かの行動に縋るつもりか? 誰かが戦って、死んで、掴んだ安全をのうのうと甘受するのがお前のやり方か?」
リーリ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
コクウ「・・・・・・・・・違うだろ? お前だってそんな事したくないだろ? お前の親父さん、ニムバス・エイディはもっと崇高な商人だったんだろ? 緊急事態にほっぽり出すような人間になるな。親父さんだってお前のこと見てるんだ。恥ずかしくない行動を取らなきゃいけないんだよ」
 コクウは自身の知る限り始めてリーリに説教をした。ここまで強くこの娘に物を言ったことはない。コクウがはっきりと喋ったからだろうか。リーリが目に一杯の涙をためて喋る。
リーリ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・だって・・・・・・・・・・・・・・・・・・怖いんだよ」
 ようやく、コクウはリーリの心の殻を剥がせたと思った。この娘は本心を虚勢によって隠す。
リーリ「戦って死ぬのも、無くすのもいやだ・・・・・・・・・。ウッ、・・・・・・・・・嫌だよ」
 頬に涙を伝わらせているリーリにコクウは真正面に向き直ってしっかりと教える。
コクウ「・・・・・・・・・けど、戦わなければもっとたくさん無くしちまう時があるんだ。今がそのときだ。逃げるな。怖くても、無くしても、抗わなければもっと大きなものを無くす。なくしたら幾ら後悔したって戻ってこないんだ。だから、人間は戦うんだ。守る為に、無くさない為に。・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺はお前を守ると約束したな? だから、戦わせてくれ」
リーリ「・・・・・・・・・コクウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
 リーリの返事を貰って、コクウはリーリの頭を撫でる。見込みどおりの言葉をもらえたコクウは満面の笑みでリーリの涙を拭きながら答えた。
コクウ「・・・・・・・・・ああ。頼むぞ社長」
 リーリの表情が引き締まっていく。その表情に呼応するかのように風月号ブリッジ区画が光り輝いていく。周囲が全面のモニターになり、そこに映し出された情報のグラフやレーダー映像。更にはなにやら映像が映し出される。それを見たリーリは小さく漏らした。
リーリ「これは・・・・・・・・・? マリシ・デーヴァの管制システムに見えるけど?」
コクウ「・・・・・・・・・マリシ・デーヴァの外観も変わってないか?」
リーリ「え、嘘でしょ!? あ、ホントだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待ってここのコンソール弄ってみる」
 リーリが突如現れた前衛的なコンソールを弄るとその映像に出てくる機体の装備変更のチュートリアルが出現した。
リーリ「やっぱり。このブリッジ、マリシ・デーヴァの管制室になっちゃった」
コクウ「・・・・・・・・・マグノ艦部のブリッジに繋げられるか?」
リーリ「ちょっと待ってて」
 リーリが色々と弄っているとモニターが出現。マグノの顔が現れた。
マグノ『おや? どこにいるんだい、コクウ、お嬢ちゃん?』
リーリ「風月号部分のブリッジです。こちらの搭載している機動兵器の管制室になっているみたいです」
マグノ『はー、そんなことになっているのかい? それで? 出撃は出来そうかい?』
コクウ「今から出撃します。いや、してみます」
マグノ『なんとも頼りない言葉だねぇ』
コクウ「行き当たりばったりな感じなんでね」
マグノ『違いない。けど、あの兄ちゃんだけじゃ頼りない。悪いが気張っておくれ』
コクウ「はい」
マグノ『・・・・・・・・・お嬢ちゃん、吹っ切れたようだね』
リーリ「・・・・・・・・・はい。バカなこと言ってすみませんでした」
マグノ『あんな状況だ。気にしちゃいないよ。・・・・・・・・・しかし、良い顔つきになったね。ニムバスにそっくりだよ』
 ニムバス。リーリの父親に似ているといわれて明らかにリーリの表情が高揚する。
リーリ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい!! コクウ! 暴れてきなさい! 社長命令よ!」
コクウ「ああ。・・・・・・・・・任せとけ」
 テンションが戻った。ここからがエイディ商会の力が発揮される。


 コクウは風月号の格納庫が会った場所に到着していた。そこには存在した。銀色の関節部。黒い鎧を想像させるアーマー部。更には左肩に固定された長い砲塔。その機体がそこに眠っていた。それを一見してからコクウは思わず漏らしてしまう。
コクウ「ペークシスはマリシまで侵食したって言うのか!? ・・・・・・・・・俺等にとやかく言っている暇はないか」
 自己完結したコクウは腹部コックピットを開くと体を滑り込ませた。そして、慣れた手付きでコンソールを弄り各部チェックと並行して通信機を開く。直ぐにリーリが通信に応答する。
リーリ『こちら風月号ブリッジ。どう?』
コクウ「いま、チェックプログラムを走査している。・・・・・・・・・出た。状態良好。侵食ほぼ終了。関節部影響なし。エンジン・・・・・・・・・ハイブリッドになってるのかこれは?」
リーリ『ハイブリッド!? 原子力エンジンのHG22型はどうなってるの?』
コクウ「それは異常なしだ。だた、エンジンの位置が変わっている。胸部心中線から左にややそれている。代わりに右側には別エンジンがもう1機搭載してある。・・・・・・・・・これは・・・・・・・・・・・・・・・・・・ペークシス反応! ペークシスプラズマだ!!」
リーリ『そんな・・・・・・・・・ギリギリの大きさだったHG22以上の出力をハイブリッドって形で応用しようって言うの!? そんなの人間には扱えるような代物じゃないわ!!』
コクウ「・・・・・・・・・だが、やるしかないだろうな」
 コクウは不敵な笑みを浮かべる。これはもう腹に決めたという表情だ。
コクウ「リーリ、接敵までに火器の応答プログラムの確認だけ至急頼む」
リーリ『ダメ! 自動モーションプログラムにバグが残っていたはずだからそれをまず繕うわ』
コクウ「いらん。手動でやる。火器応答関係を完璧にしてくれ」
リーリ『無理よ! マリシを手動だなんて』
コクウ「・・・・・・・・・そういえば言ってなかったな。不思議なんだよ。このお前の親父さんの血潮が詰まったこの機体、どうにも俺と相性が良いらしいんだ。動かせる。・・・・・・・・・お前を守れって背中を押されてる気がする。だから姿勢制御は問題ない」
リーリ『・・・・・・・・・コクウ』
コクウ「プログラム頼むぞ。間に合わせてくれ。間に合った!! ・・・・・・・・・行くぞ! エンジン起動させる。原子力エンジンは武器と姿勢制御に、小型ペークシスエンジンは推進力に回す」
リーリ『エンジン出力正常値確保。なおも上昇中。高水準での安定の見込み!』
コクウ「緊急動作チェック完了。支障箇所なし!! 出撃するぞ」
リーリ『了解! 格納ハンガー開閉。・・・・・・・・・開閉完了。斜度70度にて出撃せよ』
コクウ「よし。・・・・・・・・・マリシ・デーヴァ!! 発進する!!」
 マリシ・デーヴァ。それがエイディ商会の創始者であるニムバス・エイディの残した遺産。黒い甲冑を着込んだ摩利支天。巨大な機動兵器が宇宙に解き放たれることになる。


 ヒビキは奮戦していたと表現して差し支えはないだろう。所属不明の無人機も幾つか撃破してはいた。だが、いかんせん敵の数が多い。敵の本体に向かって剣一本でヒビキの蛮型が特攻にも似た攻勢をかけていた。
ヒビキ「・・・・・・・・・俺は前に出るんだ。誰にも邪魔はさせない!!」
 だが、気概ではどうにもならないこともある。無人機数機に接敵された蛮型は身動きが取れない状況になる。
ヒビキ「・・・・・・・・・あと少し。もう少しで届く。力が欲しい。もう一歩踏み出せるだけの力が!!」
 敵母艦からの攻撃が来る。伸びる有線式の鉄柱とでも言えば良いのだろうか。数多のそれがヒビキの蛮型に接近。突き刺さる。
ディータ『宇宙人さん!!』
ヒビキ「俺は負けねぇぇぇえええ!!!」
 着弾。そして爆散。炎がヒビキ機の姿を隠す。それをマグノはブリッジに眺めていた。
マグノ『奇跡は起きなかったようだねぇ』
 クルーに脱出命令を出そうとマグノが立ち上がった最中だった。ピョロがモニターに映し出された機影に反応する。
ピョロ『ピ?』
 手が現れた。巨大な手だ。それが蛮型を貫いたはずの鉄柱を握りつぶす。その全貌が徐々に炎の中から出現する。
マグノ『あれも男の秘密兵器なのかい!?』
 マグノが驚いている最中にも敵は手薄になっているマグノ艦への照準を諦めていないようだった。
エズラ『所属不明機が別方向から接近しています! 数11』
マグノ『くっ! 兄ちゃん!! 回避だ!!』
バート『間に合わないッス!!』
 今のこのゴタゴタした中で白兵戦などクルーが耐えられるはずがないのだが
マグノ『クルー全員に白兵戦準備をさせな!!』
???『必要ありません。ギリギリ火器応答プログラムが間に合いました』
マグノ『!!? コクウ? どこにいる!? やれるのかい?』
コクウ『任せてください。ちょっと船の真上に立っているだけです。ここからぶっ放します!!』
マグノ『構わないよ。存分におやり!』
 いつの間にやら船の上にいたコクウの搭乗したマリシ・デーヴァが左肩の折りたたみ式の大型の砲塔を展開していた。禍々しいとも凛々しいとも表現できるその砲塔口にエネルギーの切れ端が見える。
コクウ『了解!! ・・・・・・・・・サングリエ・カノン出力調整最大に設定。目的、敵無人兵器郡・・・・・・・・・』
リーリ『飛散率調整。標的の89%が照準内! ・・・・・・・・・ぶっ放せ!!』
コクウ『サングリエ・カノン!! 発射!!!』
 サングリエ・カノン。マリシ・デーヴァの高威力武装だった。戦艦すらも貫通するほどの威力を秘めた光が無人機を完全に飲み込む。爆散すらすることなく、無人機は宇宙の藻屑と消えてしまった。
マグノ『・・・・・・・・・なんと』
 呆然とするマグノだったが、まだ敵戦闘母艦が残っていることを忘れてはいなかった。直ぐにわれを取り戻すとコクウに言葉を投げかける。
マグノ『コクウ、直ぐに兄ちゃんのところへ援護に行きな!』
コクウ『はい。と、言いたいところですが、必要ないでしょう』
マグノ『!?』
コクウ『大丈夫ですよ』
 コクウの言葉通りに炎から完全に脱出した青い機体。それがいつのまにか敵母艦に接敵していた。そして、まるでサングリエ・カノンと似たような双肩に装備された大型キャノン方をゼロ距離射撃。一気に敵母艦が大破、消滅してしまう。
 我を失っていたのだろうか? 青い機体のコックピットでヒビキは目をゆっくり覚ます。
ヒビキ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・届いた。・・・・・・・・・へへ、やっと届・・・・・・・・・!!!!」
 自分の手がある。それは当然だ。だが、その手の下にあったのはディータの手だった。未だに彼女は目覚めていない。
ヒビキ「ど、どうなってんだこりゃ!???」
ディータ「・・・・・・・・・宇宙人さんったら凄いんだから」
 意味不明だ。この状況にヒビキは焦りの色を隠しえない。
ヒビキ「え、く!? コレが俺の証なのか!? えぇぇええ!!!」
 ある種の断末魔が響き渡ったりする。


 コクウがリーリをつれて何事もなかったかのようにブリッジに戻る。
コクウ「戻りました」
マグノ「ああ。ご苦労だったね。それにしても、あんたら本当にただの商人かい? あんなもの持ち合わせてるなんて」
リーリ「マリシは・・・・・・・・・。あ、マリシ・デーヴァって言うんですけど。あれはパパの形見なんです」
マグノ「ニムバスの? また因果な物を娘に残したもんだね」
リーリ「・・・・・・・・・はい。私には乗れませんでしたし」
マグノ「良い顔になったじゃないか? お嬢ちゃん。いや、リーリというんだったね?」
リーリ「はい。色々と迷惑言ってすいませんでした」
マグノ「もういいさね」
リーリ「私、事務関係とプログラム関係には強いです。目処がつくまで、ここにおいてください!」
マグノ「・・・・・・・・・こっちからお願いするよ。それに、あんた等の船の区画の領有権はあんた達にあるんだ。協力体制が築けただけでこっちは充分だよ」
コクウ「社長共々、お世話になります」
マグノ「ああ。よろしく頼むよ」
 マグノたちが口を喋っているとふらつく足取りで1人の人間がブリッジにやってきた。あまりに覚束ない足取りだった。そのため、ブリッジで数歩歩いて転びそうになるが咄嗟にコクウがその体を支える。それはBCだった。
BC「すまないな」
コクウ「気にするな。それに元はと言えば俺の責任だ。謝るのは俺のほうだ」
 BCは腹に包帯を巻いている。それをみたリーリはコクウに問い詰める。
リーリ「・・・・・・・・・コクウ、あんたこの人を殴ったの!?」
コクウ「? ああ」
リーリ「女を殴ったの!?」
コクウ「女? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 コクウは咄嗟にBCの顔を見る。
BC「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 BCの顔色が若干変化したが、直ぐにそれに答えた。
コクウ「ああ、そうだ」
BC「!!!」
リーリ「最っ低!! コクウは絶対に女性に手を上げないと思っていたのに!」
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・面目ない」
マグノ「リーリ、そのくらいにしておやりよ。BC相手に手加減してたら身が持たないからね」
コクウ「ああ。本気を出さなければ負けていたのは俺だ。そのくらいの猛者だったんだよ」
リーリ「むーーー」
コクウ「・・・・・・・・・それにしても、内臓にはダメージを残さないようにしたんだがな。随分痛むか?」
BC「大丈夫だ。心配されるほど柔じゃない」
コクウ「そういうな。あとで内孔で痛みを和らげてやる。随分楽になるぞ?」
マグノ「痛みを和らげる? コクウ、あんた医者もやるのかい?」
コクウ「武術から派生した東洋医学関連の知識があります。針や灸もできますよ?」
マグノ「そりゃありがたい。歳には勝てなくてね。暇を見つけて頼もうかね」
コクウ「喜んで」
リーリ「ちょっと待ってよ。この美人さんの治療って・・・・・・・・・変な事考えてないでしょうね?」
コクウ「変なことって何だよ?」
リーリ「スケベ」
コクウ「はいはい」
 荒くれるリーリを軽くいなしてコクウは新たなる場所に就くことになった。彼等の旅はまだまだ続く。




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