粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

スーパールート 第壱話 『闇を照らすは摩利支天』 中編


第壱話 『闇を照らすは摩利支天』 中編


 すさまじい光。流石にそれに飲まれた瞬間はコクウですらも死を覚悟してしまった。瞬間的に体をチェックするが悪いところはどこもない。普段どおりに動く。だが、明らかなる問題があった。それは風月号のブリッジに何かしら見たことのない結晶に飲まれてしまっているということだった。その結晶がみるみるブリッジを汚染していく。
コクウ「!! これは何だ?」
 喋りながらもブリッジのコントロールキーを弄ってみるが反応はない。使い方しか知りえないコクウでは修理は愚か、改修すら不可能だ。頭を一回垂れてからもう向き直る。
コクウ(?? 落ち着け。落ち着け。おれじゃ修理は不可能だ。とすれば、できることはリーリの救出が最優先になる)
 それを窓を見ながら考えていたコクウだが、更に驚かされることが起こっていた。マグノ海賊艦、タラーク戦艦イカズチの旧艦部。それと風月号がペークシスによってつなり始めていた。
コクウ「!!? オイ! オイオイオイ!!! これは・・・・・・・・・どうなってやがる? ペークシスはすべて飲み込むつもりか!? いや、これは考えようによっては」
 そう。この状況下ならばリーリを救出するのは容易だ。何せ繋がっているのだ。同様の状況にマグノ一家もあるのなら真っ当な状況ではないだろう。そこに付け入る隙がある。思い立ったコクウの行動は非常に早かった。
 宇宙服を着込んでから強引に外に出る。そして、ワイヤーを伝ってマグノ一家の海賊艦部に侵入する。ここまでの過程は非常に容易だったりするのだが。
 方向感覚に優れているコクウだ。外観から艦の構造の大体は掴んでいる。向かうべきはブリッジだった。この場所は艦底部。恐らくは格納庫だ。ならば上に上らなくてはいけない。何の用意もなく歩く。ドレッドと呼ばれている戦闘機郡を一瞥しながら、コクウは先に進むとあるドアを開いた。
コクウ「ん?」
 メイドがいた。正確に表現するならばメイド達だ。軽く10人はいる。その全員が突然ドッグから入ってきたコクウに見入っていた。
コクウ「メイド?」
メイド達「「「「「「キャァァァァアーーーー!!!」」」」」」
 木霊する声、声。声! その木霊を背中に受けてコクウは一目散に走り始めた。そのコクウの走る先に長身の女性が1人待ち受ける。
???「格納庫で待ち受けているとは良い度胸じゃないのさ!」
 拳。悲鳴と驚愕で誰もが足竦む中、その女性はコクウの鳩尾を狙って拳を放ってきた。
コクウ「どうも」
 コクウはその拳を掌で受けてからその女性の膝の上に乗り、更に長身の女性の上を乗り越える。
コクウ「失敬!」
 そして走り出した。この男の行動を見て流石の相手した女性も絶句する。
オペレータ「あの、・・・・・・・・・ガスコさん」
ガスコ「何だあれは! お頭に連絡を入れろ!! この忙しいのに侵入者!」
オペレータ「は、はい!」
ガスコ「それと、私はガスコじゃないよ。ガスコーニュ!!」
 コクウの動きはとてつもなく洗練されていた。殺すことは愚か殴ってすらいない。例外的に一番初めに出会ったディータを失神させてしまったがそれだって打撃の類いには入らない。基本的に誰一人傷つけることなく。コクウは上に上に向かっていった。
 大広間。そこは大広間といってよかった。広い空間。パーティルームか何かなのだろう。そして人もいた。大勢だ。だが、コクウが見ているものは笑いながら見れるようなものでは決してなかった。
コクウ「待ち伏せか・・・・・・・・・。・・・・・・・・・いよぉ、メイア」
メイア「気安く呼ぶな。今は人質もいない。抵抗すれば何の躊躇もなく殺すぞ?」
 メイアを中心にジュラと呼ばれた金髪さん。更に女ばかり30人程度だろうか。見る人間によっては花園になりえるだろうが、地獄に見る人間の方が多いだろう。
 レーザーガン兼用の指輪をはめて狙いを定めているのは前部の4人のみ。残りは投降すると思っているのだろう。コクウはゆっくりと手を上げてから口を開く。
コクウ「マグノ・ビバンと話がしたいって用件、飲んでくれるなら捕まるぞ?」
メイア「・・・・・・・・・もうそんな交渉には応じられない。お前は捕まって我々の監視下に置かれる。生かすも殺すも私たち次第だ」
コクウ「良いだろうに話くらい」
メイア「黙れ」
コクウ「ふぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。是非もないか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪いが会談の確約がない以上、捕まってやるわけにはいかない」
メイア「なら死んでもらう」
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・やってみろ。・・・・・・・・・物の道理を知らない小娘共が」
 交渉決裂。正直、コクウは荒事にするつもりもなかった。話が出来るならば捕まるくらいは我慢しようと思っていた位だ。だが、この物言いはやり過ごせそうになかった。ゆっくりと腰を落としたコクウがメイア達の前衛の呼吸に合わせるように真横に飛び跳ねた。コクウのいた場所を貫通するかのようにレーザーが通過する。間一髪のはずなのだが、コクウの表情に焦りは微塵もなかった。向こう側の仲間意識は相当なものだ。幾ら大きな部屋とはいっても明らかに集まりすぎだった。膂力は明らかにこちらが上。とすれば幾らでも勝機はある。正直、全く負ける気がしなかった。
 周囲を見る。ここはどうやらイカズチの集会所のようだった。遮蔽物はある。だが、それすらも必要がなくなるかもしれないとコクウは思った。腰に備え付けてある自身専用のナイフを抜いてメイアの立つ方向に一直線に走り始めた。
メイア「ぐっ!」
 連続でビームを放ってくるがそれをコクウはまるでその狙いの箇所をすべて把握しているかのような動きですべて避けきりながら、時に鏡のようなナイフのエッジでそのビームを逸らす。そして、指輪を握るメイアの手を掴むと左の掌をメイアの頭部に密着させた。
コクウ「・・・・・・・・・!!」
 力を入れたように見える。コクウの動きはこれだけだった。たったそれだけでメイアもまた昏倒してしまう。更には動かなくなったメイアの体を盾にナイフをメイアの喉に突きつけた。
ジュラ「!!? メイア!!」
コクウ「・・・・・・・・・金髪美人さん、俺の要求は知ってるな?」
ジュラ「くっ・・・・・・・・・」
コクウ「月並みで申し訳ないが、こいつの命が欲しければマグノと話をさせろ。それと、その指輪を捨てるかしまうかしろ。交渉はそれからだ」
 コクウは喋りながらゆっくりと下がり、その大広間を出て行った。立てこもるに状況の良い場所を探す。


 マグノ海賊艦ブリッジでは大騒ぎになっていた。考えるべきことが多すぎたからだ。ペークシスの融合。男たちの取り扱い。何より気がかりなのは先ほどガスコーニュからの通信であった侵入者の件だった。
マグノ「ガスコーニュ、切り離せそうかい?」
ガスコ『ビームじゃ無理だね。うかうかしてたらここも直ぐ飲まれちまう』
BC『侵食は完全体に広がっています』
パルフェ『エンジンも死んでて動きません』
マグノ「うむ・・・・・・・・・元から断つしかないか。BC、パルフェ一緒に」
ジュラ『お頭!!』
 通信映像の最善席をジュラが独占する。もっとも、それだけの自体ということだろう。
マグノ「なんだい? 少し落ち着きなよジュラ」
ジュラ『メイアが! メイアが侵入してきた男に捕まっちゃいました!』
マグノ「あの格納庫から侵入してきた男か。捕まえたって事は何かしらの要求があるかもしれないね。聞いてたかい、BC?」
BC『はい』
マグノ「男の方はお前に任せるから向かってくれ。基本的に任せるが、話の通じそうな男なら説得してみてくれ」
BC『了解しました』
ジュラ『あの・・・・・・・・・お頭』
 ジュラが報告して良いのか迷ったような表情で口にする。
マグノ「なんだい、まだなにかあるのかい?」
ジュラ『その男がお頭と話をさせろって』
マグノ「!!? あたしとかい?」
ジュラ『うん。先制攻撃の時にイカズチで私たちに前に出てきた時からお頭と話をさせろって』
マグノ「・・・・・・・・・成程。じゃあ、行ってみようかね?」
ジュラ『お頭が!? いや、副長が来れば』
マグノ「話を求めてくるだけまともな奴かもしれないからね。それに、私も興味があるんだよ。ガスコーニュ、パルフェ、悪いが一緒にきてくれ」
 奇特とでも言おうかマグノはブリッジを下がり、立てこもりの場所に向かう。


 コクウは小さな一室に立てこもっていた。恐らく士官用の一室だ。あの大部屋を通過しなければ恐らくブリッジには到着できないだろう。女達が守っていたのならばそれはその仮説が事実だからだ。包み隠さず語るならば、あの女たちを黙らせる方法は幾つか思いつく。今はメイアと名乗った女がつけていた指輪型のレーザーガンがある。これを使って本気を出せば無力化することは可能だろう。だが、それはしたくなかった。出来る限りにおいて丸く話を治めたいという願望がコクウにはあったからだ。そんなことを考えていると外の部屋から拡声器で声が聞こえる。
BC「立て篭もっている男、話がある。顔を出せ」
 女の声。ジュラという名前の金髪美人じゃない。恐らくはこの船の責任者クラスが出てきたと考えるのが妥当だろう。話が通じる相手であることを祈りつつ、コクウはメイアを盾にすることはやめずに外に出る。大広間にいたのはやはり見たことのない色黒の美人だった。
コクウ「・・・・・・・・・出てきたぞ」
BC「一つ提案がある」
コクウ「ん?」
BC「私と戦って勝てばそちらの条件を飲もう。だが、私が負けた場合、メイアを放って縛についてもらう」
コクウ「いいねぇ。そういう分かり易いの。勿論邪魔は入らないんだよな?」
BC「勿論だ。武器は自由。降参するか失神すれば負け・・・・・・・・・でいいか?」
コクウ「ちょっと待て! 俺があんたを失神させた場合、残りの人間が攻撃しないという保障がない」
BC「そこは信用してもらうしかない。我々が海賊だ。少なくとも政府よりは発した言葉に責任は持っているし、仮にも私はこの船の副長だ。その私の顔に泥を塗るような同胞はいないと自負しているがな」
コクウ「あ、失言だったな。その言葉で充分だ。信用に値する。そういう言葉が欲しかったんだ」
BC「メイアはまだ若いからな。そういう機微には慣れていない」
 コクウとBCの話が一通り終了すると、ジュラが前に出てきてコクウに指を刺して宣言する。
ジュラ「覚悟なさい! 副長は最強の海賊よ!! あんたなんかコテンパンなんだから」
コクウ「へぇ。ま、頑張るさ」
BC「武器は良いのか?」
 BCは自分の腰に備え付けていた鞭を出す。その仕草と佇まいにコクウの眉間に皺が寄る。
コクウ「確かに。油断ならねーな」
 コクウもレーザーを反射させる為に使ったナイフを取り出した。
BC「!! できるな。・・・・・・・・・ジュラ、全員下がっていろ」
ジュラ「・・・・・・・・・副長」
 心配そうな表情をしているジュラが部下を率いて下がる。部屋の中心にかなりの広いスペースが出来る。
コクウ「はじめるか」
BC「ああ」
 先手はBCだった。その鞭が不規則な軌道でコクウの心中線を狙ってくる。それをコクウは半身になってかわす。バシンという音を立てて鞭が鳴る。さらにBCは鞭で連続攻撃をかけていく。流石ののコクウも額に汗がにじむ。攻撃のバリエーションが豊富というのも問題なのだが、更に問題なのはこのスピードだ。明らかに目で追えない。コクウは左目が見えていない。それを見越した上で、視野外からも攻撃が来る。状況把握も温情もない。だが、この空間は先ほどの大勢の女を相手にするよりも心地の良い雰囲気はあった。
 コクウの服やシャツにも鞭の掠った跡が出来ていく。血も滲む。
 たまらず、コクウはナイフで鞭を絡め取り、足でその鞭を踏んでその動きを一端止めた。
BC「すさまじいな。左目は見えていないのだろう? だが、それを差し引いても恐ろしく強いな。メイア達では相手にならないはずだ。ここまで私の攻撃を避けれた奴はいないぞ?」
コクウ「俺は血だらけ。あんたは無傷。ほめられても嬉しくない」
BC「どうだろうな?」
 BCが笑う。これの意味を正確に理解したのは恐らくコクウとBCのみだろう。コクウも小さくため息をつく。
コクウ「正直に言うけどな、実は俺、女を殴れないんだ」
BC「!!?」
コクウ「ポリシー的なものだけどな」
ジュラ「嘘ッ!! メイアを殴ってるじゃない!!」
コクウ「内功を使った気貫という技を使って眠らせただけだ。痣も傷もできちゃいない。・・・・・・・・・だが、あんたにはちょっとそれじゃダメらしい。めんどくさいが、本気を出すぞ」
 コクウは大きく息を吸って吐く。そして、もう一度大きく息を吸った。そこでゆっくり体に空気を宿らせていく。目を開いたコクウの瞳にBCは武人だからこそ怯んだ。目の前の男はやばいと認識した瞬間だった。
 一歩。たった一歩でを一拍で、一刹那でコクウはBCとの距離を詰めた。慌てたBCが鞭を返してコクウを後から狙うがそれもコクウは悟りきった表情で更に一拍。BCの後に立っていた。腰を落としての一撃。とても早いとは言えない拳を前に出す。これを慌てきった表情で体を大きく逸らしてBCは避ける。コクウの拳は空を突くがその拳からはとてつもない威圧感が宿っていた。
 BCはコクウと距離をとる。そのBCの表情をコクウは確認してからボソッと漏らす。
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前は」
BC「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
コクウ「まぁいい。続けるぞ」
 再びコクウは腰を落とす。ここに来てBCは理解した。この男に武器は必要ない。ナイフも拳銃もこの男を前にすれば意味を成さない。武人としてここまで完成された人間を始めて見た。再びコクウが動く。その動きも人間めいたものではない。上手く表現できないが、インターバルのようなものがない。鞭での攻撃も完全に素通りするほどの奇妙な動き。こんなものは見たことがない。そして、再びコクウはBCの隙を突く。左からの拳。再びそれを避けるがその拳が今度は壁に激突する。驚嘆に値する。周囲で見守るジュラたちの1人が唾を飲む音が聞こえた。そう、コクウの拳は壁をへこませていた。戦艦の隔壁だ。それをへこませるなんて大よそ人間業じゃない。
 ここでもコクウの攻撃は終わっていなかった。更に一歩下がったBCの足に引っかかるものがある。それはコクウの足だった。
BC「!!?」
コクウ「・・・・・・・・・終わりだ」
 コクウはBCの腹に手を置いていた。鞭での攻撃も回避ももう間に合わない。ゆっくりとコクウの力がBCに流れる。その力がBCの内臓に到達。その場にBCは倒れこんだ。
ジュラ「副長!!」
コクウ「ふぅ・・・・・・・・・」
 勝ってしまった。最強の海賊であるBC・A・カレッサにだ。完全に周囲が押し黙る。だが、コクウはそれを意に解すことなく、BCを抱えあげるとジュラたちの前にあるテーブルに置いた。
コクウ「おい」
ジュラ「・・・・・・・・・ひぃ」
コクウ「何もしねーよ。元々、そっちが穏便に話を進めてくれるってなら手荒な真似をするつもりはなかったんだ。あんた等の副長にはそれが分かっていたんだな。メイアだったか? あの青髪は1時間程度で目を覚ます。問題はこっちだ」
 コクウはBCに視線を移す。
コクウ「内臓は無事だろうが暫くは流動食だ」
 ジュラはおびえきった表情でコクウの顔面のまん前にレーザーガンを向ける。
ジュラ「ジュラは海賊なの。仲間がやられて黙ってられない」
コクウ「そうだな。立派だな。だが、俺を撃てばあんた等の副長が取った行動の全てが無駄になるぞ?」
???「その通りだよ。お止め」
 ジュラが後ろを向く。そこにいたのは老婆が1人。格納庫であった長身の女性が1人。メガネをかけた娘が1人。その老婆にジュラが涙目で走っていく。
ジュラ「お頭ぁぁーー!」
コクウ「!!」
マグノ「全く。とんでもない奴だね。あんたほどに強烈な男を見るのは初めてだよ」
 コクウは目の前の人間をマグノと認識したようだった。彼女を前にして深々と頭を下げる。
コクウ「マグノ一家の頭目、マグノ・ビバンとお見受けします。まずは、そちらの構成員に手を出してしまった自分の不徳をお許し願いたい」
 マグノはキョトンとした表情になる。思った以上に話のできるような人間だと思ったようだからだ。
マグノ「なんだい。話の通じるまともな兄ちゃんじゃないか。私はてっきりどんな野蛮人かと思っていたよ」
コクウ「先達に尽くす礼儀くらいは心得ています」
マグノ「話がしたいなら初めっからそう言えば良いってのに」
コクウ「恐縮ですが、言いました」
マグノ「誰にだい?」
 コクウは、失神しているメイアを指差した。
マグノ「成程。堅物のメイアに先に出会ったのが運の尽きか」
コクウ「それもありますが、ディータと呼ばれていた女性を俺が担いでいたからでしょう。当然といえば当然の行動です」
マグノ「聞けば聞くほど、ツキがないね兄ちゃん。・・・・・・・・・そういえば名前を聞いてないね」
 コクウも名乗っていないことに気付いたのか、再び頭を下げて丁寧に言う。
コクウ「申し送れました。俺の名前はコクウ・ブラック。エイディ商会の人間です」
マグノ「!! エイディ商会!? あんたニムバスの娘の所の人間かい?」
コクウ「はい。商談中に消息不明になった社長を助けに来た次第です。初めは何かしら事件に巻き込まれたか、拉致ということも考えましたが、頭目を拝見して杞憂だと分かりました」
マグノ「悪いことしちまったね。あのお嬢ちゃんは眠ってもらっている。こちとら商売だからね。獲物を逃がすわけには行かなかったんでね。勿論、仕事が終わればお嬢ちゃんは船まで連れて行くつもりだったんだが、後の祭りだね。それにしても、あのお嬢ちゃんに兄ちゃんは分不相応だよ。BCに勝っちまう奴なんて早々いるもんじゃない。どうだい? 一緒に海賊でもしないかい?」
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・今のこの船の状況を鑑みての言葉と取ってよろしいですか?」
マグノ「頭も悪くないか」
コクウ「恐縮です。タラーク艦イカズチにマグノ一家の海賊艦と並んでエイディ商会の商業船風月号もペークシスに飲まれつつあります。どうなるか分からない以上、共闘という立場でなら承諾しかないと考えます」
マグノ「話が分かるねぇ」
コクウ「ただ、条件が1つ。俺はあくまでリーリ、リーリウム・エイディの保身を最優先に行動します。それでよろしければ」
マグノ「構わないよ。この船で共闘することが結果、あのお嬢ちゃんを守ることに繋がるだろうからね」
コクウ「なら、交渉成立です。商人は口約束をあまりしないものですが、あなたは信用貸しということにしましょう」
マグノ「いいだろう。コクウ! 悪いがお前にはBCが全快するまで代わりをやってもらう」
コクウ「わかりました。お頭。ついでに副長を医務室に連れて行きますので、俺の身分証登録をお願いします」
マグノ「パルフェ!」
パルフェ「はーい。身分証明って言っても、今はホストコンピュータは何も受け付けないから私のIDもって行けば良いよ。どこにでも入れるから」
コクウ「恩に着る」
マグノ「それと説明者がいるね」
コクウ「そうですね。俺が逐一説明しても拗れるだけでしょうしね」
マグノ「・・・・・・・・・ジュラ!」
ジュラ「え゛ぇぇぇーーーー!!! 私がぁー!」
マグノ「つべこべ言うんじゃないよ。状況を理解しているのはこの場にいる者だけだ。なのに、BCもメイアもこの通りだしね。私はブリッジ、ガスコーニュは黒子の統括だ。パルフェはこれから機関室に付きっ切りになる。・・・・・・・・・あんたしかいないじゃないさ」
ジュラ「でもでもぉー」
 駄々をこねるジュラを完全に無視をしてBCとメイアをコクウはヒョイと担ぎ上げる。
コクウ「駄々捏ねてないでとっとと行くぞ。お頭、病人を連れて行く序でに、捕虜にした男たちも使おうと思います。許可をください」
マグノ「構わないよ。しっかり焚きつけな」
コクウ「了解。ほら行くぞ、ジュラ」
ジュラ「こ、この! 勝手に名前を呼ぶな!!」
コクウ「怒るな。美人が台無しだ」
 以外にも良いコンビになるかもしれないとマグノは思ってしまった。笑いながら、その場にいるガスコーニュとパルフェに笑みをこぼす。
ガスコ「ありゃ、飛んだ拾いもんですね」
パルフェ「男文字で構成されて読めないところがあるんですけども、あの人がいたらどうにかなるかもです」
マグノ「BCを倒しちまった男だ。あいつ分働けるとは流石に思わないが、精々働いてもらうさ。・・・・・・・・・存分にね」
 というものの、マグノのコクウを見る目はいささか楽しそうであった。


 コクウは医務室に行く途中に、男たちを軟禁してある場所に向かう。女が数人、銃を持って待機していた。だが、虚空を見るや否や表情が一変する。
女監視兵「お、男!!?」
コクウ「ほら、出番だぞ」
 女とは言え、2人背負っているコクウなのだが、更に片腕でジュラの首根っこを持って監視兵に通行手形代わりに見せる。
ジュラ「こら!! 首根っこ摘むな」
女監視兵「ジュ、ジュラ!?」
ジュラ「こいつはいいの。船の中で働く許可をお頭から貰ってるから」
女監視兵「お、お頭が?」
コクウ「ということだ」
 コクウは頷いてから監視兵の前出て軟禁されている男たちを見る。数は3人だ。饒舌そうな男と、寡黙そうな男と、・・・・・・・・・ヒビキだった。
コクウ「・・・・・・・・・3人か。思ったより少ないか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい、タラークの男共! 働く気はないか?」
 突然の男の声。それに真っ先に反応したのは当然ヒビキだった。
ヒビキ「あ、あんた!! やっぱり助けに来てくれたんだな!?」
コクウ「いいや、助けて欲しいのはこっちだ。今この船は緊急事態に陥っている。どこかも分からない星系に飛ばされて、船の稼動も不十分だ。お前等の助けがいる。協力しろ。協力するなら出してやる」
???「分かりやすい説明だが・・・・・・・・・、お前は何者だ? メジェールに男がいるとは聞いたことがない」
コクウ「俺はコクウ・ブラック。メジェールの人間じゃない。もっと言えば、つい数分前にマグノ一家と共闘という形で協力することに決めた。それで、どうするんだ? 協力するのか? しないのか?」
???「良いだろう。俺は協力しよう。俺はドゥエロ・マクファイル」
コクウ「何が出来る? ・・・・・・・・・ん!?」
 地面が揺れる。艦が揺れているのだ。どこからの攻撃かどうかは分からないが、時間の猶予はあまりないということだろう。
女監視兵「きゃあ!」
 天井が崩れて監視兵の娘がその瓦礫の下敷きになってしまう。
ジュラ「大丈夫? 待ってて今助けるから!!」
ドゥエロ「動かしてはいかん!! ・・・・・・・・・心配するな、私は医者だ! ・・・・・・・・・患者を診たいだけだ。手伝ってくれ」
コクウ「なら退いてろ」
ドゥエロ「何?」
 コクウは左手を一本前に出すとBCとの戦闘で力を放った勢いでその力を使い、拳打を監視兵の娘の上にのしかかっている瓦礫に床と水平に加えた。すると、その瓦礫が驚くべきことに木っ端微塵に砕け散る。これにはドゥエロもジュラも絶句した。
コクウ「・・・・・・・・・よし。医者だって言うなら俺と一緒に来い。抱えた荷物を医務室に運ぶ途中だ。・・・・・・・・・それで、そっちの軽薄そうな兄ちゃん、お前はどうするんだ?」
???「・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かにそうだ。タラークとメジェール、相反するものたちだけど、ここは生き残ることを優先すべきですね。いえね、何を隠そうこの僕は操舵士でして」
コクウ「なに? いいね。ならやってもらおうか。それで、お前の名前は?」
バート「バート・ガルサスといいます。以後お見知りおきを」
ピョロ「こいつ嘘っぽいピョロ!」
 コクウは一瞥する。見たこともない形のロボットだ。形はそう、何と言うか男用の便器型か? しばし絶句をしてから取り直して言葉を紡ぐ。
コクウ「良いんだよ」
ピョロ「ごめんなさい」
コクウ「それでヒビキ、君はどうするんだ?」
ヒビキ「俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
コクウ「小難しいことを聞いているわけじゃない。やるのかやらないのかを聞いているんだ」
 ヒビキに話をしながらも、部屋に備え付けの通信機を弄るとコクウはブリッジに通信を繋ぐ。
コクウ「今の揺れは何ですか?」
ベルヴェデール『お、男!?』
マグノ『そいつは良いんだよ。今はBCの代わりだ。・・・・・・・・・敵の来襲があってね』
コクウ「タラークですか?」
マグノ『いや。未確認さね。・・・・・・・・・それでどうだい? あんた以外の男は使えそうかい?』
コクウ「3人のうち、医者と航海士1人ずついました。航海士をそっちに送ります」
マグノ『もう1人はどうなんだい?』
コクウ「・・・・・・・・・と言ってるがどうするんだ?」
ヒビキ「俺は・・・・・・・・・どうしたら良いのかわからねーんだ。自分の証を立てないと思ってここに来た。だけど、実際戦いになって、女に会っても・・・・・・・・・どうしたら良いのかわからねーんだ」
コクウ「クソガキがいっちょ前に悩みやがって・・・・・・・・・。自分の証だ!? そんなものは見つけるものじゃねー!! 作るものだ!! そんなことも理解できないでうじうじ悩みやがって!! いや、悩むのは良いかもな! だが、戦わなけりゃ死ぬぞ!? おれはゴメンだ。死ぬのも、殺されるのもだ。だから、戦う。お前は違うのか?」
マグノ『・・・・・・・・・・・・・・・・・・そいつはアタッカーかい?』
コクウ「ええ。蛮型・・・・・・・・・。タラークの人型機動兵器に乗れるそうです」
マグノ『その調子じゃ望み薄だね』
コクウ「さぁ? それはどうでしょうね。少なくとも、このガキに逃げ場はありませんよ?」
マグノ『成程。・・・・・・・・・・・・・・・・・・無駄話はおしまいだ。直ぐに操舵士を寄越しておくれ。ジュラ、お前はドレッドで出撃だ。今、お前とディータ、メイア機しか出れないんだからね。気張っておくれ』
ジュラ「え。でも」
コクウ「ここは構うな。行け。・・・・・・・・・バートも俺と来い。途中で誰かにブリッジへ案内してもらう。ドゥエロも行くぞ」
バート「はーい」
ドゥエロ「わかった」
コクウ「・・・・・・・・・人間死んだらそこで終わりだ。証も何もない。それで良いのかお前は?」
 そうコクウは漏らしてからその場を後にする。




スーパールート 第壱話 『闇を照らすは摩利支天』 後編へ

スーパーロボット大戦・涅槃U Index