粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃U

スーパールート 第壱話 『闇を照らすは摩利支天』 前編


第壱話 『闇を照らすは摩利支天』 前編


オペレータ「ポイントH88WAにて緊急救助信号受信しました。非常に微弱です」
司令官「何? 暗礁区域だぞ? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・くっ! 悩んでいる暇はないか。S.M.S.に緊急連絡! 至急救助に向かわせろ!! 今日の担当は誰だ?」
オペレータ「はい。オズマ・リー大尉です」
司令官「漂流者にしてみれば幸運だな。彼ならばトラップでも問題なく回収してくる。救護班にも用意させておけ!!」
オペレータ「了解です!」
 これが4年前の出来事だった。暗礁区域で元の形も把握できないほどの鉄くずの中から1人の生存者が救助される。最も、彼は自身の名前も覚えていないのだが。ストーリーはその4年後から始まる。


 1人の少女が駆け抜けていた。如何見ても少女だ。レディという表現には数年掛かりそうに思える。髪はツインテールで色はブロンドだ。身長も平均的な女性のそれよりも低い。大通りから反れてその少女は走り続ける。表情には明らかに焦りのようなものが見える。
少女「・・・・・・・・・はぁっ、・・・・・・・・・はぁっ」
 必要以上の全力疾走。トレーニングでなければ大体状況は決まってくる。そう、彼女は追われていた。完全に把握できていない道をジグザグに駆けて行く。だが、こんなことをすれば当然
少女「!!」
 袋小路に嵌ってしまうのだが。決して健脚ではないのだろう。宇宙で生活するというのはそういうことだ。体力的な問題が常にまとわりつく。まぁ、そんなことを言ってもどうしようもないのだが。少女を追ってきた明らかにごろつき風情の男が立ちふさがる。
ゴロツキ1「ったく! 無駄な体力使わせやがって!!!」
少女「何よ! 私が先に買い取ったんだから、とやかく言われる筋合いないわ!!」
 少女は随分と強気なようだ。このテンションで話を進めればまぁ、拗れる。
ゴロツキ2「うっせーな!! ハイディアットのトルクなんて小娘には必要ないだろうが!!」
少女「うっさい!! 必要だから買ったに決まってんでしょ!」
ゴロツキ3「ダメだぜ? お嬢ちゃんみたいな子供がそんな危険なもの買ったら。おじちゃんたちが引き取ってやるって言ってんだよ。だから、それ渡しな?」
少女「子ども扱いすんな!! 私は16歳! 子供じゃない!!」
ゴロツキ4「!? 16!!?」
少女「そうよ!」
 といって金髪の少女は胸を張るが・・・・・・・・・まぁ、言及はすまい。
ゴロツキ全員「「「「ぶははははっ! はははは!!!!!!」」」」
少女「・・・・・・・・・ぅぐっ」
 こうなるだろう。確かに少女だ。16歳にはとても見えない。如何見ても入学したての中学生が精々だ。ゴロツキたちの反応に言い返すことが出来なくなり、少女が涙目になる。そんな少女の腕を笑い終えた屈強そうな男が掴む。
ゴロツキ2「商談はもう終わりだぜ? お嬢ちゃん。買取がダメならこうなるよな?」
 力ずくで奪い取るってことだろう。簡単に少女は持ち上げられるがそれなりの抵抗はする。
少女「離せっ!! 離しなさいぃ!!」
 ジタバタと暴れるのをやめない。
ゴロツキ2「この! 暴れるなってんだろうが」
少女「離せぇぇぇーーー!! ・・・・・・・・・ガブっ!」
 男の手にこともあろうに齧り付いてしまう。何とも豪胆な少女だった。だが、男はもう穏便に済ませるつもりは内容だった。齧り付いた少女の頬を張る。それもほとんど手加減はなかった。
少女「きゃっ!」
 悲痛な声が響く。その少女は地面に落ちて、鼻と歯茎から血が流れ出る。
ゴロツキ3「はじめっから渡せば痛い想いなんかしなかったものを」
???「・・・・・・・・・同感だ。お前等死亡決定だ」
ゴロツキ3「あ゛? ・・・・・・・・・あがっ!」
 後から突然現れた人影。それが一番後ろにいた男の顔面を遠慮なく捕らえる。裏拳で一撃。壁に激突してもまだ止めずに後頭部にけりを入れる。
???「てめぇら、・・・・・・・・・ウチの社長に手出しやがって・・・・・・・・・」
 中肉中背の男。髪は黒でかなり長い。なぜか左目が白濁しているがそれでも意思はしっかりと篭っている。
ゴロツキ1「て、テメェは・・・・・・・・・。コクウ? コクウ・ブラック!? じゃあ、この小娘は!!」
コクウ「ああそうだ。エイディ商会の社長だよ」
ゴロツキ2「ま、待ってくれ!! 俺達はあんたの上司だとは露知らず!!!」
コクウ「・・・・・・・・・黙れ。黙って俺に殺されろ!!」
 ここから先はもう表現することなどは出来ない惨状になる。文字通りに半殺し。ものの数分で死ぬ一歩手前にまで追い込まれてしまうのだが。屍(仮)を乗り越えてコクウと名乗った男が涙を拭っている少女の前に膝をつく。
コクウ「リーリ、口開けろ」
 どうやら少女の名前はリーリというようだ。その少女は黙ってコクウの言葉に従う。
コクウ「・・・・・・・・・歯は折れてないな。歯で頬の裏切っただけか。鼻も・・・・・・・・・大丈夫だ折れてない。良かった」
リーリ「・・・・・・・・・良くないし、遅いわよぉ!! どんな想いしたと思ってんのよォ!!」
コクウ「・・・・・・・・・お前が勝手に質市に行っちまったからだろう。探すの苦労したんだぞ?」
 小さいリーリがコクウの頭をバンバンとはたく。最も小さいリーリの膂力ならばほとんど痛くはないのだが。
リーリ「・・・・・・・・・ばか」
コクウ「はいはい。立てるか社長?」
リーリ「・・・・・・・・・無理。だっこ」
コクウ「ったく」
 ヒョイとコクウと呼ばれた男はリーリを背負う。荷物も片手で持つと歩き始めた。
コクウ「それで? このゴロツキの落とし前どうする? 警察に突き出すか、元締めに直談判して賠償金せしめるか」
リーリ「両方」
コクウ「わかった。後で元締めの所で相談してくる」
 実際は相談ではなく殴りこみなのだが、それはまた別の話。
 コクウの背中に揺られながらリーリが口を開く。
リーリ「ねぇ、どこ行ってたの? マクロスフロンティアに知り合いがいるなんて聞いてないわよ?」
コクウ「まぁ、言ってないからな」
リーリ「教えなさい! 社長命令!!」
コクウ「横暴社長め。・・・・・・・・・オズマ・リーって知ってるか?」
リーリ「オズマ・リー? オズマ・・・・・・・・・・・・・・・・・・! S.M.S.のエースパイロットの!?」
コクウ「ああ、そうだ。そのオズマだ。ちょっと昔の知己でな」
リーリ「知己って、コクウって4年前の記憶はないんでしょ?」
コクウ「記憶を失って一番初めに出会ったのがアイツだ。たまに会って情報の交換をしてる。気も合うしな」
リーリ「そんなこと・・・・・・・・・初めて聞いた」
コクウ「喋ったのも初めてだ。・・・・・・・・・俺のことよりも、お前一体何を買い込んだ? 仕入れは全部済ませたはずだろうに?」
リーリ「聞いて驚け! ハイディアットトルクよ!!」
コクウ「驚けねぇよ。俺は機械関係弱いんだって。お前が仕込むから最低限覚えちまったけど、それでも操作だけだ。専門的な部品言われてもチンプンカンプンだ」
リーリ「! 腕っ節だけ男!! 前世脳!! 白目!! ポンコツ頭!!!」
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・発育不良」
リーリ「何ですってぇぇぇぇぇえええええーーーー!!!!」
コクウ「いでてててててて!! 止めろ!! 髪引っ張るな!! 首に爪立てるな!!」
 こんな調子ではあるが笑いを忘れることなく2人は歩いていく。


 輸送船風月号。これがエイディ商会の保有船である。エイディ商会社長であるリーリウム・エイディが運営する船だ。マクロス船外のドッグに駐留させてあるドッグに再びコクウが戻ってくる。
コクウ「戻ったぜ」
リーリ「どうだった?」
コクウ「慰謝料と保障金合わせて相当な額だ。お前の最低限の手打ちの金額の5割増しだ。当分利益なくても生活できるな」
リーリ「やったぁーー!! さっすがコクウ!! ボーナス弾むね♪」
コクウ「どうも。さて、これからの予定って確かメジェールってとこの海賊船だったよな? 俺は初めてだが、海賊なんてこんな物騒な相手と商談するのか?」
リーリ「うん。メジェールのマグノ一家って言ってね。パパの代からの付き合いがあるの。確かに海賊だけども正規軍よりも明るくて話のわかる人たちだよ? そっか。コクウはメジェール人とは初めてだよね」
コクウ「先日、データは見たけだがな、良くわからん。女だけの星ってことだろ? 女だけで繁栄していくのは不可能だ。クローンっていう手もあるが、滅びるのは遅いか早いかの違いだと思うけどな」
リーリ「メジェール人は卵子をクローン化して別の女性の体内にそれを戻して出産するんだ。確かにクローンに近いけども厳密には違うね。テロメアの問題も特にないよ」
コクウ「・・・・・・・・・ふーん。面倒だな。摂理に事欠いてる気がするね」
リーリ「ま、人様はどうでもいいよ! 私たちはしっかりお仕事しましょ!!」
コクウ「ああ」
リーリ「あ、あと言っておくけどもさ、コクウは気をつけてね。メジェール人ってそのほとんどが男を見たことないから」
コクウ「マジか?」
リーリ「マジマジ! パパ、昔大変だったって言ってたもん」
コクウ「面倒だな。一応商談相手だし統制も取れてるみたいだが、興味本位で言い寄られる可能性はあるって言うことだろ?」
リーリ「そのくらいはあるだろうね。だから、コクウは風月号に残っていてくれて良いよ」
コクウ「いや、そういう訳にもいかねーだろうよ。荒事担当に俺がいるんだから」
リーリ「勿論。いざとなったら助けに来てよ?」
コクウ「それなら初めッから連れて行け。後々面倒になる可能性を含んでいるなら女に言い寄られるほうがまだマシだ」
リーリ「そんな事言って! 美人ばっかの海賊に興味あるんでしょ!」
コクウ「アホ! 俺はただ会った事ない人間を信用していないだけだ。それに、俺はウチの社長の保護者も兼ねてる」
リーリ「保護者って何よ!! 私はもう16よ!! もうレディよ!!」
コクウ「そのレディがつい数時間前に勝手にほつき歩いた挙句、チンピラに絡まれて殴られてちゃ世話ねーだろう?」
リーリ「良いの!! これは社長命令!! 言うこと聞きなさい!」
コクウ「・・・・・・・・・知らねーぞ、どうなっても」
 重く長いため息を1つ吐いてコクウはリーリの取引に何もないことを願うことにした。


オペレータ『こちらマクロスフロンティア、第4駐留専用ステーションドッグ局。航海記録更新完了しました。固定アンカー解除。ハッチオープン。風月号よい航海を』
コクウ「了解。ご親切にどうも。・・・・・・・・・直前プログラム走査完了。問題なし。準備できたぞリーリ」
リーリ「了解。・・・・・・・・・風月号発進」
コクウ「風月号発進」
 輸送船風月号。これがエイディ商会の保有する輸送船の名前だった。70m級の中型輸送艦。外見はとても真新しいとは言えないがそれも戦闘艦でない以上はこれで充分だ。
 宙域に出てから艦内のチェックをしてからリーリは口を開いた。
リーリ「マグノ一家とのランデブーポイントはFFS63W。そこまでは交代で行きましょ」
 コクウはリーリに言われたポイントをコンピュータに入力する。
コクウ「ん。了解、ポイントFFS63W」
リーリ「私、ちょっと格納庫にいるね。何かあったら呼んで」
コクウ「わかった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・また、アレを弄るのか?」
リーリ「当然よ。何の為にシャフトを買ったと思ってるの」
コクウ「そりゃそうだがよ。今のままだって充分だろ?」
リーリ「良いの!! 私の趣味なの!!」
コクウ「趣味か。なら止められないけどよ。程ほどにしろよ? 俺等は商人で兵隊じゃないんだからな」
リーリ「わかってるって♪」
 目的地までの時間は大よそ60時間弱。それまではコクウも気を抜いていることにした。 


 ポイントFFS63W。この場所が色々と問題のある場所だったりするのだが、まぁこの時点では流石のコクウもその自体に知りえるわけがなかった。コクウはブリッジにてリーリの表情を再び確認する。
コクウ「良いか? 10分に1回の定期連絡は絶対に忘れるな。忘れたら1分以内に通信を入れろ。もしもその連絡がなったら強行突入するからな」
リーリ「コクウってば心配性」
 異にも解さないリーリに流石のコクウも青筋を浮かべてからリーリの頭に大きな手を当ててその握力で頭を締め上げる。
リーリ「いだ!! いったたたたたた!!! 痛い痛い!!!」
コクウ「おちゃらけも大概にしろよ小娘社長! お前がヘマして苦労するのは俺なんだからな! お前の親父さんには会った事ないが、それだってそんな様子で取引なんてことはしなかったはずだ。お前がエイディ商会の看板を背負うって言うならそれ相応の気概を見せろ!」
リーリ「!! ・・・・・・・・・離しなさい!! 離せぇーー!!」
 頭をブンブン振ってリーリは抵抗する。流石にこれ以上締め上げることが出来ないコクウは手を放してしまう。
リーリ「どういうつもりよ!! 社長に手を上げるなんて!!」
コクウ「それだけ危ない相手ってことだ!! お前は海賊の怖さって物がわかっちゃいない。どれだけ話がわかる相手でも状況が状況になればどうなるかわからないんだからな!」
リーリ「パパの名前を指名してきたお客さんを信用するなって言うの!?」
コクウ「そんな事は言っちゃいない。気を引き締めろって言ってんだ。用心に用心重ねて行動しないと・・・・・・・・・」
リーリ「もう良いよ! コクウは黙って待ってれば良い!!」
 リーリにはコクウの提言がどうしても小言に聞こえてしまうようだった。怒り心頭でリーリはブリッジを後にして出て行ってしまう。
コクウ「おいちょっと待て!!」
 もうコクウの言葉は聞こえていないようだった。


 商人としてリーリは風月号を降りてマグノ一家の海賊艦に乗艦する。その海賊艦に入ると2人の人間が待っていた。
マグノ「おや? お嬢ちゃん1人かい? ニムバスの奴はどうした?」
 優しそうとも厳しそうとも取れる年配の女性が1人。その脇には髪の長い色黒の女性が1人。口を開いたのは年配の女性だ。
リーリ「パ、・・・・・・・・・父さんは5年前に事故で死にました。私はニムバス・エイディの娘でリーリウムと申します」
マグノ「はは。あの男に娘がいたとはね。会って昔話に花くらいは咲かせたかったが仕方ないか・・・・・・・・・。それにしても、度胸があるというか無謀というか。屈強な男たちに商人でも私たちに一人出会いに来る奴はそうそういないよ?」
 その言葉にリーリはコクウの言葉が浮かぶ。だが、その思いをリーリは打ち消してから口を開く。
リーリ「お褒めの言葉と受け取ります。早速ですが商談のほうを」
マグノ「わかっているよ。補助ペークシスとオートミシルファイバーだったね」
リーリ「はい。揃えています。では、値段交渉のほうを・・・・・・・・・」
 その瞬間だった。色黒の女性の通信機に連絡が入る。
オペレータ『副長! 獲物がかかりました。 タラークの船、新しく回収した船だと思います。直ぐに出ないと逃げちゃいますよ!!』
 副長と呼ばれた女性は行動を求めるかのようにマグノの表情を確認する。
マグノ「仕方ないね。ニムバスの娘! ちょっと我慢しておくれ!」
リーリ「え!? そんな待ってください!!」
マグノ「あんたの父親ならこのくらい理解したよ? 別にとって食おうってんじゃない。海賊は速さが命でね。・・・・・・・・・BC!」
プザム「了解!」
 プザムとは色黒美人の名前だろう。その女性がリーリを抱えあげるとブリッジに向けて走り始めた。これが後に思わぬ事態を招くことになるのは流石の歴戦の海賊であるマグノ・ビバンも理解していなかっただろう。
 マグノ一家の海賊艦が風月号から離れて一目散にとある方向に発進する。この行動に風月号のブリッジにいたコクウは完全に面を食らってしまう。
コクウ「!? おいちょっと待て!! どういうことだ!?」
 コクウが通信機を用いてマグノ海賊艦に通信を入れる。
コクウ「リーリ! 海賊艦が動いたぞ!! 返答しろ! リーリ!!」
 通信機は正常稼働中だ。これで反応がないということは考えられない。恐らくリーリに何かあった。既に海賊艦は発進しているがまだ通信は届く。
コクウ「こちらエイディ商会、風月号。マグノ一家応答しろ!! まだこっちの乗組員が戻ってきていない。応答しろマグノ一家!!」
 どういう訳かこちらの通信にも反応をしない状況だ。これに流石のコクウも頭を掻き毟ってから後悔する。勿論リーリの向こう見ずな行動にもあるがそれを看過した自分自身にだ。
コクウ「くそっ! クビ覚悟でついていくべきだった!」
 悪態をつきながらもコクウの行動は冷静だった。まず、海賊艦の行き先をコンピュータを使って計算する。
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・進路にタラークの戦艦集結ポイント!? 海賊が海賊らしく略奪でもするって言うのか!? って言うかこのポイントって商船非通過領域のギリギリ内側じゃねーか! リーリの奴何考えてんだっ!! ・・・・・・・・・付いて行くしかないか」
 コクウは自動コントロールを解除。自分の操縦での航行を開始する。


 戦闘区域。ここでは腕っ節などは関係がない。関係なのは空気を呑む能力だ。輸送船よりも格段に速度があるマグノ海賊艦が先行していた。
プザム「お頭、大物が掛かったようです」
マグノ「今日はラッキーデーだからね」
 と、2人が会話するその横には気を失ったリーリが寝息を立てていた。


 海賊達の海賊行為が始まる。タラーク、つまりは男達だけの国の船を女達だけの海賊が奪う。どうにもこうにも考えさせられる一戦には違いない。だが、こういう場合は仕掛けた側に勝算があるのが自明の理だった。女側、つまりはマグノ一家のドレッドと呼ばれる飛行機型戦闘機郡を蛮型と呼ばれる人型戦闘機郡が相手をする。どうにもドレッドの大きさの方が蛮型よりも大きい。こうなれば統制が取れているマグノ一家の方が有利にこまを進めていた。
 結果としてはマグノ一家の勝利といっても過言ではないだろう。タラーク側は改修済みの新造戦艦イカズチの旧艦部をパージして佐官クラスは逃げおおせた様だった。そんな中、遅れて風月号がこの場に到着する。
コクウ「タラークの船の一部分にマグノ一家の船が乗り付けている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・マグノの海賊は捕虜の取り扱いでてんてこ舞いと見る! 乗り込むなら今だな!!」
 コクウはマグノ海賊艦が乗り付けている箇所とは正反対の場所にアンカーを打ち込んで隣接させてから、コクウは宇宙服を着込んだ。たった一人の奪還作戦。最悪極まりないのだが、どこかコクウの表情の中には楽しそうな気配すら見て取れる。
コクウ「乗り込んでみますか!」
 コクウは風月号のシステムを休止状態にしてアンカーをたどってタラーク艦イカズチの旧艦区に侵入を始める。マグノ一家にしてもこのコクウという男の単独潜入がどういう意味を持つか理解している人間はいないだろう。
 コクウがイカズチ内に侵入する。軍人が侵入作戦を決行したときのように周囲に気を配った歩き方はコクウはしない。あくまでも自然体でイカズチ内を闊歩する。といっても、周囲に気を配っていないというわけではないようだが。歩いていると足音を足元から感じる。
コクウ「・・・・・・・・・ん?」
 まだ誰にも聞こえてはいないがコクウにはわかるようだった。その音を知覚してからコクウはようやく周囲に警戒するしぐさを取る。道の中央部を歩くのを止め、壁伝いに体を置く。すると直ぐに足音が響き始め、やってくる人間がいた。数は2つだ。痛めつけるつもりはない。だが、話をするに有効な状況にするつもりではいた。道の向こう側からやってきた人間の前に素早く出る。一瞥した。1人は男。もう1人は女。この状況下で変な組み合わせだがまぁいい。コクウは前を走っていた男の腕を取ってから片手で関節技に持っていく。もう1人の女は腹に手を当ててから直ぐにその手を引いた。するとその女の子は機を失って倒れる。勿論床に激突させないように空いた手を使って衝撃をなくしてからゆっくりと地面に下ろした。これを物の数秒でやってのけたりする。
???「いでででででででぇぇぇえええーー!! てめぇ! 何しやがる!!」
コクウ「悪いが質問に答えてくれ。答えれば直ぐに離す」
???「はっ! 誰が答えるかよ! ・・・・・・・・・いだだだだだだだだ!! わかった!! 分かった!! 話す」
 少し腕に力を入れただけで苦しむ。これはほぼ確信だが、この目の前の少年は軍役をこなしてはいない。言葉遣いや身なりもそうだが、何よりも軍人に必要な筋力が圧倒的に足りていないからだ。それを踏まえたうえでコクウは質問を始める。
コクウ「まず名前だ」
ヒビキ「ヒビキだ! トカイ・ヒビキ」
コクウ「じゃあ。ヒビキ、何故君はここにいる? 君は軍人じゃないだろう?」
ヒビキ「・・・・・・・・・俺は軍人だよ!! 蛮型に乗ってきた」
コクウ「蛮型? ああ、あの人型の機体か。・・・・・・・・・だが、君は軍人じゃない。それは間違いがない。言葉遣いもなってないし、動きも散漫だ。嘘をつけば・・・・・・・・・」
 コクウは更に腕に力を入れる。
ヒビキ「・・・・・・・・・ああぁぁぁぁぁあああ!! そうだ! 嘘だ!! 悪かった! 俺は機械工だ!」
コクウ「機械工? エンジニアか。・・・・・・・・・次の質問だ。これはタラークの船だ。マグノ一家に占領されたのならば海賊に追われているという状況は理解できなくもない。それはいい。他の女を見なかったか?」
ヒビキ「しらねーよ! 機関部に隠れてたら爆発があって! メジェールの戦闘機から出てきたこの女に追われてたんだ」
コクウ「成程。・・・・・・・・・それは散々な目に遭ったな。けども、だったらこの女に話を聞けばよかったな」
 コクウはヒビキの腕を解いてから、失神しているメジェールの女を抱えあげる。
ヒビキ「あー、いってぇー」
コクウ「折れちゃいない。直ぐに直る」
ヒビキ「・・・・・・・・・あんた、タラークの軍人か?」
コクウ「いや、俺はタラークの人間じゃない。といってお前の味方ってわけでもないがな。だが・・・・・・・・・」
 言葉端に含みを残してから一度コクウはディータを見る。
コクウ「今のところ、この女達の敵ってことにはなると思うがな」
ヒビキ「それじゃあよ! 一緒に逃げようぜ! さっき嘘はつたけど、蛮型を動かせるって言うのは本当なんだぜ?」
コクウ「いや、君1人で逃げれば良い。俺はちょっと用がある」
 そういうとコクウは未だに気を失っている女を背負う。
ヒビキ「ど、どこ行くんだよ?」
コクウ「女のところだ。ちょっと手荒い真似してでも聞くべきことがあるんでね」
ヒビキ「・・・・・・・・・お前何もんだよ? 人に名乗らせてんだからな、敵じゃないって言うなら名前くらいいえよ」
コクウ「・・・・・・・・・そうだな。・・・・・・・・・コクウだ。コクウ・ブラック。商人だ」
ヒビキ「商人!?」
コクウ「ああ。・・・・・・・・・そうだヒビキ、この女の機体ってどこにある?」
ヒビキ「機体って・・・・・・・・・女の戦闘機か? 向こうの通路の奥を左だと思うけど」
コクウ「サンキュ」
 立ち去ろうとするコクウの横をさも当然とばかりにヒビキが併走する。
ヒビキ「俺も行くぜ。女に一泡吹かせる様って言うのを見てみたいからな」
コクウ「別に構わんが、捕まっても助けないからな。そんな義理はない」
ヒビキ「お・・・・・・・・・おお」
 艦内でよくも分からないお供が出来てしまう。
 歩くこと数分。恐らくはこれはイカズチの機関部だろう。その隔壁を突き破って戦闘機の頭が見えていた。だが、戦闘機のダメージはほぼない。ということはここに突っ込む前にビームか何かで穴を開けたという証明だ。
コクウ「こんな爆発の中でよく生きてたな、ヒビキ」
ヒビキ「あたぼうよ!」
コクウ「威張られてもな。・・・・・・・・・さて、この子の戦闘機の通信機を使えれば早いんだがな」
ヒビキ「おお成程な!」
 コクウがこの娘の船に近づこうとした瞬間だった。コクウはヒビキの襟首を持つと後に飛び跳ねる。
ヒビキ「ぐぇ!!」
 2人の立っていた場所にレーザービームのような焦げた後が出来る。問題なのはその威力だ。戦艦の隔壁に穴が開いてる。かなりの収束率だ。これを急所に喰らえば恐らく即死するだろう。
???「ディータを離せ」
???「全く! 何捕まってるのよ!! 帰ったら説教だわ」
 小柄な青い髪の女が1人と、モデル体系のロングの金髪が1人。見る限りは青髪のほうがリーダー格だ。それとこの背負っている娘の名前がディータということが今の会話で知れた。そして、青髪の娘が言葉を続ける。
???「ディータを置いて下がれ!! 言うことを聞けば命の保障はしてやる!!」
コクウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 少しだけコクウは考えてから肩に背負ったディータを自分と青髪の娘の間の位置に持ってきた。これの意味、語らずとも青髪の娘は理解したようだった。
???「・・・・・・・・・貴様」
コクウ「忌憚なく言う。俺はお前達と戦うつもりはない。今のところはな。マグノ・ビバンに話がある。通信を繋げばこの娘は五体満足で返してやる」
???「・・・・・・・・・そんな保障がどこにある。こっちの言うことを素直にすべて聞いてから言え」
コクウ「俺はお前等のことを知らないんでな、お前達こそ通信を繋ぐ保障なんてどこにもないだろ? だから交換条件だ」
???「黙れ! 親方は貴様のような野蛮な人間と話はしない」
コクウ「野蛮はしないように心がけてるんだがな? 青髪の娘さんと金髪美人さん」
???「ちょっとどうするのよメイア。戦えばディータも」
メイア「どうしようもないだろう、ジュラ。妥協は出来ない」
コクウ「メイアにジュラか」
 メイアとジュラ。それがこの2人の女性の名前らしい。その片方であるジュラが声を荒げる。
ジュラ「そんな。・・・・・・・・・オイ男!! 今ミサイルがここに接近してるのよ!!」
コクウ「ミサイルだと?」
ヒビキ「ミサイル!!?」
 コクウは風月号のホストコンピュータにアクセスして周囲の索敵の略図を転送させてから舌打ちを打つ。
コクウ「くそマジか! 到達時間、残り・・・・・・・・・100秒!? ヤバイ! ヒビキ、君は蛮型逃げろ!」
 その場にディータを寝かせてからコクウはダッシュでもと来た方向に駆けて行く。流石にマグノ一家の2人もこの急場を理解しているようだった。それはコクウも同様だ。このままでは風月号もろとも宇宙の藻屑になってしまう。リモートコントロールで手切る限りの作業を走りながらコクウはこなす。膂力はだれよりもあるコクウだが、ブリッジのシートの着席したときには残り時間は15秒ほどになっていた。
コクウ「風月号緊急離脱!!!」
 怒鳴り声にも似た響きをこだまさせ、イカズチから離脱する風月号だったがミサイルの着弾前にイカズチが光り輝く。そして、その周辺の宙域にいた者たちはその光に飲まれ、消え去った。




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