粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第参話 『魔と理』 後編


第参話 『魔と理』 後編


 屋敷で爆発が起こる。誰が起こしたのかは言うまでもない。その衝撃で瑠璃が中庭にまで吹き飛んでしまう。生き残ったのは彼女の運が良かったのかもしくはあえて死なないように、弄べる様に仕組んだ輩がいるのかはどちらでもいいことだが。
瑠璃「ああ!」
 爆風で吹き飛ぶ瑠璃を花畑が受け止める。それでも柔な体にかなりの衝撃のはずだった。意識も絶え絶えに瑠璃は立ち上がる。既に煌びやかなドレスはボロボロ。懸命に逃げようとする瑠璃に向かってどこからともなく声が投げかけられる。
ティベリウス「ほーらほら、がんばって逃げないと捕まえちゃうわよ?」
 楽しんでいるのは十分に伝わる。その状況を見ているヒョウエは何の興味もなさそうだった。瑠璃の足にティベリウスの体か伸びる触手が絡まる。
瑠璃「きゃあ!」
 これだけでも身の毛も弥立つと言うのにそれだけでは終わらない。ティベリウスの体から今度は無数の触手が新たに現れる。その触手は瑠璃を持ち上げるとティベリウスのまん前にまで瑠璃を引き寄せた。
ティベリウス「そうよ。その悲鳴♪ 瑠璃お嬢ちゃん。そそられるわぁー♪」
 目に涙を浮かべながら瑠璃が叫ぶ。
瑠璃「嫌だ。誰かぁ・・・・・・・・・」
ティベリウス「やっぱり若いっていいわねぇ。肌がピチピチしてるわぁー 妬けちゃうー。さぁ。どうやって可愛がって欲しいのかしらぁー♪」
瑠璃「た、助けて・・・・・・・・・。ウィンフィールド」
 瑠璃の声もティベリウスには届かない。
ティベリウス「簡単に壊れちゃやぁーよぉー♪ んーー、ははは」
 彼女の骨を折ろうとしたのかもしれない。千切ろうとしたのか、もしくはもっと惨いことか。しかし、それは適わなかった。ティベリウスの触手が飛んできたブーメラン状のものによって細切れにされる。その拍子に投げ出された瑠璃を抱えとめようとする影があった。その影が2つ。
 片一方の影がもう1つの影に打撃を食らわせてかなり粗野に瑠璃を受け止める。
九朗「ッが!!」
アルアジフ「九朗!」
 今度は九朗が花畑に転がる。そして、瑠璃を捕まえたのはもう一人の急襲者、ヒョウエだった。
ヒョウエ「惜しかったな。ティベリウスだけに目がいっていたのがお前のミスだ。ティベリウス、遊びが過ぎるな」
ティベリウス「だーってー。ティトゥスちゃんが九朗ちゃんの相手をしていると思ったんだものー。私が瑠璃お嬢ちゃんと遊ぶくらいいいでしょうよー?」
ヒョウエ「我々の任務は覇道の壊滅とデモンベインの奪取もしくは破壊だ。こいつらが出てきた以上、もうお前の遊びに付きってられん。・・・・・・・・・この娘は殺す」
九朗「な!?」
 九朗の驚きもヒョウエの動きの妨げには一切ならなかった。体を少しだけ屈めたヒョウエはその動きを使ってほんの少しだけ宙に浮かす。そこからの動きは一切の無駄がなかった。自分の目の高さまで浮いた瑠璃の体の中心線目掛けて背中の太刀を一気に振る下ろす。
九朗「や、やめろーー!!!」
 斬られるとこの場にいる誰もが思っただろう。九朗ですらそう思ったに違いない。だが、その太刀は彼女に触れるか触れないかと言う微妙なところで止まっていた。そうだった。いつの間にそいつかいた。それはヒョウエの華麗かつ渾身の打ち込み片腕で止めると瑠璃の華奢な体をもう一方の腕で抱きとめてから体を回転させてヒョウエの腹部にけりを入れる。同時にその蹴りでヒョウエとの距離をとった。
セツヤ「あっぶねー。もう少しでお嬢さんが乱切りになっていたよ。そんな力技ホラーなんて見たくもない」
 ティベリウスとヒョウエ・ナミハラは突然の男の参上に幾ばくかの驚きを示す。それは彼らと対峙している九朗も同じことだった。むしろ、彼らよりも驚いているだろう。
九朗「・・・・・・・・・あんたは」
瑠璃「・・・・・・・・・あの」
 その男の服装は一般的なワイシャツの上にタクティカルベストを着ているごくごく兵士としては一般的なものだ。この切羽詰った状況下でこの男は笑顔で、しかも自己紹介を始める。
セツヤ「お初にお目にかかります。同時にご安心ください。私、御財閥の救援要請によって参りました。セツヤ・クヌギと申します。ミスリルの人間ですのでどうぞお見知り置きを」
 セツヤは傍に駆けてきた九朗と瑠璃にだけ聞こえるように伝える。
瑠璃「・・・・・・・・・ミスリルの人」
九朗「姫さん! 何だミスリルって」
瑠璃「・・・・・・・・・覇道財閥がスポンサーについている世界の戦闘行動、テロに対抗する国に所属しない表舞台に出ない軍隊です。その理念に賛同したお爺様もその設立に一役買っているという・・・・・・・・・詳しいことは私も・・・・・・・・・」
セツヤ「ということです。味方ですのでまぁよろしく」
ヒョウエ「ということは、こちら側の敵ってことで良いな?」
 初期動作も予備動作もない。完全な不意打ちだった。完全に不意をつかれた格好となったヒョウエは意味返しのつもりだったのだろう。九朗は企画からの攻撃でほぼ反応できずにいた。当然、瑠璃を抱えているセツヤは体勢的に不利なのだがセツヤは右手に握りこんでいる太刀を手首を支点にして巧みに回転させてそれを難なく受け止める。
セツヤ「話中の急襲とは、お行儀がなってないな」
ヒョウエ「ぬかせ! しかしまぁ、ティトゥスとマスターテリオンが言うから出てきたが、拍子抜けな任務だと思っていた。が、俺の陰の太刀を止めるような男がではって来るとはな。貴様、名前を聞いてやる」
セツヤ「普通はそっちが先に名乗るでしょうよ。と言うかちょっとタンマ。お嬢さんを安全な場所に連れて行かないと」
ヒョウエ「知ったことか!!」
ティベリウス「そうよ! そのお嬢さんは私の獲物よーー!」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、待たなくていいですよ。・・・・・・・・・クルツ君」
 セツヤがクルツの名前を呼んだ瞬間だった。ハッと何かを感じたヒョウエが後ろの飛び跳ねる。次にティベリウスの頭部が突然に大きく揺れる。
セツヤ「ナイスショット。避けるとは・・・・・・・・・まぁ、思っていたけれども。それでも、時間稼ぎには十分」
 ヒョウエが周囲に視線を配らせてから大体の狙撃ポイントを確認。そのあとにセツヤの顔を見る。そのときには既にセツヤの腕の中には瑠璃はいなかった。後ろに1人の女兵士が瑠璃を抱えて自分たちがやってきた方向とは逆の方向へと走り出していた。
ヒョウエ「準備万端だな。救助作戦で狙撃兵を配置しているなんて普通考えないからな。・・・・・・・・・いやいや、面白い男だな。俺の部隊にスカウトしたいくらいだ。名前教えろよ。俺の名前を教えてやる。俺はヒョウエ・ナミハラ。とある部隊で教官をしている」
セツヤ「・・・・・・・・・教官ねぇ。・・・・・・・・・セツヤ・クヌギ。ミスリルの人間だ」
 ミスリル、その一言がヒョウエの顔を輝かせる。
ヒョウエ「そうか! お前ミスリルなのか! ちょうどいいぜ。俺のところに来い。お前なら厚遇で迎えるように上に伝えてやるぜ」
セツヤ「何が丁度いいんだ?」
ヒョウエ「ミスリルはもうそろそろ終わるぜ。俺の部隊の人間が・・・・・・・・・何つったかな。太平洋の部隊に接触してるからな。どんなゴツイ奴らだろうと、あいつ1人で潜入から破壊まで何でもござれだろうな。たった一人にいいように踊らされる部隊の噂が広がればお前も愛想尽かすぜ?」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ネージュのことか?」
ヒョウエ「!! ・・・・・・・・・なんつった?」
 ヒョウエの表情が一気に変わる。それはセツヤにとって大きな意味だった。確信であり絶対的なベクトル。その矢印の先が目の前に男の先にある。セツヤは自分の太刀の先に立つ男、その男の後ろにいる。それを知れただけで収穫だった。セツヤはヒョウエの質問を無視して後ろを一瞥する。その先にはもう瑠璃は見えなくなっていた。ティベリウスもそこにいる。マオとクルツがいるのだ。機動兵器が待機している場所までいけないということはほぼないだろう。
セツヤ「・・・・・・・・・いやはや、まさかとは思うが、ヒョウエ・ナミハラ、あんた東洋戦技教導官か?」
ヒョウエ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
セツヤ「だとしたら質が落ちるな。初代東洋戦技教導官トキオミ・シダラに比べればお前の実力随分と劣る。リロイの奴、妥協したな?」
ヒョウエ「・・・・・・・・・貴様、お前は何だ!! 何者だ!! どうしてファトラムさんを知っている! 我々を何故知る!! ネージュを捕らえたのか!?」
セツヤ「質問攻めだな。だが、答えてやる義理はない。・・・・・・・・・えっと、大十字九朗君だっけか?」
九朗「ああ」
セツヤ「共同戦線と行こうか。君もそこの小さいお嬢さんも戦えるからこの場に来たんだろう?」
アルアジフ「勿論じゃ」
セツヤ「なら戦ってもらう。できないことはないだろうが流石にあのレベル2人は厳しいんでね」
九朗「おう!」
 九朗がバルザイの堰月刀を目の前に構える。九朗の戦闘準備が整ったのを確認してセツヤは鎬をティベリウスに向ける。
セツヤ「それにしても、あんたは一体なんだ? 精気がまったくない。お前、もしかして誰かに操られていたりするのか?」
ティベリウス「違うわよー。でもいい線いってるわ」
セツヤ「・・・・・・・・・とするなら残す可能性は1つだ。貴様もう死んでるな?」
ティベリウス「・・・・・・・・・癪に障るわねぇ。私はこれから瑠璃お嬢ちゃんとお楽しみのところだったのよ。九朗ちゃんとセツヤちゃんだっけ? これって随分と腹が立つのよぉー? 挙句の果てには何? 私の正体もう分かったの? あなたこそ一体何なのよ?」
セツヤ「死体ってところは否定しないんだな? ・・・・・・・・・気をつけなよ九朗君。あれ、斬っても突いてもたぶん死なないぞ?」
ティベリウス「初見でそこまで見抜いたのはあなたが初めてよ。・・・・・・・・・私の名前はティベリウス。あなた、本当に何者? 人間にしては随分とやるようね。ヒョウエちゃんと似たような人なのかしら。でもね、あなたは私たちに勝てないわよ。ブラックロッジのアンチクロスは魔の行使者の集まり。無駄な抵抗は止めなさいな。そうすれば可愛がってあげるわよぉ」 
セツヤ「はっ! 魔の行使者? お笑い種だ。貴様らは人間の可能性を捨てただけだ。捨てたものが何優越感に浸ってやがる。この九朗君もお前たちと似ているのかもしれないが彼は自分を見失っていない。魂を裏切っていない。・・・・・・・・・アンチクロスのティベリウスにヒョウエ・ナミハラと言ったな。俺はセツヤ・クヌギ。魔に魅了された者の対極にいる者だ。人の可能性を指し示し、世の理を体現し、魔に染まりし者共の前に立つ!」
 口上は宣戦布告となる。これではもう止まらないだろう。セツヤは自前の刀を九朗はバルザイの堰月刀を構える。当然ながらティベリウスは爪をヒョウエも刀を構えて2対2の戦闘が始まった。
 2対2の戦いと言っても戦いの組み合わせはどうしてもセツヤ対ヒョウエ、九朗対ティベリウスという形になってしまう。これは多様性という意味では魔術師の方が明らかに上なのだが、研磨されつくした動きを駆使するヒョウエに対抗できるのは同種の力を駆使するセツヤしかいないためだ。
 刀使い同士の戦いは息を呑む拍子もないほどの息も突かせぬ戦いだった。魔術師のように詠唱がない。どれだけ隙を作らないかがコンセプトのこういった使い手はひたすらに速い。セツヤはヒョウエの打ち込みを己の刀で受け止めるともう一本の手でホルスターの短銃を取り出すと何の躊躇いもなくヒョウエに照準に捉えてから発砲する。だ、その弾丸も近距離ならば、そして、達人クラスほどの使い手ならば避けるのには苦労はない。ヒョウエは軸足ではない左足でセツヤの銃を持つ左手を蹴り上げ、その反動でどうにか弾丸をかわす。だが、体勢を崩したのは宜しくなかった。体勢が崩れて地面にヒョウエの体が接着する前にセツヤの膝がヒョウエの体を捉えると、上方にヒョウエの体が飛び上がる。その瞬間にセツヤは刀の柄を握り締めたまま縦拳をヒョウエの横腹に叩き込む。
ヒョウエ「ぅがっ!」
 人の使う力にしては信じられないほどの距離をヒョウエを吹き飛ばした。刀使いの戦いとは思えないほどの決まり手だった。花畑に突っ込み、慣性の力の分だけ転がってようやく止まった。
ヒョウエ「が、・・・・・・・・・ガハッ!」
 胃液と共に若干の血液をヒョウエは吐き出す。恐らくは肋骨をいくらか骨折もしているだろう。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 セツヤは何の感想も漏らすことなく九朗のほうを向く。そう、セツヤにはヒョウエなど眼中にはなかった。
 九朗の戦いはセツヤとヒョウエのそれに比べればそれほどに荒々しいものではないように思えてしまう。セツヤが振り向いたときにはすでに九朗はティベリウスの体を切り裂き、上下に切り離していた。
セツヤ「おお! お見事」
 そこへセツヤが賞賛の言葉を送る。あまりに素直なセツヤの言葉に九朗はどう返せばいいのかを少々迷っている様子だった。
九朗「あ、どうも。・・・・・・・・・あんただって」
 九朗の迷い迷いの言葉に返しセツヤの表情は晴れていた。
セツヤ「お褒めの言葉はありがたく受け取る。ありがと九朗君」
 セツヤがシャキンという音と共に鞘に刀を、ホルスターに銃を納める。臨戦態勢を解いたセツヤに羽を生やしたマスコットのような少女がセツヤの前にやってくる。
アルアジフ「なれは一体何者だ。魔術師ではないようだが。・・・・・・・・・ここまで戦える人間は童の記憶にもそう多くはない」
 セツヤは改めてアルを凝視する。その様子は九朗の網膜には頭頂部にハテナマークができているのが見えた。その九朗の予測どおり、セツヤはアルの羽を鷲掴みにすると横に引っ張ったり幼児が戯れるかのように遊びまわす。
セツヤ「何だこれ? 人形? 妖精? それにしては喋り方が年寄り染みてるな」
アルアジフ「な、やめろーー!! 貴様!! 何をする!!? おい九朗!! 早く童を助け・・・・・・・・・うひゃぁあ!」
 だが、セツヤもずっと遊びまわしていたわけではない。突然、セツヤは目を細くすると
セツヤ「九朗君! 避けろ!!」
九朗「え?」
 言葉通りにセツヤはアルを掴んだままで真横に飛び跳ねた。しかし、九朗はセツヤの言葉に躊躇ってしまった。セツヤとアルはどうにか難を逃れたが九朗は後ろからティベリウスの触手に体を貫かれてしまう。
セツヤ「九朗君!!」
九朗「がぁあ・・・・・・・・・」
 アルを空中に逃がしてからセツヤは居合いの要領で刀を抜き放つとその触手を一瞬で細切れにしてしまう。そして、九朗を抱えながらもその鎬を立ち上がっていたティベリウスに向ける。
ティベリウス「油断したわね九朗ちゃん、セツヤちゃん」
セツヤ「貴様・・・・・・・・・、まさか真っ二つにされても死なないとはな」
ティベリウス「そう。私は不死身を手に入れた。この妖祖の秘密の力でね」
 ティベリウスが蛆に塗れた本を持ち上げてセツヤに見せる。その本の色や雰囲気は正に禍々しさという言葉が形容するに相応しいものに思えた。
セツヤ「ちっ」
 セツヤは一応周囲を確認する。すると、先ほどまでヒョウエが倒れていた場所に奴はいなかった。脇腹を手でおさえながらも刀を手にしてティベリウスの横に立っていた。
ヒョウエ「・・・・・・・・・いいな。昂ぶる。血が滾るぞ。セツヤ・クヌギ。これほどの男には滅多に会えん。俺の、全てを賭して戦うに相応しい相手だ。俺に止めを刺さないほどの余裕。感情が決壊しそうな屈辱だが、それも力に変えて貴様を討つ」
セツヤ「は、黙れよ。見失っている奴が何を言う。・・・・・・・・・・・・・・・・・・アルちゃんと言ったか?」
 セツヤは視線を合わせることなく語りかける。
アルアジフ「何だ?」
セツヤ「九朗君を連れて行け。さっき、お嬢さんを連れて行った方角に俺の仲間がいる。まだ助かるかもしれない」
九朗「・・・・・・・・・・・・・・・・・・必要ないぜ。兄さん」
 セツヤはティベリウスたちを視線でけん制しながらも驚きの表情になる。九朗が覚束ない足取りとはいえ、立ち上がったからだ。
九朗「いい加減にしろよ! フランシュタイン! ・・・・・・・・・まったく、碌に姫さんも守れない。これじゃ確かにデモンベインの搭乗者失格だぜ。でもよ、ケジメだけはつける。この糞野郎は俺がきっちりぶっ殺す!!」
セツヤ「・・・・・・・・・いい気概だ」
 セツヤは微笑みながら再びティベリウス、ヒョウエに向けて構えを取る。
ヒョウエ「クヌギは俺が抑える。お前はあの死にかけを仕留めろ」
ティベリウス「分かってるわよ。・・・・・・・・・それにしても威勢がいいじゃない。死にかけの分際でぇーー!!」
九朗「うぁぁぁあ!!」
 ティベリウスが九朗に差し迫る。九朗はティベリウスの攻撃をバルザイの堰月刀で受け止めた。双方の激突に火花が散り、夕暮れも越えて暗くなってきた周囲を照らす。
ティベリウス「しつこい男は嫌われるわよぉぉおお!!」
セツヤ「九朗君!」
ヒョウエ「させん!」
 セツヤが九朗の援護に向かおうとするが言葉通りにヒョウエがセツヤに切りかかる。手負いと言えども並々ならぬ達人だ。セツヤもそう簡単にヒョウエを越えて助けに行くことはできないでいた。
九朗「ううぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」
 渾身の力で九朗がティベリウスに押し勝つ。ティベリウスの体が吹き飛ばさるが、直ぐにティベリウスは身を起こす。
ティベリウス「このくたばり損ないがぁぁ!」
九朗「でぇやぁ!」
 ティベリウスの腹部にある触手が九朗に襲い掛かるがそのどれも九朗は堰月刀で切り落としてしまった。
ティベリウス「そ、そんなバカな」
九朗「うぉぉおおお!!」
 その勢いで九朗は手を休めることなくティベリウスに迫る。
九朗「二度と再生できねーくれー、滅茶苦茶に叩き切ってやらぁぁーー! 覚悟しやがれ!!」
 先ほどとは異なり、今度は縦に、再び横に、斜めに。九朗は堰月刀を駆使し乱撃をティベリウスに叩き込む。ティベリウスも流石に倒れこんでしまう。その間、セツヤは今度は手負いではあるが一切の憂いがないヒョウエの攻防に決着を着けれずにいた。
セツヤ「おい、相棒がやられたぞ?」
ヒョウエ「俺に何の関係がある。退散するとでも思っているのか? それに、あいつは相棒でもなんでもない。俺には貴様と戦うことの方が何よりも優先される!」
セツヤ「そうかよ!」
 九朗はティベリウスをまだ見つめていた。仮にも不死身と名乗ったのだ。これで死んでしまう可能性は正直低いと思っているのだろう。そのときだった。何かが光った。ティベリウスの手にある本。妖祖の秘密だった。
ティベリウス「あぁ、ああぁあ、・・・・・・・・・・・・・・・・・・舐めるなぁぁあああ!」
 青い光。それが何かを形成する。セツヤにはまったく意味が分からないものだった。魔方陣と言えばいいのだろうか。まったく理解できない幾何学模様。その幾何学模様が生み出した闇と害虫。それらが1つに集まり巨大な人影を作り出した。その影に向かってティベリウスは飛ぶ。
ティベリウス「デウスマギナ、ベルゼビュート! 飽食せよぉぉお!!」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・突然現れた。何だあれは!?」
 セツヤはヒョウエと距離をとってベルゼビュートを唖然とした表情で見る。
ヒョウエ「あれが奴らの力さ。魔道書を用いてのデウスマギナの召喚。予定外だがこれで形勢逆転だな。 ・・・・・・・・・生き残れよ。貴様を殺すのは俺だ」
 刀を納めたヒョウエが立ち去った直ぐあとだった。
ティベリウス「痛かったわ。痛かったわ、大十字九朗。あんたにはお仕置きが必要ねぇぇえ!!」
 ベルゼビュートから巨大なエネルギー体が発射される。そのエネルギーが中庭の花壇を無残にも破壊しつくし、その爆風はセツヤと九朗、アルを吹き飛ばしてしまう。
セツヤ「うぅうあぁっ!!
九朗「ぬわわぁぁ!!」
 吹き飛ばされた2人の傍にアルがやってくる。
アルアジフ「これ以上の失血は危険だぞ!」
九朗「アル、デモンベインを」
アルアジフ「バカをいうな! その傷では! 万に一つも勝ち目がない」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ある。勝てる」
アルアジフ「なに!?」
九朗「あんた」
 セツヤの呟きに2人は過敏に反応する。セツヤは襟元に備え付けられた無線に口を近づける。
セツヤ「状況を把握してるか?」
マリア『勿論です。無事ですねセツヤさん』
セツヤ「ああ。発進だ。ソースケ君を中心に足止してもらってくれ。その間に切り札の準備をさせる」
マリア『わかりました!』
セツヤ「それと、風伯の戦闘も許可する。ユメコ君とジャス君に全指揮権を譲渡」
マリア『了解です!』
セツヤ「頼む」
 そこでセツヤは通信をきる。必要最小限だが、これであとは目の前にいる機械神ベルゼビュートに殺されるが早いか救助が早いかだ。戦うと言う選択肢を考慮する必要すらない。クリサリス号のときのように無力化するというのはまず不可能だ。構造が一切つかめない上に魔道なんぞ現代人には理解できない。
セツヤ「できることはした。してくれる。あとは逃げるのみ」
 セツヤはなりふり構わずに膝をついているセツヤよりも身長の高い九朗を肩に担ぎ上げるとベルゼビュートと反対の方向へ全速力に走り出す。
九朗「おーーわっ!」
アルアジフ「おい!」
 ここまであからさまに逃げるセツヤは清々しさすらあった。だが、腐ってもアンチクロスの1人、早々簡単には逃がしてくれたりはしない。
ティベリウス「逃がさないわぁー!」
 ベルゼビュートはまたしても巨大なエネルギーを収束させるとセツヤの進行方向に向かって放つ。セツヤは振り向かずとも、ある程度、ベルゼビュートの攻撃が見えるのだろう。ウイングバックのようなカットで直撃だけは免れる。それでも、それ以上はどうしようもない。その爆風でセツヤは再び吹き飛んでしまう。
セツヤ「つぅぅうっ!」
 だが、先ほどとは違う。セツヤが九朗を抱えていたからだろう。吹き飛ばされつつもセツヤは爆風で錐揉み状態になっても器用に体勢を整えて両足でかなり強引に着地する。そして、再び走り出した。この調子で逃げていたら、どうにか逃げられそうな気になってくる。だが、いつの間にかセツヤのまん前にベルゼビュートが立ちふさがっていた。先ほどのエネルギー体を放ることはないだろう。この距離では恐らく先ほどよりも密度の濃い攻撃をしてくるだろう。そうなると幾らセツヤでもそれを避けるのは厳しい。しかも、セツヤは九朗を抱えている。自由度は通常以下だった。
セツヤ「あーー、最悪」
九朗「兄さん! 俺を置いていけ! 一人なら逃げられるだろ!!」
アルアジフ「そうじゃ。ナレには関係ない。もう童たちに付き合うな」
セツヤ「あ゛ぁ!? ・・・・・・・・・冗談だろ? 君を置いて逃げるなんてできないね。覇道のお嬢さんに合わせる顔がない」
九朗「けどよ! それだとあんたも」
セツヤ「うっさい!! 病人は黙ってろ!!」
ティベリウス「仲がいいわねぇ。妬けちゃうわぁあー。・・・・・・・・・一緒の方が都合がいい。仲良く2人で地獄に行きなさい!!」
 ティベリウスのベルゼビュートがセツヤ達を踏み潰そうとする。シンプルだが近距離では意外にも避けにくい。セツヤも範囲が広いために的確に避けることはできなかった。だが、ベルゼビュートの土踏まずが地面に付くとはなかった。いきなり、ベルゼビュートが後方に吹き飛ばされる。
九朗「どうなってやがる!?」
セツヤ「はぁー、助かった。間に合った。・・・・・・・・・ありがと、ソースケ君」
 セツヤは通信機に話しかける。そして、答えはしっかりと返ってくる。
ソースケ『問題ありません』
 セツヤの言葉に答えが返ってきたのと同時にセツヤとベルゼビュートの間に機体が現れる。白い機体。忍者のような巻物咥えたような機体だ。大きさはベルゼビュートの半分以下だがどうにも存在感を感じさせる機体だ。空には数機の機体が飛んでいた。
セツヤ「ソースケ君、マルスさんたちの連携で時間を稼いでくれ。無理はしない。これを倒すのは至難の技だよ」
ソースケ『了解しました。P22ポイントにクルツとマオが揚陸艇で待機しています。覇道財閥の代表もいらっしゃいますのでお早く』
セツヤ「あいよ!」
 そして、セツヤは走り出した。脱兎の如くに走り去るセツヤとベルゼビュートの間を遮るようにアーバレストが立つ。
ティベリウス「何なのよあんた!! 折角いいところだったのに!! そんなちっぽけな機体でベルゼビュートの相手をする気ィ!?」
ソースケ『相手を見てくれで判断するのは三流の証拠だ。・・・・・・・・・プロフェッショナルは武器を選ばん。さっさと来い。プロのテクニックというものを痛い教訓と共に教え込んでやる」
 一端、アーバレストが後方に退いてからアーバレスト、風伯空戦部隊とベルゼビュートの戦いが始まる。


セツヤ「はぁ、はぁ、はぁ」
 まるで短距離の陸上選手張りのスピードで駆ける。そこにはソースケの言葉通り、風伯の揚陸艇が待機していた。扉の前にはアサルトライフルを構えたマオとクルツが待機している。セツヤは止まることなく、艇の中に飛び乗った。過呼吸で声を出しにくくなっているセツヤに代わってマオが叫ぶ。
マオ「よし! 出せ!!」
 揚陸艇が飛び上がる。その中でシートの中で休んでいるセツヤにクルツがドリンクを渡す。それでセツヤは少しずつ喉を潤す。
クルツ「風伯はいっつもこうなんですか? こんなこと続けてたらセツヤさん死んじまうぜ?」
セツヤ「はぁはぁ・・・・・・・・・、だから地球での作戦を渋ったんだよ。こうなることが分かっていたから。・・・・・・・・・君らがいなければもっと酷い事になってた。・・・・・・・・・ふぅー、マオさん、急がせて。ベルゼビュートはマルスさんたちにも荷が重い」
 セツヤの言葉にマオが頷いた。パイロットに催促しにコックピットに向かう。体に酸素が補給されたセツヤは九朗とアルアジフの方へいく。
セツヤ「九朗君、どんな調子だい?」
九朗「もう・・・・・・・・・大丈夫です。大分休めたんで」
アルアジフ「何を言っておる! そんな体でデモンベインに乗るのは無理じゃ」
瑠璃「そうです。本当に死んでしまいます!」
九朗「だが、アンチクロスは通常兵器じゃ厳しい。早く行かないとあの白い機体がやられちまう」
アルアジフ「・・・・・・・・・確かにそうじゃが」
セツヤ「君の体は普通よりも随分と頑丈みたいだね。でも、きつい事には変わりないんだろう? ・・・・・・・・・戦わないといけないというなら、俺たちにできることは君の負担を減らすことだけだ。・・・・・・・・・一撃で決めなよ。そこまでの露払いは俺らがやる。最大の攻撃一撃を叩き込め」
九朗「あんた・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ!」


 揚陸艇の到着と共に風伯ブリッジが一気に忙しくなる。
エーデ「揚陸艇着艦しました! 覇道瑠璃代表、並びにセツヤさんの回収を確認。人的被害なし」
ジャス「わかった! リナルディ通信士! ローチス小隊の戦況は?」
マリア「敵デウスマギナに焦点を絞らせないように動いています。ディーナ1が火器を消失、ディーナ3が左腕の損壊はありますが、任務遂行に支障ありません」
ユメコ「・・・・・・・・・これ以上は厳しいかもしれないね。マリアさん、アーバレストのラムダドライバの発動は確認されてる?」
マリア「はい。2度の発動を確認されています。そのうち1度直撃ですが脚部中破程度のダメージを確認しましたが、致命傷には至っていません」
ユメコ「ラムダドライバは今の私たちの保有戦力のうちでは最強だからね。イズナが使えないのが厳しいな」
 軍師としては相当レベルの高いユメコが唸っているとエーデが声を高く発する。
エーデ「副長! 参謀! セツヤさんからの艦内通信です!」
ユメコ「! 出して!」
 ユメコに言われるまでもなくセツヤがメインモニターに映る。そして、出たセツヤがいきなり捲し立てる。
セツヤ『風伯を動かしてくれ。風伯自体を使って陽動をする』
 セツヤの突然の言葉にもユメコとジャスは動じない。しっかりと頭が回っていた。
ジャス「! 陽動するにも向こうに決定的なダメージを与えるような攻撃方法がないと」
 ジャスの言葉にユメコも頷いた。
セツヤ『それは問題ない。とりあえず、ソースケ君たちが陽動だと思ってくれればいい。そう思わせるような行動をしてくれ』
 ユメコとジャスは互いと目を合わせてからセツヤに目を合わせて頷いた。
セツヤ『頼む』
 そして、通信が切れる。それと同時に再びエーデが告げる。
エーデ「エトランゼが発進許可を求めています」
ユメコ「許可!」
エーデ「了解!」
ユメコ「参謀、攻撃は任せる。私は操艦するから」
ジャス「了解した」
ユメコ「コンディションをコンバットへ!! 大気圏内迷彩システム、電磁干渉領域発生システム、停止! 目標、敵デウスマギナ! マリアさん! ローチス小隊に通達! 風伯の攻撃情報を各機のコンピュータにリンク! セツヤさんには口頭で逐一説明して!」
マリア「了解!」
ジャス「火器管制システム限定起動。主砲、副砲起動。各ミサイル発射管に特殊貫通ミサイルを装填! ・・・・・・・・・準備確認! いつでもいけます」
ユメコ「了解! じゃあ行くよ。ジュリアさん、敵のまん前を突き抜けろ!!」
ジュリア「了解!!」


マルス『サガラ軍曹! 準備は良いか!!』
ソースケ『肯定です、中尉殿』
 組んで数時間とはとても思えないコンビネーションでマルス小隊とソースケは戦っていた。正直、ソースケはマルス小隊の連携の高さと各個のスキルの高さに驚いていた。冷静沈着な行動を旨とするマルスに多様性がありながらも自分の役目をしっかりと理解しているアール、この二人に比べれば実力的にやや見劣りはするが、平均値は優に超えているホルテ。この3人のバックアップは非常に的確だった。もしも、この3人出なければ幾らソースケとアーバレストでもこの化け物を相手にすることはできないだろう。
 そして、この急編成の部隊は更なるコンビネーションを求められる。
アール『! ホルテ! 遅れるな!』
ホルテ『はい!』
マルス『発射だ!!』
 3機のエルシュナイデが肩部に固定されているビームカノンを一斉に発射させる。タイミングに関して言えば文句の言いようはなかっただろう。完全に一点狙いではない。この作戦の意図を完全に理解してだろう。かなり照準にばらつきがある。その攻撃が花畑を抉ったりもしていた。
ティベリウス「そんな攻撃がはぁーー! ・・・・・・・・・見え見えなのよぉーー!!」
 土煙の中からベルゼビュートに特攻してきたのはやはりソースケだった。アーバレストがラムダドライバとボクサーの威力を融合させてベルゼビュートの頭部目掛けて数発撃ち込む。戦艦ですら撃沈できる威力を持ったラムダドライバでも幾重にもかけられたデウスマギナの魔法防御陣を貫通してどうにかボクサーの元の威力を保たせるのが精一杯の様子だった。
ティベリウス「がぁぁーー! 痛いじゃないのよ!! いい加減死になさいよ!!」
 アーバレストはベルゼビュートの3分の1から4分の1程度の大きさしかない。ベルゼビュートは攻撃に夢中になっていると思われるアーバレストを捕まえる気でいた。普通ならば捕まっていただろう。しかし、攻撃しつつも周囲に気を張巡らせさていたソースケはベルゼビュートの肩部分を踏み台にしてバク宙の要領で後ろに飛び跳ねた。
ソースケ『これで終わりだ』
ティベリウス「なにがよーー!」
 アーバレストが飛び跳ねた直後にだった。もっと巨大なものが突進してくる。超々低空飛行で突進してくるものは風伯だった。


ユメコ「艦首にフィールド出力を最大にしてもってけっ!! 突っ込んで後の緊急上昇!! 敵を空中に打ち上げろぉおおーーー!!」
ユージーン・ジュリア「「了解!!!」」
 風伯の行動は暴挙ととっても誰も批判はしないだろう。並みの胆力ではこの行動は無理だ。風伯は艦首部分にフィールド出力を最大にしてその巨大な推力を持ってベルゼビュートを艦首に引っ掛けるとそのまま緊急上昇。ベルゼビュートを空中に打ち上げていく。その間も電磁フィールドでのダメージを受けているベルゼビュートは溜まったものではない。
ティベリウス「くぅぅあああーーー!!!」
 巨大なGが掛かっても風伯クルーのテンションは落ちていない。
マリア「高度4000メートル突破しました! 予定高度到達です!!」
ユメコ「フェイズ3に移行! 緊急下降開始! 敵を地面に突き落とすよーー!!」
ジュリア「了解!」
ユメコ「フィールドの出力をレベル2に弱めて! ベルゼビュートの下降確認後フィールドオフ! 攻撃を開始する!! 後は頼むよ参謀!」
ユージーン「了解」
ジャス「任せてください!!」
 ユメコの言葉通りにベルゼビュートの下降が始まった。そこから、指揮が部分的にジャスに移る。
ジャス「主砲、副砲照準、ミサイル発射管開け!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし各砲塔一斉射撃!!」
 下降しながらというとてつもない状況ですらジャスの照準は全て計算されたものだった。どれもベルゼビュートへの照準を外さない。全弾命中を確認してからジャスは口を開く。
ジャス「命中確認。副長、艦を水平に」
ユメコ「うん。ジュリアさん、水平保って」
ジュリア「了解」
ユメコ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・さて」
ジャス「・・・・・・・・・ええ」
 爆破の煙が段々と薄れていく。そして、その中から出てきたのは・・・・・・・・・ベルゼビュートだった。
ティベリウス「いい加減にしなさいよぉぉおおーー!」
 水平を保っていることが裏目に出ていた。同時に電磁フィールドも停止している。その中でベルゼビュートは絶好の攻撃のチャンスではあった。ベルゼビュートがエネルギー体を溜め込む。恐らくはそれを風伯に投げつけるつもりなのだろう。だが、その行動が理解できてもユメコもジャスも何の指令も出さずにベルゼビュートの行動を眺めていた。
 この瞬間は恐らく風伯クルーの全員はかなり長く感じていたことだろう。周囲に遮蔽物は当然ながらない。誰しもがこの攻撃はあたるものと思うだろう。しかし、本当に何の予兆もなく現れたのは巨大な魔方陣だった。ティベリウスがベルゼビュートを展開させたものと同じものだった。そして、その中から現れたのはベルゼビュート同様巨大な機械仕掛けの神が現れる。その様子をマリアは当然の如く、ジャスは企みを成功させたような表情になる。
 その巨大なロボットが空中から落ちてくる機体が右腕に巨大なエネルギーをベルゼビュートに叩きつける。
九朗「喰らえぇティベリウスっ!! ・・・・・・・・・レムリアぁぁぁああ・インパクトぉぉおおおお!!!」
ティベリウス「デ、デモンベイン!? 戦艦ではなくこっちが本命だったのねぇ!? ・・・・・・・・・うがぁああぁああ!!!」
 突然現れたデモンベインと呼ばれた機体のレムリア・インパクトがベルゼビュートに突き刺さる。これが完全にティベリウスの意表を突いた結果だろう。空中数千メートルでベルゼビュートが大規模な爆発する。雲が一気に消えうせる。爆発の衝撃は風伯のレーダーを一時的にではあるが完全に砂嵐状態にしてしまうものだった。その爆発の規模は間違いなくユメコとジャスの考えていた範疇を越えるものだった。
ジャス「単機でこの威力? これは・・・・・・・・・存在していい力じゃない」
ユメコ「・・・・・・・・・うん。これがデウスマギナ・・・・・・・・・デモンベインか」
 今のデモンベインは空を飛ぶことができない。ベルゼビュートの爆風と共にアーカムシティに向かって落下していった。その様子にいち早く気がついたのはジャスだった。レムリア・インパクトの威力に呆然となっていたジャスだがジュリアに一目散に叫ぶ。
ジャス「ウォン少尉! デモンベインを落下させるな!! アンカー放て!!」
ジュリア「りょ、了解! アンカー発射!!」
 デモンベインに向かってのアンカーが発射されてデモンベインの腕部に引っかかり、風伯がデモンベインに吊り上げられる格好になる。
ユメコ「流石にこれじゃ耐えられないでしょ?」
 ユメコはベルゼビュートに集中していた。空中を取り巻いたレムリア・インパクトの爆風が消えていく。ブリッジにいる風伯クルーは幾らデウスマギナでもこれには耐えられないと思っているだろう。しかし、爆風が消えた光景にユメコは目を疑った。
ユメコ「・・・・・・・・・あれでも!?」
 その言葉通りだった。致命傷は負っている。それは間違いない。だが、ベルゼビュートはまだ動いていた。
ティベリウス「許さない。・・・・・・・・・許さないわよぉぉおお!! 九朗ちゃん!! それに風伯!!」
 ティベリウスは恐らく目が血走っているのだろう。まだ戦意は枯れていない。それは誰しもがひしひしと伝わってきている。
九朗「・・・・・・・・・・・・・・・・・・くそ」
アルアジフ「もうだめじゃ九朗、これ以上はお前の体が持たん!」
九朗「けどよ!」
 九朗も風伯も戦意は枯れていない。だが、肉体的にはもう限界が近かった。間違いなくベルゼビュートに致命傷を与えることができるデモンベインを操る九朗が満身創痍だ。これ以上の戦闘が厳しいのは誰しも理解していた。ジャスがそういったことを細かく分析して厳しい表情になった途端だった。
マスターテリオン『・・・・・・・・・そこまでだ。・・・・・・・・・もう良い帰還せよ』
ティベリウス「な・・・・・・・・・ふざけないでよ。ここまでされてアンチクロスが黙って引き下がれると・・・・・・・・・」
マスターテリオン『貴公の役目は終わった。もう一度言う。ティベリウス帰還せよ』
ティベリウス「目の前の敵をキッカリ殺さずに何がブラックロッジよ!! こいつらは私がこの手で! ・・・・・・・・・で、でで、ぅがぁぁああ!! わぁぁぁあああーー!!」
マスターテリオン『帰還せよ』
ティベリウス「はぁ、はぁぁああい! お許しをぉぉお!! ・・・・・・・・・覚えていなさい大十字九朗、風伯のセツヤ・クヌギ。今度あったら生き地獄を味合わせてやるわぁ」
 黒き魔方陣が表れて瞬時にベルゼビュートが姿を消した。
ユメコ「どうにかなったね。・・・・・・・・・でも、あんなのが何体も出てきたら、流石にセツヤさんでも辛いね」
ジャス「ええ。・・・・・・・・・我々もあの計画をいち早く移さないといけませんね」
ユメコ「それもそうだけど、どれを差し置いてもまずはイズナだよね。全武装の攻撃でもアンチクロスのデウスマギナに碌なダメージも与えられないんじゃ手も足も出ない」
ジャス「・・・・・・・・・タイムテーブルの補正をしておきます」
ユメコ「お願い参謀」
 風伯首脳の会話に誰も口を出さないでいた。2人の頭はそれだけクルーに信用されているからだろう。緊張感が徐々に弛緩していく
。その緊張が僅かに解れてしまっていた一瞬に事態は起こる。ユージーンはその視認が一瞬遅れてしまった。そして、数拍遅れてレーダーに映る光に気付く。
ユージーン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!! 高速で当艦に接近の物体があります!! 数1!」
 レーダーの映像が最優先でメインモニターに投影される。ユメコも驚きを隠せないようだったが、奥歯に力を込める。ジャスもジャスでエネルギーの配給とミサイル発射管の様子をしっかりと確認する。
ユメコ「参謀!」
ジャス「ええ。デモンベインを吊るしているせいで恐らく大気圏内の機動力は最大速度の半分以下だと」
ユメコ「うん! ・・・・・・・・・ユージーンさん! 機体照合!」
ユージーン「・・・・・・・・・確認取れました。照合率89%! 機体はローブロンです!」
ユメコ「・・・・・・・・・マリアさん、敵さんからの返信は?」
マリア「ありません!」
ユメコ「敵対行動と認識! 攻撃を開始する!」
ジャス「了解! 攻撃を開始! 垂直ミサイル発射管の各管用意でき次第、迎撃ミサイル発射! 続いて主砲副砲こちらの号令で一斉発射!」
 ミサイル各管のばらつきをしっかりと認識した上での判断は見事と言えるだろう。迷いも感じさせない。すぐさま発射されたミサイルが肉眼とレーダーでローブロンに近づいていく。そして、レーダーに映るミサイル郡とローブロンの光が重なった。
ユージーン「ミサイル、敵機に接触! ・・・・・・・・・敵機健在です! ミサイルがやり過ごされました」
ジャス「!! 右2度、仰角8度、主砲、副砲一斉発射! うてぇぇ!!」
 続いて、風伯の主砲と副砲が火を吹く。威力はミサイルよりも数段上だろう。しかし、ジャスはこの攻撃を突如接近してきたローブロンは避けきるだろうと正直思っていた。
 そして、その予想通りにローブロンは動いていた。主砲副砲を恐るべきアクロバット的な操作で避けきった。
ジャス「副長!」
ユメコ「ジュリアさん! 転舵60度!!」
ジャス「全迎撃砲自動追尾で発射!!」
 幾らなんでも、かなりの数を装備している迎撃砲を避けきることはできないと言うことでどうにか一端距離をとった。しかし、どうしても旗色は悪い。
ユージーン「敵機! 直上!!!」
ジャス「ちぃ!! 垂直ミサイル再度発射!!」
マリア「間に合いません!! 敵機来ます!!」
セツヤ『・・・・・・・・・来させません』
 ローブロンが風伯のブリッジに直撃させるべく小型ビームソードを抜き放っていて迫ってきていたが、それはブリッジのまん前で止められた。セツヤのヒュッケバインMk-Uエトランゼが実装されているオクスタンブレードのエネルギー刃でビームソードを止めきっていた。
ユメコ「セツヤさん!」
ジャス「・・・・・・・・・艦長」
 正直、致命傷、下手をすれば大破すらも覚悟していたユメコ、ジャスを含めたブリッジクルーは安堵の表情になる。
セツヤ『・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前、ヒョウエ・ナミハラだな?』
 全周波数でセツヤが通信を入れる。多少カスタムされているローブロンは機体として反応を示すことはなかったが、しっかりと返答は帰ってくる。
ヒョウエ『その通りだセツヤ・クヌギ。良くぞティベリウスを退けた。・・・・・・・・・やはり貴様は俺に殺されるべき人間だ!』
セツヤ『疲弊している時に攻めて来ておいてよく言う。・・・・・・・・・が、相手はしてやる』
 ここからの戦いは多くの戦いを見てきた人間にも予想の付かない状況になる。良く言えば非常に多様性のある攻撃。悪く言えば形振り構わず。機動兵器の火器は言わずもがな、機動兵器でありながらも突きや蹴りといった格闘戦まで行う。しかもそれは非常に高機動の中で行われるのだ。
 エトランゼがオクスタンブレードを分解してロシュセイバーとシシオウブレードを両手に持って近接戦の体勢を整える。
ヒョウエ『成程。旧型かと思ったがお前向きの機体なのか。確かに動きの細やかさは通常のパーソナルトルーパーを越えている』
 ローブロン・カスタムの左腕に持っている連装のレールガンを精密な動きでセツヤを狙う。レールガンの攻撃は非常にすばやいのだが、セツヤのエトランゼはその攻撃を逐一把握しているかのように交わし、シシオウブレードで撃ち落すこともする。
ヒョウエ『化け物だな』
セツヤ『どっちがだ。・・・・・・・・・喰らえ!』
 エトランゼの左右の腰部分に装着されているGストライクキャノンをローブロンに向かって発射するがそれをかなりのマニューバでヒョウエは避けきった。しかし、セツヤの目論見は更にその先にあった。
セツヤ『呼んでたよその軌道は』
 ドックファイト専用、双方の機体はバルキリーではないのだ。しかし、同様の動きをマオ社のパーソナルトルーパーとシュラーバー社のHDSで行っている。これだけでも双方の力量は尋常ではないのだ。そして、その戦いに蹴りがつく。ローブロンの後ろを取ったエトランゼがエンジンを逸らすようにGストライクキャノンを発射させる。そして、それがローブロンにヒットした。
ヒョウエ『! なぁにぃぃ!? まだだ!!』
セツヤ『五月蝿い!! リロイに伝えろ!! 貴様の妄念は潰すとな!!』
 推力の落ちてきたローブロンのテスラドライブにセツヤはロシュセイバーを突き刺して完全に出力の停止したローブロン真下に突き落とした。
セツヤ『・・・・・・・・・はぁ、終わった』
 このセツヤの通信が今回の作戦終了の合図になる。ブリッジに今度こそ本当の安堵感が訪れる。その安堵感はセツヤの言葉端からも伺える。
セツヤ『マリアさん』
マリア『はい。何ですかセツヤさん?』
セツヤ『九郎君が心配だ。デモンベインの回収を最優先。それが終了次第、覇道のお嬢さんを送り届けてくれ。機動兵器部隊の回収はその後でいい』
ユメコ『了ーー解』
 代わりにユメコが返事をした。その返事を聞いてからセツヤのエトランゼは甲板から空中に飛び出した。STTやソースケと共に待機しているつもりなのだろう。空中ダイブを楽しんだエトランゼは優雅に着地をする。その周りには既にエルシュナイデとアーバレストが待機していた。アーカムシティの公園のような場所に合計5機もの機動兵器が集まってきていた。異様に物々しいのは当然なのだが、周囲に人はいない。しかし、よく見知った顔が待機していた。マルス、アール、ホルテ、ソースケの4人だ。パイロットスーツでだ。セツヤが来るよりも先にユメコが戦闘態勢を解除したからだろう。
 セツヤもエトランゼのコックピットから飛び降りる。
セツヤ「ご苦労さん。ソースケ君、ナイスタイミングでの参上だったよ」
 セツヤは誰もいない公園のベンチに腰掛けてからソースケを指差してセツヤは笑う。
ソースケ「いえ。本当ならばもう少し余裕があればよかったのですが」
セツヤ「君だからあのタイミングなんだ。俺は死ななかったんだ。覇道のお嬢さんもね。・・・・・・・・・もうちょい喜べよ! 死人もなく終わったんだ。最高の結果さっ! プロでもアマでも関係ない。死なないことはいい」
ソースケ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。自分もそう思います」
セツヤ「んっ、忙しい数日だったな。これで時間制限の迫った仕事は終わった。これで少しゆとりができたからね。ガーンズバックの整備ができる。次はSRTのチームワークを見せてもらいたいね。これでウチの保有の戦隊は2チーム。これが完全に稼動する。・・・・・・・・・これでやっとこさだ。ソースケ君、君やマオさん達にはこれら空戦、宙戦の訓練を受けてもらう。教官はSTTと臨時教官として俺だ」
ソースケ「・・・・・・・・・やはり」
セツヤ「うん、そう。これはテッサの意向でもある。聞いた訳ではないけどね。・・・・・・・・・がんばれ」
ソースケ「はい」
 ソースケとセツヤの会話が終わったことを確認すると、アールがセツヤの前に立つ。
アール「いいタイミングといえば、セツヤさんがあのでっかい化け物をデモンベインでしたっけか? あれにまかせっきりでどうして出こないのかと思ったんですけど、どうして風伯が狙われると思ったんですか?」
セツヤ「・・・・・・・・・あのタイミングしかないからね。機動部隊は出撃。風伯はデモンベインを吊るしていたから身重。ただ、こっちの持っていたカードは向こうさんがこっちの機動兵器数を認識していなかった。だから俺が残っていた。ベルゼビュートを九郎君に任せてね」
マルス「あの状況でそこまで考えいていたんですか?」
セツヤ「いや、感だね。ものすごい悪意を感じた。理由は後付け」
ホルテ「感だったん・・・・・・・・・」
 セツヤが手のひらをホルテに見せて言葉を遮った。セツヤの表情は非常に厳しいものに変わっていた。セツヤが後ろの木に向けて重い声を出す。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰だあんた?」
黒髪の女「・・・・・・・・・すごいね! 魔術師でも僕の存在を気付ける人は少ないのに」
 セツヤ以外の4人の兵士が拳銃を抜き放って木の上で笑っている女性に向ける。
セツヤ「・・・・・・・・・言い換えよう。何だあんた?」
黒髪の女「僕はナイア。心外だね。こんないい女を前にして。折角会いに来たのに」
セツヤ「東洋にこんな歌がある。・・・・・・・・・『黒き瞳は義の印。青き瞳は自由の印。・・・・・・・・・赤き瞳は人外の証』ってな。いい女も選ぶべきだな」
ナイア「君だって変わっているだろう? 君の後ろに見えるものは少なくとも人じゃないよ? 綺麗な・・・・・・・・・とても綺麗な虹色の獣だ」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ナイア「だんまりかい? いい男にそれは相応しくない。セツヤ・クヌギさんだったね。九朗君もいい男だとは思うけどもまだ発展途上だ。セツヤ・クヌギ、あなたは随分と出来上がっているね」
セツヤ「・・・・・・・・・で?」
ナイア「そんなに警戒しないで欲しいな。僕は別に危害を加えにきたわけじゃない。セツヤ・クヌギ、君に会いに来ただけだから」
セツヤ「・・・・・・・・・様子見か? それが一体何のための様子見なのかは考える必要があるな」
ナイア「フフフ、九朗君とは違って随分と切れる男でもあるのか。厄介だね」
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・様子見。様子見か。何のための様子見だ? 俺の力量を見に来たというのは間違いないな。人外の才媛さん」
ナイア「ナイアと呼んで欲しいな。・・・・・・・・・けど、少し安心した。君では無理だ。阻害しえない。代行者である君ではね」
セツヤ「代行者。代行者か。言い得て妙だな」
ナイア「だろう? でも、君の後ろにいるものが出てきたらどうか分からないけどね」
セツヤ「もういいだろう? 俺の検分が目的ならとっとと帰れ。あんたとは違うんだ。休憩も取らず疲れる輩を相手になんぞしたくない」
ナイア「つれないなぁ。でも、そうだね。また会えることを祈っているよ。セツヤ・クヌギ」
セツヤ「願い避けだ。ナイア」
ナイア「フフフフ、じゃあね」
 ナイアの体がどんどんと透明になっていく。そして、彼女は消えた。セツヤは徐に自分の手のひらを眺める。それはマルスたちにも見えていた。セツヤ・クヌギ、ここまでの戦いでは人とは思えないような戦い方で勝利を収めてきた彼だったのだが、彼の掌には汗が滴り落ちるほどに現れていた。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナイアか」
 このアーカムシティの行く末がどのようなものになるのかセツヤであってもまったく想像することができなかった。




第肆話 『足跡が向かうは』へ

スーパーロボット大戦・涅槃 Index