粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第弐話 『サムライクリスマス』 後編


第弐話 『サムライクリスマス』 後編


 ほぼ同時刻、太平洋東京湾沖空中で迷彩領域を形成中の風伯ブリッジではパシフィッククリサリス号とは明らかに異なったのほほんとした空気を作り出していた。
ユメコ「暇だなぁ・・・・・・・・・。パーティ行きたかったなぁ」
 なんてことを言って艦長席にとっぷしているユメコにマリアがカートで全員分のお茶を運んでくる。それは新緑に生える緑茶だった。
マリア「副長、良かったらどうぞ」
ユメコ「おや? 緑茶? 珍しいね。私は嬉しいけど」
マリア「艦長も副長も日本人ですから。少し勉強してみたんです。茶道みたいにはいきませんけど」
ユメコ「いやいや、嬉しい嬉しい。セツヤさんも喜ぶよ」
 オペレータ席で同様に緑茶を飲みながらエーデが口走る。
エーデ「やっぱり良いなぁ。マリア先輩って本当に才色兼備ですよねぇ。お婿さんになってください!」
マリア「エーデ、せめてお嫁さんとは言えないんですか? でもまぁ、たとえお嫁さんにといわれてもエーデはちょっとお断りですね」
エーデ「酷いですよぉ」
ユメコ「えー、何で? エーデちゃん可愛いじゃん。ロリっ子で巨乳だよ? 要素いっぱいあるのに」
ジュリア「確かに。私はエーデの方が好きかな。マリアさんはめちゃくちゃ美人ですけど、傍から見てると性格きつそうなイメージがありますから」
マリア「そうなんですか。やっぱりそう見えるんですか。こんなに尽くす女なのに」
ユメコ「あはははははは」
 そうなのだ。今の風伯ブリッジにはユージーンを除いては女性しかいなかった。その残されたたった一人の男性であるユージーンだけはどうにも居心地が悪そうな雰囲気をかもし出している。緑茶を飲みながら黄昏ているのみだ。
 そんなユージーンも仕事だけは気を抜いてはいなかった。周囲のレーダーに逐一意識を落としていると突然、見たことのない気鋭を確認した。
ユージーン「副長! M3Y1からクリサリス号方向へ向けての機影を確認! 数2! すぐに照合を開始します!」
 その一言に先ほどまであったのほほんとした雰囲気が一気に引き締まる。
ユメコ「マリアさん、艦内に発令! 第2種戦闘警戒態勢に移行。電力供給ラインをコンバットに。ホルテちゃんはエルシュナイデ内で待機」
 まずは敵の情報を得ることが最優先だった。風伯は戦艦というカテゴリーに含まれはするがその本質は特務艦に近い性質を有している。空中に浮きながらも敵に発見されることは恐らくない。周囲に雲を発生させて電磁的な干渉によりレーダーにも発見されることはない。
ユージーン「敵影照合終了しました。オブロック社製汎用巡洋艦エイゼタス級2隻」
ユメコ「エイゼタス? こんな所にエイゼタス級? ・・・・・・・・・何を積んでいるのかなぁーー。っと、それよりもーー、数が少ない、と見るべきだろうね。・・・・・・・・・さてさてどうしましょうか。アマルガムさんの行動とするなら武装が少ない。この戦力じゃ西太平洋戦隊の虎の子トゥアハー・デ・ダナンを相手には絶対にできないね。向こうさんの標的がダナンさんなら戦力があれだけとは思えないね。できるなら、ダナンさんと共闘するのがこちらとしてもメリットが多いんだよねー。・・・・・・・・・マリアさん、たぶんクリサリス号の近くにいると思うんだけど、ダナンと繋げられる?」
マリア「潜望鏡深度にさえいればどうにかなると思います」
ユメコ「どうにかしてみて」
マリア「了解」
ユメコ「ユージーン君、できる限りエイゼタス級を監視。何か動きがあったら教えて」
ユージーン「了解」
ジュリア「副長、ソナーブイの投下を提案します」
ユメコ「ダメ。隠れている私たちは突然進路は変えられないから、それをしたら私たちが隠れているのがばれちゃう。それに、奇襲というカードは随分と魅力的だしね。だからこそ、ダナンさんとの情報の共有が一番なんだよ」
ジュリア「すいません。余計なことを言いました」
ユメコ「いいよ。ぜんぜん余計じゃない。もっと言って」
ジュリア「了解しました」
エーデ「それにしても、アマルガムがここまで迅速な対応をするとは思いませんでしたね」
ユメコ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・セツヤさんたちが上手くやってるっていうことの裏返しってことでしょうね。こうなることはないとは思わなかったけど」
マリア「副長、トゥアハー・デ・ダナンに繋がりました」
ユメコ「メインに映して」
マリア「了解」
 ユメコが珍しくも直立不動をモニターに向ける。ユメコはモニターに映るのは女性。テレサ・テスタロッサ大佐かと思っていた。しかし、そこに映ったのは中年の帽子をかぶった面長の男だった。その状況にもユメコは適切に対応する。
ユメコ「お初にお目にかかりますトゥアハー・デ・ダナン副長のリチャード・マデューカス中佐とお見受けします。私は『ティル・ナ・ノーグ』所属艦、風伯副長のユメコ・タカハシ大尉です」
マデューカス『『ティル・ナ・ノーグ』・・・・・・・・・宇宙部隊の存在は知っていたがその部隊が降りているとは思わなかった。それで、どういう用件だ大尉? 西太平洋戦隊は現在作戦中なため手短に頼む』
ユメコ「風伯はただいま東京湾、パシフィッククリサリス号より南南東150キロの地点にて待機しております」
マデューカス『何だと? 宇宙戦隊は我々の行動を察知していたということか?』
ユメコ「その質問はイエスでありノーです。我々は作戦指令書に則って動いております。今回の西太平洋戦隊の作戦についての特殊性は我々も予想し、理解しているつもりです。こちらの部隊もパシフィッククリサリス号に乗り合わせていますので恐らくは現場の人間で上手くやっていると思います」
マデューカス『・・・・・・・・・成程。恐らくそうだろうな』
ユメコ「はい。それでこちらの用件ですが、こちらの映像を見てください」
 ユメコが目配せをすると完璧なタイミングでエーデがエイゼダス級の映像を映す。
ユメコ「これは数分前に捕らえた映像です。我々はアマルガムの部隊であると考えています」
マデューカス『確かに。このタイミングならばそうだろうな。・・・・・・・・・しかし』
ユメコ「はい。敵がそちらと戦闘行動をするために編成した部隊だとするならば数が少なすぎます。恐らくですがこちらが探査し切れていない場所・・・・・・・・・水中に敵編隊が展開されているものと考えます」
マデューカス『つまり、大尉は我々と共闘作戦に出たいということを言っているのだな?』
ユメコ「はい。洋上の部隊は我々が、水中の部隊をそちらがということです。所属は違えど同部隊ならば・・・・・・・・・。そして、更に欲を言うならば情報のリンクを。それができれば双方で支援が可能な状況も生まれてくるかと思います」
マデューカス『・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいだろう。しかし、知ってのとおりダナンは強襲潜水艦だ。潜望鏡深度にいる時のみという条件がでるが?』
ユメコ「構いません」
マデューカス『了解した。・・・・・・・・・ところで、宇宙戦隊の戦闘指揮官である人物は随分特殊だとサイード少将から聞き及んでいるが今そこにはいないのかな?』
ユメコ「申し訳ありません中佐。風伯艦長セツヤ・クヌギ大佐は自らパシフィック・クリサリス号に乗艦し、指揮を取っておられます」
マデューカス『不躾な質問をした。では、女神の一族は君たち・・・・・・・・・常若の風神の健闘を祈ることにしよう』
ユメコ「ならば、私たち常若の風神は女神の一族の常勝を祈りましょう」
 そしてユメコが敬礼をする。そこで向こうの映像が途切れる。
ユメコ「はぁぁあああーーー! 疲れた。マデューカス中佐堅い!」
マリア「ご苦労様です。あれが普通だと思いますよ? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも私も堅いと思ってしまいました。フフッ、私たち随分とセツヤさんに毒されてきているんですね。けど、悪い気はしません」
エーデ「私もそう思います」
ジュリア「はい」
 決して士気が低いわけではない。決してセツヤが無能なわけではない。ただ、彼は人間なのだ。軍人よりも人間が先なのだ。ここ風伯に乗艦しているクルーの全員が意識しているかどうかは別にして理解しているのだろう。これが正しいのだと。それを反芻したユメコがセツヤとそっくりな笑みを繰り出してから席から立ち上がる。そして柄にも鳴く声を張り上げる。
ユメコ「さーて! 艦長も参謀もいない! みんな不安に思っているかな!?」
ブリッジクルー「ノー・サー!」
ユメコ「そう! 気にすることない! なぜならば! 私が一番上手く風伯を動かせるんだからね!! そうだよね!」
ブリッジクルー「イエッ・サー!!」
ユメコ「戦闘を開始するよ!!」
ブリッジクルー「了解!!!」
ユメコ「ユージーン君! 大気圏内迷彩システム、電磁干渉領域発生システム共に停止! 同時に敵との距離を詰める! ジュリアさん、大気圏内最大戦速! マリアさん、武装管制システムを起動! 迎撃すべて管制システムに。主砲、副砲にエネルギー伝達! 左右ミサイル発射管には対空対艦ミサイルを装填! 垂直発射管には対水航空爆雷装填!」
 セツヤもジャスもいないので有事の際ということで、マリアが火器管制を担当している。
 風伯が大きく揺れる。まるでユメコは熟年の司令官のようにその揺れにも動じることなく指示を出していく。
ユメコ「エーデちゃん! 私のサイドモニターにリアルタイムでダナンからの情報を表示させて」
エーデ「了解!」
 すぐにユメコのサイドモニターから情報が情報が提示される。それはダナンの位置や敵の位置、標的の武装やらとさまざまだ。特にユメコは横目でダナンの行動や敵艦の位置を逐一把握しているようだった。そういう意思はないだろうが、ユージーンがユメコの思考を断ち切るかのような声を上げる。
ユージーン「エイゼダス級巡洋艦、こちらの動きに対して行動を開始!! 敵艦から艦載機・・・・・・・・・いえ! 機動兵器が発進されました! 機体照合・・・・・・・・・シュライバー社製ローブロンです!」
ユメコ「シュライバー社? ・・・・・・・・・いいんじゃないの? オムロックもシュライバーも言わば我らがヘムルートのライバル社! けど、真正面からの戦闘なんて冗談じゃない!」
 ユメコが一瞬、サイドモニターの映像を確認。敵の位置、ダナンの行動、それが何分前なのかを確認してから指示を出す。
ユメコ「敵艦に攻撃を開始する! 垂直発射管の爆破システムを圧力感知から振動感知に設定を変更の後発射! 目標左30°距離1330!」
マリア「それだと敵に届きません!」
ユメコ「いいの! 復唱!!」
マリア「りょ、了解!! 爆破設定を振動感知に変更! 左30、距離1330!! ミサイル発射します!」
 風伯から十数発のミサイルは発射されるが、それは敵艦前面に着弾する。マリアの言葉通り、その一切が敵にあたることがなかった。
 その様子を見てからすぐに送られてきたダナンの情報を見て、ユメコは口の端を少々艶かしく上げる。その後だった。敵艦の機動兵器がやってくる番だった。
ユージーン「副長! 敵機動兵器部隊が迫っています! 距離540!! あと30秒で敵機動兵器の射程内に入ります!!」
マリア「ブレイキー曹長を発進させますか?」
ユメコ「させません。セツヤさんならともかく、これは多勢に無勢。風伯で相手をします。・・・・・・・・・よし! エーデちゃん! 総員に通達! 部署の如何を問わず全員をシートに体を固定させて!! ジュリアさん! 腕の見せ所だよ!! ユージーン君! 電磁フィールドの展開用意! 私の号令ですぐに発生できるように準備して!! マリアさんは前部主砲発射用意!」
エーデ・ユージーン・マリア「了解!」
ユメコ「準備が出来次第行くよ! ジュリアさん! 頭をたれるよ! 進入角度80°!! ジュリアさん海中に突っ込め!!」
ジュリア「了解!!!」
 ブリッジだけではない。風伯前部がほぼ垂直に倒立する。そのまま全速全身で風伯は海面に突進知る。風伯は海面から約1500mの地点にいた。軍艦が海中に到達する時間は数秒だろう。その中でも、ユメコは叫ぶのを止めない。
ユメコ「今だ!! マリアさん前部主砲一斉発射!!」
マリア「発射します!!」
 轟音を放ち、風伯の前部6門の主砲が火を噴いた。一瞬にして水分が蒸発。水蒸気と大きな水柱が立ち上がり、風伯はその中に身を隠す。その追ってきた機動兵器は風伯のあまりの突飛な行動に自身の次の行動を見失う。それは機動兵器部隊だけではなく、巡洋艦でも同じだった。
 水中に起きた騒音のためにソナーは使えない。水柱で肉眼で確認も無理だ。明らかなことは未だに戦闘が続いているということ。そして、自分たちが圧倒的な不利な状況にいるということだけだった。エイゼタス級も風伯同様に元々は汎用宇宙航行艦。水中にいることが危ういと察知したのだろう。エイゼタスが下方向に向けて機雷を発射を開始したそのときだった。段々と水蒸気も消えてきたその瞬間、風伯というなの白鯨が姿を現す。しかし、それは明らかに巡洋艦ではなく機動兵器郡に目を向けていた。一度水中に潜った風伯はそのまま水中で再び頭を上に上げて全速で突っ込んできたのだ。それも、機動兵器部隊に向けてだ。そして、タイミングも神がかっていた。
ユメコ「このタイミング!! フィールド展開!!」
ユージーン「展開!!」
 風伯が姿表したその瞬間だった。風伯が電磁フィールドを大気圏内での緊急展開。そのフィールドを展開したままで機動兵器部隊に突っ込んでいく。圧倒的質量の激突に機動兵器部隊はどうすることもできなかった。2機動小隊、6機いた部隊は一瞬にしてバラバラに引きちぎられる格好となる。艦船部隊も敵の標的はてっきり自分たちと考えて疑わなかったのだろう。風伯の迅速さに完全に反応できていなかった。
 またしても驚くべき速度で体勢を立て直した風伯が主砲、副砲の照準を敵巡洋艦に向けていた。
ユメコ「仕上げだよ!! 敵巡洋艦ブリッジに目掛けて副砲を発射! その後、敵巡洋艦に対して降伏勧告を開始する」
 風の神という意味を持つ風伯。この船は決して名前負けはしていなかった。風伯の戦闘はすぐに一段落する。本当ならばこれからも捕虜の取り扱いどうのこうのでやることは山のようにあるのだがその必要がなくなってしまう。
 ユメコはダナンからの通信を待っていた。気は少し抜いているが油断ではない。磐石に進めている。すぐに対応できるし頭も回る。そのはずだった。エーデが降伏勧告を出したその直後にユージーンが叫び声をあげる!!
ユージーン「投下した海上ソナーに反応があります!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・魚雷です!! 数6!! 速度80ノッドで・・・・・・・・・目標はエイゼタス!!」
ユメコ「80!? 迎撃ミサイル装填!! 命令待たずに各管発射!!」
ユージーン「間に合いません!! 3・・・・・・・・・2・・・・・・・・・1・・・・・・・・・着弾します!!」
 ユージーンの言葉とほぼ同時にエイゼタスの分厚いはずの甲板が爆発する。そして、ここからの光景はトラウマになったとしても誰にも文句は言えない。エイゼタス級は真っ二つに折れ、その折れた前部と後部にまるで狙ったかのように魚雷が着弾、再び爆音を上げる。そのどれもが完璧な照準で着弾した。その様子を見ながらもユメコは命令を止めることはない。
ユメコ「魚雷方向から到達距離と発射位置を割り出して!」
ユージーン「了解」
 ユメコのモニターに分析結果が出る。それはダナンが戦闘している方向とまったく逆の方向だった。つまり、敵部隊は失敗したときのために口を封じる部隊を派遣していたということになる。
エーデ「副長、救助は・・・・・・・・・」
ユメコ「まだいけない。敵が潜んでる可能性もある。ダナンが海中を保障してくれないと風伯じゃ水中戦はどうしたって不利。・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ユメコ(まだ敵の潜んでいる可能性は高い。下手に動けばこちらが狙われる。海上ソナーじゃ、どうしたって性能に限界があるし、とてもじゃないけど戦闘なんてできない)
マリア「副長」
ユメコ「わかってる。・・・・・・・・・」
エーデ「副長、ダナンから通信」
ユメコ「出して」
マデューカス『そちらかの応援助かった。おかげで敵の動きをかなり制限できた』
ユメコ「いえ。デュークと名の知れた中佐には遠く及びませんが」
マデューカス『そちらの状況は概ね把握できている。敵潜水艦はこちらの戦闘区域を脱出している。礼というわけではないが海中はこちらが見張る。救助作業に移るなら急くことだ、大尉』
ユメコ「了解しました。お心遣い感謝します」
 ユメコが敬礼を終えてからすぐさま命令を出す。
ユメコ「これより風伯はエイゼダス級の救助作業を開始する。エーデちゃん、ブレイキー曹長発進、周辺宙域の監視を。ヴェルトフ整備班長には損害箇所の報告をさせて。マリアさんは責任者として救助作業の現場で指示を出して。医療班に整備班と生活班で救助作業を連れて行ってください。重態患者、重症患者の手当てを優先。とりあえず海上保安庁が到着するまでの間です」
マリア「取調べを年頭に起きますか?」
ユメコ「いらない。ここは西太平洋部隊の担当区域だから私たちは口を出さない。必要なら奪取でも何でもするだろうから」
マリア「了解」
 マリアが走ってブリッジから出て行く。
 ユメコはこの戦いを反芻するがミスはなかった。油断もなかった。士気も高かった。自分のできる全てができたはずだった。しかし、彼女はどうしても思ってしまう。セツヤだったらこの被害を食い止められたのではないかと。それがユメコがセツヤと共にいる理由でもあると思うのだが。


 一方場所は変わってクリサリス号内廊下。
 そこでの戦闘ははっきり言ってSRTで培った技能を真っ向から否定するようなものだった。それに見入りながらも手を動かしているクルツに通信が入る。
クルーゾー『こちらウルズ1だ! ウルズ6、状況はどうだ!?』
クルツ「こちらウルズ6。とんでもないことになってるぜ」
クルーゾー『どういう意味だ! しっかり説明しろ』
クルツ「4機目。今海に落とした。残り2機でこっちに来た小型アームスレイブはすべて無力化だ」
 異常事態に変わりはない。いい意味での異常事態だった。他の部隊ではこの小型アームスレイブの撃破は不可能だという答えが返ってくるのだ。そんな中、圧倒的に弾薬が足りない。それはこのクルツのチームも同様のはずだった。
クルーゾー『何だと? どんな手を使っている?』
クルツ「ダンテ大佐がいるんだよ。あの大佐がポンコツロボを片っ端から3枚に下ろしている」
クルーゾー『何の冗談だ!?』
クルツ「俺だって実際目の前でみなきゃ信じられねーよ。実際戦って圧倒してんだよ。ポンコツロボ2体相手に」
 そんなクルツの発言に業を煮やした宗介がクルツから無線機を奪って代わりに説明をする。
宗介「こちらウルズ7、ウルズ6の報告は本当です。タナカ少尉ことクヌギ大佐が日本刀を使ってアストラル複数と戦闘。自分たちはバックアップをしていますが、この調子でいけば間違いなくこの区域のアストラルは排除できます」
クルーゾー『何? クヌギ大佐? 風伯のクヌギ大佐がいるのか?』
宗介「階級と名前を偽っていたようです。トキオミ・タナカ少尉がセツヤ・クヌギ大佐でした」
クルーゾー『・・・・・・・・・ふざけた事を』
宗介「自分もそう思いますが、今回に至ってはその非常識を歓迎したい気分です」
クルーゾー『わかった。なら、その区域のアストラルの無力化が終了したら教えろ』
宗介「了解」
 そう。セツヤは戦っていた。小型アームスレイブ相手に本当の意味での肉弾戦を繰り広げていたのだ。右手に日本刀。左手に短銃を持ち、絶妙な足運びと身の軽さを用いてアストラルと遣り合っている。これは近代戦からはかけ離れた巧みな技だった。複数いるならば自分に都合のいいポジションに運んでからの戦闘。宗介たちの腕を信頼して敵に動きを制限させ、更にその動きを鈍らせる。そのくらいならば弾薬の不足は関係ない。それを上手く活用してセツヤは最後のアストラルの相手をする。腕を切り落とし、脚部のマッスルパッケージを断絶させる。そして、絶対に腕に仕込んだマシンガンから狙えない位置に回りこんで相手の自重を上手く使って海に叩き落す。ただそれだけだった。周囲にとりあえず気を張り巡らせてからセツヤは日本刀と拳銃を鞘とホルスターにしまう。まるで時代劇役者がせりふを述べるかのように紡ぐ。
セツヤ「舐めやがって。道理も摂理も真理も何も理解していない、できない、機械人形になにができる」
 まるでアストラルに詩を送るようだった。そのまま、宗介たちの下へ歩き出し、着いたことにはもういつものセツヤに戻っていた。戻ったときには既に宗介がクルーゾーに報告を終えていた。
セツヤ「サポートありがと。おかげで助かった」
宗介「あの、クヌギ大佐」
セツヤ「名前で呼ばなきゃ返事しないよ?」
宗介「あ、セツヤさん」
セツヤ「なんぞや?」
宗介「・・・・・・・・・その日本刀だと思うのですが」
 宗介の視線の先にある日本刀の収まった鞘をポンとたたく。
セツヤ「これ?」
宗介「はい。あのアストラルは合金で作られたものだったはずです。それをどうやって・・・・・・・・・」
セツヤ「宗介君って日本人なんだよね? わからない?」
宗介「申し訳ありません」
クルツ「俺だってダンテ大佐の強さの秘密を知りてーよ。な、ヤン」
ヤン「はい! 失礼でなければ」
 と三者三様に言ってくる。近代戦でセツヤの戦い方は確かに革新的ではあった。古いが故の革新なのだが。セツヤは脇に寝かせていた銀髪の少女をおぶってから言葉を選んで答える。
セツヤ「別に失礼ではないけどね。・・・・・・・・・匠の鍛え上げた業物を達人が使うんだ。断てぬ道理があるものかい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・と言っても現代っ子には理解できないかもね。どう説明すればいいかな? 篭っているんだよ。この刀には。これを作った鍛冶屋さんの魂がさ。俺はそれを自分の信念を乗せて体現しているだけ。理屈を置いてきぼりにして魂と理を持ってそれを振るえばあんな機械人形目じゃないね」
ヤン「出鱈目だ」
宗介「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
クルツ「やっぱダンテだな」
セツヤ「気になってたんだけど、ダンテってなんだい? 人の名前?」
クルツ「いるんスよ。ゲームのキャラクターでセツヤさんみたいな戦い方して悪魔やらなんやらをばったばったと斬り倒すのが。その名前っス」
 こんなセツヤの講釈の間にも4人はしっかりと移動をしている。会話にいたっても余計なものばかりではない。セツヤは宗介に情報をこまめに求める。
セツヤ「宗介君、あの木偶人形あと何体いるの?」
宗介「報告されているもので残りは10体あるかないかと言うところでしょうか」
セツヤ「どうにもいやな予感がするな。俺は機械系は全然強くないんだけど、あれって完全に自動制御なのかい?」
宗介「と言いますと?」
セツヤ「ヤン君、この船の見取り図ある?」
ヤン「簡易版でよければ」
セツヤ「見せて」
ヤン「・・・・・・・・・こちらです」
 セツヤは足を止めてヤンの出したA4サイズの地図を凝視する。
セツヤ「俺たちが戦ってい場所が・・・・・・・・・ここだ」
宗介「他の足止め箇所はここと・・・・・・・・・ここです」
 宗介が船の通路に印をつける。それをセツヤは凝視しながら
セツヤ「・・・・・・・・・君たちの狙っているお宝ってこの場所でしょ?」
 セツヤが他の部隊が狙っているであろうアマルガムの情報エリアを指差してから3人の顔を見て確認する。セツヤは珍しく眉間にしわを寄せて考え込む。
 セツヤが前屈みになって地図を見ているので背中にいる銀髪の少女の髪の毛がセツヤの視線に入る。それがヒントだった。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・抜かった! 目的はウィスパードだ! この子に何かを奪取させるならそれ相応のお迎えが必要だ! そこに余計な護衛がいたらば話にならない!」
宗介「!!」
 セツヤの説明の意味を理解した宗介が飛び出して乗客が非難しているであろう後方甲板に向かおうとするのだが、セツヤが宗介の手を引いて止める。
セツヤ「待て待て! 落ち着け! ・・・・・・・・・君たち、ダナンの陸戦人型兵器、あーー、ガーンズバックだっけ? あれって待機していない?」
宗介「待機しています」
セツヤ「それがいる。すぐ呼んで。それとヤン君、今の話の内容をクルーゾーさんに伝えて。最悪テスタロッサ大佐とカナメが拉致される!」
 ここからセツヤとSRT要員の動きは早かったセツヤ達は走り出しながら自分たちの行動をてきぱきとこなす。宗介とクルツはマガジンを対人用に取替え、セツヤは刀の位置をしっかりと再チェック。ヤンはクルーゾーにセツヤの考えを綺麗に纏めて伝える。
セツヤ「ヤン君! 使い終わったらウチの参謀に繋げて」
ヤン「了解です!」
 軍人の基本はやはり脚力とスタミナだ。走らせれば当人の実力が概ね把握できると言うがセツヤのそれはSRTに混じってもまったく遜色のないものだった。ヤンが走りながら無線機をセツヤに投げる。それをまったくヤンの方向を見ることなくキャッチする。
セツヤ「ジャス君!?」
ジャス『はい自分です。何かありましたか?』
セツヤ「緊急事態! そっちに大物が接触してくるかもよ!」
ジャス『・・・・・・・・・大物? 人型兵器ですか?』
セツヤ「さあね。俺の感だから。・・・・・・・・・無茶してほしくはないけどもね、俺もすぐ行くけど、何かあったら死なない程度に時間稼ぎして。あと、今から俺の権限で無線封鎖解除。風伯に通達して大至急応援をよこして。機動兵器じゃなくって風伯本体で来るように。最優先」
ジャス『・・・・・・・・・了解』
 通信が切れる。再びセツヤは投げてヤンに無線機を渡す。
セツヤ「ヤン君、クルーゾーさんは何か言っていた?」
ヤン「セツヤさんの言葉には訝しげですが納得したようでした」
セツヤ「ダナンはどうするつもりかわかる?」
ヤン「いえ。自分には」
クルツ「右に同じ」
宗介「自分もです」
セツヤ「仕方がないな。客船でこの状況はさすがに予想の範疇を超えてる。・・・・・・・・・宗介君、ガーンズバックが到着するまでどのくらい?」
宗介「正確にはガーンズバックではありませんが、類似機種があと200秒前後で到着します」
セツヤ「戦力なら何でも良い。それにそれでも3分少々か。・・・・・・・・・急ぐよ!」
 3人が頷いた。


 ジャスが通信を切ってから恐らくは1分経過していない。マルス、アールにセツヤの言葉を告げて風伯への暗号を送ってからすぐだった。セツヤの感が現実のものになる。クリサリス号のすぐ後方に浮上してくる巨大な物体を彼らは肉眼で確認していた。それはトゥアハー・デ・ダナン同様の高性能潜水艦だった。そこの恐らくは降下カタパルトから複数の機動兵器が上がってくる。
マルス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・参謀」
ジャス「・・・・・・・・・艦長の感は非常によく当たって頼もしいんですが・・・・・・・・・今回に至っては恨めしいですね。もう時間稼ぎどうこうの問題じゃ・・・・・・・・・」
 その通りだった。事実、非難対象の陣代高校生徒からは悲鳴ひとつあがらない。全員が恐怖を通り越して唖然、呆然となっているのだ。軍人であるテッサやジャス出会ってもそれは例外ではない。
ジャス「それにしても・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは見たことがないですね。テスタロッサ大佐は?」
テッサ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・私もありません。・・・・・・・・・カーペンター大尉、その無線機は衛星通信ですか?」
ジャス「肯定です」
テッサ「貸して頂けます?」
ジャス「無論です。・・・・・・・・・それと大佐、大佐は生徒の中に混じっていてください。恐らくは敵の目的は大佐とチドリですので」
 テッサは聡明な女性だ。故に自分がこういう場所でどのような行動が出来るか、どれがベストかを性格に把握できる。自分がジャスたちと共にいればそれだけで彼らの生存確率が低下するだろう。それだけははっきりと理解できた。
テッサ「わかりました」
 ジャスとテッサが話をしている最中にも後方甲板に敵機動兵器が取り付く。数は2。その機動兵器にジャスは見覚えがあった。
ジャス「シュライバー製のローブロン?」
 博識な彼の博識さでもこのような現場では意味がない。極端に細い女性型のシルエットを持つ黒い機体、ローブロンの外部スピーカーが響く。
パイロット『ネージュ、パーティの時間だ。・・・・・・・・・狩れ!』
 何かの暗号なのかもしれない。しかし、ろくでもないことが起こるという予感だけはあった。ジャスもマルスもアールも全身を強張らせる。だが、そのパイロットの言葉は何の合図にもならなかった。
パイロット『・・・・・・・・・? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・奴がいない?』
 パイロットに一瞬の篭絡があった。いや、篭絡ではないかもしれない。現状を認識するのにかかった時間だ。しかし、それは彼らにとっては十分な時間だった。少し離れた場所から小さく囁く人間がいた。
セツヤ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・今だ」
 セツヤの声が発生したのとほぼ同時にローブロンのメインカメラに銃弾が突き刺さる。ここからの行動はまさに怒涛だった。通常、人型機動兵器が持つカメラは正・副・予備の概ね3つだ。しかし、その切り替えにはどうしても時間が掛かってしまう。その時間が狙い目だった。まず。クルツの弾丸がローブロンのカメラを破壊。次の行動はセツヤの膂力がフルに発生するものだった。驚くことにセツヤはおよそ15mはあろうかと言う機動兵器を脚力のみで駆け上がり始めたのだ。胸部コックピット前までやってきたセツヤはそこに張り付き強引に強制ハッチオープンレバーを引く。ここでの所要時間は恐らく5秒と掛かっていないだろう。狙われたローブロンはうろたえるばかりで恐らくはセツヤに気付いていない。カメラを切り替えたときには既にコックピットが外気に露になっていた。とてつもない手際の良さだ。ヤンはその間にももう1機のローブロンに銃を発砲して注意を逸らしている。互いが互いの役割分担を把握した見事なブリッツだった。
 セツヤがパージした胸部ハッチにぶら下がって片手でパイロットに拳銃を向けている。
 しかし、これで終わりではなかった。
セツヤ「!? ・・・・・・・・・嘘だろ!!? おわ!!」
 ヤンに注意を払っていたもう1機のローブロンがセツヤに篭絡されたパイロットに向けて機動兵器専用アサルトライフルをコックピットに向けて発砲する。咄嗟にセツヤはコックピットから飛び降りて10m弱程度の高さから甲板に落下するが両手両足を使ってどうにか着地する。
 残ったローブロンが既に蜂の巣になってしまった元僚機を海へと蹴り落とした。それを見送ることもなく今度はセツヤに向けて火器の銃口を向ける。一般概念として人は兵器にはかなわない。セツヤとクルツ、ヤンのしたことは通常では考えられないことなのだが、この場所では誰も知れに気付いてはくれないし気付く状況でもないだろう。
ジャス「か、艦長ーー!!」
 背水の陣ですらない。こんな状況では無謀すぎる。いや、セツヤ1人なら避けることもできるかもしれないが、避けたら後ろの客員を狙う。そういう意思がセツヤにはヒシヒシと伝わっていた。だが、セツヤはジャスにジャスチャーで手を振る。それはまるで問題ないとでも言いそうな様子だった。事実この状況でもセツヤの表情は晴れていたのだが。
セツヤ「バカだね。2機ならもう少し慎重に行かなきゃいけないと思っていたのに。敵さん勝手に減ってくれた。これなら余裕だろ?」
宗介『・・・・・・・・・肯定です』
 現れたのは青い機体に白のポイントカラー。忍者のように巻物を咥えたような機体だった。その機体が突然にローブロンの真横から現れる。その機体・・・・・・・・・アーバレストが敵にアームスレイブ用の大型ショットガン・ボクサーを発砲する。恐らくローブロンのパイロットは気付かなかったのかもしれない。そこからはセツヤにも完全には理解できなかった。これまでの訓練では見たこともないような巨大な威力でローブロンの上半身を持っていってしまう。残った下半身をアーバレストが海に蹴り落として勝負は終わる。
セツヤ「助かった。・・・・・・・・・ギリギリだった」
宗介『いえ、お見事です』
 勝負は確かに終わったのだが、まだ試合は続いていた。残るは巨大な潜水艦。それをセツヤは凝視する。
セツヤ「さてさて、どう出る?」
 セツヤがつぶやいていると横からポテポテとやってきたテッサが口を開く。
テッサ「・・・・・・・・・最悪な展開は私たち諸共クリサリス号を沈める事ですが・・・・・・・・・」
セツヤ「ないですね。向こう側がどれだけウィスパードを欲しているかは言うに及ばずです。あなただけなら兎も角、カナメまで海の藻屑はないでしょうね」
テッサ「同意見です。とすれば次に考えられるのは徹底抗戦。アストラルが展開中なら機動兵器と白兵戦で強引に連れ去っていくというものですが」
セツヤ「向こうさんにやる気があればですね。近くにダナンも待機しているのでしょう? 風伯にしたってそうです。向こうさんがここにとどまることはそれなりにリスクが発生するんですがねーーー」
テッサ「私だって引いては欲しいですが」
 2人の願いは一気に瓦解することになる。潜水艦の降下式カタパルトがフルに展開を開始する。その様子を見てからのセツヤの行動は早い。既にSRT要員は管轄は違えどセツヤを相応の指揮官として認めているようだった。テッサですら口を挟まないのだ。無線に向かってなのだが、セツヤは全員に聞こえるように叫ぶ。
セツヤ「ソースケ君! 徹底抗戦だ! 船に敵さんを近づけるな!! STTは乗客を船の中に入れろ!! どこでも良い!乗務員の部屋でも客室でもどこでもいい! ぎゅうぎゅうで押し込めろ!! テスタロッサ大佐もだ! ヤン君とクルツ君は殿! 乗客の命が最優先だからな!!」
 かなり数のいる乗客は移動だけでもかなり時間が掛かる。先ほどなら考えられない展開なのだが、今はアーバレストがいる。前もって情報として持っていたガーンズバックの情報とは随分と違うが嬉しい隔たりだ。ソースケ用に特化した機体なのかどうかは機械系に明るくはないセツヤには理解できないがそれを含めたその他の疑問は頭の端っこにぶん投げる。今は生き残ることが最優先だ。
 忙しなく動き回るセツヤ達だが、正直勝算は大きかった。これは何よりも予想以上にアーバレストの性能が高いという点からくるものだ。ソースケは単機にも拘らず対等以上にローブロン4機(いまだ増え続けているが)相手に船を守っている。先ほど見せた見えない障壁のような力をうまく牽制といった示威行動に使いながらうまく動いている。これだけでセツヤは宗介の力の保障になる。
セツヤ(歯痒いな。これ以上増えたらいくら機体とパイロットに優位性があっても続かない)
 空中で展開されているローブロン部隊に宗介はうまく対応してこちらに攻撃が及ばないようにしている。しかし。今6機目のローブロンが潜水艦から発進した。恐らく宗介もセツヤと似たような表情をしているだろう。もう数が多すぎる。アーバレストで潜水艦に致命傷をあたえるという方法があるにはあるがそれは非常に危険だった。これだけクリサリス号に隣接されると誘爆する可能性がある。
 セツヤは宗介に命令するべきかどうか正直迷った。もう少し待てば風伯なりダナンなりが到着するかもしれない。そうなれば大なり小なり状況は好転する。潜水艦を攻撃する命令は前述したとおりに危険すぎる。
 そんなセツヤの杞憂を察するかのようにセツヤの小型受信範囲の小さい通信機に通信が入る。
ホルテ『応答願います。応答願います。こちらディーナ3』
セツヤ「!! こちらハンニバル! ディーナ3、状況説明して!」
ホルテ『セツヤさん! ・・・・・・・・・今、自分はレーダーで確認できる場所で状況を把握しています。シルフはすでに敵潜水艦、クリサリス号共に射程範囲に入れています。攻撃はいつでも可能です』
 攻撃はいつでもできるが巻き込んでしまいますよという意味なのだろう。さすがにユメコの行動は慎重だ。
セツヤ「助かった! シルフに通達。俺の機体をセミオート、シークエンスDで射出。クリサリス号横に隣接させて。・・・・・・・・・それとクリサリス号を盾にしている潜水艦をどうにかして遠ざけさせて。その後は撃沈して良い。ディーナ3は通信終了後、空中に展開してアーバレスト・・・・・・・・・ウルズ7を援護」
ホルテ『了解!』
 そのまま、セツヤは宗介に通信を入れる。
セツヤ「宗介君、今から風伯の機体が援護にいく。敵に間違えないでくれ」
宗介『了解しました。助かります』
セツヤ「もう少し保ってくれ。何とかする」
宗介『了解』
 風伯が肉眼でも確認できたのはこの通信のすぐ後だった。さて、ここからがユメコの腕の見せ所だ。主砲、副砲、ミサイルではクリサリス号もダメージを受ける。それをどうするかだが、ユメコの考えた策は非常に簡単だった。風伯は潜水艦の側部からなんの躊躇もなく発砲した。だが、それは主砲でも副砲でもない。機関銃だった。風伯には艦載機応戦用の対空ガドリングガンが左右にかなりの数装備されている。攻撃力は高くはないのだが照準は完全に自動化されているので正確だ。風伯の左舷の機関砲が集中する。さすがにこれは敵潜水艦も長時間は耐えられないだろう。ローブロンの動きも潜水艦が風伯に向けて対空ミサイルを発射するがそれはしっかりと迎撃ミサイルを装填していたのは流石といえる。ローブロンの動きもホルテの参入と風伯の隣接でためらいが発生している。畳み掛けるならばここだった。
 そして、最後の一手が到着する。恐らく風伯が戦闘前に射出したのだろう、セツヤの機体がクリサリス号の側面にホバリングしてセツヤを待っていた。
 しかし、セツヤが怪訝そうな顔をする。
セツヤ「あれ? シークエンスDってこんなんだっけ?」
 独り言のはずなのだがしっかりと答えは返される。コックピットの中から1人の初老で小太りのツナギ姿の男性が顔を出す。顔のつくりは随分と精悍だ。ブロンズの男性なのだが。
ユゼフ「ど阿呆が!! あんたの機体にシークエンスなんてあるわけないだろうが!! そのせいで俺が乗る羽目になっただろうが艦長!!」
セツヤ「そうだっけ? でも、ありがとユゼフさん」
 セツヤがヒュッケバインMk-U・エトランゼの手に乗ってユゼフと操縦を交換する。その間にも2人はまるで久しぶりに再開したような、戦友の雰囲気で話をする。
ユゼフ「こんなピーキーな手ごたえ考えられねーよ。次ぎ生まれてくるときは人間以外のものがお勧めだ」
セツヤ「俺は人間がいいんですけどね。すいません。面倒なことさせて。できるだけ早く終わらせるんで」
ユゼフ「構わんさ。しっかりやれ。艦長」
セツヤ「はい」
 セツヤはユゼフをクリサリス号に下ろしてから宗介とホルテが戦っている箇所に飛んでいく。


セツヤ『宗介君、ホルテ君、俺も参戦する。コードネームはハンニバル』
宗介『セツヤさん!? ・・・・・・・・・了解しました』
ホルテ『残り3機と潜水艦です』
セツヤ『宗介君はアタッカーだったね?』
宗介『肯定です』
セツヤ『よし、俺がサブをやる。宗介君がアタッカーでホルテ君援護。潜水艦は風伯に任せる。向こうが何とかしてくれるだろうからね』
宗介・ホルテ『了解』
 状況が完全に好転した。ここからの動きはほぼ完璧で風伯も敵潜水艦の撃墜とエイゼタス級の敵もしっかり討つことになる。アストラルの攻防も機動兵器の参入で一転。怪我人はいても死亡者は出ていない。乗客は膝をすりむいたといういたって軽い怪我人のみ。セツヤも、テッサも相応に収穫のある作戦であることは間違いがなかった。




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