粋狂いな人々・弐式

スーパーロボット大戦・涅槃 第壱話 『風起こる』


第壱話 「風起こる」


(クヌギ大佐、至急司令室にお越しください。くり返します。クヌギ大佐、至急司令室に・・・・・・・・・)
 基地内に繰り返し同様の放送が響く。通常、基地内の放送に対しては迅速にそれに従って行動するのが当たり前なのだが呼ばれた本人は至ってのんきだった。
セツヤ「くそ・・・・・・・・・何度も何度もうるさいな。寝る暇も削るのかー、全く。貧乏でもないのに暇無しなんて冗談じゃない」
 あまり熱心そうに見えない男がこの基地においては二番目に偉い地位についている男だった。名前はセツヤ・クヌギ。階級は大佐。国籍は日本。黒髪黒目の中肉中背。至ってシンプルな男に見えた。彼に会ったことない人間がみれば彼の風体に階級のみが合っていないように思えるだろう。そういう人間だ。
 そのセツヤは上半身裸の状態でベッドから体を起こしてもう完全に冷め切っている飲み残しのコーヒーがはいったマグカップを傾ける。
セツヤ「・・・・・・・・・不味いな。ハァ」
 不平不満ばっかりだが、その口調はどこか本気ではないといった雰囲気を醸し出している。そして立ち上がったセツヤはシャツと制服を着込む。ネクタイをだらしなく適当につけてからようやく部屋を出ていった。粗野な口調にだらしない服装と態度。余談ではあるが、そこからは想像できないほどに部屋はきれいだった。


 そのセツヤ・クヌギ大佐が司令室に入ってくる。ものすごく気だるそうな雰囲気は周囲に笑いを起こさせるくらいだ。クヌギ大佐は司令室の後に座っている往年の男性に向けて敬礼をする。とても気の抜けた敬礼だった。
セツヤ「セツヤ・クヌギ参りました」
往年の男性「・・・・・・・・・どうやったらこんなに遅れるんだ? お前のような男が大佐になれるのか疑問でならんよ。世も末だ。これが貴様でなければ説教にしようか営巣送りにしようか私は悩んでいるだろうな」
セツヤ「営巣送りを希望します」
 周囲からくすくすと笑い声が聞こえる。
往年の男性「バカタレ! ・・・・・・・・・とまぁ、お前との軽口のぶつけ合いも当分出来なくなると思うと寂しいと感じてしまうから不思議だな」
セツヤ「ご冗談を。イブン・サイード少将の言葉とは思えませんよ。本当はそんなこと思ってもないくせに」
サイード「長年軍人をしてきたが一兵卒、士官を問わずにお前のような破天荒者を儂は知らん。・・・・・・・・・こんな男に実力が備わっておるのだから儂の一生の中でも最大級の疑問だ。少しは西太平洋のテスタロッサ大佐を見習え! 爪の垢を煎じんでもいい。そのまま飲んでしまえ!」
 サイードの小言にもセツヤは半笑いを浮かべたままだ。その話を楽しんでいるようにも見える。
クヌギ「覚えておきます。・・・・・・・・・少将の口ぶりから察するに・・・・・・・・・時期ということですか?」
サイード「うむ。上層部の決定だ。基地内の点検、装備の拡充は予定通りだからな。風伯の処女航海も初戦闘もガルズオルム相手に目の前のバカが試した。・・・・・・・・・セツヤ・クヌギ大佐!」
セツヤ「はっ!」
 だらしなくはない。目に力を入れて体にもしっかりと力を入れたセツヤがサイードの前で直立不動になる。
サイード「ミスリル宇宙部隊『ティル・ナ・ノーグ』はこれより予定任務を開始する。それに伴い、セツヤ・クヌギ大佐の宇宙基地『ティル・ナ・ノーグ』の戦闘司令官の任をただいまを持って解任。軽戦艦風伯の艦長に任命する。同時に戦艦風伯を伴っての巡回任務を命ずる。ミスリルは軍事による平和維持活動を主とする対テロ極秘傭兵組織である。その理念を忘れることなく任務に当たれ!」
セツヤ「了解いたしました! 最善を尽くします!」
 荘厳な雰囲気を残しつつも2人はなぜか笑っていたのだが。


 それから半日が経過してからクヌギがブリッジへやってくる。ブリッジに既に入っていたメンバーが一斉に立ち上がってセツヤに敬礼をする。
セツヤ「やーめーなーさい! 見知った顔に敬礼されるとどう答えて良いかわからないでしょうが! 全員元は会社員なんだからそんな窮屈俺はさせないからね。ジャス君はともかくユメコ君は絶対に確信犯だね!?」
 セツヤに前に2人の人物がいた。一人はセツヤとは違い初々しさはないが若々しい印象が糸を引く白人男性だ。ジャス・カーペンター。戦艦風伯の参謀を担う。もう一人が若い女性。日本人なのだろうが少しばかり髪の色に特徴がある。名前をユメコ・タカハシ。戦艦風伯の副長になる。
ユメコ「当然でしょう? 私はセツヤさんをいじるのに人生をかけてるんです」
セツヤ「くだらねー。もっと有意義な人生を提案するね」
ジャス「自分もくだらないと思います」
セツヤ「だよねぇ」
ジャス「いいえ、艦長と副長のそのくだらない会話がです。出航準備は既に完了しています。予定出航時間もまもなくです。艦長、もっと余裕を持って行動してください」
セツヤ「無理だね。俺は朝余裕を持つくらいなら、寝てたいと思う人間だから」
ジャス「社会人失格ですね」
ユメコ「いんや、人間失格だよセツヤさんは」
セツヤ「この・・・・・・・・・腹黒部下共め」
ジャス「くだらない話はいつでもできます。艦長、発信の号令を。物資の搬入、エンジンの点検は既に終了しています。艦首砲はまだ点検が終わっていませんが、通常兵装は使用に問題ありません」
セツヤ「ん、了解。ジャス君、艦長って呼び方止めようよ」
ジャス「止めません。自分は確かに元会社員ですが、その前は軍人です。これで普通なんです」
セツヤ「強情っ張り。ふーー、まぁいいか。よし! それじゃあ、出航しようかね。マリアさん! サイード司令に発信準備が整ったと伝えて。エーデ君は艦内放送、総員発進準備の旨を伝えて。ジャス君、電源回路の異常ないかチェック。動力伝達開始して。動力を第一に余剰分を通常兵装にね。ユメコ君は通常兵装の電力伝達。バランスは任せる。ユージーン君、障害物の確認。データをジュリア君に」
 セツヤの座る艦長席前のコンソールからデータが上がってくる。正直セツヤは艦長ができるほどこういったデータに精通しているわけではないのだがそれを一見してから。
セツヤ「よし! 最終点検も問題なし!! いくぞ・・・・・・・・・風伯発進!」
クルー全員「「「「「「「了解!」」」」」」」


 旅立つ船を達観している者がいた。ミスリル上層部に名を連ねる人、イブン・サイード少将だった。司令室からモニター越しに風伯の様子を見ている。その様子は楽しそうでもありどこか寂しそうにも見えた。彼の秘書が気を利かせてコーヒーを持ってくる。
秘書「閣下、よろしければどうぞ」
サイード「もらおうか」
秘書「閣下、1つお聞きしても宜しいでしょうか?」
サイード「クヌギの適性についてか?」
 サイードが間髪も入れず、大した素振りも見せることなく答えられてしまったことで秘書は軽く眉を上げる。
秘書「はい、恐縮です。私はヘムルートから出向してきたクヌギ大佐に戦艦の指揮などは務められないように思えてなりません。優秀なスタッフが揃っているので大きなミスをしていないだけのように思えます」
サイード「奴の周りに優秀なスタッフがいるというのは正しいだろう。それに、確かに奴にテスタロッサ大佐やマデューカス中佐のような戦術眼やインテリジェンスはないかもしれん。だが、奴には相応の実力が備わっておるからな」
秘書「と言いますと?」
サイード「奴は天才だからじゃ」
秘書「天才ですか? あの、テスタロッサ大佐のような?」
サイード「はっはっはっ。確かにあれも天才じゃな。だが、クヌギはもっと違う。表現が難しいが・・・・・・・・・卓越した者という意味では等しいかもしれんな。少尉、儂は奴の実力と理念に一分の疑念も抱いておらんよ。奴はうまくやる。まぁ、年寄りの戯れ言じゃがな」
秘書「いえ、失礼しました」
サイード「構わん。奴は人間的には正しくとも軍人としては許容範囲を超えておる。少尉の疑念は最もじゃよ。いや、違うかな。軍人が曲折しておるのかもしれんな。こと上の立場に就く人間とはああいう者でないといけないのかもしれんよ」


  人の欲は尽きることがあるのか
  それは人が存続する限り続くのだろう
  しかし、それでも人は歩みを止めることはない
  絶対にない

  例え進む先が絶望、暗黒、無だとしても
  抗い、戦い、そして終わるのだろう
  ・・・・・・・・・いや、終わらないかもしれない
  人を祝する存在に人が気づきさえすれば・・・・・・・・・


  スーパーロボット大戦・涅槃




 『ティル・ナ・ノーグ』をかなり離れて風伯は基地からの指令が下るまでは気ままな宇宙旅行を満喫していた。地球周辺の空域とはいえ宇宙旅行はかなり贅沢なはずなのだが。
 セツヤ・クヌギその人はあまりすることがなかった。そして彼におそってくるのは睡魔だけだったりする。このセツヤ・クヌギと言う人物、事務処理能力に関しては反論の余地なく無能なのだ。本当なら、どれほど実力にそぐわない大佐であってもその地位に就くまでにそれなりの事務処理能力は必然的に身に付く。だが、セツヤに関してはそれはなかった。なぜならば、彼は今この時点においても己の役職には不満を感じていたからだ。大佐などは分不相応、祭り上げられたために仕方なくその責務を全うしているに過ぎない。
セツヤ「・・・・・・・・・眠い」
ジャス「艦長、ブリッジの人間はもうあきらめていますから良いですけども、他のクルーを幻滅させるのだけは止めてください。特にブレイキー曹長にはです」
セツヤ「することなければだれだって眠くなるでしょうよ。シャキッとして欲しいなら何か仕事をください」
 そこにユメコが笑いながら口を挟む。
ユメコ「無理でーす。今はオートモードで航行中ですから。私たちだって周囲の索敵以外することないですもん。戦闘以外は無能なセツヤさんにしてもらうことないです。・・・・・・・・・どうしてもって言うなら航行記録でもつけてみます?」
セツヤ「何にもないのに記録残すっておかしいよ」
ジャス「その姿勢が変わっています。と言うよりもおかしいですね。我々はもう慣れたから良いですが、艦長がこの先トゥアハー・デ・ダナンのテスタロッサ大佐やマデューカス中佐と会うことを考えると自分は今から胃が痛みます」
ユメコ「そうかなぁ・・・・・・・・・。私は楽しみだけども。マリアさんはどう思う?」
 第1オペレーター兼生活班班長のマリアンナ・リナルディに話が及ぶ。正直、この風伯という船の中で一番の美人は実はこのマリアンナ・リナルディその人だったりする。ブロンドにメリハリのきいたプロポーション。未だに可愛らしさが滲み出るユメコとは別なタイプの美人だった。更に書き加えるならこの人は実はユメコやジャスと同様の大尉相当官だったりする。ただ、戦術に秀でているわけでも、元軍人というわけでもないので副長クラスではないのだが、ブリッジの中でユメコ、ジャス同様にクヌギに物申せる貴重な人材であることに変わりはない。
マリア「私はデ・ダナンの方々とならうまくやっていけると思いますよ。セツヤさんはサイード司令とも仲違いすることはありませんでしたから」
ユメコ「それはつまらない!!」
ジャス「副長!」
セツヤ「あはははは」
 4人が和気藹々と話をしている中、真面目に仕事をしているメンバーの中の一人、ユメコと同じくらいぎりぎり未成年である第2オペレーターのエーディト・グラスの表情が曇る。その表情にセツヤがいち早く気がつく。
セツヤ「エーデ君! どうかした?」
エーデ「本部からの入電です。暗号文章なので今翻訳中です」
セツヤ「ようやく来たかい。これで暇せずに済みそうだね」
ジャス「不謹慎ですよ」
セツヤ「いいんだよ」
 それからしばらく全員がエーデが司令文章を訳すのを待っていた。そして、しばらくしてようやくエーデが本文を持ってくる。
エーデ「お待たせしました」
セツヤ「全然待ってないよー。ありがと。・・・・・・・・・」
 セツヤが押し黙って文章を読み始める。セツヤが顔を起こす。そしてその指令書を隣にいユメコに渡す。ユメコが読み終わる前にセツヤが説明を始める。
セツヤ「護衛任務だって。場所は月から地球に向かう輸送船の護衛。よくやるよ。この時期、ガルズオルムが髑髏を巻いている月からの最後の物資輸送船だそうだ。その中にはミスリルの物資も含まれているそうで、俺たちに話が回ってきたってことだろうな」
 ジャスがユメコの背中越しに指令書を読んでから眉間にしわを寄せる。
ジャス「ですが艦長、それだけでは」
セツヤ「ああ。どうにもこの護衛はブラックレインボーとかいう組織と共同作戦という形をとるらしい。ジャス君、ユメコ君、俺はよく知らないけどブラックレインボーって組織知ってる?」
 ジャスが首を縦に振る。
ジャス「ゼントラーディが大半を占める反政府組織です。政府にはテロリスト組織として認定されていますが・・・・・・・・・」
セツヤ「? 歯切れが悪いね。何かあるの?」
 ユメコとジャス、それとマリアが顔を合わせてから思い立って要にしゃべり出す。
ジャス「自分にはブラックレインボーの行動の発端は政府の政策に問題があるように思えてなりません。人員の強制的な徴収、自治権の撤廃。それに対して立ち上がったブラックレインボーやビンディランスの行動は自分には然るべきに思えてなりません」
ユメコ「それにね、このブラックレインボーのリーダーのティモシー・ダルダントンって人なんですけど、この人元々はマクロス3の護衛部隊の隊長だった人なんです」
セツヤ「マクロス3? 元軍人さんなの? しかも護衛部隊隊長って結構偉い人じゃない」
ユメコ「はい。人格者だと聞いています。私はこの人が政府が発表しているようなオールキル・ウィザードなんて呼ばれていい人には思えないんです」
セツヤ「オールキル・ウィザード。・・・・・・・・・皆殺しの魔法使いか」
ジャス「どうしますか艦長? 作戦部に異議を申し出てみますか?」
セツヤ「いや、間に合わないでしょうよ。いざとなったら独自に動こう。ジャス君、作戦部にブラックレインボーとティモシー・ダルダントンについてのできる限りの情報をよこすように伝えて。できるだけ客観的なやつ」
ジャス「了解しました」
セツヤ「ユメコ君は輸送ルートと風伯の防衛ルート。ブラックレインボーとの連携を考えた上での予想ルートをできる限り考えて上にあげて」
ユメコ「はい」
セツヤ「よし! ジュリア君! 方位Y22! 第2戦速で予定ポイントへ向かう。エーデ君、任務了解とティル・ナ・ノーグに伝えて。ユージーン君は到達時間の計算。さぁ! いよいよ始まるよ!! 気合いを入れろよ!」


 ユージーンは観測官ではあるがかなり屈強で大がらな白人男性だった。そのユージーンが声を上げる。
ユージーン「予定ポイントTR522到達を確認。これより作戦決行ポイントへの移動データを送ります」
ジュリア「受け取りました。タイムテーブル通りに移動を開始します」
セツヤ「オーケイ。概ね予定通りだね。少し速いくらいだ。優秀優秀。マリアさん、STT機動兵器小隊に準警戒態勢出して。エーデ君、ユゼフさんに部隊の機体の最終チェックと念のため俺の機体も用意するように伝えて」
マリア・エーデ「「了解」」
セツヤ「準備も粗方終了したね。予定まであと30分少々。もういいだろうな。マリアさん! 司令部が伝えてきた・・・・・・・・・ブラックレインボーの指定してきた周波数に繋げてくれる」
マリア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・繋げました。メインモニターに映します」
 暫くして風伯ブリッジのメインモニターに一人の男が映る。セツヤがブリッジでは見せないような目を細めて見透かすような視線をその男に送る。
セツヤ「お初にお目にかかります。ブラックレインボーのティモシー・ダルダントンとお見受けします」
ティモシー『確かに、俺がティモシー・ダルダントンだ』
セツヤ「俺はミスリル宇宙戦隊『ティル・ナ・ノーグ』所属艦、風伯艦長セツヤ・クヌギです。」
ティモシー『聞いている。協力を感謝する』
セツヤ「まだ協力するかどうかは決めてはいません」
 と、セツヤがビックリ発言をした。一番驚いたのはその隣でセツヤの言葉を逐一チェックする立場にあるジャスなのだが。
ジャス「か、艦長! 何をおっしゃっているんです!!」
 驚きを隠せないジャスだったがセツヤはそれを無視してティモシーの表情を確認していた。そしてティモシーが切り出す。
ティモシー『それはどういう意味だ、クヌギ艦長? 上から命令が下りているはずだが?』
セツヤ「確かに。だが、この戦いに俺たちが戦う価値を見いだせなければ命令違反もします。忌憚なく言えば、あなたは黒い噂が絶えない。ここでそれを蒸し返すつもりはない。確かめることもしない。だが、最低限言葉を紡いでもらいましょうか。あなたが何のために戦って何を得ようとしているのか。それが俺たちの行動を決めます」
ティモシー『セツヤ・クヌギ・・・・・・・・・艦長か。・・・・・・・・・貴殿のような胆力のある人物が無名であるとは思わないのだがな。・・・・・・・・・確かに貴様の言うとおりだ。紡ぐことにしようか。俺は政府から守りたいものがある。それは人であり尊厳だ。よってブラックレインボーは無為な武力行動は行わない。それはブラックレインボーの代表として制約しよう』
セツヤ「・・・・・・・・・失礼な発言許していただきたい。充分な回答と言えます。予定通り、我々風伯は輸送船団の護衛任務をブラックレインボーとともに行います」
ティモシー『そうか。・・・・・・・・・感謝する』
セツヤ「いいえ。こちらの護衛プランの転送します。細かな詰めは担当者に任せます。それでよろしいか?」
ティモシー『それで問題ない。では、よろしく頼む。クヌギ艦長』
セツヤ「こちらこそ。ティモシー代表」
 ここで通信が切れる。その途端、ジャスがセツヤに詰め寄る。
ジャス「勘弁してください。ああいうのは」
セツヤ「最低限必要だよ。部下の背中を預けれるかどうか確認しなければ後悔する。けどさ、ユメコ君、かなりまともな人じゃない。誰だよオールキル・ウィザードなんて名前つけたの」
ユメコ「知りませんよ。あ、こちらの護衛プランの担当私でいいですか?」
セツヤ「君かジャス君しかいないだろ。いいよね? ジャス君」
ジャス「はい。元々副長の方が戦術眼ありますから」
セツヤ「謙遜だね」
 3人の話をしているとマリアが3人に伝える。
マリア「艦長、副長、参謀、護衛船団からの通信です。護衛感謝すると。タイムテーブル修正お願いします。13分繰り上げです」
セツヤ「了解。お茶を飲む時間がなくなった。俺はパイロット室で待機する。今回の操艦はジャス君に任せる。ユメコ君は戦術を担当して」
ユメコ「セツヤさんにしては慎重ですね」
セツヤ「護衛任務はあら探しだからね。どうしたって予定通りにはいかないさ。STT部隊の配置も俺の配置先も今回は君に任せる。アクシデントがあれば各個判断で」
ユメコ・ジャス「「了解です」」


 風伯には機動兵器が存在する。その操縦専用の部隊が少数だが存在する。STT(特別技能班、Special technical Team)要員であるマルス、アール、ホルテの3人がパイロット待機室に入ってきたセツヤを迎える。
 スラブ系の明るい青年であるアルテュール・シャックがセツヤに席を譲って立ち上がる。
セツヤ「別に俺に席譲らなくてもいいよ」
アール「いいんですよ。俺セツヤさんは尊敬してるんですから」
セツヤ「アール君の方が年上じゃん」
マルス「ですが階級は遙か上です。このくらいは言うこと聞いてください」
 部隊長の白人男性のマルシアール・ローチスが口を挟む。
セツヤ「はいはい」
ホルテ「それにしても、艦長が来るってことはこの任務厄介なんでしょうか? 事前の説明では私たちが出撃するかどうかも怪しいと思っていたんですけど」
 これはSTT要員唯一の女性であるホルテンス・ブレイキーだ。
セツヤ「嫌な予感はあるね。どうにもきな臭い。まぁ、いつだってあるけどもね」
マルス「それよりも、だいじょうぶですか? あのティモシー・ダルダントンって男。あまりいい噂は聞かない奴ですから。背中からなんて笑えませんからね」
セツヤ「その心配はないね」
マルス「と、いいますと?」
セツヤ「俺話をしたけどさ、まともだったよ」
アール「でも、ちょっと話しただけじゃわからないでしょう?」
セツヤ「うん。そう思ったからまじめに答えてくれなければ帰っちゃうぞーって脅したよ」
 この言葉に3人がシンと押し黙る。
アール「嘘ですよね?」
セツヤ「君らの命がかかってるんだよ? そんな下らない嘘つかないよ」
マルス・ホルテ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 パイロットとの会話の最中に待機室のモニターにユメコが映る。
ユメコ『セツヤさん、緊急事態です』
セツヤ「何?」
ユメコ『この映像みてください』
 ユメコの映像が戦闘機の映像に変わる。しかし、それを見ただけではセツヤは何にも理解できないのだが。
セツヤ「ごめんユメコ君、わからない。何が言いたいの?」
ユメコ『第727独立戦隊VF-Xレイヴンズです』
セツヤ「?? ホルテ君知ってる?」
 目を見開いているホルテが口をパクパクさせてから言葉を述べる。
ホルテ「政府お抱えの対テロ特務部隊です。世界中のバルキリー乗りのエース級が集まる部隊で、補給物資の輸送船団に出てくるレベルの部隊じゃない!」
 そのホルテの様子でセツヤは悪い予感が当たってしまったことを感じてしまう。
セツヤ「ユメコ君、敵さん何機?」
ユメコ『確認できるのは一個中隊12機ですが、レイヴンズに該当するのは2機だと思われます』
セツヤ「本当にエースが乗ってるんだな。・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし、ユメコ君プランの変更。俺が殿をするよ。レイブンズを抑える」
ユメコ『他のバルキリーはSTTと風伯でってことですか?』
セツヤ「うん。なんとかなるでしょ?」
ユメコ『なりますけれども、大丈夫ですか? セツヤさん一人狙われたら』
セツヤ「そこは問題ない。彼らにもプライドがあるからね。俺で確実にレイブンズ1人押さえられる。うまくいけば2人だ」
マルス「ですが、艦長!」
セツヤ「なら、レイブンズとやりあうかい? 俺に任せなよ」
マルス「了解しました」
セツヤ「よし! 出撃するぞ!」


 セツヤの機体は特別チューンが施された機体、マオ社のヒュッケバインマークU・エトランゼだ。基本的に風伯に回されている機体はマオ社のエルシュナイデなのだ。実はこっちの機体の方が真新しいのだが、セツヤはエトランゼを愛機にしているのだ。
セツヤ「こちらハンニバル、出撃用意完了した。シークエンス2で出撃する」
エーデ『了解しました。カタパルト展開します。それと、出撃前にブラックレインボーのティモシー代表が先行して出撃されました。おそらくセツヤさんと同じ目論見だと思います』
セツヤ「・・・・・・・・・そう。2つ名は伊達じゃないってことかな? よし、エトランゼ出撃するよ!」
エーデ『どうぞ!』
 セツヤが出撃してすぐ、通信が入る。慣れない手付きでセツヤはコンソールをいじってその通信を受信する。相手は言わずと知れたティモシーだった。
ティモシー『やはりクヌギ艦長だったか。貴殿自ら出てくるとは』
 セツヤのエトランゼの真横にフェイオスバルキリーが隣につく。セツヤはフェイオスバルキリーを一見してから口を開いた。
セツヤ「俺はこっちが性に合っているんですよ。操艦に秀でたものがいますから。しかし、目論見は同じようだ。レイブンズが2機、片方は任せてもいいですか?」
ティモシー『無論だ。レイブンズを抑えられればあとは部下達がどうとでもする』
セツヤ「同意見です。1つお聞きしてもいいか?」
ティモシー『構わんが?』
セツヤ「貴方は噂と違い聡明な方のようだ。貴方にはなぜあのような悪い噂が付きまとっている?」
ティモシー『貴殿のような相手ばかりではないということだろうか。敵に礼を尽くすという時代ではない。つまりはそういうことだ』
セツヤ「政府の中傷だと?」
ティモシー『それは俺の口からは言いかねる』
セツヤ「結構。それで充分です。ん? 敵さんいらしたみたいですね」
ティモシー『ああ。貴殿と話せて良かった』
セツヤ「それならまたどんな機会でもいい。話をしましょう。そのためには死なないでください」
ティモシー『お互いな』
セツヤ「はい。では」
 セツヤのエトランゼとティモシーのフェイオスバルキリーが散開した。左右からの挟撃で出鼻をくじくことが目的なのだろう。ほぼ初対面でこれほど呼吸が合うのは流石と言えるだろう。
 これ程呼吸のあった2人の攻撃のタイミングもほぼ一致していた。既に警戒体勢を整えている十数機のバルキリー部隊にエトランゼが左腕内蔵5連チェーンガン、フェイオスバルキリーがガンポットを斉射する。
 バルキリー部隊が独自とも言える機動性を生かして一斉に散開する。ほとんどがVF-11サンダーボルトなのだが、2機だけVF-19エクスカリバーが含まれていた。
クロックス『キャットコール、ドロシー、所属不明の機体が2機接近してきています』
エイジス『こちらドロシー2、敵機がおいでだ!』
ギリアム『こっちも敵さんが迫ってきた。どうやら狙いは俺たちのようだ。いいか卵野郎! 他の連中に撃墜は任せて俺たちは奴さんの相手をする。お前の相手はフェイオスバルキリー、間違いない。ティモシーだ』
エイジス『これが、オールキル・ウィザード・・・・・・・・・皆殺しの魔法使い・・・・・・・・・』
ギリアム『怖いか? チェリー?』
エイジス『いえ、そんなことはありません』
ギリアム『はっ! 無理をするな。だが、怖いと思ったならまだ見所がある。奴は間違いなく強敵だ』
エイジス『はい』
ギリアム『こっちは見たことのない機体だがな。先にこいつ等の排除だ。いいな!』
 余裕のない戦いと周囲は認識しているだろう。しかしながら、このレイブンズの2人は挟撃の中でこの会話を行っていた。この余裕こそがエース級たる所以であるのだが。
 エトランゼがギリアムのエクスカリバーに向けて攻撃を繰り出す。それも、すでに取り囲んでいるサンダーボルトのガンポッドによる攻撃を上手く避けながらだ。これこそ達人芸といえるのだが。一方ティモシーも囲まれてもまったく動じる事なしに的確な回避行動と攻撃とを繰り返している。
セツヤ「雑魚ではないけどね。それでも、君らには構っていられないんだ! 用があるのは青いバルキリーだよ!!」
 エトランゼがサンダーボルトの放ったミサイルをチェーンガンで撃ち落してからそのままチェーンガンでサンダーボルトのウイングを破壊した。しかも殺しはしていない。これはどう謙遜しても見事な手並みといえた。これをモニター越しに確認したギリアムは奥歯を無意識に噛締めた。
ギリアム『くそ、ティモシーだけでも面倒だってのにあの白い機体はなんだ? マオ社のヒュッケの亜種に見えるが・・・・・・・・・登録データなしか・・・・・・・・・』
 レバーを握りなおしてからギリアムは手と目に力を入れなおす。彼自身、セツヤを相手にすることを決めたようだった。
ギリアム『しかし、不殺を貫くというのか? どれほど腕があっても、信念があってもそれは傲慢以外の何物でもないぞ』
 ギリアムはセツヤを標的にすることを決めたようだった。必然ではあるがエイジスはティモシーを相手にすることになりそうだ。戦いに挨拶は必要ない。エクスカリバーが他を寄付けないほどの機動力を発揮させて瞬時にエトランゼの後方に回る。そして、そこからミサイルを十数発、一気に発射した。この攻撃は完全にセオリーではあるのだが、セツヤも易々とダメージを受けたりはしない。エトランゼのチェーンガンが右腕にないのは右腕では別の火器を装備するためだった。左肩に装備された長い棒状のものを取り出し、右腕で持ったエトランゼはそれと左腕を向かってくるミサイル郡に向ける。その瞬間だった。ミサイルの大半がエトランゼに着弾する前に誘爆。残りの数発はエトランゼの装備した棒状の・・・・・・・・・ビームソードによって断ち切られていた。
ギリアム『あれを全部微動だにせずにやり過ごしたってのか! ・・・・・・・・・化け物が!』
セツヤ『! いい気概だねぇ。中々いないよ。こういう雰囲気出せる人。惜しいな』
 セツヤは戦闘そっち抜けでコンソールをいじり始めた。一方でギリアムは冷や汗を背中にかき始めていた。


 セツヤとギリアムが戦闘を開始した様子を風伯のブリッジは衛星を通してモニターに映し出されていた。
ユメコ「始まったみたいだね」
ジャス「そろそろですね」
ユメコ「うん」
ジャス「よし! リナルディ通信士、ブラックレインボーの機動部隊に並びに輸送船団に通達。これより風伯はバルキリー部隊の壁になります。ブラックレインボー機動編隊を一部残して所定のラインを防衛ラインとします。その旨を全部隊、レーダーにマーキングするように指示を出してください」
マリア「了解しました」
ユメコ「エーデちゃーん、マルスさん達に発信許可出していいよー。参謀、マルスさん達が戦いやすいように先制攻撃はするんでしょ?」
ジャス「そのつもりです」
ユメコ「風伯の先制攻撃を避けたバルキリーを各個撃破するようにって言っておいて。先制攻撃でどれだけ減らせるかが鍵だからねー。参謀の腕の見せ所♪」
 にっこりと笑うユメコにジャスは釣られるかのように口の端をあげる。
ジャス「いい挑発ですね」
ユメコ「少し本気で言ってるんだけどね。今はジョーカーという名のセツヤさんが出払っているからあまり危険を冒したくないっていうのが本音」
ジャス「成程。だがしかし、ローチス部隊にはこんなところで苦戦してほしくはないですね。これから先の戦闘を考えればこのくらいは余裕でこなしてほしいです」
 ジャスの本音に意外な所から返事が返ってくる。
マルス『聞こえていますよ。参謀』
 通信機越しにマルスの返答が帰ってきた。どうやらエーデがマルスと話している最中にジャスの言葉が入ってしまったようだった。
 これがジャス・カーペンターという男のやり方だった。しっかりと部下の心情を察してフォローするだけでなく、嫌味でないやり方で鼓舞をする。
 ジャスはエーデが通信をしているのを見越した上でマルスを挑発したのだ。
ジャス「聞こえてしまいましたか。ですが関係はありません。ローチス中尉、自分の期待に答えてくれますよね?」
マルス『当然だ参謀。自分も含めて部下を無傷で返すことを約束しよう』
ジャス「結構です。大いに期待させてもらいますよ」
マルス『了解だ』
 そして通信が切れる。それを終えてからユメコが腰に手を当ててジャスを見る。
ユメコ「相も変わらず人を使うのが上手いよねーー」
ジャス「艦長ほどじゃありませんが。彼は天然でこれをやってのけるんです。いつになれば自分にそれができるのやら」
ユメコ「このやり方でいいんじゃない? 参謀がセツヤさんになることはないって」
ジャス「それ、副長の言葉じゃないでしょ?」
ユメコ「そのとおり♪ 私の愛するセツヤさんのお言葉でーす」
ジャス「だと思いました。戦争してる気が失せてきますよ」
 口にこそ出さなかったが、このときジャスはセツヤは偉大だと再認識してしまった。彼に影響を受けた自分。セツヤに心を補強されたユメコ。今のジャスの精神状態が語っているようだった。この状態では緊張などしない。頭が冴えきっている。自分の指示を的確に再現できる部下がいる。例えミスしたとしても頭に血が上ることはないだろう。
淡々と行動できる。それを自分で断定できるのだ。
 ジャスは少しだけクスッと笑ってから思い切り息を吸う。
ジャス「戦闘を開始する! 左舷、右舷ミサイル発射管に対空誘導ミサイルを装填! 垂直ミサイル発射管に対空拡散ミサイルを装填! 全主砲、並びに副砲を展開! 左7度! 仰角19度! 目標! 敵バルキリー部隊!」
 ジャスの的確な指示の中、敵が押し迫ってくる距離をユージーンはしっかりと認識していた。
ユージーン「敵部隊、風伯の最大射程距離まであと200! ・・・・・・・・・150! ・・・・・・・・・100! ・・・・・・・・・50・・・・・・30・・・20・・・10・・・通過!!」
ジャス「全武装一斉発射!!」
 風伯の武装が火を噴いた。風伯の主砲のエネルギー弾がほぼ直線でバルキリー部隊に迫る。その後ろをミサイル郡が追従する。そして、主砲が敵部隊に到達した。主砲を回避して姿勢を崩したバルキリーにミサイル郡が牙をむく。それなりに経験を積んだパイロットならば回避する術を持っているかもしれない。持っていてもその回避行動を実行できるかどうかは別問題なのだが。宇宙空間に煌いた閃光が徐々に収まっていく。
ジャス「観測官! 残存機数を速やかに」
ユージーン「・・・・・・・・・磁気嵐通過。・・・・・・・・・敵機確認! 5機残存ッ!」
ジャス「リナルディ通信士! 至急STT小隊に通達! 敵位置を把握させろ!」
マリア「了解」
ジャス「主砲のエネルギー供給カット! シールドジャネレータにエネルギー供給開始! 迎撃システムシークエンスAにて起動!」
エーデ「参謀! 副長! マルス小隊が敵バルキリー部隊との戦闘を開始しました」
ジャス「わかった」
ユメコ「お膳立てはしたんだからね。怪我して帰ってきたら後で虐めるからね」


 エイジスとティモシーとの戦闘はバルキリー同士の特性を双方上手く利用しての完全なドックファイトになっていた。エイジスのエクスカリバーのミサイル、ガンポッドの双方の攻撃をティモシーは完全に見切りながらも自身の攻撃でも決定的な決め手を欠いていた。しかし、風伯の攻撃計画をしっかりと聞かされていたティモシーはそれなりの余裕があったことが幸いしたのだろう。こんな状況でも彼の判断力が鈍っているわけではなかった。
ティモシー『悪いが貴様らを行かせる訳にはいかないのでな。ここで俺と時間をつぶしてもらうぞ』
エイジス『くっ、ここままでは・・・・・・・・・』
 こういった様子で戦っていたエイジスとティモシーと比べてセツヤ、ギリアムとの戦いはもう少しクレバーと言えた。
 セツヤがギリアムに向けて通信を入れる。
セツヤ『戦闘中に失礼。・・・・・・・・・聞こえていませんか? レイブンズの方』
ギリアム『戦闘中に挨拶とは非常識な奴だ』
セツヤ『褒め言葉として受け取りましょうか』
ギリアム『受け答えをしたんだ。少しくらい答えてもらっても罰は当たらないだろう。貴様、何者だ? なぜブラックレインボーに加担する?』
セツヤ『それは構いません。構いませんが・・・・・・・・・・・・・・・・・・、名前は構いませんよ。俺の名前はセツヤ・クヌギです。所属と階級は当然ですが言えませんがね。問題は次の質問です。どういう意味です? 『なぜブラックレインボーに加担するのか』と言うのは? 当然でしょう?』
ギリアム『!!』
セツヤ『やはり内部の人間でも見る人は見てますね。・・・・・・・・・その沈黙が答えですよ』
 セツヤの言葉の意味をしっかりとギリアムは理解していた。軍内部でもごくごく僅かしか気づいていないこの違和感に外部の人間が気づいてブラックレインボーに加担している。それは流れ的には当然でもその流れは山頂付近から流れ出る雨水のように貴重なものなのだ。その貴重さは直接的に目の前にいるパイロット・・・・・・・・・セツヤ・クヌギの実力に直結する。
ギリアム『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
セツヤ『だんまりは宜しくない。が、仕方ないのかな?』
 セツヤとギリアムは戦いながらのこの会話だ。すでに双方とも便宜上の戦いになっている。数分の後、マリアからの通信が入る。
マリア『こちらシルフ、ハンニバル応答されたし』
セツヤ『こちらハンニバル』
マリア『敵バルキリー部隊、全機戦闘不能ち輸送船団の迎撃範囲からの撤退を並びに確認しました。任務完了です』
セツヤ『了解。ティモシー代表にも伝えてもらえる?』
マリア『エーデが伝えています』
セツヤ『わかった。向こうさんもこれ以上は戦う意味がないからね。俺はやり過ごすからね』
マリア『了解です』
セツヤ『じゃあ、あとで』
 通信を終えてからセツヤは再びギリアムに通信を入れる。
セツヤ『恐縮ですが、そちらの任務は失敗です。輸送機はすでに大気圏に入っているころでしょう。あなた方レイブンズ以外の皆さんはやられたみたいですよ? 撤退してくれませんかねぇ?』
ギリアム『・・・・・・・・・余裕だな』
セツヤ『あなたが気に入っただけです。物のわかる人を殺したくはありませんからねぇ。・・・・・・・・・レーダーに反応はまだありますね。相方はまだ健在みたいですよ?』
ギリアム『それはただの侮辱だぞ?』
セツヤ『それでも死ぬよりはいいでしょ? 不毛に決着つけようとか言いませんよね?』
ギリアム『・・・・・・・・・・・・・・・・・・決着はつけるぞ』
セツヤ『御随に』
 ギリアムのエクスカリバーが退散していく。それを見ながらセツヤは一言漏らす。
セツヤ「あなたと決着をつけることはないと思うんますけどねぇ」
 セツヤは小さく独り言を漏らしてからレーダーのレンジをコンソールで大きく表示させて、ティモシーが無事なのも確認した。
セツヤ『こちらハンニバル。応答されたし』
ティモシー『レイブンズの隊長と遣り合って無事だったか。さすがだなクヌギ艦長』
セツヤ『代表こそ。無事で何より。ミッションも無事達成したみたいですし、帰還しましょうか』
ティモシー『了解だ』
 これが風伯とセツヤ・クヌギの任務上では初の戦闘となる。これが戦乱の狼煙となるのだが、それを認識していたのはごくごく少数の人間だったのだが。




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