そして騒動が始まった

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1.学校に来たある男


 彼女の予告どおり、その男はやってきた。教頭が対応しているその場所に学年主任と一緒に向かう。メールには「気を付けて」とあったなあ。何に気を付ければいいのかよく分からぬまま、応接室に入り初めてその男の顔を見た。新品のように見える作業服を着たその男は、日本語の得意でない若い男と一緒だった。(親戚らしいことを言っていたが、この際はどうでも良いこと、少なくとも日本の方じゃありません)  何を言い出すかと思えば、交通事故の話。ある日交通事故を起こした人がいて、「すみませんお金は払います」というくせにちっとも払わない。よくよく調べれば教員だったことが分かってしっかりとふんだくってやったと言う話をひとしきりしたあと、「世の中にはこういったとんでもない教員もいればあなたのような立派な先生もいる」と、意味不明な会話。ホメ殺しの一種なのだろうか。そして構えているとおいでなすった、『「○○○○」という生徒と△△教諭(私のことです)が男女の仲であることをつかんだ。真偽のほどを確かめに来た。』という。そんなこと、例え真実でも嘘でも赤の他人にペラペラ喋るわけないだろうに、このオッさん何言うてんの?(私は関西人ではないが、この表現がまさにふさわしい)そして「△△教諭は○○○○の母親とも男女の関係であると聞いたが本当か?」とのこと。あまりにも滑稽で困ってしまうが、これは彼女が咄嗟についた嘘だなぁと分かったので、「それもありません」と自信ありげに答えてお引き取り願った。この男、やはり事件屋プロと見えて、なかなかしっぽを出さないし、ストレートに要求を言い出さない。後で聞けば百戦錬磨の事件ゴロと分かって管理職に「最悪のヤツにつかまっちゃったよ」と言わしめてしまったのだが、この男が帰り際に教頭に言った言葉「ここで認めれば内々に済ませておく」というもの。ふざけんな!認めるも何もお前に言う筋合いのモノじゃないって。『読売新聞の「森」という記者に取材を申し込んでいる』とも言ってたが、まさにこれが実在の人物で後に騒動の重要な引き金を引くとは、この時点では予想もつかなかった。新聞社はスクープが欲しいから、少々の怪しい情報でもウラを取らずに着々と取材をして記事を書いていたらしい。読売新聞の信憑性は週刊誌と同じくらいであることが本当に痛いです。読売新聞については後に別に書きます。証拠として、2000年3月9日の千葉版では事件報道でただ一社、読売だけが家宅捜索のスクープを載せています。そんなこと普通できないでしょ?内部事情知らないと。
 それにしても、世の中に本当にダニみたいなヤツがいるんだなぁと、この時点では感心していられた呑気な自分が恨めしい。 



2.学校の対応
3.それから毎日
4.伝わらない気持ち(メール)
5.卒業式・最後の話し



6.警察だ!

 2000年3月9日早朝5時30分くらい(その日の日の出の時刻だろう)にその男たちは乗り込んできた。普通家って鍵かかっているでしょう?ところが我が家の鍵のもう一本は彼女が持っていて、その鍵を持った刑事たちがチャイムも鳴らさずに勝手に入り込んできたのだ。そりゃ寝てますよ、普通。いきなり家宅捜索令状(らしい、寝ぼけていたし…)を出して、動かないで!と始まった。そりゃビックリしましたよ。いきなりドヤドヤ入ってきたでしょ、ガラの悪そうな男たちが。私はてっきり暴力団関係の人かと思いましたよ。(件のオヤジ、その手の関係の人間と懇意なのを自慢していたと彼女から聞いていたから)それは彼らが入ってきたときに『本当に警察の人ですか?』と聞いてしまったくらいだから。
 
いろいろと物色して、必死にコンドームを探す彼ら。そんなものどこの家にだってあるだろうによっぽど大事と見えてなかなか諦めない。家中の指紋をとるためにアルミの粉だらけにされたり、ニンヒドリン(紙や布についた指紋を検出するのに使う薬品)の溶剤で部屋が臭いって、おい!人のウチの電気勝手に使ってアイロンかけるんじゃないよ!(ニンヒドリンは加熱で発色)少なくともお前らは電気泥棒。

 そうこうしているうちに「車を調べます」とのこと、車まで同行して、私が払った彼女の授業料の領収書を戦利品として持っていった。そんなもん何に使うんだか。

 一通り調べ終わったらしく、着替えてくださいとのこと、(この時点で任意同行を求める言葉はなし)着替えには同意するよ、こっちはパジャマ代わりのスウェットだもの。『それじゃ行きましょうか』の一言だけで私は「連れて行かれた」。後で調べたら、この時は断っても良かったんだ。その日の勤務終了後に上司と行くとか、弁護士と一緒に参考人出頭するとか普通にできるんじゃん!まずこれが警察に騙された『第一回目』あとは騙されっぱなしですよ。

 


7.任意同行


警察署とはどういうところなのか、その内部なんて一生知ることなんてないと思っていた、少なくともこんな形では。
 さんざん家宅捜索で荒らされた後、促されるままに私は車に乗せられた。あまりの突然の出来事に、呆然としていただけなのであるが、今日は出勤できないな。そのくらいの気持ちでいた。試験の問題も作っていないし、今日の授業だって急に自習で生徒にも自習監督の先生にも迷惑がかかる。そんな心配ばかりしていた。逮捕状を警察署で見せられるまでは。
 しかし、話しても分かってくれるとは思えなかった。家宅捜索の状況も随分と荒々しいものだし、とにかく何がなんだか分からなかった。すぐに弁護士を呼ぼう。恐喝の弁護を頼むはずだったのが、刑事事件の弁護に変わってしまった。母にはなんと説明すればいいだろう、私自身、なぜ警察が突然踏み込んできたのかよく分からないのだから混乱するばかりだろう。
 松戸警察署に行くには、学校の前を通る可能性が高い。いくら何でも学校では大騒ぎになっているだろう。ましてや皆は何も知らないし、真実を伝えるすべもない。分かるのは私が逮捕されたという事実だけだ。
 みんなの顔を思い浮かべたらとても申し訳なく思えた。だから私は車を運転する警官に頼んだのだ、学校の前は通らないでほしいと。


 警察署に着くと、私は通信を制限されそうになった、とんでもない、今のうちに弁護士の先生には連絡をとらねばならない。学校にも事態を告げなくてはならない。憂鬱だが、急がねばならない。このとき、南出という警官がしきりに携帯で私が電話をかけるのを制止した。後で考えればこれは不当なことだ。私はただ 家宅捜索のすさまじさに気後れしてここまでついてきたのだ。私はなぜこんなことになっているのか、未だに理解できないでいた。話を聞いているうちにどうも彼女が私に強姦されたということになっているらしいことが分かってきた。私は「彼女に聞いてください、彼女が本当のことを話すはずです。」といったのだが、これがどうも裏目に出たらしい。おそらく、この部分をとって新聞記事の「容疑を認めている」はねつ造されたらしい。「彼女が被害にあったと、そう言っているんだ!」私は後頭部を強く殴られるような感覚に、本当にめまいがした。一体どういうことやねん?


8.こんな時はカツ丼ですか?


 
それでも私はまだ任意同行だった。「先生、お昼何にします?」と聞かれて、脳天気にも「こんな時はカツ丼ですか?」と答えてしまった。どうやらカツ丼は事件が解決したときに食べるらしい。このときばかりはなんだか美味しそうな中華弁当だったが、もちろん味わって食べるどころではない。一向に私には事態が飲み込めていなかった。「先生よう、飼い犬に手咬まれたんだっぺ」そうたたみかける福島出身デブの高島警部補の目は腐った魚のようだった。言いたいことは判るが、私には信じられなかった。一心に愛情を注いで見守ってきた彼女が嘘をついて私を陥れる訳がない。やったのは【間違いない、アイツとそのオヤジ】だ。もちろん返す刀で私は一所懸命に説明した。オヤジが学校に脅しにきていたこと、彼女の彼というやつが私に嫌悪を抱いていること、向こうは嘘をついていることを話したが聞く耳を持たない。被害届が出ている以上、こうして捜査しなきゃならないこちらの立場が判るでしょう。先生逆の立場だったらどうします? と、聞かれてもでっち上げの事件である以上、あなたの言うとおりという訳にはいかない。それより私は騒ぎによって学校に迷惑をかけてしまったことで頭が一杯だった。もうこんな場所で先生って呼ぶのやめてはもらえまいか。後で聞いた話だが、逮捕させたことを自慢げにあちこちに電話していたそのオヤジの顔を思い出すと、その薄汚さと卑しさに吐き気がする。情けない彼、どうしてこんな奴に彼女は惚れてしまったのか、そんな彼女に愛情を注いで自分で首をしめている。そんな間抜けさに今でも泣きたい気分なのは正直な気持ちなのだ。


 そうしているうち、午後2時頃、紙束をもって奴は入ってきた。一生のうちでこんなにびっくりしたことはない、なんと無実の私が逮捕されてしまったのだ。罪状は千葉県青少年育成条例違反(淫行)だそうだ、「最高で100万の罰金だよ、窃盗より軽い。」といわれても、バカじゃねぇの?何の慰めにもなっていないって!後述するが、この条例の解釈を歪めてこいつらは恣意的に運用している。
強姦されたら強姦罪だろ。親告罪で、6ヶ月以内じゃないから強姦にはできなかったのだ。おまけにこの条例は親告罪は適用されないから警察がこれを察知したら勝手に捜査して勝手に(裁判所を騙して)逮捕できるらしい。(前出、高島警部補の言による)特別公務員凌虐罪が成立しないか検討したいと本気で思った。痴漢の冤罪なんかも、こんな取り調べや逮捕状請求を許していたら絶対無くならないって。そして私の思いもよらない21日間もの不当な勾留生活が始まるのだ。

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