@2年10日夜

       場所……………王都ヴァレイ『勇者たちの酒場』
       初期参加者……サムライのクルガ、イワセ、アーチャ−のリコルド、魔女のフェルフェッタ、アズリット、マルメット

リコルド    「んじゃあ、始めようか?」
イワセ     「始めようかで始めるものでもあるまい」
フェルフェッタ 「飲み始めちゃったらどうせいつもとおんなじでしょ」
リコルド    「一応、弔いの杯を交わそうってことなんだけどなぁ」
クルガ     「だからって神妙に飲むのは拙者、性に合わぬ」
フェルフェッタ 「それはいつものことでしょ、あんたの場合」
イワセ     「そうだな」
クルガ     「フォロー無しか」
イワセ     「無理だ」
アズリット   「そうね無理ね」
マルメット   「同じく、だわさ」
クルガ     「拙者は悲しくなるぞ……」
リコルド    「大丈夫。クルガならすぐに明るくなれる」
フェルフェッタ 「おじさん、頼んでおいたやつ、お願いね」
酒場の親父   「あいよ。ちょっと待ってな」
アズリット   「ここ予約したのって、フェル?」
リコルド    「と、僕とクルガ」
イワセ     「どうりで葬儀の前に見掛けなかったわけだ」
マルメット   「いつから計画してたの?」
リコルド    「バルサリオンあたり。まあ、恒例だからね」
フェルフェッタ 「最初は、ポールランを慰めよう宴会、だったわよね」
クルガ     「あくまで仮だ、仮。その名称は」
マルメット   「でもそれだと主賓がいないわさ」
イワセ     「と云うか、団の半分もここにはおらんな」
フェルフェッタ 「クルガ、リコ、あんたたちちゃんと連絡回した?」
リコルド    「回したよ」
クルガ     「ちゃんと云ったぞ」
フェルフェッタ 「ならなんで来ないのよ」
リコルド    「さぁ」
イワセ     「そのうち来るのではないか? どうせ時刻は今夜、くらいしか指定しておらんかったのだろう」
リコ・クルガ  「あ」
フェルフェッタ 「次からあんたたちには頼まないわ」
クルガ     「面目ない」
リコルド    「うん、ごめん」
マルメット   「先に始めちゃおうよ」
フェルフェッタ 「そうね」
酒場の親父   「おう待たせたな。ベリアス産の葡萄酒だ。コップはいくつだい?」
フェルフェッタ 「今のところ六つ頂戴。人が増えたらあとでお願いするわ」
酒場の親父   「おうさ。いつも御贔屓に」


       10分経過  参加者+……聖騎士のクララクルル、騎士のヘルン

クララクルル  「なんだ、もう始まっていたのか」
マルメット   「あ、ラリー!」
フェルフェッタ 「遅かったわねー」
クララクルル  「支度に手間取った。ヴィレイスたちはまだ来ていないのだな」
フェルフェッタ 「ここの馬鹿二人が開始時間『今夜』ってしか云ってなかったのよ」
クルガ     「馬鹿馬鹿云うなっ」
フェルフェッタ 「馬鹿を馬鹿っつって何が悪いのよ馬鹿サムライ」
クララクルル  「もう酒は入っていると云うことか」
ヘルン     「ではもう少し早く来ても良かったんですね」
アズリット   「そういうことよ、先輩」
マルメット   「お料理とかも、もう来てるわさ」
イワセ     「席はまだ空いているから好きなところに座ると良いぞ」
ヘルン     「はい。では失礼して……」
クルガ     「リコ、そっちの煮物くれ」
リコルド    「自分で取りなよ、もう」
クルガ     「かたじけない」
リコルド    「君はそういうサムライっぽい云い方って似合わないよね」
クルガ     「やかましい」
イワセ     「それがお主の特徴だから仕方あるまい。童の頃から全く変わっておらん」
クララクルル  「そう云えば二人は同郷だったな。アクラリンドの方だったか」
イワセ     「出身はヴィムだ」
クララクルル  「随分と東の方だな。まだ遠征で行ったことがないと思うが」
リコルド    「もう長いことあっちには出てないからね」
クルガ     「お主らは何処の生まれなのだ?」
クララクルル  「私はレイラントの出だ」
リコルド    「僕はティゴルだよ」
イワセ     「何やら辺境組が揃っているな、年長者組は」
リコルド    「年長っても二十代の半分も行ってないけどね。まだ若い若い」
クルガ     「ヘルンはどこの生まれなのだ?」
ヘルン     「自分はフェルミナの出身であります」
クルガ     「ああ、あのお堅いところか」
イワセ     「お主はあそこで十年くらい修行した方がいいのではないか?」
リコルド    「それいいね。お堅いクルガ、僕も見てみたい!」
クララクルル  「想像できないな」
クルガ     「お主らは……」
マルメット   「なになに何の話?」
ヘルン     「今は出身地の話だよ」
マルメット   「出身?」
リコルド    「そ。マルメットは生まれはどこ?」
マルメット   「あたしはサンパロスだわさ」
クララクルル  「近場だな」
マルメット   「そうかな?」
リコルド    「比較の問題だね。僕ら辺境だから」
マルメット   「アズはどこの出なの?」
アズリット   「何の話?」
クルガ     「出身の話」
アズリット   「あたしはメゾネア。都会のオンナでしょ?」
マルメット   「お化粧がケバいだ」
アズリット   「ぶつわよ」
フェルフェッタ 「ほらほらその辺にしときなさいな」
クララクルル  「フェルフェッタはどこの出身?」
フェルフェッタ 「あたしはここの出」
ヘルン     「王都の生まれですか」
マルメット   「アズ、負けたわさ」
アズリット   「どういう意味よ」
フェルフェッタ 「何の話なのよ」
リコルド    「でもヴァレイ出身なら団長と同じだね」
フェルフェッタ 「そうみたいね。入団するまで会ったこと無かったけど、うちは代々騎士団にいるから」
イワセ     「成程、一口に王都と云っても、広いからな」
クルガ     「確かにな」
マルメット   「他の先輩とかはどこの生まれなの?」
リコルド    「ヴァルガはオスト、ポールランはモールモース、ガルゴスはウォルタランドだね。ヴィレイスはマリスベイだって聞いたよ。……エクレスは、ベリアスの出だったね」
クルガ     「よく知っておるな、お主」
リコルド    「ここ入って長いからね。比較の問題だけど。ヴィレイス以外はみんな後輩」
マルメット   「そっか。エクレスってベリアスの出身だったんだ」
クララクルル  「この酒のチョイスはそれもあるのか?」
フェルフェッタ 「さすがラリー。利き酒も正確ね」
クララクルル  「あそこは葡萄の名産地だからな。ワインも美味い。私は辛い方が好きだが」
フェルフェッタ 「あの子は甘口の軽い方が好きだったものね」
クララクルル  「そうだな」


       1時間経過  参加者+……サムライのナガイ、剣闘士のガルゴス、騎士のポールラン

リコルド    「お、やっほう団長、こっちこっち!」
フェルフェッタ 「やっときたわよ、主賓も。ホント『今夜』ってアバウトなんだから」
クルガ     「もうそれを云うな……」
クララクルル  「それにしても珍しい組み合わせだな。師匠たちはどうした?」
ナガイ     「何やら知らぬが、二人で話し込んでいる」
ガルゴス    「そんだからオレたち、先に来たんだよォ」
マルメット   「だからそんな珍しい組み合わせ?」
ナガイ     「そう珍しい珍しいと云うな」
ガルゴス    「別に嫌いあってるワケでもねぇんだからよ。なァ、団長?」
ナガイ     「うむ」
リコルド    「まあとにかく座んなよ。ほらポールもそこ突っ立ってないで」
ポールラン   「あ、はい」
マルメット   「今日の主賓はアンタだわさ。飲みなさいな!」
ポールラン   「え?」
フェルフェッタ 「そこの馬鹿二人。あんたたちホントに『今夜宴会』ってしか云わなかったわね?」
リコルド    「クルガとひと括りにしないでよー」
クルガ     「あ、リコお主、非道いぞ」
フェルフェッタ 「あーもー結局やったことにはそう変わりないんだから黙って大人しくまとめられなさいな!」
リコ・クルガ  「……」
アズリット   「あ、ポールラン来たのね、ヘタレ騎士」
ポールラン   「へ……ッ」
アズリット   「あー何か文句あるの云いなさいよ、ホラ」
ヘルン     「アズリット、酔ってる?」
イワセ     「かなり。そこの空の杯の量を見ろ」
アズリット   「飲みなさいよホラ。いつまでもヘタレってんじゃないわよアンタ。塔でエクレスが嘆くわよ」
ポールラン   「……」
アズリット   「あんまりうじうじしってっと、アンタのこと口説いちゃうわよ」
ポールラン   「はいッ!?」
ヘルン     「!?」
マルメット   「ちょっとアズ、あんた飲み過ぎだわさ。大丈夫?」
アズリット   「何云ってんのよあたしは、素面よ……全然酔ってないわ……」
イワセ     「いや酔っておろう」
アズリット   「ポールラン、ポール、ポリ−。どうせ忘れられてなんかいないんでしょ。クルガ先輩とかに慰められてもらってたくせに、まだ未練あるんでしょ。バカね。……もう戻って来ないんだから」
ポールラン   「な、何、アズリット」
アズリット   「うっさいわねっ。あたしうじうじしたオトコ一番嫌いなのよっ。バカじゃないの。あんたも、エクレスも……みんなバカよ……」
マルメット   「どうしたのアズ……」
フェルフェッタ 「……アズ、こっちおいで。ちゃんと話、聞いたげるから」
アズリット   「えぅっく……みんなバカ……」
ヘルン     「何やら、抱え込んでいたようですね」
リコルド    「酔って一気に吹き出たみたいだね。彼女にもあれ初陣だったわけだし。僕らポールにばっか目がいってたから」
ポールラン   「……」
リコルド    「いや、そっちまで君が背負うことない話だから」
ポールラン   「いえ僕の方は平気、です。クルガ先輩や、ヴィレイス先輩や、皆さんにいろいろ云われて励まされましたから」
クルガ     「拙者、そんなにどえらいことを云ったろうか?」
イワセ     「自覚くらい持っておけ。お主が、ってことだけで拙者には充分信じ難い。ヴィレイス先輩ならともかく」
ポールラン   「本当です、僕は、クルガ先輩に……」
イワセ     「分かった分かった。お主の言葉は疑わぬよ」
リコルド    「……マルメット、ガルゴス、君らは平気? 無理してない?」
マルメット   「あたしは平気だわさ。多分、神経図太く出来てるから」
ガルゴス    「オレも、大声で解消できるタチだからよ」
クルガ     「溜め込むタイプではないってことだな」
イワセ     「お主と同じだな」
ヘルン     「団長は大丈夫ですか? どちらかというと溜め込む方に見えますが」
ナガイ     「拙者は、大丈夫だ」
クルガ     「団長にはヴィレイスという立派な師匠がついてるからな!」
クララクルル  「立派な師匠と溜め込まぬことには何か関係があるのか?」
クルガ     「立派な師匠にはいろいろ話せるから溜め込まぬということだ!」
イワセ     「クルガ、お主も酔ってきておるだろう」
クルガ     「うむ、拙者もそう思う」
マルメット   「あ、お帰りフェル。アズ、どう?」
フェルフェッタ 「うん、寝たわ。起きたらスッキリしてると思う」
マルメット   「だといいわさ」


       1時間30分経過  参加者+……魔騎士のヴィレイス、剣闘士のヴァルガ
                 参加者−……魔女のアズリット

ナガイ     「あ、おし……ヴィレイス、ヴァルガ」
クララクルル  「ようやく全員揃ったな」
マルメット   「アズは寝てるけどね」
フェルフェッタ 「そればっかは仕方ないわ」
クルガ     「よー師匠ズ、遅ーいぞー」
ヴィレイス   「もう随分と酔っているな、クルガは」
クルガ     「はっはは。ずっと来ないからヴィレイスの分もお酒飲んでしまうとこだったぞー」
クララクルル  「いつも思うがこのサムライは面白いな。酔うとまるでタガが外れたようだ」
リコルド    「タガ外れてるのはいつものことだよ。酔っ払うとタガも何もなくなってバラバラの板になっちゃうだけ」
クララクルル  「それにしても面白いからな、この男は。私はここまで酔えん」
ヘルン     「クララクルルさんはお酒に強いですからね」
リコルド    「さっすが、三大強い酒どころ制覇の聖騎士!」
クララクルル  「シーラの氷酒、マリスベイの鯨落とし、白炎の村の白ウォッカ。アクラルの三大火酒のことだな」
フェルフェッタ 「ラリーはお酒に詳しいわよね、ほんと」
ヴァルガ    「酒ならおいらも飲めるぞ。クララクルルほどじゃあないがな」
クララクルル  「ヴァルガ、今度飲まないか? 少なくとも他の連中よりは長持ちしそうだ」
ヴァルガ    「多少は自信があるでの。飲みの付き合いなら勿論、断る手はねえでな」
クララクルル  「では飲もうか。次の遠征から返ったらここで飲み明かそう」
ヴァルガ    「おう」
クルガ     「そんときは拙者も混ぜてくれー」
クララクルル  「ああ、いいぞ」
クルガ     「おっしゃー。よし、団長もみんな飲もう。ヴィレイスも!」
ナガイ     「いや、拙者は飲めぬゆえ」
ヴィレイス   「私も遠慮しておく」
ヴァルガ    「飲めんとは勿体無いのう」
フェルフェッタ 「仕方ないわ。代わりにあたしが入る」
マルメット   「ってゆーか、入りたいんだわさ? フェルは」
リコルド    「でもそーなると、あんましいつものメンツと変わんないよね」
ヘルン     「いいんじゃないですか? いつものように飲めば」
クララクルル  「その中で朝まで何人残っていられるか、だな」
ヴァルガ    「おいらは残るぞ〜」
リコルド    「飲みだと自信ないなあ」
フェルフェッタ 「どうやってもラリーよりは先に潰れるとは思うけどね」
クララクルル  「このことに関しては自信がある」
ヴィレイス   「何事にも強いのは悪いことではあるまい。このことに関しては、無理に強くなれとは云わぬし、思わぬが」
クルガ     「ヴィレイスが強くないものねー、お酒」
ヴィレイス   「飲めぬ訳ではない」
イワセ     「それでも強い訳ではないのだろうが。飲んでおるところを見たことが無い」
ヴィレイス   「……強くは無い」
クルガ     「いーかナガイ。師匠負かしたかったら酒で勝負挑めよ」
リコルド    「多分それ無駄。団長はヴィレイス以上に飲めないもん。初日にえらいことになったでしょ」
ヴァルガ    「そうだなあ」
フェルフェッタ 「リコも潰れてたじゃないの。ガルゴスの坊や、あんたは飲めるの? 見た感じは飲めそうだけど」
ガルゴス    「んや、そんな飲んだことねぇよォ」
ヘルン     「飲むより食べてるから」
ガルゴス    「そういうことだァな」
イワセ     「去年もお主は食べておったしな」
リコルド    「いいんじゃない? 若いうちはじゃんじゃん食べちゃってさ」
ヴィレイス   「老けたことを云うな、お前は」
リコルド    「そりゃまだ二十歳過ぎだけどさあ、この中では年長だし、古参だし、老けた気分にならない?」
ヴァルガ    「おいらも最年長でないのに老けた気分になるからのう」
ヘルン     「若い方が多いんですね」
ポールラン   「先輩だって今年で二十歳になったばかりじゃないですか」
ヘルン     「それはそうですが」
ナガイ     「ヴィレイスとリコルドとクルガが二十四だったか? 今年で」
クルガ     「そうだよー」
フェルフェッタ 「そう考えると平均年令ひっくいわねえ」
ガルゴス    「フェルフェッタはいくつなんだ?」
フェルフェッタ 「レディに歳を訊くんじゃないわよ。それと、先輩と呼びなさい。先輩と」
ヴァルガ    「おやあ?」
ナガイ     「どうしたのだ?」
ヴァルガ    「魔女の嬢ちゃん、寝てしまったようだよ」
リコルド    「ああらら。よくお休みだねマルメット。これじゃ動けないよ、ヴァルガ」
イワセ     「膝の上ではな。いっそのこと、そのまま守をしておるか?」
ヴァルガ    「イヤではないがのう。お嬢ちゃん方はなんだか、妹みたいなもんだからのう」
ヴィレイス   「見た感じは親子のようだがな」
リコルド    「僕はヴィレイスの冗談を三年半振りに聞いたよ」


       3時間後  参加者−……魔女のマルメット、騎士のヘルン

ヴィレイス   「うむ、ではアゼルのジャイアントは、囮の策でいくのが良いだろうな」
リコルド    「巨人相手だからね。一撃が痛いから、遠巻きに囲んで」
クルガ     「囮役なら拙者がいこうか」
リコルド    「ん? 酔っ払い、戻った?」
クルガ     「醒めが早いのが特技だ」
イワセ     「確かに巨人相手ならクルガでも勤まろう。アレは動きも鈍いし、挑発にも乗り易い」
クルガ     「引っ掛かる云い方をするな、お主も」
ヴィレイス   「クルガには、ときに視野が狭まる気があるからな」
リコルド    「こないだはそれでやばかったもんね」
クルガ     「こないだと云っても、二年前だぞ」
ヴィレイス   「危なかったことは確かだ」
リコルド    「そーだよ。次やったらまたイワセにガミガミ云われるよ」
イワセ     「そんなにガミガミ云ったか?」
ヴィレイス   「云ったな」
クルガ     「云われた。耳が痛くなるほど怒鳴られた」
リコルド    「ま、次やったら、イワセだけでなくて僕も怒るから」
クルガ     「……留意しておく」
イワセ     「リコルド先輩の説教が控えているなら、そう無茶はすまいか」
ヴィレイス   「怖いからな」
ナガイ     「……そんなに怖いのか?」
クララクルル  「怖いな」
フェルフェッタ 「怖いわね」
ポールラン   「僕も叱られたことはありませんが」
ガルゴス    「怒ったトコ見たことねえもんなァ」
ヴァルガ    「怖いぞ。かなり怖いぞお」
ナガイ     「そうなのか……」
フェルフェッタ 「例えるなら意地の悪い面接官よ」
クララクルル  「そのこころは?」
フェルフェッタ 「じわじわきいてくる」
クララクルル  「確かにな」
ポールラン   「要は怖いようですよ」
ナガイ     「見たいような、見たくないような」
フェルフェッタ 「今回の遠征でそこの馬鹿サムライが周り見えなくなってたら、その日の夜にでも見られるわよ」
クララクルル  「それを期待するわけにもいかないがな」
ヴァルガ    「囮役にぼうっとされては困るからなあ」
ポールラン   「みんなして塔を拝むことになりかねませんからね」
ガルゴス    「オトリ役つうのは決まりなんだな……」
フェルフェッタ 「にしてもそっちの、老け組! 大人組! 宴会中になに作戦会議に走ってるの!」
ヴィレイス   「すまん。つい」
フェルフェッタ 「作戦会議するなら本部でやりなさいな。それくらいなら飲みなさいな。そもそも団長差し置いて」
クララクルル  「落ち着けフェルフェッタ」
フェルフェッタ 「ああ、なんかあたしも酔ってきてるみたいよ」
リコルド    「ん、酔っちゃえ酔っちゃえ。そのためのお酒」
クルガ     「醒めてしまった拙者は如何にすれば良いのだ」
ヴァルガ    「三択だなあ。一、帰って寝る。二、潰れるまで飲む。三、このまま素面で参加」
イワセ     「帰って寝ろ。それが一番平和だ」
クルガ     「四、適当に飲むでいこう」
ヴィレイス   「適当で止まらんぞ。恐らくな」
リコルド    「そうだね。潰れるね。そんでまた誰かが背負って帰ることになるね」
ヴァルガ    「嬢ちゃん方くらいに小っさいならともかくのう。ちとでかいのう」
クルガ     「だから適当で止めると云うに」
フェルフェッタ 「それが信用できないってゆーの」
クララクルル  「潰れたらここに放置しておくか?」
イワセ     「名案だ」
ヴィレイス   「と、云うことだそうだが? クルガ」
クルガ     「飲むっ。飲んでやるっ」
ヴァルガ    「こりゃあまた、早々に潰れそうだのう」
ポールラン   「クルガ先輩、可哀想に」


       五時間経過  参加者−……サムライのクルガ、剣闘士のヴァルガ、魔女のフェルフェッタ

ナガイ     「先程、ヴァルガから何を貰っていたのだ?」
ガルゴス    「なんかよく分かんねェけど……巻き物かァ?」
ナガイ     「剣術……事始?」
ガルゴス    「そう読むのか?」
ナガイ     「そう読めるな」
ガルゴス    「角の多い字は苦手だなァ」
ナガイ     「中身もそのような感じだな」
ガルゴス    「……読まなきゃあイカンのかなァ」
リコルド    「読んどきなよ。折角の先生からの頂き物でしょ? そのままじゃ宝の持ち腐れ」
ガルゴス    「むう……努力してみるぜ」
ナガイ     「あとでで良いから拙者にも貸してくれ。読んでみたい」
ガルゴス    「おう、いいぜ。……まずオレが読むのが大変だけどよォ」
クララクルル  「ガルゴスは体を動かす方が好きのようだな」
ガルゴス    「おうよっ。腕っぷしなら負けねぇとも!」
リコルド    「でもヴァルガには負けるね」
ガルゴス    「そりゃあ……その……そのうち負かすぜェっ」
クララクルル  「そのうちな」
リコルド    「最初はみんな、そんなもんだって」
ガルゴス    「でも勝てねェと悔しいぜ。故郷じゃあいっぺんも負けたことなかったでよォ」
リコルド    「世界は広いってこと!」
クララクルル  「踏破するには広いな」
ナガイ     「広すぎるぞ‥‥」
リコルド    「そのうち踏みまくることになるよ」


       八時間経過  参加者−‥‥サムライのナガイ、剣闘士のガルゴス、アーチャーのリコルド

ポールラン   「随分と人が減りましたね」
イワセ     「もう日付けも変わったからな」
クララクルル  「素面ばかりが残ってしまっている。つまらんぞ」
イワセ     「本当に強いな、クララクルルは」
クララクルル  「強くとも、飲んでいるのが一人ではつまらん」
ヴィレイス   「飲まぬ者が残ってしまったのだから、仕方あるまい」
クララクルル  「ヴィレイスは本当に飲まないからつまらん」
ポールラン   「自分が飲みましょうか?」
クララクルル  「同情で飲まれてもつまらん」
イワセ     「やめておいた方が良い。クララクルルが相手では三十分も持たぬ」
ポールラン   「はあ……」
ヴィレイス   「時間で云っても、そろそろ宴も仕舞いの頃合だろう」
クララクルル  「そのようだな……」
ポールラン   「宴会の主旨がいまいちよく分かりませんでしたが」
イワセ     「主催者が皆、寝るか帰るかしてしまったからな。一応は弔いの宴、ということだったが」
ポールラン   「弔われたのでしょうか……」
クララクルル  「エクレスも湿っぽいのは好きではなかった。だから良いのではないか? 少なくとも悪くはなかったと思うぞ」
ポールラン   「そうだと良いです」
クララクルル  「アズリットの云ったように、うじうじした男は好かれぬぞ。エクレスにもな」
ポールラン   「してないつもりではあるんですが」
クララクルル  「忘れられぬのなら、忘れなければ良い。剣が鈍るのでなければそれも構わぬさ」
ポールラン   「……はい」
クララクルル  「以上だ。私は帰る。親父、この酒、少し持ち帰り用に壷に入れてくれ」
酒場の親父   「あいよ」
ポールラン   「……クルガ先輩にも似たようなことを云われたなぁ……」
イワセ     「クルガが?」
ポールラン   「はい。云い方は違いましたが」
イワセ     「……」
ポールラン   「『死んだ死んだもう会えないと、嘆くならいっそ忘れてしまえ。忘れられないのなら嘆くな、心で添うてやれ。共にあると思っていろ。どちらもできずに心が腐っていくようなら』」
イワセ     「いくようなら……?」
ポールラン   「『斬り捨てるから覚悟しろ』だそうです。……覚えてしまいました」
イワセ     「……」
ヴィレイス   「どうするのかは決めたのか?」
ポールラン   「はい。忘れることはできないから……共にあると思うことにします。切り捨てられたくはありませんから」
ヴィレイス   「そうか。ならば安心だな」
クララクルル  「おい、ヴィレイス」
ヴィレイス   「?」
ポールラン   「あれ、帰ったんじゃ……」
クララクルル  「酔い覚ましがしたい。少し付き合え」
ヴィレイス   「私がか?」
クララクルル  「お前がだ」
ヴィレイス   「……指名を受けてしまった。私は行くが、どうするのだ?」
ポールラン   「自分も戻ります。あ、お勘定は」
酒場の親父   「お代なら先に貰っとるよ。干しトルベリィとハネトカゲの角とモリジカの皮でな」
ヴィレイス   「いつも済まぬな。物々交換で」
酒場の親父   「構わねぇよ。騎士団はお得意さんだし、物は大体、普通じゃ手に入りにくいもんばっかだからよ」
ポールラン   「食糧調達の時とかにそんなことしてたんですね、先輩たち」
ヴィレイス   「副業みたいなものだな」
クララクルル  「でないと貧乏のびの字からも抜けだせん」
ヴィレイス   「イワセも帰るか?」
イワセ     「いや……もう少し、クルガが起きるのを待つ」
ポールラン   「置いてくのじゃなかったんですか?」
イワセ     「流石に朝までここに一人で放っておくのはな。店にも迷惑だ」
ヴィレイス   「そうか」
ポールラン   「ではお先に失礼します、先輩」
クララクルル  「お前までここで夜を明かすなよ」
イワセ     「そうならないことを願うよ」





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 弔いの宴です。塔を見ると云ってるのは『花畑を見る』とかいうのと同じニュアンスです。
 死にかけたらウルの塔とか見えそうなので。


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