「ところで一体、何で勝負する気だ」
 「そうですね…」

 司馬懿の問いに陸遜はしばし考えた後、入り口に突っ立っているを見た。

 「ここは公平に殿に決めて頂きましょう」
 「え!わ、私ですか?」
 「そうですね…本人の意思も尊重しましょう」

 まったく今まで尊重されなかったの意思が、こんなところで引っ張り出された。
 いまさら迷惑である。
  
 「…え、えーと」

 それでも一応指名された手前、必死に彼女は考える。
 この呉国にはどうしても残りたい。
 少しでも陸遜に有利な勝負事にしなければ。
  
 無双世界なのだから、普通に考えれると一騎打ち(この場合三騎打ちか)などが適当かもしれない。
 だがは、その案をすぐさま頭の中から消去した。
 こんなことで戦わせて、陸遜の身に何かあっては大変である。
 もちろん、だって陸遜が負けるとは思っていない。彼は武将としても充分優秀…というか、最凶に近い。
 しかし、相手はあのビーム連発の諸葛亮と司馬懿である。
 どんなイリュージョンを繰り出してくるかわかったもんじゃない。

 軍師同士なのだから、ここはやはり状況判断力と冷静さを試すような勝負だろう。
 よし、と心で呟いたは顔を上げた。

 「…こ、古今東西卓球勝負で!!」
  
 考えた挙句、それなのか。


 全員が「それでいいのかよ」と思いはしたが、決定権はにある。
 とにかく、勝負種目は決まった。
 3人打ち用の特製卓球台がすぐさま用意され(なんでもあるなこの国は)ラケットが各々参加者に手渡される。

 「審判もお前なっ」

 孫策はヒモ付きの審判笛をに向かって放り投げた。
  
 「…呉側の人間に公正な審判が下せるか?」

 「ご安心を」
  
 慌てながら笛を受け取るを、陸遜は目を細めながら眺める。  

 「殿は要領が悪いんです。不正なんて器用なことは出来ません」

 …だから好きなんですよ、と小さな声で独り言のように呟いた。
  
 だから、みんな彼女を守りたいんです

 陸遜はラケットを固く握り締め、誰に見せる為かわからないがビシッと構える。
  
 「全力でいきます!」
 「フ…この孔明、知略のみではありませんよ」
 「馬鹿めが!凡愚めが!」

 なんだかんだいっても、全員それなりに盛り上がっている。
 場のテンションは最高潮。

 ピリリリリ!

 務める審判の笛が鳴り響く。
 それぞれ国の思惑が交錯する中、朱雀様を賭けた一大決戦の火蓋は斬って落とされた。
  

 だが。
 その戦闘開始直後、恐ろしい事実が判明してしまったのである。

 「…くっ…なかなかやるではないか」
 「流石です…これは本気でかからねば」
 「一瞬たりとも気が抜けませんね…!」
  
 3名とも息が荒く、普段は見せない苦しそうな表情を浮かべている。
 誰一人として、余裕というものが微塵も感じられない。
  
 「周瑜様…もう見てられないよ!」
 「耐えろ…我慢するんだ、小喬」

 勝負を見守っていた呉の武将たちは、あまりの光景に目を逸らした。
 誰がこんなことを予測できただろうか。

  
 「…行きますよ。古今東西・赤いもの!イチゴ!!」

 ペコン

 「ピッ。…ネットです」
  





 
3人全員、卓球が死ぬほど下手







 もうお題がどうのではない。
 普通に卓球のレベルがド素人である。
 まず、サーブがなかなか入らない。

 「とりあえず、3回ラリーを目指しましょうよ」

 さっきから笛を吹きっぱなしだったは、溜息混じりに3人を励ました。
 真剣勝負と呼べる雰囲気からはほど遠い。  

 「あんまり台に近付かない方がいいですよ。ある程度距離をとって…って!司馬懿様それ離れすぎ!」

 鵜呑みにした司馬懿は、5メーターくらい卓球台から離れた。
 こんな時だけ素直にならなくても。

 「あと、打つときはそんなに叩きつけないように…スマッシュ打とうなんて考えないで下さいね」

 陸遜のラケットを借り、ひとつサーブを打ってみせる。
 もちろん、ピンポンレベルの貧弱なサーブである。

 「…こんな風に前に押し出す感じで、」

 パシッ

 「あっ!簡単にネットを超えた!」
 「おお!なんだ貴様卓球名人か!!?」
 「素晴らしい…朱雀の力、恐るべしです」
 「…はぁどうも…」

 別には卓球が得意なわけではない。
 ちなみに朱雀の力も、全く関係ない。
 体育の授業でやったことがあるくらいで、中の下程度の技術だ。  
 だが、この3人相手ならば絶対に勝てる。
 猪木が小学生と喧嘩するより、簡単に勝てる。

 「こうですか?殿!」
 「り、陸遜様、普通に!!普通に!!変な魔球(
火の玉)は打たないで下さい!!」
 「そうですよ陸遜殿、朱雀殿の指導どおりにこうやって…」
 「諸葛亮!その球は毒玉だ!」

 いつの間にか”楽しい卓球教室”に趣旨が変わってしまっている面々をよそに、
 尚香らは隅っこに集まり、何やらゴソゴソと不審な動きを見せていた。
 
 「…ん、こんなもんでいいか」

 卓上に何やら書簡を広げ、筆を走らせている。  

 「”そちらの大事な軍師は預かった。無事に返して欲しくば、朱雀の件から手を引け”…と」

 誘拐犯?

 「最後に、ざまぁみやがれチョビヒゲ…って書いてやれ」
 「じゃ、蜀の方の書簡には、貧乏って書こうっと」

 尚香と小喬が楽しそうに、書簡の隅に文を付け加える。
 小喬など、文字以外にも”キリンさん”と落書きまで書き添えた。

 「これでお互い様ってわけだぜぇ!」

 アッハッハッハと孫策は腕を組み、愉快そうに笑っている。
 目には目を、歯には歯を。
 脅迫には脅迫を。
 ハムラビ法典も真っ青。
 呉の売りは、怖いくらいのチームワークなのだ。

 「よし!では改めてはじめるぞ!」

 水面下で謀が進められているとも知らずに、相変わらず軍師達は白球に全てをかけていた。

 「古今東西・軍師に必要なもの…兜!

 ペコーン

 「ピッ。…場外です。…あと、軍師に「兜」は必要ないかと…」
 「な、なんだと!必要に決まっているだろう!現に私が被っている!」 
 「貴方だけの話じゃないですか。そんなもの他に誰も被ってませんよ。というか、被りたくありません」
 「やかましい諸葛亮!お前にだけは言われたくないわ!」
 「お二方、ごちゃごちゃ言ってないで続けますよ。古今東西・私の好きな色…赤!
 「なんだそのお題はぁ!!」  
 「ピッ。…空振りです」

 終わりのない戦いは、まだまだ続く。





 カウンタ70000を踏んで頂いたAco様へ捧げます。遅れてごめんなさい!
 リクエストは三国軍師対決+呉メンバーでございました。